表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放皇女の異世界戦記  作者: 浅井川亘


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
220/292

第三幕 第十六話:絶望の百五十面指しと、見破られた駒の欠陥

帝都アエテルガルドの皇宮から、非常用シャトルで猛スピードで母艦エインヘリアルへと帰還したローゼリアは、息をつく暇もなくブリッジへと駆け込んだ。

「全員、集まっておるな! 状況の共有は済んでおるか!」

ブリッジのメインモニター前には、ブリュンヒルデ団長をはじめ、リアンヌ、ウルスラ、アルティナ、ロスヴァイセ、ランドグリーズ、オルトリンデ、エリーゼの戦乙女ヴァルキュリアの面々、そして油まみれの作業着を着た整備班長フィーネがすでに集結していた。

彼女たちの表情は、一様に険しい。

無理もない。アルティナが展開している星系図のホログラムには、帝国の領宙全域を覆い尽くすほどの、無数の赤い光点が点滅していたからだ。

「ええ、フェイト陛下からのデータリンクで確認したわ」

アルティナが、疲労の色を隠せない声でタブレットを操作し、最前線の映像をモニターに投影する。

「第十三象限の封印宙域から出撃した謎の降下艇の群れは、現在も帝国の一五〇の主要惑星および防衛拠点へと向けて進軍中。先陣の部隊は、すでに辺境の防衛線と接触し、初期交戦に突入しているわ。……そして、敵の正体も映像で確認できたわよ」

モニターに映し出されたのは、異常な反射神経と身体能力で帝国軍の砲火を掻い潜り、禍々しい専用機を操る銀髪に赤い瞳の兵士たちの姿だった。

「こ、これは……!」

リアンヌが息を呑む。

「以前、私たちが壊滅させた巨大犯罪組織が使っていた、違法な『生体兵器』……改造兵士たちにそっくりですわ! しかし、あの時はこれほどまでの数は……」

ロスヴァイセが、信じられないものを見るように目を細める。

「犯罪組織の残党が、これほどの軍隊を秘密裏に製造しておったとでも言うのか!? いや、あるいは先日の異常波長……奴ら、旧帝国の封印施設を襲撃して、過去の遺物を乗っ取って軍事利用しおったな!」

ローゼリアがギリッと奥歯を噛み締める。

管理者という高次元の存在が、犯罪組織の兵器をコピーして放ったなどとは夢にも思っていないローゼリアたちは、これを「巨大犯罪組織の残党による、帝国への大規模な意趣返し」であると断定していた。

「敵の総数は約十万。たった十万とはいえ、一五〇箇所に分散されれば、一箇所につき数百から千機。……しかも、彼らは痛覚を持たず、専用の高性能機を駆る化け物です。通常の帝国駐留軍だけで支えきれる相手ではありません」

生真面目なウルスラが、痛恨の表情で拳を握り締めた。

「姉上は、すでに帝国全軍に防衛命令を出しておる。じゃが、全戦力を一五〇に分散させれば、各個撃破されるのは目に見えておる。……奴らの狙いは、我々の防衛網を物理的にパンクさせることじゃ」

「ローゼリア。私たちはどう動きますか? さすがに、私たち七機だけで一五〇の星をすべて回り切ることは……」

リアンヌが、主の言葉を待ちながらも、現実的な懸念を口にする。

「分かっておる。いくら我々の機動力が桁違いでも、物理的な限界がある。……だが、見捨てる星など一つもない! 何か、必ず盤面をひっくり返す手立てがあるはずじゃ!」

ローゼリアは腕を組み、頭脳をフル回転させる。

戦乙女たちが必死に打開策を議論する中。

執務机の前に立ち、初期交戦が行われている辺境宙域の戦闘データを無言で見つめていたブリュンヒルデが、ふと眉をひそめた。

「……アルティナ。辺境の第三、第七、および第十二防衛拠点での、敵部隊の戦闘データをメインモニターに拡大しろ。損害比率と、部隊の移動ルートだ」

「え? ええ、分かったわ。団長」

アルティナが言われた通りにホログラムを切り替える。

映し出されたのは、帝国軍の駐留艦隊と、生体兵器たちが操る部隊との交戦の軌跡であった。

確かに、帝国軍は敵の異常な機動力と火力に押され、防衛線を後退させられている。

だが、その詳細なデータを睨みつけていたブリュンヒルデは、冷たい笑みを浮かべた。

「……なるほど。犯罪組織が用意した『完璧な軍隊』に見えるが、とんだ見掛け倒しだな」

「団長? 何か分かったのか?」

ローゼリアが身を乗り出す。

ブリュンヒルデは、モニターに映る敵の動きを指示棒で指し示した。

「敵部隊の動きを見ろ。彼らには大隊、中隊、小隊を束ねる指揮官の核が存在し、一見すると完璧な指揮系統を持っているように見える。だが、実態は違う」

ブリュンヒルデが指し示す先。

そこには、敵の機体が、帝国軍の十字砲火を前にして、何の陣形も組まずに単機で突っ込み、一部の機体が無駄な被弾をしているデータが示されていた。

「彼らは、個体の身体能力と専用機の性能に任せて、ただ最短距離を力押しで突撃しているだけだ。味方との連携や、地形を活かした戦術的な機動が全く見られない。指揮官個体は、ただ『前へ出ろ』という大雑把な命令を下しているに過ぎない」

「確かに……。指揮系統が機能しているのなら、もっと被弾を抑えるためのフォーメーションを組むはずです。これでは、ただの烏合の衆の突撃と変わりません」

オルトリンデが、データを分析して同意する。

「それだけではない。個体ごとに、被弾率や撃破スピードに明確なバラつきがある。……つまり、彼ら生体兵器には『個体差(技量の差)』があるにもかかわらず、指揮官はその差を考慮した部隊配置を行っていないのだ」

ブリュンヒルデの鋭い指摘に、ブリッジの空気が一変した。

膨大な事務処理と予算管理で培われた彼女のデータ分析能力と、元来の戦術家としての眼力が、敵の偽りの脅威を見破ったのだ。

「なるほど……!」

ローゼリアの真紅の瞳に、明確な勝機が灯る。

「敵の総指揮官は、確かに十万の駒を動かしてはいる。じゃが、配下の駒の特性を活かすような高度な戦術など持ち合わせておらんのじゃ!」

犯罪組織がコピーし、量産した兵器群。

しかし、彼らは生きた人間が戦場で培う「泥臭い連携」や「個々の能力を補い合う戦術」の重要性を理解していなかったのだ。

「ただの性能任せの力押し……。それならば、帝国軍の正規艦隊でも、十分に対処できる!」

ローゼリアが力強く拳を机に叩きつける。

「問題は、敵の部隊を束ねている『指揮官機』じゃ。あいつらが強力な性能で前線をこじ開けるから、他のポンコツな駒どもが雪崩れ込んでくる。……ならば、我々戦乙女がやるべきことは一つ!」

ローゼリアは、一五〇の光点が点滅する星系図を睨み据えた。

「一五〇箇所すべてを守る必要はない。我々は、各戦場に展開している敵の『指揮官機(核)』のみをピンポイントで強襲し、叩き斬る! 指揮官を失い、完全に統制を失ったただの烏合の衆ならば、後は帝国軍の包囲網で確実にすり潰せる!」

「斬首作戦、というわけですわね!」

ランドグリーズが、好戦的な笑みを浮かべて銃のシリンダーを回す真似をする。

「その通り! 敵が百五十面指しを仕掛けてくるなら、こちらはその百五十の盤面の『王』だけを最速で刈り取ってやるのじゃ!」

ローゼリアの言葉に、戦乙女たちの目に強い決意と闘志が戻った。

絶望的だと思われた盤面に、明確な「勝ち筋」が見えたのだ。

「よし、作戦は決まったわね! 私が帝国軍のデータリンクと同期して、全一五〇箇所の戦場から敵の指揮官機とおぼしき強力な熱源を随時割り出すわ! みんなは、私のナビゲートに従って、そこへ超高速で突入してちょうだい!」

アルティナがコンソールに向かい、猛烈な勢いでタイピングを開始する。

「お任せください、殿下。私たちの機動力をもってすれば、一五〇の首を刎ねるなど造作もありません」

ウルスラが胸に手を当てて深く一礼する。

「……頼もしい限りじゃ。じゃが」

ローゼリアは、ふと視線を逸らし、部屋の隅で腕を組んでいる整備班長フィーネを見た。

「……フィーネ。妾の、新しいルシフェルは」

その問いに、ブリッジの空気が一瞬だけ静まり返る。

先日の報告では、ルシフェルの再建造はまだ三割程度しか進んでいないはずだった。

主が機体を持たずして、どうやってこの百五十の戦場を駆け抜けるのか。

フィーネは、咥えていたロリポップキャンディをガリッと噛み砕き、ニヤリと凶悪な笑みを浮かべた。

「……てめェなら、こんな状況になったら絶対に『私にも出撃させろ』って駄々をこねると思ってたぜ。限界ゲーマーの死神様よ」

フィーネは、手元のタブレットを操作し、メインモニターに一つの機体のデータを映し出した。

「装甲はペラペラ、武装も最低限、居住性なんか最悪のゼロだ。だが……『機動力』と『古代フレームの魔力伝導率』だけは、前のルシフェルの百二〇パーセント増しにチューンナップしてある。……たった今、組み上がったばかりの『未完成の化け物』だ」

モニターに映し出されたのは、装甲が剥き出しで、内部の赤黒い魔力回路が異常な脈動を見せている、まさに骨組みだけの異形の機体であった。

「……フィーネ!」

ローゼリアの瞳が、歓喜に見開かれる。

「言っとくが、安全装置リミッターなんて概念は積んでねェ! 操縦を少しでもミスれば、機体ごと空中分解しててめェの体は宇宙の塵だ! 乗りこなせるのか!?」

フィーネの挑発的な問いに、ローゼリアは不敵に、そして最高に楽しげな笑い声を上げた。

「愚問じゃな! 誰に向かって口を利いておる! 妾はローゼリア・エーベルヴァイン、銀河最強の死神じゃぞ!」

ローゼリアは、白を基調とした制服の襟を正し、戦乙女たち全員を見渡した。

「総員、出撃準備! 帝国を土足で踏み荒らす犯罪組織のポンコツどもに、本物の『戦術』というものを叩き込んでやるのじゃ!」

『『『——応!!!』』』

六つの極彩色の翼と、未完成の漆黒の悪魔。

理不尽な物量戦を完全に覆すべく、戦乙女たちは怒涛の反撃へとその身を投じるのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ