第二幕 第七十七話:星喰いの波濤と、紅き血を拒む防壁
帝都アエテルガルドの絶対防衛線。
広大な宇宙空間に、帝国軍の全艦隊が展開し、超巨大な漏斗を模した陣形を構築していた。
『——第三、第四艦隊! 側面より一斉掃射! 敵群の横幅を削り、中央へ押し込め!』
帝国軍将軍の号令と共に、数万隻に及ぶ艦艇の主砲が一斉に火を噴く。
宇宙空間を切り裂く無数の光条が、真っ赤な宇宙生物『星喰い(ヴォイド・スウォーム)』の群れの側面に直撃した。
『ギシャァァァァァァッ!!』
巨大な甲虫と甲殻類を掛け合わせたような、おぞましい姿をした星喰いたちが、痛みにのたうち回りながら進路を修正する。本能的に砲撃の雨を避けようとする群れの習性を利用し、帝国艦隊は彼らの進行ルートを『中央の狭い宙域』へと強引に誘導していった。
そして、その誘導された先の宙域には。
「……来ましたね。視界のすべてが真っ赤に染まっています」
群青の『ミネルヴァ・アサルト』のコックピットで、ウルスラが全天周モニターを睨みつける。
迫り来る三百万の星喰いの波。それは、物理的な「壁」となって戦乙女たちにのしかかろうとしていた。
「怯むな! 打ち合わせ通り、リアンヌ、ランドグリーズ、ロスヴァイセは前に出ろ! 敵の波をせき止めるのじゃ!」
漆黒の悪魔『ルシフェル』のコックピットから、ローゼリアの号令が飛ぶ。
『『『承知!!』』』
真っ先に動いたのは、三機の防衛担当部隊であった。
「ローゼリアに、これ以上は一歩も近づけさせません!!」
純白の『ブラン・ゼファー』が最前線に躍り出る。
リアンヌは両手のツイン・ハルバードを頭上で旋回させ、宇宙空間に超広範囲の『風の防壁』を展開した。古代フレームの莫大な出力によって生み出された暴風の壁が、星喰いの先陣を物理的に弾き飛ばす。
「風の壁を抜けてきた個体は、私が処理します!」
ランドグリーズの『グリムゲルデ』が、ブラン・ゼファーの死角を補うようにして双発突撃銃を構えた。
バハムートAIの精密な演算リンクにより、彼女は敵の急所(眼球や関節の隙間)を完璧に捕捉。放たれた怒涛の弾幕が、迫り来る星喰いの外殻を次々と穿ち、宇宙空間に血飛沫を散らしていく。
「おっと、フィーネ殿の言いつけを忘れてはいけませんね。返り血はご免です!」
ロスヴァイセの『ヘルムヴィーゲ』が、分厚い装甲からさらに魔力シールドを全開にして突進する。
「まとめて叩き潰します!」
超重量の戦斧が振り下ろされると、空間そのものが歪むほどの質量攻撃が星喰いの群れを直撃し、数十匹の巨体がまとめてミンチ状にすり潰された。飛び散る体液と破片は、展開された魔力シールドによってすべて完璧に弾き返される。
『前衛組、見事な防衛線ね。私たちも仕事をしましょうか』
後方から、アルティナの『ハルファス・イクリプス』が、超長距離マナ・スナイパーを構える。
「バハムート、敵群の群体行動を統率している個体を割り出して!」
『——スキャン完了。特定の指揮個体から発せられる特殊なフェロモン波長を検知しました』
「そこね! オルトリンデ、私のジャミングに合わせて指揮個体を抜いて!」
「了解しました。……風向き良し、空間歪曲なし。撃ち抜きます」
アルティナがハルファスの電子妨害を最大出力で放ち、星喰いの群れが情報伝達を乱されて一瞬動きを止める。
その絶対的な隙を突き、オルトリンデの『ジークルーネ』が放った不可視の狙撃弾が、群れの奥深くに潜んでいた巨大な指揮個体の頭部を正確に撃ち抜いた。
指揮個体を失い、統制が崩れて同士討ちを始める星喰いの群れ。
「完璧じゃ。敵の足が完全に止まったぞ」
ローゼリアは、全天周モニターの視界いっぱいに広がる敵の混乱を見逃さなかった。柔らかいシートに背中を預けたまま、操縦桿のトリガーに指をかける。
「さて、ここからが狩りの本番じゃ。ウルスラ! 妾と共に敵陣の中央をぶち抜くぞ!」
「お待ちしておりました! ミネルヴァ・アサルト、出ます!」
戦場の中央。
防衛線と電子戦によって足止めされ、密度が極限まで高まった星喰いの群れの中へ、二筋の光が弾丸のように飛び込んだ。
「邪魔です! 道を開けなさい!」
ウルスラのミネルヴァ・アサルトが、脚部の爆発反応装甲型スラスターを起爆させた。
凄まじい反動が機体を蹴り出し、通常ではあり得ない超絶変態機動で敵の密集地帯へと肉薄する。
『ギジャァァァッ!』
巨大な星喰いが、ウルスラを捕食しようと鋭い大顎を開いて迫る。
「装甲の厚さは関係ありません。貫きます!」
ミネルヴァの左腕、極大出力のパイルバンカーが打ち出される。
分厚い甲殻ごと星喰いの巨体を一撃で串刺しにし、さらにその内部で火薬と魔力を爆発させる。敵は内側から弾け飛び、四散した。
ウルスラは、返り血を浴びないようにバハムートAIの姿勢制御をフル活用し、飛び散る体液の隙間を踊るようにしてすり抜けていく。
「ウルスラ、少し動きが硬いぞ! もっと大胆に踏み込め!」
後方から、漆黒の悪魔『ルシフェル』が圧倒的な速度で追従してくる。
「ローゼリア! ですが、これ以上は敵の密度が……!」
「機体を信じるのじゃ! 妾の新しい力を見せてやる!」
ローゼリアは、ルシフェルの背部に搭載された自律可動砲台をすべて宇宙空間へと解き放った。
「行けい! 妾の翼たちよ!」
数十の漆黒の砲台群が、ローゼリアの思考と完全にリンクし、ウルスラの前方に立ちはだかる星喰いの群れへと一斉に襲い掛かる。
全天周モニターに映し出される、三百六十度の圧倒的な情報量。
しかし、ローゼリアの超絶的な処理能力は、そのすべてを把握し、最適解を導き出していた。
「右舷前方、三体。左舷上方、五体。……すべて撃ち落とせ」
自律可動砲台から放たれる無数の真紅のレーザーが、星喰いの急所を的確に貫いていく。
ローゼリア自身は操縦桿を動かすことなく、思考のみで周囲の空間を完全に制圧していた。近づく敵がいれば、ルシフェルの両肩の巨大なクローアームが、虫を払うかのように無造作に握り潰す。
『すごい……! ローゼリアの展開する火力網で、敵の群れがみるみるうちに削られていきます!』
後方から狙撃を続けていたオルトリンデが、感嘆の声を上げる。
「当然じゃ。この機体のレスポンスなら、妾の思考の速度に完全に追いついておる。三百万だろうが、ただの作業に過ぎん!」
圧倒的。
その一言に尽きた。帝国軍の全艦隊が支援に回っているとはいえ、たった七機のマギアナイトが、星を喰らう自然災害を完全に押し返し、蹂躙していたのである。
『——ローゼリア殿下! 見事です! 我々帝国軍も負けてはいられません! 全砲門、戦乙女の射線を避けて一斉射撃!』
通信越しに、帝国軍の将軍たちが歓喜の声を上げる。
戦局は完全に戦乙女と帝国軍に傾いていた。
このままいけば、数時間後には三百万の群れはすべて宇宙の塵へと変わるはずだった。
だが、あの「管理者」が用意した盤面が、ただの単純な物量戦で終わるはずがなかった。
戦闘開始から一時間が経過しようとした頃。
順調に数を減らし続けていた星喰いの群れの奥深くから、突如として『異常な魔力反応』が膨れ上がった。
『——警告。敵群の中心部より、規格外の高エネルギー反応を検知。これまでの個体とは比較にならない出力です!』
バハムートの合成音声が、緊急アラートと共に響き渡る。
「なんじゃと?」
ローゼリアが全天周モニターのズーム機能を起動する。
星喰いの群れが、まるでモーセの海のように左右に割れた。
その奥から姿を現したのは、他の個体よりも十倍以上は巨大な、漆黒の外殻を持った『特異個体』であった。
その全身には、第十三宙域の幽霊船で見たものと同じ、不気味な紫色の『厄災の魔力結晶』がびっしりと寄生し、脈打っている。
「あれは……厄災の遺物の魔力!?」
リアンヌが驚愕する。
「なるほどな。ただの自然災害ではない。あやつ、群れの中に遺物の欠片を飲み込ませて、強引に変異させた個体を仕込んでおったか!」
ローゼリアが舌打ちをする。
『グルルルォォォォォォォッ!!!』
特異個体が、宇宙空間を震わせるほどの咆哮を上げた。
その瞬間、特異個体の背中から生えた無数の紫色の結晶から、極太の魔力レーザーが無差別に放射された。
「しまっ……! 総員、回避じゃ!!」
ローゼリアの叫びと同時。
特異個体の放ったレーザーの雨が、戦乙女たちの陣形を乱し、さらに後方で防壁を構築していた帝国艦隊の魔力シールドに直撃した。
『ぐあっ!? 第一艦隊、シールド出力低下! 防壁が保ちません!』
『第三艦隊、被弾! 装甲が溶かされています!』
帝国軍の通信回線に、悲鳴が飛び交う。
「あの化け物、艦隊の防壁を破る気ね! このままじゃ漏斗の陣形が崩れて、群れが帝都に雪崩れ込むわ!」
アルティナがタブレットを叩きながら焦燥の声を上げる。
「陣形を崩させるわけにはいかん! 帝国軍はそのまま防壁の維持に努めよ! あの親玉は、妾が叩く!」
ローゼリアは、ルシフェルの全スラスターを最大出力で吹かし、特異個体へと真っ直ぐに突進した。
「ローゼリア、一人では危険です! 私も行きます!」
リアンヌのブラン・ゼファーが、風の防壁を纏ってルシフェルの隣に並び立つ。
「ウルスラ、防衛線は私たちが引き継ぎます! あなたもローゼリア殿下の元へ!」
ロスヴァイセとランドグリーズが、前衛の隙間を埋めるようにして立ちはだかる。
「了解しました! お二人の背中は、私が守ります!」
ウルスラのミネルヴァ・アサルトも、爆炎を上げてローゼリアの後を追った。
三機の戦乙女が、厄災の魔力を纏う特異個体へと迫る。
『ギジャァァァァァッ!!』
特異個体は、迫り来る三機を消し飛ばそうと、口内に紫色の超高密度エネルギーを収束させ始めた。
幽霊船のコアが放ったものと同等の、一撃で艦隊を消滅させるほどの極太の荷電粒子砲。
「撃たせるか! ウルスラ、右の死角を突け! リアンヌは正面から防壁で受け流せ!」
「承知!」
ウルスラが右側面へ回り込み、パイルバンカーの射程に捉えようとする。
リアンヌはルシフェルの前に立ち塞がり、両手のツイン・ハルバードを重ね合わせて最大の風の防壁を展開した。
だが。
特異個体の瞳が、禍々しく赤く発光した。
特異個体が放ったのは、荷電粒子砲ではなかった。
口内に収束させていた魔力を、突如として自らの周囲の『空間』へと爆発的に放射したのである。
『——警告。周囲の空間に、極めて強力な重力異常が発生。機体の制御が——』
バハムートの音声がノイズにまみれる。
「なっ……重力場の展開じゃと!?」
ローゼリア、リアンヌ、ウルスラの三機は、特異個体を中心に発生した不可視の超重力場に捉えられ、機体の動きを完全に封じられてしまった。
全身の骨が軋むほどの圧倒的な重力が、柔らかいシート越しにローゼリアを押し潰そうとする。
『グガァァァァッ!』
身動きの取れなくなった三機を見下ろし、特異個体は今度こそ、その巨大な口内に致命的な荷電粒子砲のエネルギーを収束させ始めた。
「(……くそっ。この重力場では、自律可動砲台も展開できん……!)」
ローゼリアは操縦桿を動かそうとするが、古代フレームの莫大な出力をもってしても、重力の檻を抜け出すことはできない。
絶体絶命の危機。
だが、銀河最強の死神の部下たちは、決して諦めることはなかった。
『——させないわよ、この化け物!』
後方遥か彼方。
重力場の範囲外から、アルティナのハルファス・イクリプスが、超長距離マナ・スナイパーの銃身を限界まで展開し、特異個体の巨大な口内へと照準を合わせていたのである。
『バハムート! 狙撃の演算リソースをすべてハルファスに集中! オルトリンデ、私の射線をアシストして!』
紫色の瞳を鋭く細め、アルティナが超長距離マナ・スナイパーの引き金に指をかける。
『了解しました。重力場による空間の歪曲率、修正完了。……アルティナ殿、今です!』
オルトリンデの『ジークルーネ』が、アルティナの狙撃軸を安定させるための魔力レーザーを先導するように放つ。
その光の道をなぞるように、アルティナは引き金を引いた。
「電子の海の魔女の狙撃、躱せるものなら躱してみなさい!」
ハルファス・イクリプスの銃身から放たれた極太の紫電のビームが、宇宙空間を一直線に切り裂く。
超重力場を展開し、圧倒的な優位に立っていた特異個体は、その一撃を回避することができなかった。なぜなら、その巨大な口内には、今まさに放とうとしていた荷電粒子砲の莫大なエネルギーが収束しきっていたからだ。
ズガァァァァァァンッ!!!
アルティナの狙撃弾が、特異個体の口内のエネルギー球に寸分の狂いもなく直撃する。
臨界点に達していたエネルギーが内側で暴発し、特異個体の頭部から紫色の爆炎が盛大に噴き出した。
『ギ、ギギャアアアアアアッ!?』
特異個体が苦痛にのたうち回り、その背中の結晶が明滅を失う。
同時に、ローゼリアたちを縛り付けていた不可視の超重力場が、ガラスが割れるようにあっけなく四散した。
「大儀じゃ、アルティナ、オルトリンデ! 見事な連携じゃ!」
ローゼリアは、解放されたルシフェルの操縦桿を強く握り直した。体を包み込む柔らかいシートが、重力の解放による急激な反動を優しく吸収してくれる。
「重力の檻は消えた! 反撃の開始じゃ! ウルスラ、リアンヌ! 一気に決めるぞ!」
「承知!!」
「我が主の命のままに!」
三機の戦乙女が、態勢を崩した特異個体へと猛烈な速度で襲い掛かる。
「これ以上、ローゼリアの道を阻むことは許しません! 《ゼファー・ストライク》!」
純白の『ブラン・ゼファー』が、特異個体の周囲を竜巻のように飛び回る。リアンヌの両手に握られたツイン・ハルバードが、特異個体の背中に寄生する紫色の結晶を根元から次々と斬り飛ばし、重力場の再展開を完全に封じた。
「装甲の隙間、いただきます!」
群青の『ミネルヴァ・アサルト』が、リアンヌが切り開いた死角から懐へと潜り込む。
ウルスラは脚部のスラスターを最大出力で吹かし、特異個体の最も分厚い胸部の甲殻へと、極大出力のパイルバンカーを打ち込んだ。
火薬と魔力の爆発が、強靭な外殻を粉砕し、その奥に隠されていた致命的な弱点——脈打つ巨大な紫色の核を露出させる。
「よくやった! あとは妾が仕留める!」
ローゼリアの思考に呼応し、ルシフェルの背部から射出された無数の自律可動砲台が、特異個体の周囲を球状に包囲する。
「全砲門、一斉掃射!」
全天周モニターに映し出される三百六十度の視界。そのすべての砲台から、一斉に真紅のレーザーが降り注いだ。
逃げ場のない光の檻に閉じ込められ、特異個体はその巨体をボロボロに崩していく。
そして、ローゼリアはルシフェルの両肩に装備された巨大なクローアームを大きく振りかぶった。
古代フレームの圧倒的な魔力を両腕に集中させ、真紅に発光する爪を、特異個体の露出した核へと強引に突き立てる。
「他人の手駒に成り下がり、理不尽を押し付けるだけの輩は……妾が完全に粉砕してやるわい!」
メキィィィッ!!
ルシフェルのクローアームが、特異個体の核を完全に握り潰した。
その瞬間、特異個体の巨体は内側から強烈な光を放ち、宇宙空間に紫色の爆発の花を咲かせて完全に消滅した。
『……特異個体の魔力反応、完全消失。敵の指揮系統が完全に崩壊しました』
バハムートの静かな音声が、勝利を告げる。
「よし! 親玉は討ち取ったぞ!」
特異個体が消滅したことで、群れを統率していた特殊なフェロモンが完全に途絶えた。
これまで一直線に帝都を目指していた三百万の星喰いの群れは、突如として進むべき方向を見失い、パニックを起こして同士討ちを始め、散り散りになっていく。
『——特異個体の消滅を確認! 戦乙女の皆様、素晴らしい戦果です!』
通信越しに、帝国軍の将軍たちが歓喜の声を上げる。
『全艦隊、反転して散開する敵群を各個撃破せよ! これより先は、一匹の害虫も帝国の宙域に入れるな!』
フェイト女帝の号令と共に、帝国艦隊が包囲網を狭め、統制を失った星喰いの群れへの掃討戦を開始した。
もはや、そこに星系を揺るがすほどの脅威はない。
戦乙女と帝国軍による、一方的な駆除作業へと変わっていた。
### 凱歌と、柔らかなシートの中の死神
数時間後。
帝国外縁宙域を埋め尽くしていた真っ赤な波は、文字通り宇宙の塵となって完全に消滅していた。
帝国軍の被害は、特異個体の奇襲による数隻のシールド破損のみ。奇跡とも呼べる、完全なる勝利であった。
『……全宙域の生体反応、ゼロ。これにて、星喰い殲滅作戦の完了を宣言します』
オルトリンデのオペレートが、エインヘリアルの通信回線に響き渡る。
「ふぅ……。終わったか。単調な物量戦は指が疲れるのう」
ローゼリアは、ルシフェルのコックピットで大きく伸びをした。
全天周モニターには、平和を取り戻した美しい星空と、勝利の歓声を上げる帝国艦隊の光が映し出されている。体を包み込む柔らかいシートが、戦闘の疲労を優しく癒してくれた。
『ローゼリア、ご無事で何よりです! 機体の損傷はありませんか?』
リアンヌのブラン・ゼファーが、真っ先にルシフェルの隣へと寄り添ってくる。
「当然じゃ。フィーネの仕上げたこの機体、傷一つ付いておらん。……お主たちも、見事な立ち回りじゃったぞ」
『勿体なきお言葉。あなたの盾として、これ以上の喜びはありません』
「さあ、帰るぞお前たち。フィーネが首を長くして待っておるじゃろうからな」
七機の戦乙女は、帝国艦隊からの万雷の拍手と敬礼の通信を背に受けながら、母艦エインヘリアルへと帰還の途についた。
### エインヘリアルの日常と、次なる盤面の予感
エインヘリアルのメインドック。
無事に帰還した七機のマギアナイトを待っていたのは、腕を組んで仁王立ちする整備班長フィーネであった。
「……おう、帰ってきたな。一応、五体満足みたいじゃねェか」
フィーネは鋭い視線で七機の装甲を舐め回すようにチェックする。
「うむ。お主の言いつけ通り、返り血は一滴も浴びておらんぞ。防壁の展開と回避運動は完璧じゃったからな」
ローゼリアが、機体から降りてジャージ姿に戻りながら得意げに胸を張る。
「フン。当然だ。アタシが徹夜で組み上げた最高傑作だからな。……まあ、よくやった。装甲の拭き掃除をしなくて済むのは助かるぜ」
フィーネは口元にわずかな笑みを浮かべ、スパナを肩に担ぎ直した。
「だが、古代フレームの限界出力を引き出したせいで、各部のジョイントはガタガタだ。今夜もアタシは徹夜でオーバーホールだな。……約束の特別ボーナス、忘れるんじゃねェぞ」
「分かっておる。たっぷりと弾んでやるから、ゆっくり休むのじゃな」
ローゼリアがポンとフィーネの肩を叩く。
一方、艦長室では。
「……作戦完了の報告、および帝国軍からの特別報酬の受け取りを確認しました。団長、やりましたね!」
アルティナが、タブレットを片手に弾むような声で報告する。
「ああ……。帝都の平和が守られたのは何よりだ」
ブリュンヒルデ団長は、デスクの上にうず高く積まれた『戦闘用弾薬の追加発注書』や『帝国軍との連携作戦に関する事後報告書』の山を前に、完全に生気を失った瞳で虚空を見つめていた。
「アルティナ……。敵を倒せば倒すほど、どうして書類の山は増えていくのだろうな……。宇宙の真理とは、かくも残酷なものなのか……」
「だ、団長、しっかりしてください! 胃薬、新しいの開けますから!」
相変わらずの事務戦線に悲鳴を上げるブリュンヒルデをよそに、ローゼリアは一人、ブリッジの窓から星の海を見つめていた。
「(……『管理者』よ。今回は自然災害という盤面のギミックを利用して妾を排除しようとしたが、それすらも凌がれた気分はどうじゃ?)」
ローゼリアの真紅の瞳に、好戦的な光が宿る。
直接的な干渉を禁じられている高次元の存在が、次々に間接的な罠を仕掛けてくる。それは裏を返せば、管理者がシステムの中で「追い詰められている」証拠でもあった。
「(次はいかなる理不尽を押し付けてこようと、妾と七つの翼がすべて粉砕してやる。……さあ、次のターンはお前の番じゃぞ、引きこもりの神様よ)」
銀河最強の死神は、不敵な笑みを浮かべ、迫り来る次なる脅威の気配を静かに待ち受けていた。
戦乙女たちの名声は星海に響き渡り、彼女たちの絆はさらに強固なものとなっていく。
終わりのないゲームの行方は、まだ誰にも分からない。




