第二十七話:閃光の特攻と、帰るべき場所
「おおおおおおおおっ!!」
『はあああああああっ!!』
漆黒と純白、二つの機体が極限まで寄り添い、宇宙空間にただ一本の眩い「光の矢」となって突き進む。
ノワールから供給されるローゼリアの全魔力が、スローネの構える突撃重槍の先端に集束し、空間そのものを削り取るような黄金の刃を形成していた。
「な、なんだあの光は!? 止めろ! 撃ち落とせェッ!」
ガルムのマギアナイト部隊が、恐れをなしてビームを乱れ撃つ。
しかし、無駄だった。
魔力の刃を纏ったスローネとノワールの突進力は、もはや防御や回避といった次元を超越していた。正面から立ち塞がる敵機は、黄金の光に触れた瞬間にバターのように溶断され、あるいは圧倒的な推進力の余波だけで吹き飛ばされていく。
『ローゼリア! 目標、敵旗艦のブリッジ!』
「うむ! 貫けェェェッ、リアンヌ!!」
ガルムの旗艦のメインモニターに、死の光が急速に拡大していく。
第二首レゲスは、咥えていた葉巻を床に落とし、脂汗をダラダラと流しながら絶叫した。
「ば、馬鹿な! 我々ガルムの最新鋭艦のシールドが……たった二機のボロボロの小娘どもにィィッ!?」
「シ、シールド臨界! 突破されます!!」
オペレーターの悲鳴が、レゲスの最期の記憶となった。
ズガァァァァァァァァァァンッ!!!!
黄金の槍が、旗艦の対魔力シールドをガラスのように粉砕し、そのまま重厚な装甲ごとブリッジを真っ二つに貫いた。
内部の誘爆が連鎖し、巨大なガルムの旗艦は、断末魔の爆発とともに宇宙空間に巨大な火球を咲かせた。
『——第二首の旗艦、轟沈を確認!』
エインヘリアルのブリッジで、オルトリンデの冷静な報告が響き渡る。
それを聞いたブリュンヒルデ団長が、獰猛な笑みを浮かべて全軍に号令をかけた。
「よくやった、ウチの双璧! さあ、親玉を失った烏合の衆に、傭兵の恐ろしさを骨の髄まで教えてやれ! 全機、残敵を掃討しろ!!」
『『『おおおおおおっ!!!』』』
ランドグリーズやロスヴァイセたち戦乙女の編隊が、指揮系統を失ってパニックに陥るガルムの残存艦隊へと雪崩れ込む。
もはや、それは戦闘ではなく一方的な『お掃除』であった。
だが、その華麗な逆転劇の中心にいた二機は、限界をとうに超えていた。
『ピーッ! ピーッ! 魔力炉心、完全停止。全システム、シャットダウンへ移行します』
『推進剤、残量ゼロ。姿勢制御スラスター、機能停止』
無機質なシステム音声が響く中、漆黒のノワールと純白のスローネは、互いの機体を支え合うようにしてもつれ合いながら、エインヘリアルの開かれた格納庫ハッチへと向かって落下していく。
「り、リアンヌ……っ、届くか……!?」
『大丈夫です……! 慣性制御だけは、ギリギリ残っています……!』
ローゼリアの視界は、すでに疲労と魔力枯渇で明滅していた。指一本動かす力すら残っていない。
『お姫様! リアンヌ! そのまま突っ込んでこい! キャッチ用のアームとワイヤーを展開した、私が絶対に受け止めてやる!』
通信機から、フィーネの張り裂けんばかりの声が響く。
ズザァァァァァァァァァァァァッ!!!
エインヘリアルの着艦デッキに、二機が猛烈な勢いで滑り込んだ。
火花が散り、激しい摩擦音が格納庫内に響き渡る。フィーネの操作する緊急用のワイヤーが機体に絡みつき、ギリギリのところで壁への激突を免れた。
ガクンッ、と大きな衝撃が走り、二機は完全に停止した。
「……はぁ……はぁ……」
コックピットの中で、ローゼリアは荒い息を吐きながら、重い瞼をこじ開けた。
非常用の赤いランプだけが点滅する、薄暗い空間。
機体のハッチのロックを強制解除し、よろよろと外へ這い出る。
「り、リアンヌ……」
デッキに降り立った瞬間、疲労困憊のローゼリアの足から完全に力が抜け、その場に崩れ落ちそうになった。
「——危ない」
だが、冷たい床に叩きつけられるよりも早く、温かく力強い腕が、ローゼリアの小さな身体をしっかりと抱きとめた。
「ローゼリア。……よく、頑張りましたね」
顔を上げると、そこには同じようにパイロットスーツを煤で汚し、息を弾ませたリアンヌの顔があった。
髪は乱れ、頬にはかすり傷ができている。それでも、ローゼリアを見るその碧眼は、宇宙のどの宝石よりも優しく、そして愛おしさに満ちていた。
「り、リアンヌ……お主こそ、無事じゃったか……」
「ええ。あなたの魔法が、私を守ってくれましたから」
(ああ……ダメだ。やっぱりこの匂い、この体温……安心しすぎて、涙が出てくる……)
ローゼリアは、もう強がる余裕すらなく、リアンヌの胸に顔を埋めてギュッとその身体にしがみついた。
「……怖かったんじゃぞ。お主の盾が砕けた時……もし、お主が死んでしまったらと……」
「ごめんなさい、心配をかけましたね。でも、言ったでしょう。あなたとの明日があるから、私は絶対に死なないと」
リアンヌは、自身の胸で泣きじゃくるローゼリアの金髪を、優しく、何度も撫でた。
「お二人さん、生きてるかい!」
タラップを駆け下りてきたフィーネが、ボロボロになった二機を見て頭を抱えた。
「ひゃー、見事にボロボロだな! 修理にどれだけかかるか分かったもんじゃないぜ……。でもまぁ、生きて帰ってきてくれたから百点満点だ!」
格納庫に集まってきた他の整備員たちからも、割れんばかりの拍手と歓声が湧き上がる。
「ふ、ふん……当然じゃ。妾たちを誰だと思っておる……」
ローゼリアは、リアンヌの腕の中で顔を真っ赤にしながら、どうにか尊大な皇女の口調を取り繕おうとしたが、その声はふにゃふにゃで全く威厳がなかった。
「さあ、医務室へ行きましょう。あなたも私も、少し無茶をしすぎました」
リアンヌは、ローゼリアを抱き上げたまま——当然のように、流れるような動作でお姫様抱っこへと移行した。
「わ、わっ!? ば、馬鹿者、人前で恥ずかしい……自分で歩けるわ!」
「駄目です。足が震えているではありませんか。……それに、今日は私がこうしたいのです」
少しだけ強引な、けれどどこまでも甘いリアンヌの言葉。
周囲の整備員たちが「ヒューッ!」「副団長イケメン!」と冷やかしの口笛を吹く中、ローゼリアの顔は茹でダコのように真っ赤に沸騰した。
(————ッッッ!! もう! 本当にこの人は!! 限界突破の戦闘の後で、心臓の限界突破までさせないと気が済まないのか!!)
「……好きに、せい」
ローゼリアは真っ赤な顔をリアンヌの胸元に隠し、ギュッとその首に腕を回した。
かくして。
巨大マフィア『ガルム』の第二の首は打ち取られ、連合国の崩壊は間一髪で阻止された。
残るは、各地の勢力を攻撃している第三の首『ラライア』のみ。
しかし今は。
満身創痍の黒き死神と白銀の騎士にとって、互いの体温を感じながらまどろむ、この甘く平和な時間こそが、戦いの後の何よりの『極上の配当』なのであった。




