第七幕 第四話:新生エインヘリアルと、白銀の城の内見(ツアー)
星間都市国家アヴァロンでの喧騒と、部隊長ブリュンヒルデの大鉈が振るわれてから数ヶ月後。
アヴァロンのVIP専用造船ドックにて、ついにそのベールが脱がされた。
「おお……見事じゃな」
ローゼリアが、腕を組んで感嘆の息を漏らした。
ドックに鎮座していたのは、白と金を基調とした流線型の美しい巨艦であった。
過剰な巨大砲塔こそ削られたものの、洗練されたミスリル合金の複合装甲は眩いばかりの光を反射し、戦艦としての威厳と芸術品のような気高さを両立している。
これが、銀河最強の女傭兵団の新たな母艦——『新生エインヘリアル』である。
「ええ……。本当に、素晴らしい船だ」
ブリュンヒルデが、感極まったように目を潤ませていた。
今回は胃薬の出番はない。徹底した予算管理とスケジュール調整の結果、予定通りの資金でこの完璧な『マイホーム』を手に入れたのだ。彼女の部隊長としての達成感は計り知れない。
「さあ、皆の者! 待ちに待った内見といくぞ!」
ローゼリアの号令と共に、戦乙女たちは弾むような足取りで真新しいタラップを駆け上がった。
まず一行が向かったのは、艦の下層に位置する広大な【格納庫】である。
「うおおおぉぉぉッ!! すげえ! 最高だぜ!!」
格納庫に足を踏み入れた瞬間、整備班長のフィーネが発狂したような歓声を上げた。
「見てみろよ大将! 最新型の全方位整備アームが各機体に二基ずつ完備されてる! これなら大将のルシフェル・リベリオンのピーキーな関節調整も、今の半分の時間で終わるぜ!」
格納庫には、すでに旧母艦から移設された戦乙女たちの専用機がずらりと並んでいた。
デュアル・コアとなった新型魔力炉の恩恵により、艦内のエネルギー供給は極めて安定している。これなら、出撃時に魔力炉が爆発するかもしれないという恐怖に怯える必要はもうない。
「うむ! 妾のルシフェルも、新しい家が快適そうで何よりじゃ!」
ローゼリアが愛機の装甲を撫でて満足げに頷く。
続いて一行は、艦の頭脳である【ブリッジ】へと移動した。
「……ふむ。最新モデルから一つ前の世代に落とされたとはいえ、この量子演算機の処理速度は桁違いね」
アルティナが、真新しいコンソールに指を這わせながら感心したように呟く。
「ええ。これなら、ローゼリアの予測不能な変態機動にも、遅延ゼロで電子戦の随伴が可能です。情報処理のストレスから完全に解放されました」
シエラも、普段の無表情の奥に隠しきれない喜びを滲ませていた。
そして、ブリュンヒルデの無情なコストカットの嵐が最も吹き荒れた【居住区画】へ。
「さあ、レガリア。お前が希望していた温室だが……プランターで我慢してくれと言った手前、少し心配なのだが」
ブリュンヒルデが申し訳なさそうに扉を開ける。
しかし、そこには——。
「まあ……! 素晴らしいですわ、団長!」
レガリアが、両手を合わせてパァッと花が咲いたような笑顔を見せた。
部屋の中に土を敷き詰める広大な『庭園』こそ見送られたものの、壁一面に設置された多段式のプランターラックは、最新の環境制御モジュールによって完璧な温度と湿度に保たれていた。
十分すぎる量の最高級茶葉が、青々と美しい葉を広げている。
「これだけの設備があれば、極上のティータイムをお約束できますわ。団長の胃を癒やすためのハーブも、存分に育てられますね」
「そ、そうか。それなら良かった」
続いて、大浴場。
「天然温泉再現システム」こそ削られたものの、艦内の大浴場は白大理石を基調とした、まるで高級ホテルのスパのような広々とした空間であった。
「わあ……! これなら足を伸ばしてゆっくり浸かれますわね!」
「お風呂上がりのローゼリア様の髪を乾かすのが、今から楽しみですわ」
ロスヴァイセとエリーゼが、脱衣所の充実したアメニティを見て嬉しそうに微笑む。
「おい、ランドグリーズ。お前のトレーニングルームは削ってしまったが……」
ブリュンヒルデが振り返ると、ランドグリーズは居住区の廊下の隅の空きスペースに、旧艦から持ち込んだダンベルとベンチプレスをすでに設置し終えていた。
「ガハハハ! 気にするな団長! 重力制御なんてなくても、鉄の塊さえあれば筋肉は育つ! この広い廊下なら、思う存分ランジ・ウォークができるから最高だぜ!」
相変わらずの豪快筋肉である。
「む? そういえば、リアンヌの部屋はどうなっておるのじゃ?」
ローゼリアが首を傾げた。
「ああ、リアンヌの自室ですか。こちらです」
シエラが案内し、リアンヌの個室の扉を開けた瞬間。
「…………なんじゃ、これは」
ローゼリアは、一歩後ずさって完全に顔を引きつらせた。
リアンヌの部屋の壁一面には、いくつもの巨大な高精細モニターが所狭しと設置され、そのすべてに『過去の戦闘でローゼリアが敵を切り裂く瞬間』の映像が、様々なアングルからループ再生されていたのだ。
「ふふふ……。シミュレーター建設の予算は削られましたが、個人の給料(自費)で自室のモニターを限界まで拡張することは、規則違反ではありませんからね!」
リアンヌが、どこか狂気を孕んだ誇らしげな笑顔で胸を張る。
「おい、リアンヌ! お前、今回の莫大な特別報酬の自分の取り分を、全部このモニター代に注ぎ込んだのか!?」
ブリュンヒルデが頭を抱える。
「ええ! 我が主の麗しき戦闘記録をいつでも拝めるのですから、安い買い物です! さあ我が主、ぜひ特等席でご自身のご活躍をご覧ください!」
「い、いや、妾は遠慮しておくぞ……」
相変わらずの近衛騎士の愛の重さに、アルティナが「本当にブレないわね、この狂信者は」と呆れ返った。
一通りの内見を終え、一行は再びブリッジへと集まった。
全員の顔には、新しい家を手に入れたことへの隠しきれない喜びと高揚感が満ちている。
「——さあ、皆の者」
ローゼリアが、ブリッジの中央で作戦卓に手をつき、真紅の瞳を輝かせて仲間たちを見渡した。
「新しい武器、新しい設備、そして新しい家じゃ。これまでのポンコツ船での窮屈な旅も終わり、今日からはこの白銀の城が妾たちの居場所となる」
「ええ。長年の悲願だった。……これで、思う存分戦えるな」
ブリュンヒルデが、静かに、しかし力強く頷く。
「それでは、新生エインヘリアル。初出航といくぞ!」
ローゼリアの号令に、戦乙女たちが一斉にコンソールに向かう。
『——魔力炉、オンライン。出力正常』
『長距離ワープドライブ、スタンバイ完了』
『各機体、ロック解除。いつでも出撃可能です』
「目標、果てなき星の海! 銀河最強の女傭兵団の新たな船出じゃ! 出航!!」
特異点ローゼリアの高らかな宣言と共に、新生エインヘリアルは静かに、そして圧倒的な推進力でアヴァロンのドックを滑り出た。
光の尾を引いて宇宙へと飛び立つ白と金の巨艦。それは、死神たちの新たな伝説の始まりを告げる、希望に満ちた白銀の光であった。




