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追放皇女の異世界戦記  作者: 浅川


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第六幕 第七話:魔改造戦艦『ヘイズ』と、白銀の死神たち

特異点ローゼリアの悪知恵により、戦乙女ヴァルキュリアたちが身分を偽り、帝国軍の量産機で出撃するという前代未聞の作戦が立案されてから、3ヶ月の月日が流れた。

旧帝国派閥の反乱軍と秘密結社アルカードの連合軍が陣取る絶対防衛宙域。

その暗礁宙域の死角に、巨大な影が息を潜めていた。

エーベルヴァイン帝国軍所属、ベヘモス級戦艦『ヘイズ』。

本来は重武装と堅牢な装甲を誇る大型戦艦であるが、エインヘリアルの整備班によってこの3ヶ月間で徹底的な『魔改造』が施されていた。

規格外の大型魔力炉が複数増設され、巡洋艦並みの機動力と、エインヘリアル母艦に匹敵する高度な光学迷彩ステルス機能を獲得した、まさにバケモノのような特務戦艦へと変貌を遂げていたのである。

現在、この戦艦ヘイズに乗り込んでいる『第零独立テスト部隊(偽装した戦乙女たち)』のメンバーは、ローゼリア、リアンヌ、ロスヴァイセ、アルティナ、シエラ、エリーゼの6名である。

「……エインヘリアル母艦との暗号通信、定時連絡完了しました。ランドグリーズ様、オルトリンデ様、ウルスラ様、そしてレガリア様は、予定通り後方宙域のエインヘリアルにて完全待機状態スタンバイを維持しています」

ヘイズのブリッジにて、帝国軍のオペレーター席をちゃっかり占拠したシエラが、淡々と報告を上げる。

「うむ。向こうの留守番部隊は退屈しておるじゃろうが、全員で出撃しては『帝国軍の小規模テスト部隊』という言い訳が苦しくなるからな。今回は妾たち6人で、反乱軍の主力艦隊をまとめて蹂躙してやろうぞ!」

ローゼリアが、作戦卓の前で不敵な笑みを浮かべた。

「ローゼリアがまた無茶な機動をするでしょうから、私たちの電子戦サポートと後方支援は必須ですしね。……まったく、帝国軍の制服というのも、少し肩が凝るわ」

アルティナが、普段の黒い軍服ではなく、帝国軍の白いテストパイロットスーツの襟元を少し窮屈そうに引っ張った。

「ふふっ。でも、お揃いの真っ白なスーツというのも、新鮮で悪くありませんわ。ねえ、ローゼリア様?」

エリーゼが、優雅な所作で微笑む。

「ええ。それに、私たちメイド(支援役)にとっても、このヘイズの設備はなかなかに使い勝手が良いです。いつでも出撃できるよう、皆さんのコンディションは私が完璧に整えておきました」

銀髪のメイド服姿(スーツの上からエプロンを着用している)のロスヴァイセが、温かい紅茶をローゼリアたちに差し出した。

和やかな空気が流れる中、作戦卓の奥から、低く渋い声が響いた。

「——くつろいでもらっているところ悪いが、そろそろブリーフィングを始めさせてもらうぞ、お嬢さん方」

声の主は、戦艦ヘイズの艦長であるロードリックであった。

顔に歴戦の傷跡を持つ、初老の帝国軍人。厳格な雰囲気を纏っているが、その眼差しには確かな知性と、規格外の傭兵たちを受け入れる度量が備わっている。

今回の作戦はあくまで「帝国軍の正規の作戦」として行われるため、書類上の指揮系統において、ローゼリアたち戦乙女は、ロードリック艦長の指揮下に入ることになっている。

「作戦開始時刻まで残り15分。我がヘイズはこのままステルス航行を維持し、反乱軍の絶対防衛ラインのど真ん中へ単艦で切り込む。……目標は、敵旗艦の撃沈および、アルカードが持ち込んだ未知の魔獣部隊の殲滅だ」

ロードリックが、星図に赤いマーカーを引きながら告げる。

「うむ! 敵陣のど真ん中に放り込んでくれるとは、話が早くて助かるぞ艦長!」

ローゼリアが目を輝かせる。

「……だが、だ」

ロードリックは星図から目を離し、ローゼリア、そして近衛であるリアンヌへと視線を向けた。

「俺は長年、帝国軍で艦隊指揮を執ってきた。だからこそ分かる。……貴様らのような銀河最強の猛獣たちを、正規軍の窮屈な戦術マニュアルで縛り付けるのは、愚の骨頂だ」

ロードリックの言葉に、ローゼリアたちがピクリと反応する。

「お前たち戦乙女の本領は、戦場の空気を読み、一瞬の隙を突いて敵陣を食い破る『遊撃』にこそある。俺の艦隊指揮では、お前たちの神速の機動にはコンマ数秒の遅れが生じるだろう」

ロードリックは、艦長としてのプライドよりも、確実な勝利と部下の生存を重んじる、生粋の軍人であった。

「ゆえに、本艦からの命令は『最初の出撃のタイミング』のみとする。——出撃以降のマギアナイト部隊の戦術指揮権は、すべてリアンヌ、お前に移譲する」

「……私に、ですか?」

リアンヌが、少し驚いたように青い瞳を見開いた。

「ああ。特異点ローゼリアの動きを最も理解し、前衛と後衛の連携を掌握できるのは、彼女の絶対防衛メインタンクを務めるお前しかいない。俺はヘイズの操艦と、主砲による砲撃支援に専念させてもらう。……頼めるか、リアンヌ?」

ロードリックの真摯な言葉に、リアンヌはスッと表情を引き締め、帝国軍式の見事な敬礼を返した。

「……承知いたしました、ロードリック艦長。その英断に感謝します。私に指揮を任せていただけるのであれば、我がローゼリアには一切の煩わしい戦術思考をさせず、ただ純粋に『敵を殲滅すること』のみに集中していただきます」

「おおっ! 良いぞロードリック! お主、なかなか話の分かる漢じゃな!」

ローゼリアが嬉しそうにロードリックの肩をバンバンと叩く。(ロードリックは少しむせたが、苦笑してそれを受け入れた)。

「これぞ適材適所じゃ! 妾は小難しい陣形やら索敵やらはアルティナとシエラに任せて、ひたすら目の前の敵をぶった斬る! エリーゼは妾の死角のフォロー、ロスヴァイセは弾幕支援じゃ!」

ローゼリアが意気揚々と声を上げる。

「ええ、お任せくださいませ。雑兵は私がすべて掃除しておきますわ」

「弾幕の展開なら、私の得意分野です。存分に暴れてください、ローゼリア様」

エリーゼとロスヴァイセも、不敵な笑みを浮かべて頷いた。

「……さて。それじゃあ、そろそろ『新しいおもちゃ』のお披露目といくわよ」

アルティナが作戦卓のモニターを切り替えると、戦艦ヘイズの広大な格納庫の映像が映し出された。

そこには、6機の最新量産機『ティルフィング』が、出撃用カタパルトに鎮座していた。

特筆すべきは、そのカラーリングである。

戦乙女ヴァルキュリアの専用機は、本来であればローゼリアの「真紅と漆黒」、リアンヌの「純白」など、各個人のパーソナルカラーに染め上げられている。

しかし、今回の作戦の目的は「帝国軍の量産機による蹂躙」をアピールすること。そのため、格納庫に並ぶ6機のティルフィングはすべて、寸分の狂いもない『白銀』に統一されていた。

装甲の形状も、武装も、カラーリングも、完全に同一。

外見からは、誰がどの機体に乗っているのか、そもそもパイロットがエースなのか一般兵なのかすら、全く見分けがつかない。

「完全なる白銀の統一部隊……。これなら、反乱軍の連中も『ただの量産機』だと油断するわね」

シエラが分析結果を表示しながら言う。

「そして、いざ戦闘が始まれば、その『ただの量産機』があり得ない動きで次々と自分たちをスクラップにしていく……。ふはははっ! 想像しただけで、敵の絶望する顔が目に浮かんで飯が美味いぞ!」

ローゼリアの真紅の瞳が、血に飢えた獣のようにギラリと輝いた。

『——レーダーに反応。反乱軍およびアルカードの護衛艦隊、約40隻を捕捉。……本艦はこれより、戦闘宙域へと突入します』

オペレーターの声が、ブリッジに緊張感をもたらす。

「よし。総員、第一種戦闘配備! 偽装テスト部隊、出撃準備を急げ!」

ロードリック艦長の号令が響く。

「行くぞ、皆の者! 帝国の歴史に、正体不明の白銀の悪魔の伝説を刻み込んでやるのじゃ!」

ローゼリアを先頭に、6人の戦乙女たちは、白銀のティルフィングが待つ格納庫へと一斉に走り出した。

偽りの仮面(量産機)を被りながらも、その中身は紛れもなく銀河最強の死神たち。

女帝フェイトの政治的思惑と、特異点の悪知恵が生み出した最凶の遊撃部隊が、今、反乱軍の喉元へとその白銀の牙を突き立てようとしていた。

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