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追放皇女の異世界戦記  作者: 浅井川亘


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第三幕 第四十五話:狂気の発掘現場と、目覚める古代の守護者

中立コロニー『エデン』を抜錨した母艦エインヘリアルは、連合国宙域の辺境——星図にすら記載されていない未踏の星系へと向けて、次元跳躍ワープ空間を突き進んでいた。

ブリッジのメインモニターには、黒い軍服を艶やかに着こなしたレガリアの操作によって、目的地である『古代遺跡』の立体構造図が投影されていた。

「過激派が発掘を進めているこの遺跡……私のデータバンクに残されていた正式名称は、旧帝国・次元干渉実験施設『タルタロス』」

レガリアは、金色の瞳を細めながら、小惑星の内部をくり抜くようにして建造された巨大なプラントの構造を指し示した。

「元々は、私たち管理者が三次元宇宙に直接アクセスするための『巨大なゲート』を造る計画だったの。でも、システムのバグで空間の歪みを制御しきれず、計画は途中で凍結されたわ。……その心臓部である『次元干渉ジェネレーター』だけを残してね」

「そのジェネレーターとやらを、過激派の連中は秘密組織の支援を受けて掘り起こし、無理やり再起動させたというわけじゃな」

特等席で腕を組むローゼリアが、真紅の瞳でモニターを睨みつける。

「ええ。エデンで捕まえたテロリストの自白通りなら、タルタロスのジェネレーターはすでに『起動フェーズ』に移行している。完全に臨界点に達すれば、この星系はおろか、連合国宙域の半分を飲み込む超巨大な『時空震ブラックホール』が発生するわ」

「連合国宙域の半分……! そんなことになれば、何百億という人々の命が……」

白を基調とした制服を纏うリアンヌが、青ざめた顔で息を呑む。

「内戦の復興特需を独占するためだけに、宇宙の半分を消し飛ばそうとするとは。……控えめに言って、正気の沙汰ではありませんわね」

エリーゼが、制服のフリルを揺らしながら冷たく吐き捨てた。

「だからこそ、我々が止める。銀河最強の傭兵団にとって、世界を救うのはこれが初めてではないからな」

ブリュンヒルデ団長が、指揮杖で床をコンッと叩き、ブリッジの空気を引き締めた。

「——間もなく、目標座標に到達しますわ。次元跳躍システム、解除」

ロスヴァイセの滑らかなアナウンスと共に、エインヘリアルを包んでいた光のトンネルが弾け飛んだ。

ワープアウトした先の宇宙空間。

メインモニターに映し出されたその光景は、まさに『地獄タルタロス』の名にふさわしい有様であった。

「な……なんじゃこの宙域は。空間が、波打っておるぞ……!」

ローゼリアが驚愕に目を見開く。

星々の光が歪み、暗赤色の魔力嵐がオーロラのように宇宙空間を吹き荒れていた。

そして、その嵐の中心に浮かぶ、直径数十キロにも及ぶ巨大な小惑星。その表面の岩盤が剥がれ落ち、内部から旧帝国特有の滑らかな白銀の金属構造物が剥き出しになっていた。

あれが古代遺跡『タルタロス』であることは疑いようがない。

だが、エインヘリアルのクルーたちを驚かせたのは、遺跡の異様さだけではなかった。

「団長! 遺跡の周辺に、旧連合国過激派の主力艦隊が展開しています! ……ですが、様子がおかしいですわ!」

ロスヴァイセが、レーダーの異常な反応を見て叫ぶ。

「何が起きている、シエラ」

「……光学映像、拡大します」

シエラがメインモニターの映像を切り替えると、そこに映っていたのは『一方的な蹂躙劇』であった。

『ひぃぃぃっ! 退け! 退艦しろォッ!』

『弾が当たらない! なんだこいつらは! バリアを……ぎゃあぁぁっ!』

オープン回線から、過激派の私兵たちの悲鳴と断末魔が絶え間なく聞こえてくる。

彼らの艦隊は、エインヘリアルが手を下すまでもなく、遺跡の中から次々と湧き出してくる『光の群れ』によって、文字通り次々と食い破られていたのだ。

「……あれは、マギアナイトか?」

ローゼリアが目を凝らす。

光の群れの正体。それは、人型でありながら頭部や手足の区別が曖昧な、流線型の装甲を持った無人兵器の群れであった。

彼らは過激派の放つミサイルやビームを、幾何学模様の強固な防壁で易々と弾き返し、逆に両腕から放つ高圧縮の魔力レーザーで、戦艦の分厚い装甲を豆腐のように切り裂いていた。

「……あれは『オートマタ・センチネル』。旧帝国の最高機密として開発された、遺跡の自動防衛システムよ」

レガリアが、忌々しそうに呟く。

「過激派の馬鹿どもは、ジェネレーターの再起動プロトコルを完全に間違えたのよ。無理やりこじ開けようとした結果、タルタロスの防衛システムが『外部からの敵性侵略』と判断して、防衛モードを完全にアクティブにしてしまったのね」

「自業自得の極みじゃな。自分たちで掘り起こした番犬に、自分たちが噛み殺されておるわけか」

ローゼリアが呆れたようにため息をつく。

「シエラ、過激派の残存戦力は?」

「……すでに艦隊の七割が沈黙。残存部隊も、統制を失い散り散りに逃走を図っています。しかし、オートマタ・センチネルの追撃網から逃れられる確率は、計算上〇・二パーセント以下です」

シエラが無表情で、過激派の完全な壊滅を宣言した。

「ならば、連中の相手をする手間が省けたというものだ」

ブリュンヒルデが、獰猛な笑みを浮かべて指揮杖を遺跡へと向けた。

「あの番犬どもを蹴散らし、遺跡の内部へ突入する。……総員、出撃! ジェネレーターが臨界に達する前に、その心臓部を物理的に破壊してこい!」

「了解じゃ、団長! 機体に乗っておる間は、妾が銀河最強じゃということを、古代の遺物どもに教えてやるわい!」

ローゼリアは、白の制服の襟を正し、高揚感と共にハンガーへと駆け出していった。

リアンヌたち戦乙女も、己の武器と覚悟を胸に、次々と愛機へと乗り込んでいく。

エインヘリアルの両翼のカタパルトから、極彩色の光の尾が暗赤色の魔力嵐の中へと飛び出した。

『——警告。未知の敵性反応、多数接近』

漆黒の悪魔『ルシフェル』のコックピットで、バハムートが警告を発する。

遺跡の防衛プログラムは、新たに現れたエインヘリアルの機体群を『新たな排除対象』として認識し、過激派の残党狩りを行っていたオートマタ・センチネルの群れを、一斉にこちらへと差し向けてきた。

「数はざっと二百機といったところか。……先鋒は任せるぞ、リアンヌ!」

「はいっ! ローゼリアの征く道、私が切り開きます!」

真っ先に敵陣へと突っ込んだのは、純白の機体『ブラン』であった。

無人兵器群が、一斉に高圧縮の魔力レーザーをブランへと集中させる。過激派の戦艦を一撃で沈めていた凶悪な熱線が、雨霰と降り注ぐ。

「甘いですわ! 『絶対守護防壁アイギス』!!」

ブランの左腕の専用シールドから、巨大な黄金の光の盾が展開される。

レーザーの嵐が防壁に着弾するが、ブランは微動だにしない。それどころか、リアンヌは盾の位相を細かく調整し、レーザーの軌道を『反射』させて、敵陣へとそのまま撃ち返したのだ。

ズガガガガガッ!!

反射されたレーザーが、オートマタ・センチネル数機を貫く。

しかし、彼らの機体表面に幾何学模様のバリアが一瞬だけ展開され、直撃を受けたはずの機体は無傷で反撃の態勢に入った。

「ちぃっ、なんちゅう硬いバリアじゃ! さっきから過激派の攻撃が全く通っていなかったのは、あれのせいか!」

ローゼリアが舌打ちをする。

『ローゼリア、聞いて! 奴らのバリアの解析が完了したわ!』

ブリッジのアルティナから、切羽詰まった、しかし確信に満ちた通信が入る。

『あれは「位相転移装甲」の応用よ! 物理攻撃と魔力攻撃に対する防御特性を、コンマ一秒の周期で切り替えているの! だから、単調な攻撃はすべて無効化されちゃうわ!』

「なるほど、物理と魔力を交互に切り替えておるのか。……厄介なシステムじゃが、種が割れればどうということはない!」

ローゼリアが不敵に笑う。

『私とシエラちゃんで、奴らの防御位相の切り替わりタイミングを完全に予測して、全機にデータリンクで送るわ! 青いランプが点灯した瞬間に魔力攻撃、赤いランプが点灯した瞬間に物理攻撃を叩き込んで!』

「了解! さあお前たち、ここからが本番じゃ! タイミングを合わせて、古代の遺物どもをスクラップに変えてやれ!」

ローゼリアの号令と共に、戦乙女たちの反撃が開始された。

コックピットのモニターに、敵機のロックオンマーカーと共に、青と赤のランプが激しく点滅し始める。

それはまさに、コンマ数秒のタイミングを合わせる極限の連携であった。

「……青!」

オルトリンデの『ジークルーネ』が、青いランプの点灯と同時に圧縮魔力の狙撃(魔力攻撃)を放つ。

バリアが物理防御に切り替わっていたオートマタの装甲を、光の矢が易々と貫き、一機を粉砕する。

「赤だぜェッ!!」

ランドグリーズの『グリムゲルデ』が、赤いランプの点灯に合わせて両腕の重機関砲(物理攻撃)のトリガーを引く。

魔力防御に切り替わっていた敵機のバリアを実弾が貫通し、蜂の巣に変える。

「青ですわ! お姉様への道を塞ぐなど、万死に値します!」

エリーゼの『ベルフェゴール』が、青のタイミングに合わせて次元断裂砲のレーザーを薙ぎ払い、十数機をまとめて宇宙の塵へと変える。

「赤です! 我が質量、とくと味わいなさい!」

ウルスラの『ミネルヴァ』が、赤のタイミングに合わせて巨大なメイスを振り下ろし、敵機を物理的に叩き潰す。

「青、赤、青、青、赤!」

そして、ローゼリアのルシフェルは、凄まじい機動で敵陣を駆け抜けながら、高密度対艦ブレード(魔力)と、機体の格闘攻撃(物理)を、目まぐるしく切り替わるランプに合わせて完璧な精度で叩き込んでいった。

『す、すごい……!』

ブリッジで戦況を見守っていたシエラが、無表情のまま、しかしそのデータ処理速度の異常さに驚愕の声を漏らす。

『マスターの反射速度が、私の予測演算すら上回っています。コンマ一秒の切り替えを、全くのミスなく……!』

「伊達に修羅場をくぐり抜けてはおらん! この程度の切り替わり、見切るのなど余裕じゃわい!」

マギアナイトの操縦においてのみ、ローゼリアは神をも凌駕する。

彼女のルシフェルを先頭とする極彩色の陣形は、古代の無人兵器群を瞬く間に切り裂き、遺跡『タルタロス』の巨大な入り口——小惑星の亀裂へと到達した。

「団長! 入り口を確保したぞ!」

『よくやった。……だが、遺跡の内部はマギアナイトがギリギリ通れる程度の狭い空間だ。全機で突入すれば身動きが取れなくなる。突入部隊を選抜しろ』

「了解じゃ! リアンヌ、エリーゼ、ウルスラ! 妾に続け! アルティナとシエラ、レガリアは外から内部のシステムにハッキングをかけてサポートを頼む! 残りは入り口の防衛じゃ!」

「「「了解アイ・サー!!」」」

ローゼリアの的確な指示のもと、ルシフェル、ブラン、ベルフェゴール、ミネルヴァの四機が、暗赤色の魔力嵐を切り裂き、遺跡の暗い口の中へと強行突入を果たした。

遺跡『タルタロス』の内部は、巨大な金属のパイプやケーブルが血管のように張り巡らされた、無機質で不気味な地下迷宮であった。

「……気味が悪いところじゃな。照明もろくにない」

ローゼリアは、ルシフェルの探照灯を頼りに、入り組んだ通路を慎重に進んでいく。

『気をつけて、ローゼリア。……ジェネレーターの出力が、どんどん上がっているわ。空間の位相がズレ始めている』

通信越しに、レガリアの緊迫した声が届く。

彼女の言う通り、遺跡の奥深くへ進むにつれて、空間のパースが狂ったように歪み始めていた。遠くに見えるはずの通路が突然目の前に現れたり、計器の数値がデタラメな動きを示したりと、物理法則が崩壊の兆しを見せている。

ドクンッ……! ドクンッ……!

まるで巨大な心臓が脈打つような、禍々しい重低音が遺跡全体を震わせ始めた。

「……空間が、悲鳴を上げていますわ」

リアンヌのブランが、盾を構えながら周囲を警戒する。

「お姉様、レーダーに複数の熱源反応! 前方と、上下の通路からですわ!」

エリーゼが警告を発する。

通路の奥の暗闇から、再びオートマタ・センチネルの群れが姿を現した。

しかし、外にいた個体とは様子が違った。彼らの装甲は赤黒く発光し、機体の形そのものが、空間の歪みに影響されておぞましい異形へと変異していた。

「ジェネレーターの暴走エネルギーを直接取り込んで、リミッターを解除しているみたいね! ローゼリア、さっきの『タイミング合わせ』はもう通用しないわよ! 奴らのバリアの周期が、完全にランダムになってる!」

アルティナのハッキングによる警告。

「チッ……面倒な防衛機構じゃ! ならば、バリアごと力でねじ伏せるまで!」

ルシフェルが対艦ブレードを構え、異形のセンチネルへと斬りかかる。

しかし、敵の装甲は先ほどよりも遥かに硬く、ブレードが弾き返された。

「硬い!? なんなのこの装甲!」

エリーゼのレーザーも、ウルスラのメイスも、決定打とならずに弾かれる。

『——マスター。敵機の装甲材は、空間の歪みを利用した『次元断層バリア』です。物理・魔力に関わらず、三次元の攻撃を別の次元へと逸らしています』

バハムートが冷徹に分析結果を告げる。

「攻撃を別の次元に逸らすじゃと? そんな装備、どうやって突破しろというのじゃ!」

『……ローゼリア、道はあるわ』

レガリアの声が、通信回線に凛と響いた。

『次元断層バリアは、ジェネレーターからのエネルギー供給に依存している。……私が、遺跡のメインシステムに直接干渉して、彼らへのエネルギー供給を『コンマ三秒』だけ遮断するわ』

「コンマ三秒!? そんな一瞬で……!」

『あなたなら出来るわよね、銀河最強の死神?』

レガリアの、挑発するような、しかし絶対の信頼を寄せた声。

ローゼリアは、コックピットの中で獰猛な笑みを浮かべた。

「愚問じゃな、レガリア。コンマ三秒もあれば、妾にとっては永遠に等しいわい!」

ローゼリアは操縦桿を強く握り込み、リアンヌたちに指示を飛ばした。

「お前たち! レガリアがバリアを剥がした瞬間に、全火力を叩き込むぞ! タイミングは……妾が作る!」

「「「了解!!」」」

『……システム干渉、開始。ジェネレーターからのパスを強制切断……三、二、一……今よ!!』

レガリアの叫びと同時に、異形のセンチネルたちを覆っていた赤黒いオーラが、フッと一瞬だけ消失した。

「そこじゃあああっ!!」

ローゼリアのルシフェルが、極限の踏み込みで最前列の敵機の懐に飛び込み、装甲の継ぎ目——最も強度が低い関節部分を、対艦ブレードで正確に斬り裂く。

その隙を縫うように、リアンヌのブランがシールドバッシュで敵の体勢を崩し、ウルスラのミネルヴァがメイスで装甲を粉砕し、最後にエリーゼのベルフェゴールが次元断裂砲のレーザーでコアごと貫き通した。

四機の完璧な連携が、コンマ三秒という極限の時間の中で流れるように決まる。

「突破じゃ! このまま一気に最深部まで駆け抜けるぞ!」

ローゼリアたちは、レガリアの決死の電子支援を受けながら、迫り来る異形の防衛システムを次々と粉砕し、遺跡の奥深くへと突き進んでいった。

空間の歪みはさらに激しさを増し、ジェネレーターの鼓動は狂気のように響き渡る。

内戦の火種となるはずだった古代の遺産は、今や全宇宙の脅威へと変貌しようとしていた。

「待っておれよ、古代のスクラップめ。妾が直々に、電源を引っこ抜いてやるわい!」

漆黒の悪魔は、真紅の瞳を爛々と輝かせながら、世界を飲み込もうとする時空の深淵へと、恐れを知らぬダイブを敢行するのであった。

コンマ三秒の絶対的な隙を突くという、人間業を逸脱した連携により、異形の自動防衛システム群を突破したエインヘリアルの突入部隊。

ローゼリアの『ルシフェル』を先頭に、リアンヌの『ブラン』、エリーゼの『ベルフェゴール』、ウルスラの『ミネルヴァ』の四機は、空間の歪みが最も激しい遺跡『タルタロス』の最深部——大空洞へとついに到達した。

そこは、言葉を失うほどの威容を誇る空間であった。

「……なんというデカさじゃ。これが、旧帝国の遺した次元干渉ジェネレーター……!」

ローゼリアは、ルシフェルのメインモニター越しにその光景を見上げ、息を呑んだ。

大空洞の中央には、直径数キロにも及ぶ巨大な『光の柱』がそびえ立っていた。

無数の極太のケーブルが柱の根元に接続され、プラント全体から莫大なエネルギーを吸い上げている。光の柱の中心では、真っ黒な『球体』が脈動するように膨張と収縮を繰り返しており、その周囲だけ空間のパースが完全に狂い、光の軌跡すらも捻じ曲がっていた。

『——マスター。目標である次元干渉ジェネレーターのコアを確認。すでに臨界点まであと数パーセント。空間の崩壊(ブラックホール化)まで、残り時間は五分を切っています』

バハムートの合成音声が、冷酷な事実を告げる。

「急ぐぞ! その根元にあるメインコンソールに直接アクセスして、緊急停止プロトコルを走らせるのじゃ!」

ローゼリアが叫び、ルシフェルをジェネレーターの基部へと向かわせようとした、その時である。

『ひ、ヒィィッ! 来るなァァァッ!』

光の柱の根元、巨大な制御盤が並ぶコントロールエリアに、数機の黒と黄色に塗装されたマギアナイトがうずくまっていた。

旧連合国過激派のテロリストたちの残党である。彼らはエインヘリアルの姿を見るや否や、狂乱したようにライフルを乱射してきた。

「させません!」

リアンヌのブランが素早く前に出て、純白の絶対守護防壁アイギスを展開し、銃弾をすべて弾き返す。

「愚か者どもめ! お前たちが無理やり起動させたせいで、この宇宙が消えかかっておるのじゃぞ! 今すぐそこを退き、妾たちにシステムを明け渡せ!」

ローゼリアが通信回線越しに怒鳴りつける。

しかし、過激派のリーダーらしき男の返答は、絶望と狂気に完全に支配されていた。

『明け渡すだと!? できるわけねえだろ! 止まらねえんだよ!!』

男の乗る機体が、頭を抱えるようにして絶叫する。

『俺たちはただ……ただ、特定の星系を一つ二つ消し飛ばして、新しい特需ビジネスを作りたかっただけなんだ! なのに、この化け物システムは俺たちのコマンドを一切受け付けず、宇宙の半分を飲み込む気でいやがる!』

「己の欲望で古代の遺物を掘り起こし、制御できずに泣き喚くとは……まさに三流の悪党の末路じゃな。……ウルスラ、エリーゼ! 奴らを無力化しろ! コンソールには絶対に傷をつけるな!」

「承知いたしました、殿下!」

「お姉様の手を煩わせるまでもありませんわ!」

ミネルヴァとベルフェゴールが飛び出し、テロリストの残党を捕縛しようと動いた。

だが、その瞬間。リーダーの男の機体が、異様な光を放ち始めた。

『俺たちの野望は終わった……。だが、どうせ全滅するなら、貴様らエインヘリアルも道連れだァッ! 誰にも……誰にも止めさせてたまるかァァッ!!』

「な……!? 奴め、自機のジェネレーターを暴走させて、制御コンソールに特攻する気か!!」

ローゼリアが驚愕に目を見開く。

「させませんわ!」

エリーゼのベルフェゴールがレーザーを放とうとするが、ジェネレーターの強烈な魔力磁場に阻まれ、射線が僅かに逸れた。

『一緒に地獄に落ちようぜ、銀河最強ォォォッ!!』

ズガァァァァァァァァンッ!!!!

テロリストの機体は、コントロールエリアの巨大なメインコンソールに激突し、凄まじい自爆を引き起こした。

爆炎が晴れた後には、跡形もなく粉砕され、火花を散らす制御盤の残骸だけが残されていた。

「……っ! 馬鹿な……!」

ローゼリアが絶句する。

『……最悪よ、ローゼリア』

ブリッジから、レガリアの沈痛な声が通信回線に響いた。

『外部からのアクセス経路が完全に物理破壊されたわ。私とアルティナのハッキングでも、もうジェネレーターの暴走プロトコルには干渉できない』

「手動での緊急停止も、電子的なシャットダウンも不可能になったということか……!?」

「そんな……! じゃあ、このまま時空震が起きて、宇宙が飲み込まれるのを待つしかないとでも言うのですか!?」

リアンヌが悲痛な声を上げる。

『……残念だけど、そういうことね。空間の崩壊まで、残り三分。……あなたたちだけでも、大至急その宙域から離脱しなさい。エインヘリアルのワープシステムなら、まだギリギリ被害範囲外へ逃げられるかもしれないわ』

レガリアが、元管理者としての冷徹な計算に基づき、撤退を具申する。

「逃げる……? 冗談ではない! 妾たちが逃げれば、特使も、コロニー・エデンにいる罪なき人々も、すべてが消え去るのじゃぞ!」

ローゼリアは、操縦桿を叩きつけて叫んだ。

『マスター。感情的な反論は無意味です。現在の我々の戦力で、暴走する次元干渉ジェネレーターを物理的に破壊することは、ベルフェゴールの最大火力をもってしても不可能です。……完全に、手詰まりです』

バハムートでさえも、生存確率ゼロの事実を冷酷に提示する。

大空洞を震わせるジェネレーターの鼓動が、さらに早くなる。

光の柱の中心にある漆黒の球体が、周囲の空間をメリメリと音を立てて削り取り始めた。圧倒的な絶望が、戦乙女たちの心を覆い尽くそうとしていた。

「(……手詰まり。絶対の死。……本当にそうか?)」

ローゼリアの真紅の瞳は、決して光を失ってはいなかった。

どんな理不尽な絶望にも、必ずそれを打ち破る『活路』が存在するはずだ。限界まで研ぎ澄まされた彼女の思考は、極限のプレッシャーの中でこそ最高速で回転を始める。

「……バハムート」

ローゼリアは、静かに、しかし絶対の確信を持って口を開いた。

「このジェネレーターが引き起こそうとしているのは、莫大な魔力による空間の歪み……極小のブラックホールのようなものじゃな?」

『肯定します。極限まで圧縮された重力と魔力の特異点です』

「ならば……その特異点の中心コアに飛び込み、内側から『それと同等以上の相反する極大エネルギー』をぶつければ……事象は相殺され、時空震は消滅するのではないか?」

ローゼリアの突拍子もない提案に、通信回線が静まり返る。

『……理論上は、可能です。しかし、ジェネレーターの崩壊エネルギーと同等以上の出力を出すには、本機『ルシフェル』のメイン・魔力ジェネレーターのリミッターを完全に解除し、さらに次元断裂砲のコアをオーバーロードさせて……意図的な『自爆』を引き起こすしかありません』

バハムートの合成音声が、わずかに揺らいだように聞こえた。

『当然ですが、その爆発の中心にいる本機は消滅します。マスターの生存確率は……〇パーセントです』

「ローゼリア……? 今、バハムートはなんと言いましたか……?」

リアンヌのブランが、ガチャンと音を立ててルシフェルの方を向いた。

「いけませんわ、お姉様!! 自爆だなんて、そんなこと絶対に許しません! 世界の半分が消えようと、お姉様が死んでしまっては何の意味もないのですわ!」

エリーゼが、通信越しに泣き叫ぶような声を上げる。

「殿下! どうか思いとどまってください! 我らエインヘリアルは、殿下と共に生きるために戦っているのです!」

ウルスラも必死に制止する。

『ローゼリア! 馬鹿なことを考えるな! 撤退だ! これは団長命令だ! 今すぐそこから離れろ!!』

母艦のブリッジから、ブリュンヒルデの怒声が響き渡る。彼女がこれほどまでに感情を露わにするのは、かつての神々との決戦の時以来であった。

仲間たちの悲痛な叫び。

それは、ローゼリアへの深すぎる愛と執着の証明であった。

「……お前たち」

ローゼリアは、通信機越しに優しく、しかし有無を言わさぬ威厳に満ちた声で語りかけた。

「妾は、銀河最強の死神じゃ。そして、お前たち最強の戦乙女を率いるエースじゃ」

ルシフェルが、高密度対艦ブレードを床に突き立て、光の柱へと向き直る。

「逃げて生き延びて、何が残る? 妾たちが愛した平穏な街も、カフェも、美味い飯も、すべてが消え去った宇宙で、ただ生きながらえることが、我々の望んだ未来か? ……否じゃ」

ローゼリアの真紅の瞳には、一切の迷いがなかった。

「やり直しのきかないこの現実で、妾は絶対に全滅の道を選ばん! 誰も死なせない。世界も消させない。……それが、銀河最強のエースの意地というものじゃ!」

「ローゼリア!! お願いです、行かないで!!」

リアンヌのブランが、ルシフェルに取りすがろうとスラスターを吹かす。

「……シエラ! リアンヌたちの機体の操縦権限を強制ハッキングしろ! 妾の権限で、三機を遺跡の外へ強制退避させよ!」

ローゼリアが叫ぶ。

『……マスター。それは』

『シエラちゃん! ダメよ、そんなコマンド弾いて!』

アルティナがブリッジで悲鳴を上げる。

『……個体番号シグマ・セブン、シエラ。……マスター・ローゼリアの最終権限オーバーライドを受理。ブラン、ベルフェゴール、ミネルヴァの機体制御を強制奪取。オートパイロットで遺跡外部へ退避させます』

シエラの無機質な声には、隠しきれない震えが混じっていた。

「な、動かない!? シエラ、やめなさい! お願い、お姉様のところへ行かせて!」

「ローゼリアァァァッ!!」

リアンヌたちの機体が、スラスターの制御を奪われ、ルシフェルに背を向けて遺跡の出口へと強制的に後退させられていく。

リアンヌの悲痛な絶叫が、暗い地下迷宮に木霊した。

「……すまん、リアンヌ。エリーゼ、ウルスラ。それに、皆」

ローゼリアは、遠ざかっていく三機の極彩色の光を見つめながら、そっと目を閉じた。

そして、次に目を開けた時、彼女の顔は『世界を救う英雄』のそれへと変わっていた。

「バハムート! ルシフェルの全リミッターを解除! 次元断裂砲、オーバーロード開始! ジェネレーターのコアへ、最大戦速で突っ込むぞ!!」

『……了解しました、マスター。貴女の狂気的な選択に、最後まで付き合いましょう。……ルシフェル、最終フェーズへ移行します』

漆黒の悪魔の機体各所から、限界を超えた証である紅蓮の魔力の光が噴き出す。

装甲が軋みを上げ、コックピット内の計器類が次々とレッドゾーンを振り切っていく。

『崩壊まで、残り三十秒』

「上等じゃ! 次元干渉システムごとき、このルシフェルの魂ごとぶち破ってくれるわい!!」

ローゼリアは操縦桿を限界まで押し込み、ルシフェルは一条の紅蓮の流星となって、大空洞の中央で膨張を続けるジェネレーターの漆黒のコアへと、真っ直ぐに飛び込んでいった。

『マスター……共に戦えたこと、誇りに思い——』

バハムートの最後の言葉が、強烈な光と轟音の中に掻き消える。

そして。

連合国宙域の辺境、名もなき星系の古代遺跡の最深部で。

一つの極小のブラックホールと、銀河最強の悪魔の命を代償にした超新星爆発が激突し——三次元宇宙を揺るがすほどの、閃光と静寂が訪れた。

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