第四幕 第十四話:二つの要塞陥落と、束の間の祝勝会
シエラによる完璧なシステム掌握と、ローゼリアたち主攻部隊による圧倒的な蹂躙。
自らの防衛網に牙を剥かれ、大混乱に陥った要塞惑星メガロの制圧は、もはや戦闘と呼ぶのも烏滸がましいほどのワンサイドゲームであった。
「……抵抗は無意味じゃ。大人しく武装を解除し、妾たちの前にひれ伏すのじゃ!」
メガロの地表、破壊された司令部の前に降り立った漆黒の機体『ルシフェル・リベリオン』。
その外部スピーカーから響き渡るローゼリアの威風堂々たる宣言に、戦意を完全に喪失した旧連合国統一派の兵士たちは、次々と武器を捨てて両手を挙げた。
「(……ふぅ。よしよし、これで全拠点制圧完了じゃ。さっさと帰って、お風呂に入ってゲームの続きをやりたいのじゃ……)」
表向きは銀河の覇者のごとき威厳を放ちながら、ローゼリアの内心はすでに「帰還後のダラダラとした休日」へと向いていた。
時を同じくして。
メガロから数光年離れた宙域にある、統一派のもう一つの重要拠点——要塞都市『ゴリアテ』。
「——第一、第三大隊はそのまま都市の中枢を制圧! 残存部隊の武装解除を急げ!」
連邦軍の若きエース、レオンの力強い号令が、旗艦『アポロン』のブリッジに響き渡っていた。
ローゼリアたちがメガロで暴れ回っていた裏で、連邦軍もまた別働隊として大規模な軍事作戦を展開していたのだ。メガロへの援軍を絶ち、統一派の戦力を完全に分断するための同時制圧作戦である。
「レオン大佐! ゴリアテ守備隊、白旗を掲げました! 本星系の完全制圧を確認!」
オペレーターが歓喜の声を上げる。
「よしっ……! 各部隊、直ちに降下して都市の治安維持と防衛配置につけ。民間人への被害は最小限に留めるんだぞ」
レオンがホッと息を吐き出し、額の汗を拭ったその時である。
「大佐! エインヘリアルより入電です。……要塞惑星メガロ、陥落! 現在、ローゼリア殿たちが現地を制圧し、待機中とのことです!」
その報告に、アポロンのブリッジがどよめいた。
「あの鉄壁のメガロを、エインヘリアル単独で落としたというのか……!? いくらシステムをハッキングしたとはいえ、早すぎる!」
連邦軍の士官たちが驚愕の声を上げる中、レオンはフッと誇らしげな笑みを浮かべた。
「……さすがはローゼリア殿だ。記憶が戻り、かつての威厳と新たな戦術眼を統合させた彼女たちを止めることなど、この銀河の誰にもできないだろう」
レオンは居住まいを正し、力強く指示を出した。
「ただちにメガロへ連邦の駐留部隊を派遣し、防衛を引き継げ。傭兵である彼女たちに、いつまでも占領地の警備をさせるわけにはいかない。……防衛部隊の配置が完了次第、アポロンはメガロ宙域へ向かい、エインヘリアルと合流する!」
数日後。
それぞれの惑星と都市に連邦軍の防衛部隊を配置し終えた両陣営は、安全な中立宙域にて無事に合流を果たしていた。
エインヘリアルの母艦に接舷したアポロンから、レオンが数名の護衛を連れて乗り込んでくる。
案内されたのは、エインヘリアルの広々としたラウンジだった。
「ブリュンヒルデ団長、そしてローゼリア殿。この度のメガロ攻略作戦、実に見事な手腕でした。連邦軍を代表して、心より感……謝……」
ビシッと完璧な敬礼でラウンジに入ったレオンだったが、目の前に広がる光景を見て、その言葉は途中で完全にフリーズした。
「あーん、ですわ! お姉様、私の愛と真心を込めた特製オムライス、冷めないうちにどうぞ!」
「うむ……あ、あーん……。ん、美味いのじゃ……」
ラウンジの中央の巨大なソファ。
そこでローゼリアは、完全に脱力した格好でクッションに埋もれ、満面の笑みを浮かべたエリーゼから、スプーンで直接オムライスを口に運ばれていた。
「我が主、ローゼリア。食後のお茶はこちらにご用意しております。メガロでの連戦、本当にお疲れ様でございました。どうか今日は、私の膝の上で思う存分お休みください」
さらに反対側では、純白の騎士服を着たリアンヌが、極上の笑みでローゼリアの頭を優しく撫で、自分の太もも(膝枕)へと誘導している。
「う、うむ……リアンヌの膝は相変わらず極上の柔らかさなのじゃ……ふぁぁ……」
戦場で見せたあの圧倒的な威厳と恐怖の「死神」はどこへやら。
そこには、重すぎる愛を持つ戦乙女たちに全方位から甘やかされ、あっさりと陥落して骨抜きにされている「チョロい美少女」の姿があった。
「あ、あの……ローゼリア殿……?」
レオンが呆然と声をかけると、ローゼリアはビクッと肩を震わせ、慌ててリアンヌの膝から飛び起きた。
「れ、レオン! こ、これは違うのじゃ! その、激しい戦闘の後で、カロリー摂取と休息の効率化を図っていただけであって……決して妾が甘やかされていたわけでは……!」
口元にケチャップをつけたまま必死に言い訳をするローゼリアの姿に、レオンは思わず吹き出しそうになるのを必死に堪えた。
「(……なんて無防備なお方だ。戦場ではあんなにも恐ろしく気高いというのに、仲間たちの前ではこんなにも可愛らしい表情を見せるなんて。……これでは、戦乙女たちが過保護になるのも無理はない)」
レオンの胸の内に、連邦の将校としての理性とは別の、何か危険な保護欲のようなものが芽生えかける。
だが、彼は咳払いを一つして、軍人としての表情を取り戻した。
「も、もちろんです。大変な激戦でしたから、ゆっくり休まれるのが一番です。我々連邦軍も、あなた方のおかげで無事にゴリアテを制圧し、被害を最小限に抑えることができました」
「ふむ。レオン、お主らもよくやったのじゃ。これで統一派の主要な拠点は二つとも崩れ落ちた。連中も、しばらくは身動きが取れなくなるじゃろう」
ローゼリアが、メイド姿のロスヴァイセからスッと差し出されたナプキンで口元を拭き、ようやく「銀河最強の死神」らしい威厳を取り戻して頷いた。
「はい。保守派も先の戦闘で大きな痛手を負っています。これで旧連合国宙域の武力抗争は、一度小康状態に入るでしょう。……すべては、あなた方のおかげです」
レオンが深く頭を下げると、窓際に立っていたブリュンヒルデが腕を組んで口を挟んだ。
「油断は禁物だぞ、レオン。追い詰められたネズミほど何をするか分からん。特に、あのメガロで取り逃がした『ブラッド・ローズ』のパイロット……ナーシェンとかいう男は、異常なまでの執念とプライドを持っていたからな」
その言葉に、ローゼリアも真剣な表情になって同意する。
「うむ。妾の機体にはかすりもしなかったが、あの執念深さは厄介じゃ。……まあ、次にかかってきても、再び返り討ちにしてやるだけじゃがな!」
自信満々に胸を張るローゼリア。
その頼もしい姿に、レオンは眩しいものを見るように目を細めた。
「ええ。あなたがいれば、この銀河はきっと平和な道へと進むことができる。……これからも、どうかよろしくお願いいたします、ローゼリア殿」
「任せておくのじゃ!」
二つの要塞が陥落し、一つの大きな作戦が終わった。
戦士たちに訪れた束の間の休息。
エインヘリアルのラウンジには、戦乙女たちの賑やかな笑い声と、彼女たちに溺愛されて照れ隠しに声を荒らげるローゼリアの、平和で温かい声が響き続けていた。




