表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放皇女の異世界戦記  作者: 浅井川亘


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
272/292

第四幕 第二十二話:虚空の奇襲と、燃え上がる首都

連邦首都惑星『アルカディア』。

保守派の政治と経済、そして軍事の中枢であるこの星は、美しい緑と青の海に囲まれ、その衛星軌道上には鉄壁の防衛衛星群と連邦軍の主力艦隊が展開していた。

メガロとゴリアテが陥落した今、旧連合国統一派にここを直接叩く戦力など残されているはずがない。誰もがそう信じ、首都にはかりそめの平穏な空気が流れていた。

しかし、その油断こそが、狂気に呑まれた復讐者たちの狙いであった。

「——第一から第四防衛ライン、異常なし。広域魔力センサー、クリア」

軌道上に停泊する連邦軍旗艦『アポロン』のブリッジ。

レオン大佐は、オペレーターからの定期報告を聞きながらも、どこか胸の奥にざわつくような嫌な予感を抱えていた。

数日前、エインヘリアルの電子戦担当であるアルティナとシエラから、「暗礁宙域の奥深くで、旧帝国の規格に合致する未知の魔力波長が極大化している」という警告を受けていたからだ。

レオンは即座に索敵部隊を派遣したが、暗礁宙域のデブリと強力な磁気嵐に阻まれ、有意義な情報は得られていなかった。

「(……まさか、統一派の残党が旧帝国の遺産を掘り当てたというのか? だが、そうだとしても、あの鉄壁の首都防衛網を突破することなど……)」

レオンが顎に手を当てて思考を巡らせた、その時である。

『——警告! 警告!! 首都惑星の第一衛星軌道上、空間座標X−12からY−45にかけて、超大規模な時空の歪み(ディストーション)を探知!!』

「なんだと!?」

オペレーターの悲鳴に、レオンは弾かれたようにメインモニターを見上げた。

宇宙空間に、突如として赤黒い稲妻が走り、巨大なブラックホールのような『空間の裂け目』が口を開けた。

旧帝国のオーバーテクノロジー——戦略兵器『虚空のバベル』による、空間座標の強制転移ワープ現象である。

『ま、魔力波長、解析完了! 旧連合国統一派の残存艦隊です! 数、およそ三百! さ、さらに……!!』

空間の裂け目から、ボロボロの巡洋艦や駆逐艦が次々と吐き出されるように現れる。

そして、その艦隊の先頭を切り裂くように、四つの強烈な魔力波長を放つ機体がアルカディアの空へと躍り出た。

「——ははははははッ!! 見ろ、この無防備な首都の姿を! 貴様らの腐った平和など、このナーシェン様がすべて蹂躙してやろう!!」

通信回線に狂気的な哄笑が響き渡る。

先陣を切ったのは、漆黒と真紅の禍々しいキメラ装甲に身を包んだナーシェンの愛機『ブラッド・ローズ改』であった。

旧帝国の規格外パーツを無理やり継ぎ接ぎされたその機体は、設計の限界を超えた異常な出力でスラスターを吹かし、連邦軍の防衛艦隊の真っ只中へと突撃した。

「迎撃しろ! 砲門を開け!!」

レオンが叫ぶが、アポロンのシステムはエラー音を鳴らし続けていた。

『だ、ダメです! 敵の背後にある裂け目から、超広域のジャミング電波が放射されています! レーダーと照準システムが完全に麻痺! 防衛衛星のコントロールも効きません!!』

「バベルのジャミングか……! くそっ、各艦、光学照準に切り替えろ! 肉眼で敵を捉えろ!!」

だが、混乱に陥った連邦軍の動きは致命的に遅かった。

ブラッド・ローズ改のビーム・レイピアが、無防備な連邦軍巡洋艦のブリッジを次々と串刺しにしていく。

さらに、その混乱に拍車をかけるように、紫の閃光が戦場を駆け抜けた。

「ふふっ……あははっ! もろい、もろいわね! 連邦のエリートども、せいぜい美しい悲鳴を聞かせてちょうだい!」

リーシュの駆る双剣機『アサシン・クロウ』が、デブリの陰から死角を突いて急接近し、連邦のマギアナイト部隊を背後から冷酷に切り刻む。

「無駄だ。お前たちの防衛陣形は、すでに計算済み(チェックメイト)だ」

後方からは、ラムレイの重火力支援機『グラン・ファントム』が、ジャミング下でも正確無比な予測射撃を放ち、連邦軍の指揮系統を担う通信艦を的確に爆散させていった。

そして——。

「見ろ! これが主人公の力だ! 俺を追放した無能どもよ、今こそ俺の前にひれ伏す時だ!!」

誰よりも高く、誰よりも目立つ軌道で首都の空を舞う一機の機体があった。

連邦軍から強奪された最新鋭機『ゼニス』。それを駆る勘違い転生者、カナタである。

「俺は特別な存在だ! この世界は俺のためにある! リアンヌ、見てるか!? お前が俺を選ばなかったことを、今この瞬間、骨の髄まで後悔させてやる!!」

カナタは外部スピーカーで意味不明な妄言を撒き散らしながら、ゼニスのミサイルポッドを全弾発射し、眼下の連邦軍施設へと絨毯爆撃を仕掛けた。

彼の中では、この非道な奇襲も「ダークヒーローとしての劇的な凱旋イベント」に過ぎないのだ。

「カナタ……貴様ァァァッ!!」

レオン大佐は、己の愛機である白銀のマギアナイト『アガートラム』に飛び乗り、カタパルトから射出された。

「自分の勝手な妄想で軍を抜け出し……あまつさえ、民間人の暮らす首都に銃爪を引くか! 貴様は絶対に超えてはならない一線を越えたぞ!!」

レオンの怒りに呼応するように、アガートラムのビームライフルがゼニスを狙い撃つ。

しかし、カナタのゼニスは最新鋭の機体性能に物を言わせ、不規則な軌道でそれを回避した。

「ははっ、遅いぜレオン! お前みたいな中盤の負け犬キャラが、覚醒した俺に勝てるわけがないだろ! ここで大人しく俺の経験値(踏み台)になれ!」

カナタのゼニスと、レオンのアガートラムが火花を散らして交差する。

しかし、状況は連邦軍にとって圧倒的に不利であった。

バベルの強力なジャミングにより連携を断たれ、首都の防衛シールドは内側から無効化されている。さらに、ナーシェンたち三人のエース機による容赦のない蹂躙が、連邦軍の防衛ラインを次々と食い破っていた。

「くくっ! 脆い! 脆すぎるぞ連邦軍! さあ、このまま議事堂を吹き飛ばし、このアルカディアを血の海に変えてやろう!!」

ナーシェンが狂気に満ちた笑いを上げながら、首都の地表——白亜の連邦議事堂へ向けて機体を急降下させる。

「(……くそっ! このままでは首都が落ちる!)」

レオンが血を吐くような思いで操縦桿を握り締めた、その時である。

『——レオン大佐。随分と派手な花火を打ち上げられているようですわね。合同演習の予定など、聞いておりませんことよ?』

ノイズにまみれていたはずの通信回線に、突如として、鈴を転がすような優雅な淑女の声がクリアに響き渡った。

「こ、この声は……ロスヴァイセ殿!?」

『ええ。……まったく、休日の昼下がりだというのに、騒々しい野良犬のせいで我が主のティータイムが台無しになってしまいました。エインヘリアル、これより害獣駆除の業務に介入いたします』

直後。

首都惑星の上空を覆っていた『バベル』による赤黒いジャミングの魔力波長が、まるでガラスが割れるように、パツンという音を立てて空間ごと弾け飛んだ。

「な、なんだと!? ジャミングが消えた!?」

ラムレイがコックピットで驚愕の声を上げる。

『……旧帝国の暗号化プロトコル、解析完了。ジャミングの位相を逆転させ、無効化しました』

『ふふん! 所詮は何百年も前の骨董品システムじゃない。私とシエラのハッキングにかかれば、開始十秒で丸裸よ!』

エインヘリアルの電子戦コンビ、シエラとアルティナの冷ややかな声が、戦場全体に響き渡る。

「馬鹿な……!? 俺の隠しイベントの最強兵器が、こんなあっさりと……!?」

カナタがゼニスのモニターを呆然と見つめる中、首都の上空、雲を切り裂いて巨大な影が姿を現した。

エインヘリアルの母艦。

そしてそのカタパルトから、銀河最強の戦乙女たちが、流星のごとき光を引いて戦場へと舞い降りてきたのである。

「……まったく。どこの世界に、休日の昼下がり、せっかくの寛ぎの時間に出撃命令を出されて喜ぶ人間がおるというのじゃ」

通信回路に響いたのは、果てしなく深い呆れと、それを上回る『マグマのような怒り』を孕んだ少女の声であった。

「な……!?」

ナーシェンとカナタが同時に空を見上げる。

そこには、赤黒く染まった戦場の空を完全に支配するような、漆黒の機体——『ルシフェル・リベリオン』が、八枚のスラスターから真紅の魔力光を翼のように広げて滞空していた。

「ろ、ローゼリア……! 生意気なモブ女が、なぜここにいる!?」

カナタが叫ぶ。

「シナリオでは、連邦議会とエインヘリアルは決裂して、お前たちはこの星を見捨てるはずだろ!!」

「シナリオ? フラグだと?」

ローゼリアのルシフェル・リベリオンが、すっと右腕のビーム・ブレードを展開する。

その刃から放たれる熱量は、周囲の空間を歪ませるほどに高まっていた。

「……そんな寝言は、三途の川の底で魚にでも語るのじゃな。妾は今、最高に機嫌が悪いんじゃ」

ローゼリアの脳裏には、出撃命令のサイレンが鳴り響いた瞬間、驚いて手からティーカップを落とし、楽しみにしていた特製ケーキが床に散らばったあの絶望の光景が焼き付いていた。

「妾の貴重な休日と、至福のティータイムを台無しにした罪……万死に値するのじゃあああああッ!!」

ズガァァァァンッ!!

ルシフェル・リベリオンが、音速を遥かに超える爆発的な加速で空気を蹴り裂き、一瞬にしてカナタのゼニスの眼前へと肉薄した。

「なっ、速ッ……!?」

カナタが迎撃のトリガーを引くより早く、漆黒の死神の蹴りがゼニスの装甲に深々とめり込み、その巨体をピンボールのように宇宙空間へ向けて蹴り飛ばした。

「がはぁぁぁっ!?」

最新鋭機の衝撃吸収システムすら貫通する凄まじい衝撃に、カナタはコックピットで血を吐いた。

「カナタ!! 貴様、足止めすらできんのか!!」

ナーシェンが激昂し、ブラッド・ローズ改のビーム・レイピアを構えてローゼリアへと突進する。

「おのれ死神ぃぃっ! その首、今度こそこのナーシェンが!!」

「うるさいのじゃ、没落貴族! お主の相手は妾ではない!」

ローゼリアが空中で機体を反転させると同時に、彼女の背後から純白の光の壁が展開された。

——ガキィィィィンッ!!

ナーシェンの渾身の突きは、ローゼリアに届く前に、空中に突如として現れた純白の機体『ブラン』の巨大な魔力防壁に阻まれ、火花を散らして弾き返された。

「我が主に……ローゼリアに、その汚らわしい剣を向けるなァァァッ!!」

ブランのコックピットで、リアンヌが目から一切の光を消し去った夜叉の形相で絶叫する。

「私と我が主との甘いティータイムを邪魔し、あまつさえローゼリアが楽しみにしていたケーキを床に落とさせた大罪……! 貴様らの魂は、この絶対防壁ですり潰し、宇宙の塵一つ残さず消滅させてやります!!」

「な、なんだこの異常な魔力出力は……!? メガロの時より遥かに硬いぞ!?」

ナーシェンは、愛機の全出力を乗せた一撃が傷一つつけられないことに戦慄した。

無理もない。今のリアンヌは、「ローゼリアの休日を邪魔された」という事実により、普段の数百倍の怒りと過保護モード(バフ)が発動しているのだ。

「ガハハハッ! 連邦の坊主の言う通り、こいつら完全に内輪揉めしてるぜ!」

通信回線にランドグリーズの豪快な笑い声が響く。

「だけどよぉ、私たちの内輪揉め(イチャイチャ)に水を差す奴は、問答無用で叩き斬るのがエインヘリアルの流儀だ!!」

ランドグリーズの『グリムゲルデ』が巨大な戦斧を振り下ろし、ラムレイのグラン・ファントムの砲身を易々と叩き割る。

「チィッ! 馬鹿な力だ!」ラムレイが舌打ちをして後退する。

「あらあら。双剣の使い手とは珍しい。ですが、少し剣筋が粗暴ですわね」

「すました女ね! 切り刻んであげるわ!」

ロスヴァイセの『ヘルムヴィーゲ』とリーシュの『アサシン・クロウ』もまた、激しい火花を散らして交戦を開始した。

「さあ、お主ら! 連邦の艦隊は下がっておれ! ここからはエインヘリアルの……妾の八つ当たりの時間じゃ!!」

ローゼリアは、再び八枚のスラスターを限界まで吹かし、首都の上空を暴れ回る。

「ヒィィッ! ま、待て! タイム! 俺は主人公なんだぞ! ここでこんなモブに負けるわけには……!」

姿勢制御すらままならないカナタのゼニスに、ローゼリアのビーム・ブレードが容赦なく襲い掛かる。

「だからモブではないと言うておるじゃろ! 妾は銀河最強の死神じゃああああッ!」

勘違い転生者と復讐鬼の泥舟同盟。

彼らが自信満々に用意した「ゲームの隠しイベント」は、休日とケーキを奪われて本気でキレた特異点ローゼリアと、その主を溺愛する重すぎる戦乙女たちの暴力の前に、文字通り木端微塵に粉砕されようとしていた。

連邦首都アルカディアの空に、絶望の叫びと、優雅な蹂躙の舞いが繰り広げられていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ