第六幕 第十話:白銀の合流と、連邦の将の納得
暗礁宙域の裏側を抜け、魔改造戦艦『ヘイズ』は指定されたポイントへと姿を現した。
光学迷彩を解いたヘイズのブリッジのメインモニターには、圧倒的な数の味方を示す青いマーカーが表示されている。
「——帝国軍主力および連邦軍支援艦隊、本艦のレーダー圏内に入りました。暗号通信、リンク完了」
オペレーター席のシエラが、平坦な声で告げる。
モニター越しに映し出されたのは、数百隻の戦艦が整然と陣形を組む、壮大な艦隊の姿だった。
そして、画面が切り替わり、一人の軍人の顔が表示される。歴戦の風格を漂わせる、連邦軍の若き猛将・レオン准将であった。彼は現在、フェイト女帝の要請を受け、帝国軍の主力艦隊と共闘体制を敷いている。
『無事の合流、感謝する。ロードリック艦長。……それにしても、まさかあのヘイズがこんな重武装の特務艦に改装されているとはな』
レオン准将が、モニター越しに目を細めて苦笑した。
「すべては上層部(陛下)の思し召しですよ、レオン准将。私自身、この老朽艦がここまで機敏に動くようになるとは思っていませんでしたがね」
ロードリックが、渋い声で応じる。
『そして……この二日間で反乱軍の戦力を三分の一も削り落としたという、噂の「第零独立テスト部隊」だな』
レオン准将の視線が、作戦卓の奥で控えている白のパイロットスーツに身を包んだローゼリアたちに向けられた。
『正直に言おう。隊長機もないたった六機の量産機が、敵の防衛ラインを単独で突破し、巡洋艦を次々と沈めているなどという報告書を見た時、私は情報部の誤植か、現場の兵士たちの幻覚だと思っていた。だが……』
准将の鋭い視線を受け、ローゼリアは表情を変えることなく、堂々と腕を組んで前に進み出た。
「ふむ。相変わらず堅苦しい男じゃな、レオン准将。少しは頭を柔らかくせんか」
『……その声、そしてその不敵な瞳。まさか……ローゼリア殿か?』
レオン准将は、僅かに目を見開き、そして深く息を吐き出して、得心がいったように表情を緩めた。
『なるほど。そういうことか。貴女がた戦乙女が「テストパイロット」の正体だったとは。……ならば、あの常軌を逸した異常な戦果も完全に納得がいく。バケモノじみた量産機が現れたわけではなく、乗っているパイロットが文字通り規格外だったというわけだ』
「そういうことじゃ。今は姉上の政治的配慮で、帝国軍の量産機による偽装部隊として動いておる。帝国のメンツを立てるためじゃから、他言は無用じゃぞ」
『承知している。我々も、かつて連邦の内乱の折、貴女がたに我ら旧連邦派を支援していただいた過去がある。あの時の多大なる恩は、決して忘れてはいない』
レオン准将は、画面越しに深く、敬意を込めた一礼をした。
『あの戦場で我々を救ってくれた戦乙女たちと、再びこうして共闘できること……たとえそれが「名もなきテストパイロット」としてであっても、これほど心強いことはない』
「ええ。ローゼリアの言う通り、今回はあくまで裏方だから、あまり気を使わないでちょうだい。……で、本題の作戦はどうなっているの?」
アルティナがヘルメットを小脇に抱えながら尋ねた。
『ああ。これより、我々主力艦隊は反乱軍の絶対防衛宙域へ総攻撃を仕掛ける。敵も後がないと悟り、残存戦力とアルカードの魔獣部隊を前面に押し出してきている。正面からのぶつかり合いになれば、いかに我々でも無傷では済まん』
レオン准将が星図に新たな戦術データを展開する。
敵は要塞化した小惑星群を盾に、分厚い防衛網を敷いていた。
『ロードリック艦長。そして、「テスト部隊」の諸君。君たちには、我々が正面から敵の注意を引きつけている間に、この防衛網の隙間を縫って敵陣深部へ遊撃に出てもらいたい。……目標は、アルカードの魔獣を統括していると見られる、指揮母艦の特定と破壊だ』
「なるほど。正規軍が囮となり、妾たちが喉首を掻き切るというわけじゃな」
ローゼリアが、真紅の瞳を静かに光らせた。
「問題ありません、レオン准将」
リアンヌが一歩前に出て、星図のデータを素早く操作する。
「主力艦隊がこちらの宙域に展開し、敵の右翼に火力を集中させてくだされば、左翼のデブリ帯にコンマ数秒の防御の隙間が生じます。我々はその僅かな隙を突いて内部へ潜入し、敵指揮系統を物理的に分断します」
リアンヌの提案した戦術ルートは、敵の死角を完璧に突いた、無駄のない芸術的なものであった。
それを見たレオン准将は、再び感嘆の息を漏らした。
『……見事な戦術眼だ。了解した、そのルートでいこう。全軍、三十分後に作戦を開始する。武運を祈る』
通信が切れ、ブリッジの空気が戦闘モードへと切り替わる。
「さあ、行くわよ。恩義を感じてくれている連邦軍の皆さんの前で、無様な真似は見せられないからね」
アルティナがヘルメットを被り、ロスヴァイセたちもそれに続く。
「妾たちが目立てば目立つほど、帝国の『量産機』の威信は高まり、反乱軍の絶望は深まる。存分にその性能を見せつけてやろうぞ」
ローゼリアの静かだが力強い言葉に、戦乙女たちは一斉に頷いた。
三十分後。
広大な宇宙空間を舞台に、無数の光条が交錯する大規模な艦隊戦が幕を開けた。
帝国・連邦の連合艦隊が放つ圧倒的な砲火が、反乱軍の防衛ラインに容赦なく叩き込まれる。
『敵艦隊、右翼へ戦力を集中させています! 左翼のデブリ帯、予想通り防衛が手薄になりました!』
ヘイズのオペレーターが叫ぶ。
「よし、今だ。リアンヌ、テスト部隊を発進させろ」
ロードリック艦長の指示と共に、ヘイズのカタパルトから六つの白銀の光が撃ち出された。
「第零独立テスト部隊、作戦開始じゃ」
ローゼリアの静かな号令と共に、六機のティルフィングが限界までスラスターを吹かし、デブリ帯へと突入していく。
正面で激しい砲撃戦を繰り広げていた帝国軍の一般パイロットたちは、自陣の横を異常な速度で駆け抜けていく白銀の機影に目を奪われた。
「お、おい見ろ! あの白い機体……噂のテスト部隊だ!」
「速すぎる……! なんだあの姿勢制御は! デブリの間を縫うように……機体が全くブレていないぞ!?」
帝国軍のパイロットたちは、自分たちと同じ軍服(装甲)を着た量産機が、物理法則を無視したような動きで敵陣へ突っ込んでいく姿に、畏怖と同時に強烈な士気の高揚を感じていた。
「俺たちの新しい機体は、あんな動きができるのか……!」
「なら、俺たちだって負けてられない! テスト部隊に続け! 敵の注意を少しでも惹きつけろ!」
正規軍のマギアナイト部隊が、一気に押し上がる。
一方、敵陣の奥深くへ侵入したローゼリアたちは、行く手を阻む反乱軍の機体とアルカードの魔獣を、冷徹なまでに正確な動作で狩り続けていた。
『アルティナ、シエラ。前方から敵の迎撃部隊、数およそ三十』
『了解。火器管制をロックするわ。三秒間だけだけど、敵の動きは止まるわよ』
『電子防壁への干渉、完了』
アルティナとシエラの電子戦により、敵機の動きが一瞬硬直する。
その隙を、ローゼリアとリアンヌの白と白のコンビネーションが容赦なく食い破った。
「……遅い」
ローゼリアのティルフィングが重斬刀を一閃し、前面の二機を両断。
その死角をカバーするように、リアンヌの機体がアサルトライフルによる精密射撃で、続く敵機のメインカメラとスラスターを的確に撃ち抜いていく。
『左舷より魔獣の反応。……ロスヴァイセ、押し込みますわよ』
『ええ。ゴミは一箇所にまとめて燃やします』
エリーゼとロスヴァイセは、連携して魔獣たちを特定の宙域へ追い込むと、背部の魔導砲の斉射で一網打尽に灰に変えた。
六機の白銀の悪魔は、もはや一つの巨大な生き物のように連動し、一切の無駄なく敵の防衛網を内側から崩壊させていく。
「見えたぞ。あれがアルカードの魔獣を操っておる指揮母艦じゃな」
ローゼリアの視線の先、小惑星の影に隠れるように停泊している、禍々しい装甲に覆われた大型艦があった。
「さて、アルカードのネズミども。……帝国の新しい剣の味、たっぷりと味わうが良い」
ローゼリアの真紅の瞳が、獲物を定めた猛禽のように細められた。
白銀の六機は、絶望を撒き散らしながら、敵の心臓部へと一直線に牙を剥いた。




