第二幕 第六十四話:理不尽なる神の代行者と、死神の攻略法
エーベルヴァイン帝国防衛線の要衝、第八星区『絶対防衛要塞イージス』。
かつて、いかなる星間国家の侵攻をも退け、数万の敵艦隊を相手に数ヶ月の籠城戦を戦い抜いた実績を持つその不落の要塞は今、建軍以来最悪の絶望の淵に立たされていた。
宇宙空間に顕現した、身の丈数百メートルに及ぶ異形の巨大天使。
十八枚の光の翼を展開し、顔の中央に巨大な『眼球』を埋め込んだその姿は、先ほどまで戦乙女たちが死闘を繰り広げていた三機の『執行者』が融合し、第二形態へと移行した、高次元の破壊兵器の真の姿であった。
『——警告。局地制圧用端末の全損を確認。これより、特異点排除プロトコルを「世界初期化」に引き上げる。限界出力、解放』
空間そのものを震わせる絶対的な思念波と共に、巨大天使の眼球に強烈な光が収束していく。それは、イージス要塞はおろか、第八星区全体を文字通り「無」へと還すための、理不尽極まりないチャージ行動であった。
「……くくっ。最高じゃないか。ボスのHPバーを削り切ったと思ったら、全回復して巨大化するテンプレ展開。ゲーマーの血が騒ぐというものじゃ!」
漆黒の堕天使『ルシフェル』のコックピットで、ローゼリア・エーベルヴァインは歓喜の笑みを深めていた。左腕の機能を失い、全身の装甲がボロボロになりながらも、彼女の真紅の瞳は決して絶望に染まることはない。
『ローゼリア! 笑っている場合じゃありません! あの巨大な眼球のエネルギー反応、これまでの比じゃありません!』
純白の騎士機『ブラン』を駆るリアンヌ・ヴァーミリオンが、警告を発する。
『ええ、このままじゃ要塞ごと宇宙の塵よ! どうするの!?』
アルティナ・アスフィの『ハルファス』も、激しくアラートを鳴らしている。
「どうするも何もない。敵が全体即死攻撃の詠唱に入ったのなら、それを上回る火力(DPS)で叩き潰して詠唱を止めるのがセオリーじゃ。……とはいえ、今の妾たち四機だけでは、少々手数が足りんのも事実じゃな」
ローゼリアがスロットルを握り直した、その時であった。
**——ズガガガガガガガッ!!!**
巨大天使の光の翼の一つが、突如として横合いから降り注いだ猛烈な実弾の豪雨によって激しく弾かれた。
『——特異点排除プロトコルだと? ふざけた寝言をほざくな、ブリキの化け物!』
通信回線に飛び込んできたのは、戦乙女の頼れる仲間たちの声であった。
エインヘリアルのカタパルトから、さらに三筋の光が戦場へと射出され、ローゼリアたちの両翼に並び立つ。
「ランドグリーズ! ロスヴァイセ! オルトリンデ!」
ウルスラが、群青の『ミネルヴァ』のコックピットで歓喜の声を上げた。
『団長からの命令だ! 本星からの増援を待つ暇はない。我々エインヘリアル直掩部隊も、全力で死神の露払いを行え、とのことだ!』
高機動強襲機『グリムゲルデ』を駆るランドグリーズが、双発の突撃銃を構えながら不敵に笑う。
『あんなデカブツに好き勝手されてたまるか! 私の装甲で、少しでも隙を作ってやる!』
重装甲格闘機『ヘルムヴィーゲ』に搭乗するロスヴァイセが、自機の身の丈ほどもある巨大な戦斧を振り回す。
『……目標、巨大天使のコア。狙撃支援、開始します』
母艦のオペレーターでありながら、凄腕の狙撃手でもあるオルトリンデの『ジークルーネ』が、遠距離から超長砲身の電磁狙撃砲を構えた。
「おおっ! 直掩部隊まで出てきたか! ブリュンヒルデの奴め、ついに胃壁を守るのを諦めたようじゃな!」
ローゼリアは頼もしい増援にパァッと顔を輝かせた。
「よし! 総員、妾に続け! あのクソデカい的の詠唱を止めるのじゃ!!」
『『『了解!!』』』
七機のマギアナイトが、宇宙空間に幾重もの光の軌跡を描きながら、巨大天使へと突撃を開始した。
『……演算開始。障害物の排除を実行する』
巨大天使が、十八枚の翼を不気味に羽ばたかせた。
その瞬間、宇宙空間のあらゆる方向に、黒い亀裂——事象を削り取る『空間切断』の断層が、網の目のように発生した。
「散開しろ! 軌道上の空間が裂けるぞ!」
ローゼリアの警告と同時に、七機は蜘蛛の子を散らすように回避行動をとる。
『遅いッ! 空間の歪みごと叩き斬る!』
ロスヴァイセの『ヘルムヴィーゲ』が、分厚い重装甲とスラスターの推力を限界まで引き上げ、空間切断の網の目を強引に突破しようとした。彼女の巨大な戦斧が、天使の翼の付け根に迫る。
だが、巨大天使の眼球がギョロリとロスヴァイセを睨みつけた。
『絶対防御・展開』
巨大な虹色の防壁が、ヘルムヴィーゲの眼前に出現する。
戦斧の渾身の一撃は、防壁に触れた瞬間に音もなく消滅し、その隙を突いて放たれた空間切断の刃が、ヘルムヴィーゲの四肢を無残に切断した。
『ぐあっ!? しまった……!』
「ロスヴァイセ!!」
『機体、制御不能! 脱出装置作動!』
コックピットブロックが強制排出され、宇宙空間へと射出される。ロスヴァイセは無事だが、ヘルムヴィーゲは爆散した。
『ロスヴァイセの仇! 喰らえ!!』
オルトリンデの『ジークルーネ』が、後方から正確無比な狙撃を天使の関節部へと放つ。
しかし、巨大天使が軽く手を振ると、オルトリンデの機体の周囲に局地的な『超重力場』が発生した。
『きゃあああっ!? 機体が……潰される!』
狙撃砲が飴細工のようにひしゃげ、ジークルーネの装甲がミシミシと圧壊していく。
『オルトリンデ、脱出しろ!』
ランドグリーズの『グリムゲルデ』が救出に向かおうとするが、重力の渦は容赦なくグリムゲルデをも飲み込み、二機は激しい火花を散らして沈黙した。
「オルトリンデ! ランドグリーズ!!」
ウルスラが悲痛な叫びを上げる。
脱出ポッドのシグナルは緑色に点滅しており、パイロットたちは軽傷で済んでいるようだが、戦乙女の戦力は一瞬にして半分にまで削られてしまった。
「(……なんてデタラメな攻撃じゃ。広範囲の空間切断、絶対防御、そして局地的な超重力。3つのチート能力を同時に、しかもラグなしで使ってきおる)」
ローゼリアは、ルシフェルを乱数回避させながら、冷静に状況を分析していた。
「(……いや、違う。よく見ろ。あいつの能力の切り替えには、わずかだが必ず『瞬き』の動作が入っておる!)」
ローゼリアのゲーマーとしての異常な観察眼が、巨大天使の顔に埋め込まれた眼球の動きを捉えた。
空間切断を使う時、防御を展開する時、重力を操る時。その能力を切り替えるコンマ数秒の間、巨大な眼球は必ず一度だけ瞬きをし、その瞬間だけエネルギーの供給が途切れているのだ。
「みんな、聞け! あのクソボスの弱点は『目』じゃ! 能力を切り替える瞬間の、瞬きをしている間だけ、あいつの絶対防御は無効化される!」
ローゼリアの通信が響き渡る。
『瞬きの間だけ……!? そんなコンマ一秒の隙、どうやって突けって言うのよ!』
アルティナがハルファスを操りながら叫ぶ。
「こっちから強制的に瞬きをさせて、防御を剥がすのじゃ! ウルスラ、重力場を強引に破壊できるか!?」
『ミネルヴァのパイルバンカーの予備弾は、あと一発……。やります! 重力の核を直接粉砕します!』
ウルスラのミネルヴァが、残るすべての推進力を右腕のスラスターに集中させ、巨大天使の展開する重力場の中心へと特攻を仕掛ける。
『無駄だ。三次元の質量では、この重力崩壊を——』
「戦乙女を、舐めるなァァァッ!!」
ミネルヴァの左腕の複合近接兵装が、重力の渦の中心に向けて撃ち出された。
火薬の爆発と魔力の推進力が、一時的に重力の引力を上回り、空間の歪みそのものに物理的な亀裂を生じさせる。
パァァァァンッ!!
重力場が砕け散る。だが、その凄まじい反動はミネルヴァの機体そのものに跳ね返り、群青色の装甲は両腕から引き千切られるように崩壊した。
『重力場、破壊完了……! あとは、頼みます……!』
ウルスラの脱出ポッドが射出される。
『エラー。重力場の崩壊を確認。防御機構へリソースを回——』
巨大天使の眼球が、防御を展開しようと瞬きをした、その絶対的な一瞬。
「今よ!! 私のハルファスの全システムを焼き切ってでも、お前の通信帯域にデカいノイズをぶち込んでやるわ!!」
アルティナのハルファスが、機体の安全装置を完全に解除し、自らの電子頭脳と巨大天使の高次元通信回路を直接リンクさせた。
致死量のウイルスデータとスパムパケットが、巨大天使の『眼球』の処理能力を物理的にオーバーフローさせる。
『……ギ、ギギ……演算……遅延……』
巨大天使の眼球が、不自然に見開かれたまま硬直した。
絶対防御の展開が、間に合わない。
しかし、アルティナのハルファスもまた、高次元システムからの逆流を受け、紫色の装甲の至る所から黒煙を吹き上げて完全に沈黙した。
『ローゼリア……! 防御システム、完全に……落としたわ……。あとは……』
アルティナの脱出ポッドが、静かに宇宙空間へと弾き出される。
仲間たちが次々と自らの機体を犠牲にし、繋いでくれた「たった数秒の完全な隙」。
だが、巨大天使もただ黙ってやられるわけではなかった。
眼球が硬直した状態でも、その十八枚の翼は自律的に動き、ルシフェルを確実に消し去るための、回避不可能な全方位の『空間切断』を放とうとしていた。
「ローゼリア殿下!! 行ってください!!」
その絶対の死角から、リアンヌの純白の『ブラン』が飛び込んできた。
ブランは、残されたすべての魔力と推進力を盾に集中させ、空間切断の断層とルシフェルの間に、自らの機体ごと立ちはだかったのである。
ズバァァァァァァッ!!
空間を削り取る刃が、ブランの分厚い装甲を、そして機体の中心を容赦無く両断する。
「リアンヌッ!!」
『私の盾は……砕けません。我が主の……勝利への道を、切り開くまでは……!』
真っ二つに裂けながらも、ブランの残骸は空間切断のエネルギーをコンマ一秒だけ押し留め、ルシフェルが通り抜けるための「道」を完全に作り出した。
リアンヌの脱出ポッドが射出されるのを見届け、ローゼリアは一切の迷いなく、ルシフェルのスロットルを限界のさらに奥へと押し込んだ。
仲間たちが、自らの機体を代償にして作ってくれた、たった一つの確実な攻略ルート。
「……お前たちの意地、確かに受け取ったぞ」
戦場には、巨大な天使と、満身創痍の漆黒の堕天使だけが残された。
絶対防御を剥がされ、重力場を封じられ、空間切断を突破された巨大天使。
だが、その巨体そのものが持つ圧倒的なエネルギーは健在であり、眼球からは世界を無に還す『初期化プロトコル』の極太の光線が放たれようとしていた。
「(……ボスは巨大で、絶大な火力を持っておる。だが、その巨体ゆえに、そしてアルティナのハッキングによるラグのせいで、動きは絶望的に『遅い』)」
ローゼリアは、完全手動のルシフェルを操り、仲間たちの機体の残骸や、宇宙を漂うデブリを足場にして、巨大天使の巨躯を駆け上がっていく。
『……特異点。接近を拒絶する。消滅せよ』
天使の翼から放たれる無数のホーミングレーザー。
ローゼリアは、そのすべてをミリ単位の操縦技術で躱し切る。彼女の目には、レーザーの軌道も、空間の歪みも、すべてが「当たり判定の可視化されたゲーム画面」として映っていた。
右へロール、左へピッチ、スラスターの微細な噴射で慣性を殺し、死の光線の間を文字通り『すり抜けて』いく。
「どんなに派手な弾幕を出そうが、判定の隙間さえ見切れば、ただの飾りじゃ!!」
ルシフェルは、ついに巨大天使の顔面——硬直して見開かれたままの、巨大な『眼球』の目前へと到達した。
『……エラー。致命的接近。演算、追いつかず……』
機械的な思念波が、初めて明確な『恐怖』に似た振動を帯びる。
「ゲームオーバーじゃ、管理者!」
ローゼリアは、左腕に残された最後の武装——予備のビームサーベルを抜き放ち、ルシフェルの魔力炉の残存エネルギーをすべてその刀身へと注ぎ込んだ。
限界を超えた魔力の集中により、サーベルは巨大な真紅の光の柱へと変貌する。
「他人の世界を勝手に初期化しようとするバグは……妾がこの手で、完全に削除してやるのじゃ!!」
ローゼリアの裂帛の咆哮と共に。
ルシフェルの放った真紅の極大の光刃が、巨大天使の『眼球』の中心——高次元のエネルギーコアを、真正面から深々と貫き通した。
**ピキィィィィィィィィィィィィンッ!!!!**
宇宙空間に、ガラスが砕け散るような甲高い音が響き渡る。
巨大天使の眼球にヒビが入り、そこから漏れ出した高次元の崩壊エネルギーが、天使の巨体を内部から瞬く間に食い破っていく。
『……特異点……理解、不能……。我々の……盤面が……』
断末魔の思念波が途切れ。
巨大天使は、第八星区の闇を真昼のように照らし出す、超新星爆発にも似た凄まじい閃光と共に、宇宙の塵となって完全に消え去った。
光の奔流が収まった後。
そこには、左腕の武装を使い果たし、スラスターも焼き切れ、完全に機能停止して静かに漂う『ルシフェル』の姿だけがあった。
「……はぁっ、はぁっ……。ふぅ、なんとか、クリアじゃな」
ローゼリアは、警告音すら鳴らなくなった静かなコックピットの中で、汗だくになりながらも、心からの達成感に満ちた笑みを浮かべた。
ルシフェルのサブモニターには、周囲の宇宙空間に漂う六つの脱出ポッドから、生存を示す緑色のシグナルが力強く点滅しているのが映っていた。
「まったく……どいつもこいつも、無茶をしおって。だが、お前たちのおかげで、最高のプレイができたぞ」
戦乙女の絆と、銀河最強の死神のプレイヤースキルが、高次元の神の代行者を完全に打ち破った瞬間であった。
光すらも届かぬ、銀河の最果ての絶対暗黒星域。
巨大な『眼球』の構造物——高次元の存在『管理者』の周囲は、不気味なほどの静寂に包まれていた。
先ほどまで空間を震わせていた絶対的なプレッシャーは嘘のように消え失せ、眼球の表面には無数のエラーログが赤文字で流れ続けている。
「か、管理者様……!? 執行者が、三機融合した最終形態すらもが、あの特異点に敗れたと……!?」
暗躍組織『黎明の腕』の長であるローブの男は、恐怖に顔を引き攣らせて平伏していた。
『…………』
管理者は、長きにわたる沈黙の後、ついに機械的な思念波を放った。
『……最終プロトコル「世界初期化」、実行失敗。直属の執行者端末、全損。……現在の我々のインベントリ内に、当該特異点を物理的に排除可能な戦闘用マギアナイトの残存数……ゼロ』
その言葉に、男は絶望に打ち震えた。
管理者が持つ無敵の武力が、すべてローゼリアというたった一人の少女の手によって破壊し尽くされたのだ。
そして、彼ら『黎明の腕』の拠点もまた、激怒した女帝フェイトの率いる帝国軍の圧倒的な物量によって、今この瞬間にも次々と灰燼に帰している最中であった。
『……特異点との直接的な戦闘行為は、我々の戦力を完全に枯渇させる結果を招いた。現在のパラダイムにおいて、彼女への武力介入は百パーセントの確率で失敗する』
眼球の瞳孔が、ゆっくりと閉じていく。
『……これより、我々は一切の物理的干渉を停止する。戦闘用端末の再生産、および特異点に対する新たな攻略アルゴリズムが構築されるまで、長期の「静観」フェーズへと移行する』
「お、お待ちください! 我々『黎明の腕』はどうなるのですか!? このままでは、帝国軍に完全にすり潰されてしまいます!」
男がすがりつくように叫ぶが、管理者の思念波はすでに彼を見限るように冷え切っていた。
『観察盤面における物理的な拠点の維持は、もはや不要。……貴様らも、不要だ。大いなる調和の再構築まで、暗闇の中で朽ちるがいい』
巨大な眼球は、不気味なエラーのノイズを残したまま、空間の歪みの中へと完全にその姿を消した。
後に残されたのは、絶対的な後ろ盾を失い、帝国の怒りという絶対的な死を待つだけのローブの男だけであった。
神を気取った高次元の存在は、限界ゲーマーの少女の前に完全なる敗北を喫し、尻尾を巻いて深淵の奥底へと逃げ帰ったのである。
第八星区、絶対防衛要塞イージス近傍。
戦闘が終結し、機能停止したルシフェルと、脱出ポッドで漂流していた戦乙女のメンバーたちは、急行した母艦エインヘリアルの回収班によって無事に収容されていた。
エインヘリアルの医務室。
かすり傷や打撲などの軽傷の手当てを受けたリアンヌ、アルティナ、ウルスラ、そしてランドグリーズ、ロスヴァイセ、オルトリンデの六人が、ベッドに座ったままホッと息をついていた。
「……まったく。皆して機体を全損させるなんて、団長がまた胃に穴を開けるわよ」
アルティナが、頭に包帯を巻きながら呆れたように言う。
「ですが、我が主の勝利の道を開けたのです。近衛騎士として、これ以上の名誉はありません」
リアンヌが誇らしげに胸を張る。
「ええ。私たちが束になっても敵わないバケモノを、最後はたった一人で仕留めきる。……やはり、ローゼリア殿下は次元が違います」
ウルスラも、ヘーゼル色の瞳に深い敬意を込めて同意した。
そこへ、医務室の自動ドアが開き、ジャージ姿のローゼリアがペタペタと歩いて入ってきた。
彼女自身も激しいGに耐えたため、身体のあちこちに湿布を貼っている。
「ローゼリア殿下!」
全員が立ち上がろうとするが、ローゼリアは手でそれを制した。
「よいよい、休んでおれ。……まったく、お前たち、妾を勝たせるために無茶をしすぎじゃ。機体は直せば済むが、命はコンティニューできんのじゃぞ」
ローゼリアは、少しだけ怒ったように腕を組んだ。
「申し訳ありません。ですが、どうしてもあなたを……戦乙女を勝たせたかったのです」
ウルスラが頭を下げる。
「ふん。まあ、お前たちのその捨て身のサポート(デバフ)がなければ、あのクソボスは倒せんかったのも事実じゃ。……今回ばかりは、お前たち全員がMVPじゃな。よくやってくれた」
ローゼリアが真紅の瞳を細めて優しく微笑むと、六人の少女たちは皆、嬉しそうに顔を見合わせた。
かくして。
高次元の管理者による理不尽な世界初期化の目論見は、銀河最強の死神と、彼女を信じ、自らのすべてを投げ打った戦乙女たちの絆によって完全に阻止された。
すべての戦闘用端末を失った管理者は深淵へと沈黙し、帝国を裏から蝕んでいた『黎明の腕』もまた、フェイト女帝の怒りの炎によって完全に焼き尽くされる運命にあった。
宇宙に、再び確かな平穏が戻ろうとしていた。
「さーて、帰ったら姉上の用意した特大ケーキでも食いながら、新しいゲームでも始めるとするかのう!」
医務室に、ローゼリアの無邪気な笑い声と、仲間たちの温かい安堵の吐息が響き渡る。
いかなる神や悪魔が立ちはだかろうとも、この死神の歩みを止めることはできない。彼女たちの伝説は、これからも星々の間で語り継がれていくのであった。




