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追放皇女の異世界戦記  作者: 浅川


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第七幕 第八話:ゼニス・コーポレーションの動揺

エインヘリアルのブリッジでブリュンヒルデが慎重な判断を下していた頃。

惑星ガルドラの地表に建設された巨大軍事施設——巨大軍事企業『ゼニス・コーポレーション』の現地司令部では、重苦しい沈黙と怒号が交錯していた。

「一個大隊が、たった数分で全滅だと!? ふざけるな、渓谷地帯の部隊には最新鋭の量産機を配備したばかりだぞ!」

司令室の中心で、高級なスーツの上に軍用コートを羽織った男——ゼニスのガルドラ現地司令官バルボアが、ホログラム・モニターを叩き割らんばかりの勢いで怒鳴り声を上げていた。

彼の足元には、怯えた表情の情報将校がタブレットを抱えて直立不動になっている。

「ほ、報告によりますと、上空の大気圏外より未確認の戦艦が突如出現し、そこから二機の機体が降下……そのまま我が軍の前衛部隊を強襲したとのことです!」

「たった二機で一個大隊を壊滅させただと? どこのテロリストだ! 連邦の特殊部隊か、それとも他の競合企業ライバルの差し金か!?」

「そ、それが……! 現地から送られてきた最期の戦闘データをご覧ください!」

情報将校が震える指でコンソールを操作すると、メインスクリーンに渓谷での戦闘映像が再生された。

そこに映し出されていたのは、土煙を切り裂き、物理法則を無視したような変態機動でゼニスの最新鋭機を次々と両断していく『真紅と漆黒の悪魔』。そして、その後方から寸分の狂いもない精密射撃で敵の死角を完全に潰していく『純白の騎士』の姿であった。

その圧倒的すぎる戦闘(蹂躙)の光景に、司令室にいたオペレーターたちは息を呑み、バルボアは額から滝のような冷や汗を流した。

「この機体……まさか……」

「はい。真紅の特注機『ルシフェル・リベリオン』と、白亜の騎士機『ブラン』。そして、軌道上に停泊している白と金の新型戦艦。……間違いありません。銀河最強の傭兵団『戦乙女ヴァルキュリア』、その母艦エインヘリアルです!!」

情報将校の悲痛な報告が響き渡ると、司令室は水を打ったような静まり返った。

「ば、馬鹿な……! なぜだ! なぜあのバケモノどもが、こんな辺境の星にいる!?」

バルボアが頭を抱えて呻く。

ゼニス・コーポレーションは、銀河でも有数の巨大企業である。彼ら自身の軍事力も並の小国を凌駕している。

しかし、相手が悪すぎた。エインヘリアルといえば、帝国や連邦の国家規模の戦争にすら単艦で介入し、戦局を文字通り単機でひっくり返す【特異点】を擁する規格外の集団である。

一介の軍事企業が、自前の戦力だけでどうにかなる相手ではない。

「し、司令官! このままでは、ゲリラ軍とエインヘリアルが手を結び、この採掘基地にも直接攻撃を仕掛けてくる可能性があります! 直ちに全軍を撤退させましょう!」

オペレーターの一人が悲鳴のように進言する。

「莫迦を言え!!」

バルボアは血走った目でオペレーターを睨みつけた。

「このガルドラの地下に眠る希少鉱石は、我がゼニス・コーポレーションの次世代兵器開発に不可欠なものだ! ここでの採掘計画が頓挫すれば、私の本社でのキャリアは完全に終わる! 撤退などあり得ん!」

利益と己の保身を至上とするバルボアにとって、ガルドラを手放すという選択肢は存在しなかった。

彼はギリッと奥歯を噛み締め、必死に思考を回転させる。

(落ち着け……相手はプロの傭兵だ。義憤に駆られて無報酬で動くような連中ではないはず。それに、ゲリラ共にエインヘリアルを雇うだけの資金があるはずもない……!)

バルボアは、少しずつ冷静さを取り戻し、冷酷なビジネスマンとしての顔を浮かべた。

「情報部! 奴らエインヘリアルに対して、ゼニス・コーポレーションの名で公式な『警告通信』を送れ!」

「け、警告、ですか?」

「そうだ。我々ゼニスは、連邦政府の(裏金を使って強引に通した)正規の採掘許可証を持ってこの星で活動している。つまり、我々の行動は星間法において完全に『合法』だ」

バルボアは口角を歪め、邪悪な笑みを浮かべた。

「あの堅物で有名なブリュンヒルデ団長が、合法的な企業活動を武力で妨害するという『政治的リスク』を無条件で犯すとは思えん。ゲリラ共はあくまで『不法なテロリスト』であり、我々に正当性があるという法的な証拠を突きつけて牽制するのだ」

「な、なるほど……! 武力ではなく、法と政治で動きを縛るのですね!」

「その通りだ。奴らが交渉や法の壁で足踏みしている間に、本社へ緊急通信を繋げ。……『特務部隊』の派遣と、開発中の『あれ』の実戦投入の許可を取る」

バルボアの言葉に、情報将校は僅かに顔を引きつらせた。

『特務部隊』——それはゼニス・コーポレーションが裏社会で飼っている、強化人間や非人道的な兵器を扱う暗殺部隊である。

「正規軍レベルの戦力で敵わないなら、ルール無用の力で叩き潰すまで。いくら特異点とはいえ、絡め手と物量で押し潰せば無傷では済むまい。……このガルドラの利権は、誰にも渡さんぞ」

バルボアは、モニターの中で暴れ回る真紅の機体を忌々しげに睨みつけながら、低く濁った声で呟いた。

エインヘリアルの想定外の登場により、大きく揺らぐゼニス・コーポレーション。

しかし、彼らもまた巨大企業としての狡猾さと底知れぬ闇を持っていた。

惑星ガルドラを巡る戦いは、単なるゲリラ対企業軍の構図から、法と策謀、そして圧倒的な暴力が交差する複雑な戦場へと変貌を遂げようとしていた。


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