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追放皇女の異世界戦記  作者: 浅井川亘


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第五十九話:数の暴力と、削り取られる戦線

暗礁宙域は、無数の閃光と爆発に彩られた死の舞踏会と化していた。

「そこじゃ! 次!」

漆黒の悪魔『ノワール』が宇宙空間を滑るように駆け抜け、双剣から放たれた漆黒の刃が、ルーンベイト連合軍の量産機『ベスター』を次々と両断していく。

その後方では、白銀の騎士『スローネ』が分厚い盾で敵の集中砲火を完全に防ぎ切り、流星のような長槍の一撃で敵機の急所を的確に貫いていた。

『うおおおおっ! 傭兵団エインヘリアルに続けぇっ! 帝国の領土を死守しろ!』

『戦乙女の方々から離れるな! 陣形を崩さず、連携して叩け!』

戦乙女たちの鬼神のごとき戦いぶりに呼応し、残存していた帝国辺境警備隊のパイロットたちも士気を取り戻し、決死の反撃を行っていた。

個々の機体性能と操縦技術において、戦乙女の五機は完全に敵を凌駕している。彼女たちが戦場を縦横無尽に駆け回るたび、OD色のベスターの残骸が次々と宙に散っていった。

しかし——。

『……くそっ! なんだこの数は! 撃っても撃っても次から次へと湧いてきやがる!』

帝国軍の若き兵士が、絶望の混じった声を上げた。

ルーンベイト連合の正規主力艦隊が展開したマギアナイトの数は、およそ二千。対する防衛側は、戦乙女の五機と、寄せ集めの帝国警備隊をすべて合わせても『五百』に満たない。

およそ四倍という絶望的な戦力差。それは、時間が経てば経つほど、残酷な物理法則となって防衛側の戦線を蝕み始めていた。

『ヒャハハハ! 傭兵どもは強いが、所詮はたったの五機だ! 警備隊の連中から集中して狙え! 数で押し潰せ!』

連合軍の指揮官は、戦乙女との直接交戦を避け、相対的に脆い帝国警備隊の機体へと波状攻撃を仕掛けるよう戦術を切り替えていた。

『ああっ! 右翼陣形、突破されます! 第3小隊、全滅——』

『隊長! ライフルのエネルギー・カートリッジが空です! 予備もありません!』

激しい戦闘の連続により、帝国警備隊の機体は次々とエネルギー切れや弾薬切れを起こし始めていた。機動力が落ちた機体から順番に、ベスターの群れに群がられ、容赦なく撃墜されていく。

「ちぃっ……! 虫ケラどもが、際限なく群れおって……!」

ローゼリアは舌打ちをし、ノワールのスラスターを吹かして警備隊の救援に向かう。だが、彼女が十機を斬り捨てている間に、別の宙域で二十機の敵が味方に襲い掛かっているのだ。

(ぐっ……! さすがに二千の物量作戦はキツい! こっちは少数精鋭で無双できても、カバーしきれない味方の被害がデカすぎる!)

ローゼリアは内心で焦燥感を募らせていた。いかに彼女が無尽蔵の魔力を持っていようとも、戦場全体を同時に防衛することは物理的に不可能である。

その物量の波は、無敵を誇る戦乙女たちのリソースをも確実に削り取っていた。

『……全マイクロミサイル、撃ち尽くしました。これよりビームライフルによる単発制圧に切り替えますが、空間制圧率はおよそ70パーセント低下します』

次女ロスヴァイセの冷静な声が通信帯に響く。彼女の『ヘルムヴィーゲ』の肩にマウントされていた巨大なミサイルポッドは空になり、パージされて宇宙のデブリと化していた。広域を封鎖していた弾幕が薄くなったことで、連合軍の動きが目に見えて活発になる。

『……ジークルーネ、メインバレルの冷却システムが限界です。これ以上の連続狙撃は砲身の融解を招きます。射撃間隔を大幅に広げます』

母艦の甲板から超長距離狙撃を行っていた三女オルトリンデも、過負荷による一時的な手数を落とさざるを得なくなっていた。

『そらそらァッ! っと……チッ! 囲まれすぎだろ!』

前線で大暴れしていた長女ランドグリーズの重装甲機『グリムゲルデ』も、四方八方からの絶え間ないレーザーの集中砲火を受け、自慢の極厚装甲が徐々に削り取られ、機体の各所から火花を散らし始めていた。

『陣形が保てない! このままでは押し切られます!』

警備隊の悲鳴が響く中、敵のベスター部隊が、エネルギー切れで動きの鈍った帝国機の集団へ向け、一斉射撃の体勢に入った。

『させません!』

そこに割って入ったのは、リアンヌの『スローネ』だった。

彼女は機体のメインジェネレーターの出力を防御に全振りし、純白の盾から巨大な魔力障壁を展開して、味方を庇うように立ち塞がった。

無数のレーザーの雨が、スローネの盾に容赦なく降り注ぐ。

「——ぐぅっ……!」

コクピットの中で、リアンヌが苦痛の呻き声を漏らした。

いかにスローネの防御力が桁違いであろうと、数百機からの同時砲撃を正面から受け続ければ、機体へのフィードバックによる負荷は計り知れない。純白の盾の表面を覆っていた魔力コーティングが、限界を告げるように明滅を始めている。

「リアンヌ!」

(うおおおっ、俺のリアンヌ様に何してくれとんじゃボケェェェッ!! 絶対に許さん!!)

内心でブチギレたローゼリアは、ノワールの出力を限界まで引き上げ、リアンヌを庇うように急行した。

漆黒の魔力波を放ち、周囲のベスターを強引に吹き飛ばす。

「無茶をするな、相棒! お主の盾がいくら頑丈でも、この数を一人で受け止めるのは——」

「……問題ありません、我が姫君。これくらい……騎士の誉れです。それに、味方を……見捨てるわけには……」

リアンヌの声は気丈だったが、明らかに息が上がっていた。盾を構えるスローネの腕部からは、オーバーヒートによる白い蒸気が噴き出している。

『ヒャハハハ! 見ろ、あの白い騎士、もう限界だぜ! 盾ごとブチ抜け!!』

連合兵たちが、獲物を見つけたハイエナのように下劣な笑い声を上げ、再びスローネとノワールに向けて包囲網を縮めていく。その後方では、連合軍の巡洋艦群が、主砲のチャージを開始していた。

「……くそっ。このままではジリ貧じゃな」

ローゼリアは、赤い瞳に険しい光を宿した。

弾薬の尽きかけた戦乙女たち。エネルギーを失い、次々と沈んでいく五百の帝国警備隊。

対するは、いまだ千五百以上の戦力を残し、じわじわと包囲を狭めてくるルーンベイト連合の正規主力艦隊。

数の暴力という、戦争において最も冷酷で覆しがたい現実が、ローゼリアたち防衛線の首元に、冷たい刃を突きつけようとしていた。

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