第七幕 第三話:近衛騎士の重すぎる愛と、幻の聖域(サンクチュアリ)
造船所の主任技師との打ち合わせが無事に(ブリュンヒルデの胃を犠牲にしながらも)終わり、新造艦の建造契約が正式に結ばれた。
完成までには数ヶ月を要するが、その間は現在の老朽艦をそのまま使い、完成次第アヴァロンで乗り換えるという段取りである。
会議が終わり、VIPルームの巨大な窓からアヴァロンの煌びやかな宇宙港を見下ろしていたローゼリアに、ひっそりと近づく影があった。
彼女の絶対的な近衛である、純白の騎士リアンヌであった。
「……納得がいきません、ローゼリア」
普段は冷静沈着なリアンヌが、珍しく唇を尖らせ、不満げな声を漏らした。
「ん? どうしたリアンヌ。お主の要望だったシミュレータールームが削られたことか? まあ、ブリュンヒルデの言う通り、実戦で鍛えればよいではないか」
ローゼリアが苦笑しながら振り返る。
「実戦で鍛練を積むのは騎士として当然の義務です。私が不満に思っているのは、そこではありません」
リアンヌは真剣な(そしてどこか熱を帯びた)眼差しで、ローゼリアに詰め寄った。
「私が設計図に組み込んでいたあのシミュレーターは、ただの戦闘訓練施設などという無粋なものではなかったのです! あそこには、我が主の過去の戦闘データを完全再現する次世代ホログラム機能と、あらゆる環境下で我が主が敵を殲滅するお姿を、360度全方位のアングルから鑑賞・保存できる『特別アーカイブ機能』を実装する予定だったのです!」
「……は?」
ローゼリアがポカンと口を開ける。
リアンヌは身振り手振りを交え、熱弁を振るい始めた。
「さらには、私が我が主の盾としていかに美しく敵の攻撃を防ぐか、そしてその直後に我が主がどれほど華麗に敵を屠るか……その至高の連携を24時間いつでも疑似体験できる機能も搭載するつもりでした! つまり、あのシミュレーターは、100%ローゼリア様のためだけに作られた、いわば神聖なる聖域になるはずだったのです!」
「……それ、ただのお主の趣味の部屋(オタク部屋)ではないか」
ローゼリアは、近衛騎士のあまりにも重すぎる愛と執念に、僅かに顔を引きつらせた。
「あのねぇ……。ブリュンヒルデ団長に『予算以前の問題だ。そんなものを作ったら、リアンヌが一生部屋から出てこなくなる』って即座に見抜かれてたわよ」
横で聞いていたアルティナが、呆れたようにジト目でため息をつく。
「ええ。リアンヌの設計図を解析しましたが、全体の95%がローゼリアの映像再生と鑑賞用システムに割かれており、純粋な戦闘訓練用プログラムはわずか5%でした。あれはシミュレーターではなく、ただの『ローゼリア専用ファンクラブ施設』です」
シエラも冷酷な事実を淡々と指摘する。
「くっ……。機材の項目を『高性能光学センサー』や『環境再現モジュール』などと偽装して申請したのですが……団長の目は誤魔化せませんでしたか……。我が主の麗しき戦闘記録をいつでも大画面で拝める夢の施設だったというのに……」
リアンヌは、心底口惜しそうに拳を握りしめ、ワナワナと震えている。
「(……以前、休憩室で兵士たちに『リアンヌの愛は重すぎてブラックホールじゃ』と語ったが、マジでブラックホール級じゃな……)」
ローゼリアは、ドン引き半分、呆れ半分といった表情でこめかみを押さえた。
「ま、まあ良いではないか、リアンヌ。ホログラムなど見ずとも、妾はいつでもお主の目の前におる。本物の妾が最前線で暴れ回る姿を、その特等席(すぐ隣)で見せてやるから、機嫌を直すのじゃ」
ローゼリアがポンポンとリアンヌの肩を叩く。
「——ッ!!」
その言葉を聞いた瞬間、リアンヌの青い瞳が星のように輝き、頬が真っ赤に染まった。
「お、おお……! そうでした……! 虚像に頼ろうなどと、我が主の盾を務める者として浅はかでした……! ええ、私はいついかなる時も、我が主の最も近くで、その輝かしいお姿を目に焼き付けてみせます!」
リアンヌは感激のあまりローゼリアの手を両手で包み込み、ブンブンと激しく上下に振った。
「ちょ、痛い痛い! 握力がバカになっとるぞリアンヌ!」
「やれやれ……。本当にこの狂信者の扱いは、ローゼリアにしか無理ね」
アルティナが肩をすくめ、他の戦乙女たちも苦笑してその光景を眺めていた。
100%ローゼリアのための幻の施設は、部隊長の大鉈によってあえなく宇宙の塵と消えた。
しかし、ローゼリアへの重すぎる愛と忠誠心を再確認した純白の騎士は、新造艦の完成を待つまでもなく、すでに次の戦場(ローゼリアの活躍)を心待ちにしてウズウズし始めているのであった。




