第四幕 第二十一話:泥舟の四将と、狂気の作戦会議
暗礁宙域の最深部。
いかなる星間国家のレーダーも及ばない絶対の死角に、数百年前に打ち捨てられたはずの『旧帝国の前哨基地』が静かに息を潜めていた。
その基地の薄暗いメインコントロールルームの円卓を囲むように、四つの影が座している。
要塞惑星メガロの陥落により散り散りになった旧連合国統一派の残党をかき集め、復讐の炎を燃やす四人のエースパイロットたちであった。
「——だから言っただろう? 俺の記憶(知識)通りに動けば、こんな簡単に旧帝国の遺産であるこの基地と、隠された『兵器』が手に入るってな」
円卓のふんぞり返るように座り、得意げに鼻を鳴らすのは、連邦軍から脱走した勘違い転生者・カナタである。
彼が「ゲームの中盤イベント」と信じて疑わない隠し座標の記憶は、確かに実在した。統一派の上層部ですら見つけられなかった旧帝国の軍事施設をピンポイントで掘り当てたことで、現在、彼はこの残党グループの中で奇妙な発言権を得ていた。
「ふん。連邦軍の元少尉殿が、随分と偉そうに仕切るじゃないか。その気になれば、あんたの首を刎ねてその『ゼニス』ごと私が乗っ取ってもいいんだよ?」
カナタを冷たい目で睨みつけたのは、露出の多いパイロットスーツに身を包んだ、紫の髪の女——リーシュである。
統一派の暗殺・特務部隊を率いていたエースであり、サディスティックな性格と、超高機動の双剣機『アサシン・クロウ』を駆ることで知られる危険人物だ。
「よせ、リーシュ。彼の提供した情報が本物であったことは、紛れもない事実だ。我々が連邦国——保守派の連中に一矢報いるためには、彼の『予知能力』とやらを利用しない手はないだろう」
リーシュをなだめたのは、軍服をきっちりと着込み、片眼鏡を光らせる銀髪の男——ラムレイ。
統一派の知将と謳われた戦術家であり、重火力支援機『グラン・ファントム』を操る男だ。彼はカナタの「ゲーム脳」からくる意味不明な発言を「特殊な予知能力による暗号」だと解釈し、冷徹に利用価値を値踏みしていた。
「その通りだ。私は誰の作戦だろうと構わん。私に屈辱を与えた連邦の豚どもと、エインヘリアルの女どもをこの手で八つ裂きにできるのであればな!!」
最後に、円卓をガンッと拳で叩いて立ち上がったのは、復讐鬼と化した没落貴族、ナーシェンである。
彼の愛機『ブラッド・ローズ』は、この基地に残されていた旧帝国の規格外パーツを無理やり組み込まれ、禍々しい漆黒と真紅のキメラ機体として蘇っていた。その暴力的な強化は、彼の肥大化したプライドをさらに狂気的なものへと歪ませていた。
ナーシェン、カナタ、リーシュ、ラムレイ。
かつてなら決して交わることのなかった四人のエースパイロットが、今ここに「対保守派(連邦国)」という共通の敵の元に集結していた。
「まあ落ち着けよ、お前ら」
カナタは、自分を「四天王を束ねる闇の主人公」だと完全に信じ切った態度で、ホログラムテーブルに星図を展開した。
「俺の頭の中にあるメインシナリオによれば、今頃、連邦の議会はエインヘリアルを自分たちの管理下に置こうとして揉めているはずだ。あの誇り高い(という設定の)傭兵たちが、連邦の犬になるわけがない。つまり、連邦軍とエインヘリアルの間には確実に亀裂が走っている」
カナタの推測は、ある意味では当たっていた。連邦議会がローゼリアたちを管理しようとしたのは事実だ。
(もっとも、その直後にローゼリアとリアンヌの圧倒的な威圧によって議会が完全沈黙し、亀裂どころか連邦側が一方的に平伏する形になったことなど、彼は知る由もないが)
「……ほう。内輪揉めか。ならば、保守派の防衛網の連携が乱れている今が好機というわけだな」
ラムレイが顎に手を当てて頷く。
「そういうことだ。そして、俺たちが見つけたこの旧帝国の基地には、強力な『切り札』がある」
カナタはコンソールを操作し、基地の最下層に眠る巨大なシルエットをモニターに映し出した。
「旧帝国が開発した、超広域ジャミングと空間座標の強制転移を可能にする戦略兵器……『虚空の塔』だ。これを使えば、連邦首都の防衛シールドを無効化した上で、俺たちの部隊を首都の中心へ直接ワープさせることができる!」
「なんだと!? そんな馬鹿げた技術が、この基地に残されているというのか!」
ラムレイが驚愕に目を見開く。
「ああ、俺が主人公……じゃなくて、俺の『予知』が正しければ、必ず起動できる。……作戦はこうだ」
カナタは星図上の連邦首都を指差した。
「『バベル』の力で、俺たち四人のエース機と残存部隊を一気に連邦議事堂の上空へ転移させる。防衛網を完全に無視した首都へのダイレクトアタックだ。エインヘリアルの連中が駆けつける頃には、連邦の中枢は火の海。俺たちがこの銀河の新たな覇者として君臨するってわけだ!」
カナタの口から語られる作戦は、奇襲としてはこれ以上ないほど凶悪なものであった。
物理的な距離と防衛線をすべて無視し、敵の心臓部へ刃を突き立てる。旧帝国のオーバーテクノロジーがあって初めて成立する、まさに「ゲームのイベント」のような盤面のひっくり返し方である。
「くくっ……はははははっ! 素晴らしい! それなら連邦の無能どもが絶望に顔を歪める様を、特等席で拝めるというわけだな!」
ナーシェンが真紅の瞳を血走らせ、狂喜の笑い声を上げた。
「……ふん。連邦のぬるま湯に浸かった連中を切り刻めるなら、乗ってやってもいいよ。血祭りの準備はできてる」
リーシュもまた、舌なめずりをして双剣の柄を撫でた。
「戦略としても理にかなっている。連邦の中枢を物理的に破壊し、指揮系統を麻痺させれば、戦局は一気に我々に傾く。……カナタ殿、貴殿の手腕、見事と言わざるを得ない」
ラムレイが、カナタに対して恭しく頭を下げた。
「ははっ、当然だ。俺はこの世界を導く特別な存在なんだからな」
カナタは、三人の反応に絶頂にも似た優越感を感じていた。
(決まった……! ダークヒーロールートの四天王結成イベント、完璧にクリアだ! これで俺のステータスと勢力は最強になった。待ってろよ、俺をコケにした連邦の奴ら、そしてリアンヌたちエインヘリアルの女ども……! 必ず俺の前にひれ伏させてやる!)
——こうして。
勘違いをこじらせた転生者を中心に、残虐な暗殺者、冷徹な戦術家、そして狂気の没落貴族という、およそまともな連携など取れそうにない「泥舟の四将」が結託した。
彼らは旧帝国の兵器『バベル』を再起動し、連邦首都への大規模な奇襲作戦の準備を急ピッチで進め始めた。
自分たちの背後に、エインヘリアルの電子戦のスペシャリスト(アルティナとシエラ)が張り巡らせた「異常魔力検知の監視網」がとっくに反応していることなど、知る由もなかった。
「四天王」対「特異点」。
噛み合わないまま暴走を続けるカナタのシナリオは、ローゼリアという圧倒的な現実の前に、いよいよ最終的な破滅の時を迎えようとしていた。




