第三幕 第三十九話:蒼銀の閃光と、若き英雄の帰還
旧連合国統一派の強襲用マギアナイト部隊、全二十機。
中立宙域で極秘の停戦会談に向かおうとしていた旧連合国保守派の特使を乗せた座乗艦に対し、彼らは一切の警告なしに無数の対艦ミサイルとビームの雨を降らせた。
「——させません!!」
エインヘリアルのカタパルトから真っ先に飛び出したのは、純白の機体『ブラン』を駆るリアンヌであった。
彼女は特使の座乗艦の盾となるべく、極限まで加速して射線に割り込み、絶対守護防壁を展開しようとする。
だが、奇襲のタイミングが良すぎた。リアンヌの機体が防壁を最大展開するコンマ数秒前に、先頭のミサイル群が座乗艦の推進部へと到達しようとしていた。
「(間に合わんっ……!)」
後続で飛び出したローゼリアが、ルシフェルのコックピットで舌打ちをした、その瞬間。
——特使の座乗艦のすぐ脇の空間が、眩い『蒼い光』によって一直線に切り裂かれた。
ズバァァァァァンッ!!
空間そのものを両断するような巨大な蒼銀の魔力刃が虚空を一閃し、座乗艦に迫っていた数十発のミサイル群を、誘爆すら許さずにチリ一つ残さず蒸発させた。
『——させない。保守派の特使殿には、まだこの混沌とした宙域に平和をもたらすための仕事をしてもらわなければならないからな』
通信回線に、凛とした、それでいてどこか聞き覚えのある青年の声が響き渡る。
「……なっ! この波長、まさか!?」
ローゼリアの真紅の瞳が見開かれる。
ミサイルの爆煙を切り裂いて姿を現したのは、まるで中世の騎士を思わせる流線型のフォルムと、星の光を反射して輝く『蒼銀』の装甲を持った一機のマギアナイトであった。
その手には、自らの機体の身の丈を優に超える巨大な魔力大剣が握られている。
『遅れました、エインヘリアルの皆さん。旧連合国連邦軍所属、レオン・クライス大佐です。……今回の護衛任務、僭越ながら味方として同行させていただきます』
「おおっ!? レオンではないか! レオン・クライス!」
ローゼリアは、通信機越しに歓喜の声を上げた。
蒼銀のマギアナイト『アロンダイト』。それに乗る若き連邦軍の英雄、レオン・クライス。
かつてローゼリアが傭兵としてまだ名を馳せ始めた頃、戦場で敵対し、当時の愛機ノワールと死闘を繰り広げた猛者中の猛者である。互いの実力を認め合う存在だった。
『相変わらずだな、ブリュンヒルデ団長、そしてローゼリア。……久しぶりの再会で悪いが、まずはあの無作法な連中を片付けさせてもらおうか!』
「応ともさ! 腕は鈍っておらんじゃろうな、若き英雄殿!」
ローゼリアのルシフェルと、レオンのアロンダイト。
かつて戦場を震え上がらせた二機の悪魔と騎士が、左右に分かれて統一派の部隊へと突撃を開始した。
『な、なんだあの蒼銀の機体は!?』
『特使の護衛はエインヘリアルだけだと聞いていたぞ! ええい、構わん、撃て!!』
動揺する統一派の部隊が一斉にビームを放つ。
だが、ルシフェルとアロンダイトの機動力は、量産型のシステムで捕捉できる次元にはなかった。
「甘いな。射線が丸見えだ」
レオンのアロンダイトが、スラスターの細かな噴射でビームの雨を紙一重で躱しながら敵陣の右翼へ突い込む。巨大な魔力大剣が煌めき、すれ違いざまに二機の敵機を同時に両断する。
「ふはははっ! さすがはレオン、美しい太刀筋じゃ! じゃが、キルスコアでは負けんぞ!」
ローゼリアのルシフェルもまた、左翼の敵陣へと単騎で突撃し、高密度対艦ブレードで次々と敵機の装甲を切り裂いていく。
そこに、後方から戦乙女たちの容赦のない援護が降り注いだ。
『——レオン大佐、敵のフォーメーション・データを共有します。各機のジェネレーターのタイムラグを計算しました。そこを突いてください』
「な……!? なんだこの完璧な情報リンクは!?」
レオンのコックピットに、敵の細かな挙動予測と、次に狙うべき最適解のルートが一瞬にして表示された。
シエラの『アリス・レギオン』による戦術データリンクである。かつてのレオンが知るエインヘリアルには、ここまで規格外の戦術AIは存在しなかった。
『さらに、敵機の電子制御を三・五秒間完全に掌握するわ。好きに撃ち抜いちゃって!』
アルティナの『ハルファス』が放つ極大の電子ジャミング。
統一派の機体は、突如として全モニターがブラックアウトし、完全に宇宙空間で棒立ち状態となった。
「電子戦まで……!? まるで相手が止まって見える!」
レオンが驚愕している間にも、戦乙女たちの連携は止まらない。
「オラオラァッ! 蜂の巣になりな!」
「優雅に散りなさいな」
ランドグリーズの『グリムゲルデ』が重機関砲で弾幕を張り、ロスヴァイセの『ヘルムヴィーゲ』が敵の退路を魔法陣で完全に塞ぐ。
そして、その陣形のど真ん中へ、巨大な重装甲の機体が突っ込んでいった。
「我が質量、とくと味わいなさい!!」
ウルスラの『ミネルヴァ』が、敵の戦列をボウリングのピンのように物理的に跳ね飛ばし、陣形を完全に崩壊させる。
「ええいっ! あの重装甲機はなんだ!? データにないぞ!」
「ひいっ! 悪魔だ! エインヘリアルには悪魔しかいないのか!?」
パニックに陥る統一派のパイロットたち。
「ふふっ。トドメは私がいただきますわ! お姉様、レオン大佐、射線から離れてくださいな!」
エリーゼの『ベルフェゴール』から、次元を歪めるほどの極太の黄金レーザーが発射された。
ズドォォォォォォンッ!!
「な……なんという超火力だ……!」
アロンダイトのコックピットで、レオンは思わず冷や汗を流した。
かつて彼が共闘した頃のエインヘリアルも十分に恐ろしかったが、今の彼女たちは、まるで「神」でも殺してきたかのような(実際に殺してきたのだが)、次元の違う完成された連携と暴力を身につけていた。
「ローゼリアの背中は、この私が完全に守り抜きます!」
そして最後は、リアンヌの『ブラン』が完璧な絶対守護防壁で残存する敵の反撃を完全に無力化し、ローゼリアのルシフェルとレオンのアロンダイトが残敵を瞬時に掃討した。
戦闘開始から、わずか三分。
統一派の強襲部隊二十機は、一機の特使座乗艦にも触れることなく、完全なる宇宙の塵となって消え去った。
「ふぅ、片付いたな。……相変わらず、鮮やかな手並みだ、ローゼリア。それにエインヘリアルの皆も」
戦闘空域の安全が確保され、特使の座乗艦の周囲を囲むように展開した状態で、レオンからの通信が入った。
モニターに映し出された彼は、連邦軍の将校らしい白と青を基調とした軍服に身を包み、金髪を爽やかに流した、まさに「若き英雄」と呼ぶにふさわしい端正な顔立ちをしていた。
「久しぶりだな、レオン・クライス大佐。随分と出世したと聞いていたが、保守派の特使護衛を直接任されるとはな」
エインヘリアルのブリッジから、ブリュンヒルデが腕を組んで微笑む。
『ご無沙汰しております、ブリュンヒルデ団長。……連邦軍も三つに割れてしまいましてね。私は議会制を重んじる保守派に付き、こうして最前線で遊撃隊の隊長をやらせてもらっています。貴方がたのような最強の傭兵団が味方になってくれて、これほど心強いことはありません』
レオンは礼儀正しく一礼すると、モニター越しに戦乙女たちへと視線を向けた。
『リアンヌ特務尉。あなたのその純白の盾は、以前にも増して硬さに磨きがかかったようですね。アロンダイトの出力でも、今のアナタの防壁を抜けるかどうか怪しい』
「お久しぶりです、レオン大佐。……お褒めにあずかり光栄です。ローゼリアをお守りするため、私の盾は日々進化しておりますから」
白を基調とした制服を纏ったリアンヌが、誇らしげに胸を張る。
『ランドグリーズ、ロスヴァイセ、オルトリンデ。君たちの中距離からの制圧と狙撃の精度も、相変わらず恐ろしい。味方でよかったと心底思うよ』
「へへっ、アタシらの弾幕をすり抜けて前衛を張るアンタも、相変わらずの変態機動だったぜ!」
「ふふっ、若き英雄殿の麗しいお顔を再び拝見できて、嬉しく思いますわ」
「……お久しぶりです。大佐も、ご無事で何よりです」
三人がそれぞれ、笑顔で旧交を温める。
レオンは、少しだけ戸惑ったような、驚愕の入り混じった顔で、モニターに映る「見知らぬ顔ぶれ」を見渡した。
『ローゼリア。先ほどの戦闘データ……正直、私の常識を覆すほどのものだった。私の知るエインヘリアルから、さらにとんでもない戦力が追加されているようだが?』
「ふははっ! 驚いたかレオン! 妾たちが以前お主と共闘した時から、パーティーメンバーが大幅に増えておるからな!」
ローゼリアは自慢げに胸を張り、手で戦乙女たちを指し示した。
「まずは、あのデタラメな超火力レーザーを撃ったのが、エリーゼじゃ! まあ、エリーゼとはお主が来る直前くらいに少しだけ顔を合わせたことがあったかもしれんが、今は立派な主戦力じゃぞ!」
「夜会のパーティ以来ですわね、レオン大佐。エリーゼ・マーベリックですわ。お姉様に馴れ馴れしく近づく輩は、連邦の英雄であろうと灰にしますので、距離感にはお気をつけ遊ばせ」
白い制服にエプロン姿のエリーゼが、優雅に、しかし目が全く笑っていない笑顔で挨拶する。
『……あ、ああ。よろしく頼む(ローゼリアに対する愛の重さが凄いな……)』
レオンが冷や汗を流す。
「そして、敵の制御を完全に奪った電子戦のスペシャリスト、アルティナじゃ!」
「よろしくね、レオン大佐。あなたの蒼銀の機体のOS、すごく面白そうだから、今度中身を覗かせてもらうわ」
アルティナが、タブレット越しにウインクをする。
「続いて、重装甲で敵陣を粉砕したウルスラ!」
「ウルスラと申します。我が質量は殿下のために。以後、お見知りおきを」
ウルスラが、騎士のように胸に手を当てて深く一礼する。
「さらに、お主に完璧な予測データを送った、戦術AI兼パイロットのシエラじゃ!」
「個体番号シグマ・セブン、シエラ。レオン・クライス大佐の生体データおよび戦闘アルゴリズム、登録完了しました」
シエラが無表情でペコリとお辞儀をする。
『電子戦特化に、重装甲の突撃機、さらに高度な戦術AIだと……? 一体どこでこれほどの人材を……。これでは、我々連邦軍の正規部隊の一大隊が束になっても勝てる気がしないぞ』
レオンは、エインヘリアルのあまりの戦力増強っぷりに、ただただ呆然としていた。
「ふふふ。驚くのはまだ早いわよ、若き英雄さん」
その時、ブリッジの奥から、美しい黒の軍服を着こなしたレガリアが、優雅な足取りでモニターの前に姿を現した。
「な……!?」
レオンは、レガリアの姿を見た瞬間、言葉を失った。
彼女が放つ、ただの人間とは明らかに異なる高次元のオーラ、そして、どんな名画の女神すらも霞むほどの圧倒的な美貌とプロポーション。
『あ、貴女は……? エインヘリアルの新メンバー、ですか?』
歴戦の英雄であるレオンでさえ、その神々しさに思わず敬語になってしまう。
「ええ、新入りよ。名前はレガリア。……ちょっと前までは、この宇宙全体を管理して因果律を弄っていた『神様のリーダー』をやっていたのだけれど、ローゼリアに惚れ込んでしまってね。今は彼女の隣の特等席を狙っている、ただの女よ」
レガリアが、悪戯っぽく微笑みながらローゼリアの肩に手を置く。
「なっ……!? レガリアさん、どさくさに紛れて何を!!」
リアンヌが慌てて二人の間に割って入る。
『う、宇宙の管理者……!? 神様……!?』
レオンの頭の処理能力が、ついに限界を超えた。
「気にするなレオン。少しばかり事情が複雑なんじゃ。……とにかく、妾たちの戦力は以前の比ではないということじゃ!」
ローゼリアが、真っ赤な顔をして咳払いをごまかしながら胸を張った。
『……ははっ。ああ、そうだな。ローゼリア、君という特異点の周りには、本当に常識外れな連中ばかりが集まる。……だが、これほど頼もしい味方はいない』
レオンは、気を取り直すようにふっと笑い、表情を真剣なものへと引き締めた。
『——改めまして、エインヘリアルの皆様。特使の座乗艦は、これより中立コロニー『エデン』へと向かいます。道中、過激派や統一派の更なる襲撃が予想されます。どうか、我々保守派に力をお貸しください』
「任せておけ。銀河最強の傭兵団と、連邦の若き英雄の共闘じゃ。どんな阿呆が来ようと、まとめて返り討ちにしてやるのじゃ!」
ローゼリアの力強い宣言と共に、エインヘリアルとアロンダイトは、特使の座乗艦を護るように完璧な陣形を組み、混沌の連合国宙域の深部——中立コロニー『エデン』へと向けて、警戒を強めながら進んでいった。




