表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放皇女の異世界戦記  作者: 浅井川亘


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
56/305

第五十六話:虚偽の星間演説と、反撃の狼煙

エーベルヴァイン帝国とルーンベイト連合の国境線上に位置する『ジルコニア資源宙域』での戦闘から、わずか二十四時間後。

銀河全域の主要な情報ネットワークが、突如として一本の緊急特別放送によってジャックされた。

ホログラムモニターに映し出されたのは、豪奢な執務室のデスクに座る一人の初老の男。

整えられた銀髪、神経質そうな鷲鼻、そしてオーダーメイドの高級スーツに身を包んだその男こそ、ルーンベイト連合を束ねる最高権力者、ナベリウス大統領であった。

彼はカメラに向かって、まるで最愛の家族を失ったかのような悲痛な面持ちを作り、わざとらしく声を震わせて語り始めた。

『——全銀河の、平和を愛する同胞諸君。本日、私は腸の煮えくり返るような悲しみと、正当なる怒りをもって、この放送を行っている』

ナベリウスは一度言葉を切り、手元のハンカチで目元を拭うような仕草を見せた。その演技は三流の舞台役者も顔負けの白々しさであったが、大統領という肩書きの重みが、その言葉を銀河中に響き渡らせる。

『昨日、我がルーンベイト連合が保有する民間企業「ルーン・マイニング社」の資源採掘船団が、ジルコニア宙域において、エーベルヴァイン帝国軍の卑劣極まりない奇襲攻撃を受けた。彼らは非武装の民間人に対して、なんの警告もなく無差別にレーザーを放ち、多数の尊い命を奪ったのだ!』

画面が切り替わり、荒い画質の映像が流れる。そこには、爆発炎上する緑と茶色の機体や、破壊された船の残骸が映し出されていた。

言うまでもなく、それが彼ら自身が用意した『偽装ゲリラ部隊』の末路であることは一切語られない。

『さらに許しがたいことに、帝国はこの蛮行を隠蔽するため、所属不明の野蛮な傭兵団を差し向けるという卑劣な手段に出た。……これは明白な条約違反であり、我が国に対する「先制攻撃(侵略行為)」であると断定せざるを得ない!』

ナベリウスは机をドンッと叩き、カメラを真っ直ぐに見据えた。その瞳の奥には、悲しみなど微塵もなく、他国の領土を喰い物にしようとする底なしの強欲だけがギラギラと輝いていた。

『帝国皇帝、フェイト・エーベルヴァインよ! 貴女の若さと無軌道な野心が招いたこの悲劇を、我々は決して許しはしない。我々は、犠牲となった民間人への謝罪と、完全なる賠償を要求する!』

そして、ナベリウスは自らの真の目的を口にした。

『賠償として、帝国が現在保有する「ジルコニア資源宙域」および隣接する「第7資源衛星群」の全管理権を、直ちに我がルーンベイト連合へ譲渡せよ。また、国境線に展開する帝国軍艦隊の即時無武装化を求める。……もしこの正当なる要求を拒否するならば、我々は自衛権を発動し、帝国領土への徹底的な報復措置(軍事侵攻)を開始する用意がある!』

それは、平和を装った明白な宣戦布告であった。

謝罪を名目に帝国の重要な資源拠点を強奪し、防衛力を削ぐ。要求を飲めば帝国は弱体化し、拒否すればそれを口実に大義名分をもって攻め込むことができる。

内戦の事後処理で疲弊している帝国は、この要求を拒絶できないだろう。ナベリウスの演説には、そんな絶対的な確信と驕りが満ち溢れていた。

ルーンベイト連合大統領による、銀河を揺るがす恫喝演説。

しかし、その放送を受信していたエーベルヴァイン帝国皇宮・特別執務室の空気は、緊迫とは程遠い、酷く優雅でリラックスしたものだった。

「ふふっ……。資源衛星を譲渡せよ、ですって? 随分と分かりやすい罠ね。あちらの先制攻撃だと言い張る根拠もなしに、いきなり領土の割譲を求めるなんて」

現代の帝国を統べる若き女帝、フェイト・エーベルヴァインは、高級なダージリンティーの香りを楽しみながら、優雅にティーカップをソーサーに置いた。

彼女の美しい顔には焦りや恐怖の色は一切ない。あるのは、程度の低い三文芝居を見せられたことに対する、呆れと冷笑だけであった。

その向かいの豪奢なソファでは、黒と真紅のドレスに身を包んだローゼリアが、だらしなく身を預けていた。

「姉上。ルーンベイト連合の連中は、これ以上の挑発をしてきたら本気で艦隊を動かしてくるぞ。賠償を拒否すれば、それが開戦の口実になると分かっていて要求してきておる」

「あーん、ローゼリア。このマカロン、とても美味しいですよ」

「む、あーん。……もぐもぐ。うむ、甘くて美味いな」

銀河の危機を語りながらも、ローゼリアの口には、隣に控える白銀の騎士・リアンヌの手によって次々と色鮮やかなマカロンが運ばれていた。

リアンヌは完璧な騎士の正装を纏いながらも、その碧眼にはローゼリアに対する海より深い愛情と慈しみが満ちている。彼女の所作は流れるように美しく、マカロンをフォークで刺す仕草一つとっても、一枚の絵画のように完成されていた。

(うおおおおっ……! リアンヌ様に『あーん』してもらう皇宮でのティータイム、控えめに言って最高すぎるだろ!! 窓から差し込む光がリアンヌ様の銀髪に反射して、マジで女神! この幸せな時間を邪魔したナベリウスとかいうタヌキ親父、絶対に許さねぇからな!!)

内心では限界オタクとしての歓喜の舞を踊りつつ、同時に静かな殺意を煮えたぎらせているローゼリア。

そんな主君の様子を見て、リアンヌはそっとフォークを置き、腰の白銀の剣に手を添えた。

「女帝陛下。よろしければ、私が単騎でルーンベイト連合の首都星へ赴き、あの豚のような大統領の首を刎ねてまいりましょうか? 我が姫君の優雅な休息をこれ以上邪魔されるのは、騎士として看過できません」

大真面目な顔で恐ろしい暗殺計画を提案するリアンヌに、フェイトはクスクスと肩を揺らして笑った。

「気持ちは嬉しいけれど、駄目よリアンヌ。一国の大統領を暗殺なんてしたら、それこそ向こうの思う壺だわ。『帝国がテロリストを使って国家元首を殺害した』と、彼らは大義名分を得て狂喜乱舞するでしょうね」

「チッ……。政治というのは、本当にまどろっこしいですね」

リアンヌが心底つまらなそうに舌打ちをする。そのギャップもまた、ローゼリアのオタク心に深く突き刺さっていた。

「姉上の言う通りじゃ。あのナベリウスという男、演説のタイミングといい要求の内容といい、周到に準備を重ねてきた形跡がある。帝国が内戦の処理で大規模な艦隊を動かせないと踏んでの、完全な『舐めプ』じゃな」

ローゼリアはソファから身を起こし、赤い瞳を鋭く細めた。

「どうする、姉上? 素直に資源衛星を渡すつもりはないじゃろう?」

「当然よ。帝国の領土は、星の欠片一つたりとも泥棒になど渡さないわ」

フェイトは立ち上がり、執務室の巨大なホログラムマップの前に立った。

「ルーンベイト連合の国内は今、深刻な資源枯渇と経済の停滞に苦しんでいるわ。ナベリウスは来年に迫った大統領選挙を前に、支持率を回復させるための『派手な実績』を必要としていた。そこで目をつけられたのが、内戦直後で隙があるように見えた我が国というわけね」

フェイトは冷徹な為政者の顔で分析を続ける。

「彼らは、我々が『全面戦争』を恐れて、ある程度の譲歩を引き出せると本気で信じているわ。だからこそ、あんな三文芝居で『被害者』を演じてみせた」

「なら、その前提を根底からひっくり返してやればいいのじゃな」

ローゼリアがニヤリと笑うと、彼女の胸元のタブレット端末から、無機質で、酷く傲慢なAIの音声が響き渡った。

『——マスター。そして現代の帝国を統べる後継者殿。その忌々しい三文芝居の幕引きならば、この私にお任せを』

初代皇帝マルクスの遺産であり、神帝機レヴィアタンのシステムを掌握する神話のAI『バハムート』である。

「おお、バハムート。何か良い手があるのか?」

『当然です。ナベリウスとかいう原始的なサルの演説には、決定的な証拠が欠けています。彼らは「民間船が攻撃された」と主張していますが、私は昨日の交戦時、敵の通信記録、武装の熱源データ、機体識別コードの偽装の痕跡に至るまで、すべてのデータを完全にバックアップしております』

バハムートの声には、現代のテクノロジーを鼻で笑うような絶対的な自信が満ちていた。

『彼らの「民間船」とやらが、ルーンベイト連合正規軍の軍用巡洋艦を急造で偽装したものであること。そして、帝国警備隊や我が傭兵団『戦乙女』に対して「先に」軍事用プラズマ兵器で砲撃を開始した瞬間の高解像度映像。……すべて揃っております。これを全銀河に公開すれば、奴らの大義名分は消し飛びます』

「素晴らしいわ、バハムート! さすがは神話の時代の最高傑作ね!」

フェイトが歓喜の声を上げると、バハムートの端末に赤い目のアイコンが照れくさそうに点滅した。

『ふん。私を現代のポンコツAIと一緒にしないでいただきたい。……さらに、ルーンベイト連合の広域情報ネットワークのセキュリティですが、私の演算能力をもってすれば、およそ3秒で完全に掌握・上書きが可能です。彼らの検閲を一切無視して、女帝陛下の映像を連合の首都星にまで強制配信できますよ』

「……3秒? 連合が誇る最高度の軍事暗号網を?」

リアンヌが呆れたように呟く。

「ふはははっ! さすがは妾の相棒バハムートじゃ! 姉上、お膳立ては完全に整ったぞ。あとは、帝国のトップである姉上が、あのタヌキ親父の顔面に強烈な平手打ち(カウンター)を食らわせるだけじゃ!」

ローゼリアの言葉に、フェイトは深く頷き、姿勢を正した。

彼女の瞳には、かつて内乱を鎮圧し、帝国を立て直した絶対的な『王』としての覇気が宿っていた。

「ええ。売られた喧嘩は、利子をつけて買い取ってあげるのがエーベルヴァインの流儀よ。……ローゼリア、リアンヌ。あなたたちは母艦『エインヘリアル』に戻り、部隊の再編を急いで。反論放送の直後、ナベリウスは間違いなく暴走するわ」

「うむ、任せておけ! 傭兵団『戦乙女』の真の恐ろしさ、連合の連中に教え込んでやる!」

「バハムート、全銀河同時放送の準備を。ルーンベイト連合の全ネットワークをジャックしてちょうだい!」

『御意に、女帝陛下ユア・マジェスティ

薄汚い謀略を打ち砕くべく、若き女帝と戦乙女たちは、静かに、そして苛烈に反撃の刃を研ぎ澄ませていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ