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追放皇女の異世界戦記  作者: 浅井川亘


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第四幕 第八話:完全なる帰還と、重すぎる愛の包囲網

「ぐはっ……! だ、だから抱きつくのは……息が……っ! 誰か、この重すぎる盾と正妻を引き剥がすのじゃ……!」

エインヘリアルのハンガー。

漆黒の機体『ルシフェル・リベリオン』の足元で、完全に記憶を取り戻したローゼリアは、リアンヌとエリーゼの熱烈すぎるハグによって早くもHPの限界を迎えようとしていた。

「よかった……っ。本当に、本当によかったですわ! もう一生、離しませんからね!」

「あなたの盾として、このまま一つに溶け合いたいくらいです……!」

「物理的に潰れる! 潰れるのじゃ!」

バタバタと手足を動かして抵抗するローゼリアだったが、そこへさらに追い討ちをかけるように、艦内から駆けつけてきた戦乙女たちが殺到した。

「ちょっと、ローゼリア! あんた、本当に全部思い出したの!?」

一番に駆け寄ってきたのは、タブレットを抱えたアルティナだった。彼女の瞳は潤んでおり、今にも泣き出しそうなのを必死に堪えている。

「ああ、アルティナ。……戦闘中の電子戦サポート、見事じゃったぞ。おかげで最高に快適な空の旅じゃった」

ローゼリアが苦しい体勢のままニヤリと笑うと、アルティナはぽろぽろと涙をこぼし、タブレットでローゼリアの頭を軽く叩いた。

「……バカっ! あんたが男だと思い込んでた間、私がどれだけ心配したと思ってんのよ! もう二度と、あんな変な口調で『アルティナさん』なんて呼ばないでよね!」

「痛っ! 分かった、分かったから叩くでない!」

「ふふっ。本当に、安心しました」

アルティナの後ろから、白衣姿のウルスラが優しく微笑みながら歩み寄ってきた。彼女はエリーゼと共に、ローゼリアの記憶障害について医学的・魔力学的な調査を不眠不休で続けていたのだ。

「ウルスラ……色々と心配をかけたようじゃな」

「いいえ。あなたの脳内魔力波長が以前の『死神』の数値に完全に戻っているのをモニターで確認した時、私も思わず泣いてしまいましたわ。……おかえりなさい、私たちの愛しいエース」

ウルスラはしゃがみ込み、ローゼリアのふわふわの金髪を慈しむように撫でた。その母性溢れる優しい手つきに、ローゼリアも思わず「うむ……」と心地よさそうに目を細める。

「ガハハッ! なんだよ大将、結局は実戦に出りゃ一発で治るもんだったんじゃねえか! アタシらが街で着せ替え人形にしてやった甲斐があったってもんだな!」

ランドグリーズが豪快に笑いながら、ローゼリアの華奢な背中をバシィッ! と勢いよく叩いた。

「ゲホッ!! ……お、おのれランドグリーズ! 妾は思い出したぞ、お主らが妾の弱みにつけ込んでフリフリの服を大量に着せまくったことを! 記憶は戻っても、あの時の羞恥心はしっかり残っておるのじゃからな!」

ローゼリアが涙目で抗議するが、ランドグリーズは「まあまあ!」と全く気にする素振りを見せない。

「お気に召しませんでしたか、お嬢様? あの時のフリルドレス姿、非常に眼福でしたのに。……ですが、やはりあなたには、その不遜で自信に満ちた振る舞いこそが一番似合いますわ」

ロスヴァイセが、優雅な足取りで近づき、淑女の礼をとる。その隣では、相変わらず無表情なオルトリンデが、カメラを構えて恐ろしい連写速度でシャッターを切っていた。

「……記録更新。『マスター・ローゼリアの完全復活』という歴史的瞬間を、高画質で一万枚保存しました。後ほど、艦内ネットワークで共有します」

「共有するな! なぜお主はいつもそういう変なところだけ手回しが早いのじゃ!」

「——マスター・ローゼリア」

騒がしい戦乙女たちの輪の向こうから、静かで無機質な声が響いた。

黒い軍服姿のシステム管理者、シエラである。彼女は手元の端末から視線を上げ、ローゼリアの前に進み出た。

「シエラ。お主にも苦労をかけたのう。お主が組んでくれた専用OSと、あのピーキーなリミッター解除の制御、見事であったぞ」

ローゼリアが胸を張って鷹揚に頷く。

「……はい。マスターの生還、そして本来の記憶データと人格への完全復旧を確認しました」

人造人間であり、普段は感情の起伏を見せないシエラだったが、その無機質な声の奥には、確かな熱と震えが混じっていた。

「すべては、マスターご自身の魂の強さの証明です。……私の論理回路も、どうやら『安堵』という定義外のシステムエラーを起こしているようです。……お帰りなさいませ、マスター」

シエラは、僅かに頬を染め、口元に微かな、しかし美しい笑みを浮かべて深く頭を下げた。

「ふふっ、常に冷静な優秀な人造人間にエラーを吐かせるとは、妾も罪な主じゃな」

次々と押し寄せる戦乙女たちの重すぎる愛情と祝福の嵐に、ローゼリアはタジタジになりながらも、その口元には自然と笑みが浮かんでいた。

インドア派の青年としての「前世の記憶」は消えたわけではない。しかし、それ以上に「ローゼリア」として彼女たちと過ごした記憶と絆が、今の自分を形作る絶対的なコアとなっていることを、心から実感していたのだ。

「——どうやら、完全に戻ってきたようだな」

騒ぎの輪の外から、静かで、威厳に満ちた声が響いた。

軍用コートを羽織ったエインヘリアルの団長、ブリュンヒルデである。

彼女が歩み寄ると、戦乙女たちは自然と道をあけた。

(リアンヌとエリーゼも、渋々といった様子でローゼリアから離れた)

「団長……」

ローゼリアは、乱れた服を整え、まっすぐにブリュンヒルデを見上げた。

ブリュンヒルデは、ローゼリアの真紅の瞳をじっと見つめ返し、ふっと口角を上げた。

「男の意識になっていた時の、あの気安いお前も嫌いではなかったがな。……やはり、私の知る銀河最強の死神は、そうでなくては困る。よくぞ戻ってきた、ローゼリア」

ブリュンヒルデの力強く温かい手が、ローゼリアの頭を優しくポンと撫でた。

その瞬間、ローゼリアの心の中にあった最後の小さな不安の欠片すらも、完全に溶けて消え去った。

「……うむ。随分と長く迷子になっておったが、もう大丈夫じゃ。妾はエインヘリアルのエースにして、お主らの希望。……これからは、二度とあんな無様な姿は晒さん。妾が、お主ら全員の未来を切り開いてみせるのじゃ」

ローゼリアが、かつての絶対的な王者の威風を取り戻し、堂々と宣言する。

その言葉に、戦乙女たちの顔がパッと輝き、ハンガーは割れんばかりの歓声に包まれた。

「さすがはお姉様ですわーっ!!」

「ローゼリア! 一生ついていきます!」

「よーし! 大将の復活祝いだ! 今日は食堂でドンチャン騒ぎするぞ!」

「……あ、いや。ちょっと待つんじゃ」

最高潮に達したテンションの戦乙女たちに対し、ローゼリアは顔を青ざめさせて手を振った。

「宴会は明日以降にしてくれ……。さっきの戦闘でのGと、お主らのハグの連続で、妾の運動能力皆無の生身はもう完全に限界なんじゃ……。一刻も早くベッドに横になりたい……」

膝から崩れ落ちそうになるローゼリア。

「あっ! いけませんわローゼリア、無理は禁物です! さあ、私がお姫様抱っこで医務室まで……!」

「いいえ、私が自室のベッドまでお運びいたしますわ!」

リアンヌとエリーゼが、再び凄まじい勢いでローゼリアを奪い合う。

「だから! 歩けるから触るでない! 妾を病人扱いするなぁぁっ!」

完全復活を果たした銀河最強の死神の、悲痛な(しかし誰も気にかけてくれない)叫び声が、平和を取り戻した母艦の奥深くまでこだましていた。

記憶を取り戻し、二つの魂を統合させた特異点・ローゼリア。

彼女と戦乙女たちの、騒がしくも愛おしい無敵の日常は、これからも果てしない星の海へと続いていく。

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