表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放皇女の異世界戦記  作者: 浅井川亘


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
286/292

第五幕 第十話:戦乙女の帰還と、星の海を駆ける鋼の翼

辺境都市ファルガーの郊外、人里離れた深い森の中。

光学迷彩を解除した小型シャトルが音もなく垂直上昇し、大気圏を突破して、軌道上で待機する巨大母艦エインヘリアルへと帰還した。

「ふぁぁ……。やはり母艦の空気は落ち着くのう。現地のベッドも悪くはないが、空調の効いた部屋が一番じゃ」

シャトルから降り立ったローゼリアは、大きく背伸びをした。

彼女の背後からは、アルティナ、シエラ、レガリア、ランドグリーズの四人が続く。数日間にわたる地上での潜入調査を一旦切り上げ、定期報告と補給のために戻ってきたのだ。

「おかえりなさいませ、お嬢様。皆様もご苦労様でした。すぐに大浴場のお湯と、最高級のダージリンをご用意いたしますわ」

ハンガーデッキでは、優雅な制服にエプロンをつけたロスヴァイセが、完璧な淑女の笑みで出迎えてくれた。

「おおっ! 助かるぞ、ロスヴァイセ! だがその前に、まずは団長のところへ行かねばな。……それと、あやつの機嫌も取っておかんと」

ローゼリアは、手に持っていた可愛らしい紙袋を掲げてみせた。

母艦エインヘリアル、団長室。

「……終わりました。連邦軍の未処理アーカイブ、過去十五年分。及び、当艦の向こう三ヶ月分の弾薬・食料の消費予測シミュレーション。……団長、次を」

「……もう無い。頼むから休んでくれ、リアンヌ。私の執務室の空気が重すぎて息苦しい」

ブリュンヒルデが、デスクに突っ伏して胃薬の瓶を力なく転がしている。

その隣の補助デスクでは、リアンヌが完全にハイライトの消えた瞳で、虚空を見つめながら恐るべき速度でタイピングを続けていた。ローゼリアと引き離された罰ゲーム(書類仕事)のストレスにより、彼女から立ち上るドス黒いオーラは、すでに物理的な冷気となって団長室の気温を五度ほど下げていた。

プシュッ、と自動扉が開く。

「邪魔するぞ、団長。……って、なんじゃこの寒さは!? 冷房が壊れておるのか!?」

ローゼリアが腕をさすりながら入室してきた。

「ああっ……! 我が主、ローゼリア!!」

ローゼリアの姿を認めた瞬間、リアンヌの瞳に星のようなハイライトが戻り、ドス黒いオーラがピンク色の花吹雪へと反転した。

彼女は椅子を蹴立てて立ち上がり、凄まじい速度でローゼリアの足元に滑り込んで膝をついた。

「お帰りなさいませ、我が主! ああ、なんという美しさ……! 現地の粗末な布切れを纏ってなお、その尊さは銀河の星々すら霞ませるほど! お怪我はありませんか!? 野蛮な現地人にその美しい御髪を汚されてはおりませんか!?」

「う、うむ。大丈夫じゃ、リアンヌ。誰も妾に触れられんよ」

ローゼリアは苦笑しながら、リアンヌの頭を撫でた。

「ほれ、これがお土産じゃ。街の市場で売っていた、果実のシロップ漬けと……お主の髪に似合いそうな、銀細工の髪留めじゃ。留守番を頑張ってくれた褒美じゃよ」

ローゼリアが紙袋を差し出すと、リアンヌは震える両手でそれを受け取った。

「お、お土産……。我が主が、このリアンヌのために、自ら街を歩き、品を選んでくださったと……? ああ……あああっ!!」

リアンヌは髪留めを胸に抱きしめ、天を仰いで滂沱の涙を流し始めた。

「一生の宝物にいたします! いえ、私が死んだ後は、この髪留めと共に棺桶に入れてください! 神よ、ローゼリアの慈悲深き愛に感謝を……!!」

「大袈裟じゃな……」

ローゼリアは呆れつつも、悪い気はしないのか得意げに鼻を鳴らす。

「……助かった、ローゼリア。これでようやく胃が休まる」

ブリュンヒルデが、心底ホッとしたように息を吐き出した。

「さて、団長。地上での調査報告ですが」

後から入室してきたレガリアが、扇子を閉じて真剣な表情に切り替わった。

「アルティナとシエラが持ち帰った、王立図書館の歴史文献の解析が終わりました。結論から言うと、この星の歴史——少なくとも過去数百年間の記録の中に、『アルカード』という秘密結社が物理的に介入した形跡は、一切見当たりません」

「介入の形跡がない?」

ブリュンヒルデが眉をひそめる。

「ええ。『深淵の魔神』というおとぎ話の紋章が一致しているだけで、彼ら自身が国家を操ったり、技術を提供したりといった痕跡は皆無です。……考えられる可能性は二つ。一つは、彼らが文字通り『おとぎ話の時代』から完全に歴史の闇に潜伏し続けていること。もう一つは……彼らがこの銀河に干渉し始めたのは、ごく最近のことだという可能性ですわ」

「ふむ……。あやつら、妾の魂がどうとか言っておったが、まだ具体的な動きは見せておらんということか」

ローゼリアが腕を組む。

「いずれにせよ、引き続き学院と街の内側から情報を探るしかないわね」

アルティナが手帳をしまいながら言った。

「私たちの『学生生活』も、まだまだ始まったばかりだしね」

「報告はご苦労だった。……ところでローゼリア。少し、機体を動かしてこい」

ブリュンヒルデが、ホログラムモニターに格納庫の映像を映し出した。

「む? マギアナイトにか?」

「そうだ。お前たち、地上ではずっと生身で活動しているだろう。特にお前は、生身の運動神経が絶望的だからな。機体操縦の感覚を鈍らせないためにも、定期的な慣熟飛行は必要だ。ロスヴァイセも護衛として随伴させろ。この星の軌道上を軽く数周してこい」

「おおっ! 待っておったぞ、その言葉!」

ローゼリアの真紅の瞳が、歓喜に輝いた。

数十分後。

母艦エインヘリアルの巨大なカタパルトデッキ。

漆黒の宇宙空間に向けて、五機のマギアナイトが射出の時を待っていた。

『——システム・オールグリーン。魔力炉、臨界出力。これより軌道上周回コースへの慣熟飛行を開始するのじゃ!』

ローゼリアの弾むような声が、通信回路に響く。

彼女が搭乗するのは、漆黒と真紅の超高性能機『ルシフェル・リベリオン』。

その隣には、アルティナの紫の電子戦機『ハルファス』、シエラの特殊機『アリス・レギオン』、ランドグリーズの無骨な真紅の重装甲機『グリムゲルデ』、そしてロスヴァイセの白銀の重武装機『ヘルムヴィーゲ』が並んでいる。

「エインヘリアル、発進!!」

閃光と共に、五機のマギアナイトが宇宙空間へと飛び出した。

眼下に広がるのは、青と緑に輝く未知の惑星『ルミナス』。

大気圏の境目を掠めるように、五機は編隊を組んで恐るべき速度で駆け抜けていく。

『ふはははっ! 最高じゃ! やはりこの圧倒的なスピードと力こそ、妾の真骨頂!』

ローゼリアは、コックピットの中で歓喜の声を上げた。

生身の時は何もない平坦な地面で転ぶような運動音痴の彼女だが、機体と魔力リンクで接続された瞬間、その欠点は完全に消え失せる。

彼女の思考の速度に合わせて、ルシフェル・リベリオンの各スラスターが精密に火を噴き、まるで自身の四肢を動かすかのように、宇宙空間を縦横無尽に舞い踊る。

『大将、ご機嫌だな! よし、ちょっとしたレースといこうぜ!』

ランドグリーズのグリムゲルデが、巨大な戦斧を背負ったまま、猛烈な推力でローゼリアの横に並びかける。

『望むところじゃ! 負けんぞ!』

ローゼリアの機体が、さらに一段階加速し、赤い彗星のように星の海を切り裂いていく。

『お嬢様、優雅な星空の散歩と参りましょう。航路上の細かいデブリはこちらで対処いたしますわ』

ロスヴァイセのヘルムヴィーゲが、随伴しながら機体を滑らかに旋回させ、周囲の安全を確保する。

『……マスター・ローゼリアの魔力波長、完全に正常値。むしろ、地上にいる時よりも出力が安定しています』

『やっぱりローゼリアは、こうして機体に乗って暴れ回ってるのが一番似合うわね』

後方から追従するシエラとアルティナが、その圧倒的な機動に見惚れるようにつぶやいた。

見知らぬ銀河の、魔法と剣の星の空の上。

そこで束の間の鋼の翼を広げ、星海の風を感じる戦乙女たち。

地上の不自由な肉体を離れ、絶対的な力を存分に振るうこの時間は、特異点たるローゼリアにとって、何よりも代えがたい至福の時であった。

『さあ、存分に羽を伸ばした後は、再び学園での「底辺からの成り上がり」じゃ! 待っておれよ、アルカード! 妾の圧倒的な力で、お主らの企みなど全て粉砕してやるからな!』

ローゼリアの高らかな笑い声が、未知の星空にどこまでも響き渡っていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ