第六幕 第十二話:深紅の絶望と、白銀の絶対連携
『お、おのれぇぇぇッ! エインヘリアルの死神め! なぜこんな所にいる!? なぜ帝国の白塗りに乗っているのだ!!』
通信回線に響くガレオンの絶叫と共に、深紅の異形機『スカーレットブルーム』が宇宙空間で荒れ狂う。
背部の異形のスラスターが血のような光を放ち、ティルフィングの三倍以上の出力を生み出して超加速による突撃を繰り返す。さらに、両肩からは無数の魔力レーザーが乱れ撃ちされ、周囲のデブリごとローゼリアを消し炭にしようと襲いかかった。
機体の出力、装甲の硬度、そして火力の総量。カタログスペックという数値の上だけで語るなら、ガレオンのスカーレットブルームは帝国の量産機であるティルフィングを遥かに凌駕している。
だが、戦場における『強さ』とは、決してカタログスペックだけで決まるものではない。
「……五月蝿い男じゃな。力が余っておるなら、もう少し頭を使って動かしてみろ」
ローゼリアの冷徹な声と共に、白銀のティルフィングは恐るべき変態機動でレーザーの雨をすり抜けていく。
ティルフィングのピーキーな加速と制動をミリ秒単位でコントロールし、スカーレットブルームの攻撃の「予測線」をことごとく外してのけるのだ。
『ちょこまかと! 当たれ、当たれぇッ! この機体の自動照準システムは古代の遺産だぞ!?』
「古代の遺産が泣いておるわ。……シエラ、アルティナ」
『ええ。もうとっくに狂わせているわよ、ローゼリア』
『敵機の火器管制システムおよび空間認識センサーに、ルミナス式幻影魔術の遅延コードを注入完了。……現在、敵のメインカメラには、我が部隊の「0.5秒前の残像」が映っています』
アルティナとシエラの冷静な報告が響く。
ガレオンが必死にロックオンして撃ち抜いているのは、エインヘリアルの電子戦によって生み出されたティルフィングの幻影に過ぎなかった。
『な、なんだと!? なぜ当たらない!? 照準は完全に捉えているはずなのに!』
ガレオンがパニックに陥り、機体を強引に旋回させようとした、その瞬間。
『——その隙、見逃しません』
ガレオンの死角である左下方のデブリの影から、リアンヌの駆る純白……いや、白銀に偽装されたティルフィングが滑り出た。
リアンヌはアサルトライフルを構え、寸分の狂いもない精密射撃で、スカーレットブルームの左推進器の偏向ノズルだけをピンポイントで撃ち抜いた。
『ぐあっ!? 機体のバランスが……!?』
「見事じゃ、リアンヌ。……ロスヴァイセ、エリーゼ! 退路を塞げ!」
『お任せくださいませ。ゴミが散らかっては掃除の手間が増えますからね』
『逃げ道など、最初から用意しておりませんわ』
体勢を崩したスカーレットブルームの背後に、ロスヴァイセとエリーゼの機体が回り込む。
二機のティルフィングの背面から展開された魔導砲が、ガレオンの逃げ道となる空間を完璧に囲い込むように極太の火線を放った。
『ヒィィッ!?』
四方を白銀の悪魔たちに包囲され、完璧な弾幕の檻に閉じ込められたガレオン。
そこに、ローゼリアのティルフィングが、重斬刀を上段に構えて音もなく肉薄した。
「さあ、ガレオンとやら。お前の機体の関節部に、致命的な魔力伝導のラグがあることは見抜いておる。……スペックに溺れた愚か者に、パイロットの『腕』というものを教えてやろう」
『く、来るなぁぁぁッ!!』
ガレオンは半狂乱になりながら、スカーレットブルームのビームクローを乱振りした。
しかし、ローゼリアの眼には、その軌道が止まっているかのように遅く見えていた。
「遅い」
一閃。
白銀のティルフィングがすれ違いざまに放った重斬刀の一撃が、スカーレットブルームの右腕の関節——生体装甲に覆われていない、コンマ数秒だけ魔力供給が途切れる脆弱な部位——を正確に捉え、鮮やかに切り飛ばした。
『ぎゃああああッ!? 私の、私の専用機がぁぁッ!!』
ガレオンの悲鳴が回線に響く。
だが、ローゼリアの攻撃は止まらない。
「次じゃ」
機体を独楽のように回転させ、遠心力を乗せた二撃目。
今度は左脚の膝関節を両断し、スカーレットブルームの機動力を完全に奪い去る。
『ひっ……! や、やめろ! この機体は、アルカードの総力を結集して……スペックでは、圧倒しているはずなのに……ッ!』
「機体がどれほど優れていようと、パイロットの技量と思考がそれに追いついておらん。そして何より……」
ローゼリアは、四肢を奪われ、宇宙空間で無様に漂うダルマ状態となった深紅の機体を見下ろし、冷ややかに告げた。
「お前は『個』の力に頼りすぎた。妾の背後には、互いの呼吸すら理解し合う最高の仲間たちがおる。この絶対的な連携の前に、一機のカタログスペックなど何の役にも立たんわ」
エインヘリアルの戦乙女たちによる、針の穴を通すような電子戦、死角を潰す支援射撃、そして退路を断つ空間制圧。
彼女たちは、機体性能の差を『連携』と『戦術』という最強の武器で完全に埋め、それどころかアルカードの誇る特注機を一方的に蹂躙してみせたのだ。
『ば、化け物どもめ……! 帝国の量産機に、エインヘリアルの中身など……こんな反則が許されてたまるかぁぁッ!!』
「言い訳は地獄で聞こう。……これで終わりじゃ、アルカードの幹部殿」
ローゼリアのティルフィングは、背面スラスターを限界まで吹かし、最後の一撃を放つため、スカーレットブルームのコックピットブロックへと一直線に突撃した。
白銀の刃が、深紅の絶望に引導を渡すべく、鋭く振り上げられた。




