表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放皇女の異世界戦記  作者: 浅井川亘


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
256/296

第四幕 第六話:崩れる均衡と、ゲーマーの戦略眼

連邦軍旗艦『アポロン』のブリーフィング・ルーム。

部屋の中央に設置された巨大なホログラムテーブルには、現在の銀河の勢力図が色分けされた立体星図として投影されていた。

「——現在、連邦軍は国境沿いの防衛ラインを大幅に再編し、戦力配置の変更を行っています」

レオンが指揮棒で星図の一部を指し示しながら、真剣な面持ちで説明を始める。

彼を取り囲むようにして立っているのは、腕を組むブリュンヒルデと、ローゼリア、そして彼女に椅子とふかふかのクッションを用意して至れり尽くせりの世話を焼くリアンヌの三人だ。

「先日の次元干渉ジェネレーター『タルタロス』における、あなた方エインヘリアルの活躍……その影響は、銀河の勢力図を劇的に塗り替える結果となりました」

「ふむ。旧連合国過激派の壊滅じゃな……いや、壊滅したのか、あいつら?」

ブリュンヒルデが、ローゼリアの以前の口調に釣られそうになりながら(そして小さく咳払いをして)問う。

「はい。ジェネレーターの暴走で主力艦隊の大半を失い、さらにはエインヘリアルの強襲によって指導者層も消滅。……実質的に、過激派という組織は完全に崩壊し、歴史から退場しました」

レオンは、ホログラムの赤く点滅していた勢力圏をスッと消去した。

「なるほどな。厄介なテロリストがいなくなって、めでたしめでたし……ってわけでもないんだろ? レオンの顔、さっきからすごい険しいし」

クッションに深く寄りかかりながら、ローゼリアが気の抜けた声で尋ねる。

「……その通りです、ローゼリア殿。過激派という『共通の厄介者』が消え去ったことで、旧連合国宙域のパワーバランスが完全に崩壊してしまったのです」

レオンが端末を操作すると、残された旧連合国の宙域が、今度は『青』と『緑』の二色に真っ二つに分かたれた。

「現在、旧連合国に残された主要勢力は二つ。各星系の独立と現状維持を掲げる『旧連合国保守派』。そして、強固な中央集権国家として再び旧連合国を一つにまとめ上げようとする『旧連合国統一派』です」

「あー、なるほど。三つ巴の陣取りゲームで、一番のヘイトを集めてた勢力が自滅したから……残った二つの勢力が、空いた領土と主導権を巡って直接ぶつかり始めたってわけか」

ローゼリアが、かつて遊び尽くした歴史シミュレーションゲームの定石を思い出しながら、ポツリと呟く。

その的確すぎる現状分析に、レオンはハッとして目を丸くした。

「……おっしゃる通りです! これまで互いに牽制し合い、局地的な小競り合い(スケルミッシュ)で済んでいた保守派と統一派の対立が、過激派の崩壊を機に一気に発火。……現在、複数の星系を巻き込む大規模な『武力抗争(内戦)』へと発展しています」

ホログラムの星図上で、青と緑の光点が激しくぶつかり合い、爆発のエフェクトが次々と表示されていく。

「連邦軍が戦力配置を変更しているのも、この内戦の火の粉が連邦側に飛び火するのを防ぐためです。しかし、我々正規軍が他国の内戦に堂々と軍事介入するわけにはいきません。政治的な反発を招き、事態をさらに悪化させる恐れがあるからです」

レオンが、苦虫を噛み潰したような顔で俯く。

「そこで、我々『フリーの傭兵団』の出番というわけだな」

ブリュンヒルデが、獰猛な笑みを浮かべて指揮杖で床を叩いた。

「はい。保守派と統一派の抗争は激化の一途を辿り、今や民間人が居住する中立コロニーにまで無差別な被害が出始めています。……エインヘリアルには、民間人の保護、および両軍の無軌道な破壊兵器の排除を極秘裏に依頼したい」

レオンの懇願に、ブリュンヒルデは頷こうとした。

だが、その前に、ホログラム星図をぼんやりと眺めていたローゼリアが、口を開いた。

「なぁ、レオン。この星図の動き、今の両軍の戦力配置のリアルタイムデータか?」

「ええ、連邦軍の諜報部が収集した最新のものです。それがどうか……?」

ローゼリアは、椅子からよっこいしょと立ち上がると、ホログラムテーブルの上に身を乗り出した。

「ここだよ、ここ。この『アステロイド・ベルト』がある宙域。青の勢力(保守派)が、やたらとここに艦隊を集結させてるけど……これ、明らかに釣り(デコイ)だろ」

「……釣り、ですか?」

レオンが怪訝な顔をする。

「うん。緑の勢力(統一派)の主力がこっちの防衛ラインに気を取られてる間に、青は別働隊をこの裏のルート……この『暗礁宙域』を通って、緑の補給基地を奇襲するつもりなんじゃないか? ゲームのCPU戦でも対人戦でも、こういう地形を利用した裏取りは基本中の基本だぜ」

ローゼリアは、ゲーマーとしての経験則セオリーに従い、無造作に星図の一点を指差した。

その言葉を聞いた瞬間、レオンの表情が凍りついた。

彼は慌てて手元のタブレットを叩き、ローゼリアが指差した暗礁宙域のセンサー記録を極限まで解析し直した。

「……ば、馬鹿な。微弱な偽装魔力波長ジャミングの痕跡……! おっしゃる通りです、保守派の特務艦隊が、暗礁宙域に潜伏している可能性が極めて高い! もしここを抜かれれば、背後にある中立コロニー群が戦場に巻き込まれる……!」

レオンは、戦慄したようにローゼリアを見つめた。

「(……なんという恐るべき戦術眼だ。連邦の参謀本部すら見落としていた伏兵の存在を、星図を一目見ただけで見破るとは……! 記憶を失い、自らを男だと思い込んでいようと、彼女の『軍神』としての直感は少しも衰えていない!)」

レオンの勝手な(そして深刻な)勘違いが、音を立てて加速していく。

当のローゼリア本人は、「こういうのは大体マップの死角から敵が湧くんだよなぁ」と、完全にゲームの攻略感覚で言っただけである。

「さ、さすがはローゼリア……! 記憶がなくとも、あなたのその神懸かった洞察力は健在なのですね! 私、改めて惚れ直してしまいましたわ!」

リアンヌが、感極まったようにローゼリアの手を両手で握り締める。

「え? いや、別に神懸かってるわけじゃ……。シミュレーションゲームやってれば誰でも思いつくレベルの……」

「ご謙遜を! あなたのその深謀遠慮、私には一生かかっても到達できない高みです!」

「だからゲームの知識だって言ってるのに……」

ローゼリアが引きつった笑いを浮かべる中、ブリュンヒルデも満足げに頷いた。

「話は決まったな。連邦軍は国境の防衛に専念しろ。その『暗礁宙域』に潜伏している保守派の特務艦隊は、我々エインヘリアルが直々に叩き潰してやる。中立コロニーの民間人には、指一本触れさせん」

「……感謝します、ブリュンヒルデ団長。そして、ローゼリア殿。貴女の素晴らしい助言に、連邦軍の将校として心より敬意を表します」

レオンが、再びローゼリアに向かって、今度は深い尊敬の念を込めた最敬礼を行った。

「お、おう。……なんか知らんが、役に立ったならよかったよ」

ローゼリアは、居心地の悪さに金髪の毛先を弄りながら、とりあえず無難な作り笑いを返した。

(……この人たち、俺が適当なゲームの知識を言っただけで、なんでこんなに感動してるんだ? もしかして、この宇宙の軍人って、全員ストラテジーゲーム下手くそなのか?)

などという、極めて失礼かつインドア派特有の感想を抱きながら。

連邦軍旗艦との会談を終え、エインヘリアルは直ちに標的である『暗礁宙域』へと向けてワープを開始した。

「——目標宙域まで、残り十分。各機、出撃の準備を」

ブリッジのロスヴァイセから、全艦にアナウンスが流れる。

最下層のハンガーでは、戦乙女たちが次々と愛機へと乗り込んでいた。

そして、そのハンガーの最奥。

「……すげぇ。本当に完成したんだな」

パイロットスーツ(リアンヌとエリーゼが徹夜でサイズを調整した特注品)に身を包んだローゼリアは、見上げるような巨体を前に息を呑んでいた。

かつての『ルシフェル』の設計思想を受け継ぎながらも、最新の複合装甲と高出力の魔力ジェネレーターを搭載した、漆黒の人型機動兵器。

背部に装備された八枚の禍々しい魔力スラスター・ウイングが、まるで堕天使の翼のように折り畳まれている。

「へへっ、大将のデータとシエラの専用OSをぶち込んで、装甲も限界まで削って機動力に全振りしたピーキーな機体だ。……正直、大将以外の人間が乗ったら、G(重力加速度)で五秒以内に気絶するぜ」

フィーネが、油まみれの顔で誇らしげに笑う。

「名前は決まってるの?」

ローゼリアが尋ねると、フィーネはニヤリと笑ってタブレットを掲げた。

「ああ。大将の新しい愛機、その名は……『ルシフェル・リベリオン』だ」

「ルシフェル……リベリオン(反逆者)」

ローゼリアはその名前を口の中で転がし、そして、フッと不敵な笑みを浮かべた。

インドア派の青年もやしである彼にとって、自分の肉体はあまりにも弱く、思い通りに動かない。

しかし、この機体にダイブすれば……己の思考と反射神経プレイスキルのすべてを、現実の物理法則に叩きつけることができるのだ。

「……いい名前だ。気に入ったぜ」

ローゼリアは、息を切らさないようにゆっくりとリフトに乗り込み、漆黒の機体のコックピットへと滑り込んだ。

『——マスター。網膜認証、魔力波長リンク、正常。……ご帰還を、お待ちしておりました』

初期化されたバハムートのAIではなく、バハムートAIを基礎にシエラが新たに組み上げたサポートAIが、静かな音声でローゼリアを迎える。

「よろしくな、相棒。……操作系コンフィグはシミュレーターと同じだな?」

ローゼリアが操縦桿を握り込むと、機体の各部が呼応するように低く唸りを上げた。

「ローゼリア!」

隣のカタパルトから、純白の機体『ブラン』に乗るリアンヌから通信が入る。

「初陣で無理は禁物ですわ! 私が必ず前に出ますから、あなたは私の後ろから……」

「悪いな、リアンヌ。俺、ゲームではガンガン前に出て切り込む『アタッカー(前衛)』タイプなんだ」

ローゼリアは、真紅の瞳に好戦的な光を宿し、コックピットのメインモニターを睨みつけた。

「記憶がないからって、いつまでも守られっぱなしのヒロインでいるつもりはない。……さあ、俺の『二周目』の初陣だ。ハイスコア、叩き出してやるぜ!」

『ルシフェル・リベリオン、発進準備完了。カタパルト、射出!』

エインヘリアルのハッチが開き、宇宙の暗闇に向けて、漆黒の堕天使が極太の紅蓮の魔力光を放ちながら飛び出していく。

崩れ去った均衡と、新たな戦火が広がる旧連合国宙域。

記憶喪失の特異点と戦乙女たちの次なる戦いが、今、幕を開けたのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ