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追放皇女の異世界戦記  作者: 浅井川亘


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第三幕 第十五話:六柱の神々と、禁忌の人造人間兵団

宇宙の観測限界のさらに外側。

我々の知る物理法則や時間の概念すら存在しない、純粋な情報とエネルギーのみで構成された絶対の領域——『管理システム中枢・円卓』。

果てしなく広がる純白の虚空に、巨大な六本の「光の柱」が等間隔に立ち並んでいた。

本来、この円卓には七本の柱が存在し、宇宙の全セクターを分担して管理・調律する役割を担っていた。しかし現在、そのうちの一本——『第四区画セクター・フォー』を担当していた柱は、根元から無惨に砕け散り、完全に光を失っている。

『——同期完了。第四区画管理者のメインコア、完全消滅を確認。バックアップ・プロトコルへの移行も失敗。……対象は完全に「削除デリート」されました』

第一の柱から、性別も感情も持たない無機質な合成音声が響き渡る。

『システムに深刻なエラー。我々「管理者」の一柱が、下位次元の存在……ただの人間によって物理的に破壊されるなど、計算式に存在しない事象です』

第三の柱が、ノイズを混じらせながら応答する。

『原因は明確です。特異点、ローゼリア・エーベルヴァイン。彼女の存在そのものが、この宇宙の因果律を書き換える「致命的なバグ」として機能し始めています』

第二の柱が冷徹に状況を分析した。

彼ら管理者は、直接的な手出しを禁じられたシステムのルールに則り、これまで特異点の排除を試みてきた。

暗躍組織への間接的支援、宇宙生物(星喰い)の誘導、そして軍事演習への幾何学兵器の投入と、ルシフェルからの強制射出パージ

第四区画管理者は、特異点の肉体的な脆弱性という「絶対の弱点」を突き、最も論理的な手段で彼女を追い詰めたはずだった。

『……しかし、特異点は他者パーティメンバーとの「感情的な結合(絆)」という、システムには計り知れない非論理的エネルギーを利用して中枢コアを破壊しました。もはや、彼女を「単一のバグ」として処理することは不可能です』

第五の柱が結論を述べる。

『同意します。特異点と、それに連なる六機の古代フレーム(戦乙女)。彼女たちが一箇所に集結した際の突破力は、我々の防衛プロトコルを凌駕しています』

第六の柱が光を明滅させた。

『ならば、解決策は一つ。……彼女たちを「一箇所に集結させない」ことです』

最後に、第七の柱が最も冷酷な提案を放った。

『特異点の思考回路——所謂「プレイヤースキル」は、戦局を完全に支配しようとする傲慢さに裏打ちされています。彼女は常に「誰も死なせない完全勝利」を目指している』

『その通りです。ならば、その処理能力キャパシティを物理的にオーバーフローさせればよい。守るべき拠点を同時に、かつ無数に攻撃し、彼女の防衛リソースを強制的に分散させるのです』

光の柱たちの間で、恐るべき演算が瞬時に交わされ、新たな『特異点排除シークエンス』が構築されていく。

『実行手段は、すでに第四区画管理者が仕込みを終えていた「歴史的負債」を引き継ぎます。旧帝国封印指定宙域・第十三象限『深淵の宝物庫』のメインロックを強制解除』

第一の柱が、空間の中央に巨大なホログラムを展開した。

そこに映し出されたのは、冷たい宇宙の深淵で、三百年の長きにわたり封印されていた巨大な要塞施設。旧帝国が作り上げた禁忌の実験場である。

『プロジェクト・コード【人造人間ホムンクルス】。……旧帝国が全銀河を支配するために生み出した、究極の兵士たち』

『彼らは生身の人間でありながら、個体差はあるものの、常人を遥かに凌駕する反射神経と強靭な筋力を持つように遺伝子調整されています。さらに、彼ら専用に開発された量産型マギアナイト『レギオン』が配備されており、機体とリンクすることで真の力を発揮します』

『注目すべきは、その組織構造です。彼らは単なる烏合の衆ではなく、全軍を統括する『総指揮官』を頂点とし、大隊、中隊、小隊、分隊それぞれに高度な戦術的判断を下せる核となる指揮官個体が設定されている。完全なる指揮系統を持った、感情なき精鋭軍隊です』

『現在、施設内には約十万体のホムンクルスと、同数の専用機『レギオン』がコールドスリープ状態にあります』

『承認。十万の【レギオン】部隊を全機覚醒。帝国の主要惑星、防衛拠点、および民間居住区の『全一五〇箇所』へ向けて、同時多発的な無差別侵攻作戦を実行します』

彼らの狙いは極めて悪辣であった。

ローゼリアと戦乙女たちが、どれほど強大な力を持っていようと、彼女たちはたった「七人」しかいない。

一五〇箇所の惑星で、強力な身体能力を持つ指揮官に率いられた人造人間の軍隊が同時に殺戮を始めれば、物理的にすべてを守り切ることなど不可能である。

帝国軍の艦隊も対応に追われ、戦線は完全に崩壊する。

一つ、また一つと燃え上がる星々を前に、自らの無力さを思い知り、特異点の精神は完全に折れるだろう、という残酷な演算結果。

『——特異点よ。お前の愛する世界が、同時に悲鳴を上げる音を聞くがいい』

『これより、最終排除シークエンスを開始。……禁忌の扉を、解放する』

六柱の管理者たちの意志が完全に統合され、高次元領域から三次元宇宙の『深淵の宝物庫』へと、不可視の再起動信号が放たれた。

帝国外縁、絶対封印指定宙域・第十三象限。

光すら届かない暗黒の宙域に浮かぶ超巨大な要塞施設『深淵の宝物庫』。

三百年間、完全に沈黙していたその巨大な金属の塊の内部で、突如として無数の赤いアラートランプが点灯し始めた。

『……外部からの強制オーバーライドを受信。メインシステム、再起動』

『コールドスリープ区画、凍結解除プロセスを開始します』

埃を被っていた無機質な巨大空間。

壁面を埋め尽くすように立ち並ぶ、数万にも及ぶ円筒形の培養カプセル。

その一つ一つの内部を満たしていた冷却液が、低い駆動音と共に次々と排出されていく。

プシュゥゥゥッ……!

ハッチが一斉に開き、中から白煙と共に姿を現したのは、全員が銀髪に赤い瞳を持つ少年少女たちの姿であった。

無表情。無感情。その瞳には、人間らしい温かな光すら宿っていない。

だが、その中央。他よりも一回り大きく、重厚な装飾が施されたカプセルから歩み出た一人の銀髪の青年が、ゆっくりと目を開いた。

彼こそが、十万のホムンクルスを束ねる『総指揮官』であった。

「……プロトコルを受領。我々の目覚めを祝福する」

青年の声は低く、感情の起伏はないが、そこには確かな「知性」と「統率力」が感じられた。

彼が軽く手を上げると、広大な空間に並ぶホムンクルスの中から、大隊、中隊、小隊、分隊の核となる指揮官個体たちが、それぞれ自らの部隊の前に立ち、完璧な敬礼の姿勢をとった。

「第一大隊、オンライン。準備完了」

「第五中隊、システム同調。機体への搭乗に移行します」

指揮官たちの報告が、ネットワークを通じて総指揮官の脳内へと瞬時に集約されていく。

彼らは心を持たないが、戦術を理解し、部隊を動かす高度な処理能力を与えられているのだ。

「全軍に告ぐ。我らの矛たる『レギオン』を起動せよ。目標……アエテルガルド帝国全域の、全生体反応の殲滅」

総指揮官の命令が下された瞬間。

要塞の奥深くに眠っていた十万機の専用機『レギオン』のカメラアイが、一斉に不気味な紫色の光を放ち始めた。

汎用の量産機とは異なる、ホムンクルスの異常な反射神経と筋力に完全にアジャストされた、禍々しい刺々しい装甲を持つマギアナイト。

彼らは一切の混乱を交えることなく、完璧な陣形を組んで機体へと搭乗し、要塞内部の出撃ゲートへと向かって歩き始めた。

十万のレギオンを運ぶための巨大な無人降下艇が、次々とカタパルトにセットされていく。

見えざる神の悪意によって封印を解かれた、過去の帝国の負の遺産。

指揮官の統制下で完璧に動く十万の殺戮兵器が、平和の微睡みにあった帝国全土を恐怖のどん底に叩き落とすべく、一斉に暗黒の宙域から放たれようとしていた。

同じ頃。

帝都アエテルガルド、皇宮のフェイトの執務室。

「(……ちっ、なんじゃこの嫌な予感は)」

書類の山を片付け終え、フェイトが淹れてくれた極上の紅茶を傾けていたローゼリアは、突如として背筋を駆け抜けた強烈な悪寒に、ピタリと動きを止めた。

ティーカップの紅茶が、微かに波打っている。

「どうしました、ローゼリア? 紅茶の温度が熱すぎましたか?」

フェイトが小首を傾げる。

「……いや。バハムート、先ほどの『深淵の宝物庫』の観測データ、更新されておらんか?」

ローゼリアは、ティーカップを乱暴にテーブルに置き、腕の端末を起動した。

『——マスター。たった今、帝国軍の早期警戒網より最優先アラートを受信。……第十三象限の封印要塞より、数万規模の強襲降下艇が出撃した模様です』

「なんじゃと!?」

ローゼリアがガタッと椅子から立ち上がる。

『さらに、目標の軌道予測が完了。……降下艇の群れは、完璧に統制されたフォーメーションを組み、帝都アエテルガルドを含む、帝国領内の全一五〇箇所の惑星および民間居住区へ向けて散開しています。到達まで、あと七十二時間』

「一五〇箇所への同時降下……!? 狙いを絞らず、すべてを無差別に攻撃する気か!」

フェイトの顔色が一瞬で蒼白になった。

「なるほどな。妾たち一箇所に戦力を集中させれば突破されるから、今度は『盤面全体』に火を放って、妾の処理能力リソースをパンクさせようという腹積もりか。しかも烏合の衆ではない。明確な指揮系統を持った軍隊の動きじゃ」

ローゼリアは、ギリッと奥歯を噛み締めた。

「姉上! すぐに帝国全軍に第一級防衛態勢を発令せい! 民間人のシェルター避難を最優先じゃ!」

「え、ええ! 直ちに手配します! ですが、一五〇箇所同時となると、帝国軍の艦隊を分散させても到底守りきれません……!」

覇王であるフェイトの顔に、明確な絶望の色が浮かぶ。

「諦めるな、姉上。……敵が盤面全体を使って理不尽な物量戦を仕掛けてくるというのなら」

ローゼリアの真紅の瞳に、極限状態の限界ゲーマー特有の、冷たく、そして熱い闘志の炎が宿る。

「妾が……いや、我々『戦乙女ヴァルキュリア』が、その一五〇の戦場すべてに介入して、奴らの目論見を完全に叩き潰してやる!」

「ローゼリア、いくら貴女たちでも、たった七人で一五〇箇所は……それに、貴女のルシフェルはまだ……!」

「機体なら、フィーネが何とかする! 意地でも間に合わせるよう、団長経由で発破をかけるんじゃ!」

ローゼリアは、白い制服の裾を翻し、執務室の出口へと向かって駆け出した。

「(待っておれ、貴様らがどれだけ理不尽な状況を押し付けてこようと、妾が絶対に完璧な勝利をもぎ取ってやる!)」

銀河全土を巻き込む、過去最大の同時多発防衛戦。

ローゼリアと戦乙女たちは、息をつく暇もなく、次なる絶望の盤面へとその身を投じていくのであった。


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