第六幕 第十三話:白銀の終劇と、帰還する死神たち
『お、おのれぇぇぇッ! 私は、アルカードの……』
通信回線に響くガレオンの絶叫を断ち切るように、高周波の魔力を帯びた重斬刀が、スカーレットブルームのコックピットブロックを深々と貫いた。
圧倒的な装甲を誇っていたはずの深紅の特注機は、心臓部である魔力炉を物理的に破壊され、内側から崩壊の兆しを見せ始める。
「古代の遺産だろうと何だろうと、使っているのがネズミでは宝の持ち腐れじゃな」
ローゼリアのティルフィングは、機体を反転させ、背面スラスターを吹かして一瞬で危険域から離脱した。
直後。スカーレットブルームは音のない宇宙空間で、網膜を灼くような強烈な閃光と共に爆散した。
その凄まじい爆発の余波を浴びて、背後に控えていたアルカードの指揮母艦も装甲がひしゃげ、内部からの誘爆を引き起こして轟沈していく。
指揮官と母艦を同時に失ったアルカードの魔獣部隊、そして旧帝国派閥の反乱軍の間に、致命的な恐慌が広がった。
『ガ、ガレオン様の専用機が……あの白い量産機に一刀両断されただと!?』
『指揮母艦も沈んだ! 魔獣のコントロールが効かないぞ!』
統制を失い、同士討ちや暴走を始める魔獣たち。反乱軍の陣形は完全に瓦解した。
「……さて、仕上げといくか。リアンヌ、掃討戦の指示を」
『はっ。各機、これより残敵の掃討および暴走する魔獣の殲滅に移行します。……一匹残らず、灰にしてください』
リアンヌの冷徹な号令のもと、白銀の悪魔たちの蹂躙が再開された。
アルティナとシエラの強烈な電子戦が、反乱軍の通信網と火器管制を完全に沈黙させる。動く標的と化した敵機を、ローゼリアとリアンヌの白と白のコンビネーションが次々と切り捨て、撃ち抜いていく。
『メイドの務め、最後まで完璧にこなします』
『さあ、お掃除の総仕上げですわよ』
ロスヴァイセとエリーゼは、暴走する魔獣たちを一箇所に誘導し、背部の魔導砲で無慈悲な弾幕を浴びせかけた。巨大な獣たちが、悲鳴を上げる間もなく光の奔流に飲み込まれ、宇宙の塵へと変わっていく。
一方、正面で防衛網を押し上げていたレオン准将率いる帝国・連邦主力艦隊も、この機を逃さなかった。
『敵の指揮系統は完全に沈黙した! 第零独立テスト部隊が血路を開いてくれたぞ! 全艦、一斉突撃! 反乱軍に降伏を勧告し、抵抗する者は撃ち落とせ!』
レオン准将の号令により、主力艦隊の圧倒的な火力が反乱軍の残存部隊を飲み込んでいく。
もはや勝敗は誰の目にも明らかだった。開戦からわずか三日目にして、旧帝国派閥の反乱軍は完全に白旗を揚げ、アルカードの魔獣部隊は宇宙空間から一匹残らず駆逐されたのであった。
戦闘宙域が完全に制圧され、静寂を取り戻した星の海。
その中を、六機の白銀のティルフィングが、魔改造戦艦『ヘイズ』の格納庫へとゆっくりと帰還していく。
機体が所定のデッキに固定され、コックピットのハッチが開くと、格納庫で待機していた帝国軍の兵士や整備員たちから、割れんばかりの歓声と拍手が沸き起こった。
「すげえ……! マジで敵の指揮母艦とアルカードの幹部を単独で落としてきやがった!」
「俺たちの量産機で、あそこまで戦えるなんて……! 第零独立テスト部隊、万歳!」
兵士たちの熱狂的な声援に、パイロットスーツ姿のローゼリアはヘルメットを小脇に抱え、満足げに手を振って応えた。
ブリッジへ向かうと、ロードリック艦長が深い敬礼で彼女たちを出迎えた。
「見事な戦いぶりだった、お嬢さん方。貴様らの獅子奮迅の活躍により、味方の被害は想定の十分の一以下に抑えられた。艦長として、心から礼を言う」
「うむ。良い肩慣らしになったぞ、艦長。……で、約束通り、この機体は返却する」
ローゼリアは、データ端末をロードリックに手渡した。
そこには、今回の実戦で得られたティルフィングの極限状態での機動データや、フィーネが施したピーキーな魔改造のログがすべて記録されている。
「帝国の技術部に渡してやってくれ。これを元にOSの最適化を行えば、帝国軍の一般パイロットでも、あの白銀の機体を名馬として乗りこなせるようになるじゃろうて」
「……感謝する。このデータは、今後の帝国軍にとって何よりも代えがたい財産となるだろう」
ロードリックは端末を大切に受け取り、深く頷いた。
ここに、帝国の歴史に深く刻まれることになる『所属不明の白銀のテスト部隊』の伝説は、ひっそりと幕を下ろしたのである。
数時間後。
ヘイズから小型シャトルに乗り込んだローゼリアたち六人は、後方宙域で待機していた母艦エインヘリアルへと帰還を果たした。
『エインヘリアル、シャトル収容完了。……お疲れ様でした、皆様』
レガリアの温かいアナウンスが響く中、ブリッジのハッチが開く。
「おおっ! 帰ったぞぉぉっ!」
ローゼリアが両手を上げてブリッジに飛び込むと、そこには腕を組んで微笑むブリュンヒルデや、退屈そうに欠伸をしていたランドグリーズたちの姿があった。
「おかえりなさい、ローゼリア。そして前衛部隊の皆。見事な作戦完遂だったわ」
ブリュンヒルデが労いの言葉をかける。
「あーあ、アタシも白い機体に乗って暴れたかったよ。留守番は暇で死にそうだったんだからな」
ランドグリーズが豪快に笑いながらローゼリアの肩を叩く。
そこに、整備班長のフィーネがスパナを片手に歩み寄ってきた。
「どうだった大将? アタシが手を入れたティルフィングの乗り心地は。あのアルカードの特注機も、あっさりスクラップにできたみたいじゃねえか」
「うむ! ピーキーでなかなか面白い機体じゃったぞ。だが……」
ローゼリアはニヤリと笑い、格納庫の方向へ視線を向けた。
「やはり妾には、あのじゃじゃ馬極まりない『ルシフェル・リベリオン』が一番しっくりくるわい。他人の服(量産機)を借りて戦うのは、少々肩が凝るしの」
「ははっ、違いねえ。アンタの相棒はルシフェルだけだからな。いつでも出撃できるように、ピカピカに磨いてあるぜ」
その時、メインモニターにフェイト女帝からの通信が入った。
『——素晴らしい戦果ね、エインヘリアルの諸君。そしてローゼリア』
玉座に座るフェイトは、心底安堵したような、そして誇らしげな笑みを浮かべていた。
『貴女たちの偽装作戦のおかげで、帝国の威信は完全に守られ、旧帝国派閥の反乱は鎮圧されたわ。これで、しばらくは帝国に逆らおうとする愚か者は現れないでしょう。私の政治的ジレンマを見事に解決してくれたこと、女帝として、そして姉として感謝するわ』
「ふふん。妾の悪知恵に感謝するのじゃな。報酬はたっぷり弾んでもらうぞ、姉上」
ローゼリアが胸を張ると、フェイトは「ええ、もちろんよ」と優雅に頷いた。
『さて……帝国軍の「第零独立テスト部隊」は、これで解散よ。貴女たちは再び、銀河最強の傭兵団としての誇りを取り戻しなさい』
フェイトの言葉に、ブリュンヒルデが恭しく一礼する。
「はっ。我らエインヘリアル、これより通常任務へと復帰いたします」
通信が切れ、ブリッジにいつもの活気が戻ってくる。
「さあ、皆の者! 帝国の窮屈な軍服は脱ぎ捨てて、いつもの黒い軍服に着替えるのじゃ! 妾たちの本来の戦場が待っておるぞ!」
ローゼリアの高らかな宣言と共に、白と金を基調とした優美な巨艦エインヘリアルは、主機に眩い魔力を漲らせた。
偽りの白銀の衣を脱ぎ捨て、本来の真紅と漆黒の死神へと戻った特異点。彼女たちの次なる冒険は、星の海の彼方で静かに幕を開けようとしていた。




