表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放皇女の異世界戦記  作者: 浅井川亘


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
261/288

第四幕 第十一話:堕ちた貴族の執念と、要塞惑星の迎撃

旧連合国統一派の最大拠点である要塞惑星『メガロ』。

その衛星軌道上に展開する防衛艦隊の旗艦、最前列のカタパルトデッキにて、一機の豪奢な装飾が施された真紅のマギアナイトが待機していた。

メガロ防衛隊のエースパイロット専用機『ブラッド・ローズ』。

そして、そのコックピットの中で不機嫌そうに舌打ちをしている金髪の青年こそが、防衛隊の要であり、同時に軍上層部にとって最も頭の痛い存在——ナーシェンであった。

「……忌々しい。なぜこの私が、このような薄汚い最前線で、下賤な兵の真似事などせねばならんのだ」

ナーシェンは、オーダーメイドの高級なパイロットスーツに身を包みながら、ギリッと奥歯を噛み締めた。

その端正な顔立ちは、深く暗い憎悪と屈辱によって醜く歪んでいる。

彼は元々、名門ベリア伯爵家の嫡男として生を受けた。

広大な領地と莫大な富、そして周囲からの絶対的な服従。幼い頃から欲しいものは何でも手に入り、己の意に沿わぬ者は容赦なく踏み躙ってきた。誰もが彼を「次期伯爵」として持て囃し、彼自身もまた、自分が世界の中心であると微塵も疑わずに、我が儘の限りを尽くして生きてきたのだ。

彼の人生の歯車が狂ったのは、ほんの数年前のことである。

連邦国との外交を兼ねた大規模な晩餐会。そこでナーシェンは、連邦国大統領の美しい愛娘に目をつけた。

『下等な連邦の小娘など、名門ベリア家の次期当主である私が声をかけてやれば、喜んで身を差し出すに決まっている』

己の魅力と権力を過信したナーシェンは、強引に彼女を寝室へと連れ込もうとした。

だが、結果は無残な失敗であった。

大統領の娘は気丈にも彼を拒絶し、騒ぎを聞きつけた連邦軍の護衛によってナーシェンは取り押さえられたのだ。

国際問題への発展を恐れたベリア伯爵家は、保身のために一切の躊躇なく彼を切り捨てた。

「あのような愚か者は、我が家門の恥である」と。

瞬く間に廃嫡され、貴族の身分も財産もすべて剥奪されたナーシェンは、華やかな社交界から文字通り宇宙の泥の底へと叩き落とされたのである。

「おのれ……! おのれ連邦の豚どもめ……! そして、私を見捨てたクズ共め……!」

コックピットのコンソールを、怒りに任せて拳で叩く。

本来なら、路地裏で野垂れ死んでいてもおかしくない身分への転落。

だが、彼にはたった一つだけ、貴族の血とは無関係に与えられた『圧倒的な才能』があった。

マギアナイトの操縦スキルである。

魔力波長の同調率、空間認識能力、そして機体を己の手足のように動かす反射神経。

その技術だけは、軍のベテランパイロットすらも赤子扱いできるほどの規格外であった。

廃嫡され、行き場を失った彼を拾ったのは、軍事力の増強を急いでいた『旧連合国統一派』の軍部だった。

彼らはナーシェンの傲慢で利己的な性格をひどく嫌悪していたが、その『戦力』だけは喉から手が出るほど欲しかったのだ。

事実、ナーシェンは配属されてからの数々の戦闘で、対立する保守派の部隊を単騎で壊滅させるなど、目覚ましい戦果を上げ続けていた。

『——ナーシェン特務大尉。出撃準備は整っているか?』

通信回線から、司令官の冷ややかな声が響く。

その声に込められた「使い捨ての道具」を見るような響きに、ナーシェンのプライドは激しく逆撫でされた。

「言われるまでもない。私のブラッド・ローズは常に完璧だ。……それよりも、連邦の犬どもは本当に来るのか? 私の貴重な時間を無駄にさせたなら、承知しないぞ」

『貴様の我が儘を聞いている暇はない。全防衛システムをオンラインにしろ。メガロの絶対防衛線は、何人たりとも突破を許さん』

通信が一方的に切られる。

ナーシェンは苛立たしげに前髪をかき上げた。

「ふん……愚民どもが。今は私の力を利用しているつもりだろうが、最後に笑うのはこの私だ」

ナーシェンは、真紅の瞳をギラつかせながら虚空を睨みつけた。

軍で圧倒的な武勲を立て、統一派の首魁にまで上り詰めてやる。そして、自分を追放したベリア家の連中を足元に這いつくばらせ、あの時自分をコケにした連邦国の大統領とその娘を、徹底的に凌辱してやるのだ。

そのためなら、どれだけの人間が死のうが知ったことではない。

彼にとってこの内戦は、己の奪われた栄光とプライドを取り戻すための、ただの『舞台』でしかなかった。

その時である。

『——緊急警報! 緊急警報! 第四防衛ラインの前方に、正体不明の高エネルギー反応を探知!』

『か、数は!? 連邦軍の主力艦隊か!?』

『違います! 反応は……た、たったの四機! ですが、この魔力波長……間違いない、銀河最強の女傭兵団『エインヘリアル』です!!』

オペレーターの悲鳴のような報告が、防衛艦隊の通信網に響き渡った。

途端に、味方の部隊に動揺と恐怖が広がるのが、ナーシェンにも手に取るように分かった。

「……エインヘリアル、だと? あの、死神ローゼリアが率いるという……!」

次元干渉ジェネレーターの暴走を阻止し、過激派を文字通り壊滅させたという、生きた伝説。

その名前を聞いた瞬間、ナーシェンの顔に、歪んだ歓喜の笑みが浮かび上がった。

「くくっ……はははははっ! 天は私を見放していなかったか!!」

ナーシェンは操縦桿を強く握り締め、機体の魔力ジェネレーターを最大出力へと引き上げた。

「たった四機でこのメガロの正面防衛網を突破できると思っているとは、随分と舐められたものだ! だが、好都合……! あの死神ローゼリアの首をこの私が討ち取れば、それこそ全宇宙が私の圧倒的な力にひれ伏すことになる!」

恐怖など微塵もなかった。

あるのは、己の才能への絶対的な自信と、成り上がるための狂気的な野心だけだ。

「さあ、来るがいいエインヘリアル! 没落した貴族の意地と、このメガロの鉄壁の防衛網の前に、絶望の悲鳴を上げて散るがいい!!」

真紅のマギアナイト『ブラッド・ローズ』が、メガロ防衛艦隊の最前線へと躍り出る。

狂気と執念に囚われた堕ちたエースの前に、漆黒の堕天使と純白の盾が、圧倒的な威圧感を伴って姿を現そうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ