第二幕 第六十二話:深淵の崩壊と、戦乙女の凱旋
マナ採掘プラントの最奥、コントロールルーム。
かつては絶対の安全圏であり、ウルスラが戦乙女たちを無惨な死へと追い込むための監視所であったはずのその場所は、今や半壊した漆黒の堕天使『ルシフェル』の放つ、圧倒的なプレッシャーに完全に支配されていた。
『さあ、答え合わせの時間じゃ。……お主の雇い主である「黎明の腕」、そして「管理者」とやらの目的を、余すことなく吐いてもらうのじゃ』
ローゼリアの冷酷な声が響き、ルシフェルの右手に握られた魔力振動刀が、床に膝をつくウルスラ・レーヴェの首筋にピタリと当てられる。
その背後には、右腕の盾を失い装甲を赤熱させたリアンヌの『ブラン』と、高熱で焼け焦げたアルティナの『ハルファス』が、怒りに満ちたカメラアイをウルスラに向けていた。
「……私の、負けです。あなたたちの実力を、そして人間の持つ『限界を超える不確定性』を甘く見すぎていました」
ウルスラは、突きつけられた真紅の刃から目を逸らすことなく、乾いた笑いを漏らした。その顔には、死を覚悟した傭兵特有の潔さがあった。命乞いをするつもりは毛頭ない。裏切り者の末路がどうなるかなど、彼女自身が一番よく分かっていたからだ。
「黎明の腕……。彼らは、この宇宙の表舞台には決して姿を現さない監視者です。『管理者』と呼ばれる高次元の存在から与えられたオーバーテクノロジーを使い、星々の歴史を裏から操り、転生者という『異世界からの魂』に力を与えて、その進化の過程を観察している」
「観察、じゃと?」
ローゼリアが真紅の瞳を細める。
「ええ。宇宙全体のシステムをより高みへと引き上げるための、壮大な実験場です。彼らは、転生者たちが争い、生み出す新しい概念や技術のアルゴリズムだけを抽出し、用済みの個体や組織は処分していく。……少し前に滅んだ新興国エターニアの王グレイスも、その一つに過ぎませんでした」
「なるほどな。他人の人生をただのデータ収集の道具としか思っていない、傲慢な連中というわけじゃ。……では、この妾を執拗に狙う理由はなんじゃ?」
ウルスラのヘーゼル色の瞳が、ルシフェルの真紅のカメラアイを真っ直ぐに見つめ返した。
「あなたは、彼らの用意した召喚システムを通さずにこの世界に紛れ込んだ『特異点』だからです。彼らの計算式に当てはまらない理不尽な力で、実験の盤面を悉く破壊して回る。……管理者にとって、あなたはシミュレーションの根幹を揺るがす最悪のバグなのです」
『だから、私たちをこの第十二星区に誘い込み、完璧なメタを張って隔離した上で、確実に消去しようとしたってわけね』
アルティナが忌々しげにハルファスのスピーカーから声を上げる。
『消えた偵察艦隊や、このプラントの作業員たちはどうしたの!? まさか、全員殺したんじゃないでしょうね!』
「……彼らは生きています。このプラントの中枢リアクターを利用して生成された、亜空間の隔離領域に閉じ込められているだけです。我々の目的はあくまで特異点の排除であり、無関係な者を殺すことは観察のノイズになるため——」
ウルスラがそう答えかけた、その時であった。
『——ご苦労だった、ウルスラ・レーヴェ。特異点の足止めという最低限の役割は果たしたようだな』
コントロールルームのメインモニターが突如としてノイズにまみれ、灰色のローブを深く被った男の姿が映し出された。
『黎明の腕』の幹部である。
「なっ……幹部殿!? いえ、お待ちください、まだ特異点の排除は——」
ウルスラが顔を上げるが、モニターの男は彼女を虫ケラを見るような冷たい目で見下ろした。
『お前の用意したデータとアンチ・ユニットは無用の長物と化した。……このプラントを丸ごと隔離したのは、保険のためでもある。管理者様より賜りし「虚無の鍵」の出力が臨界に達した。これより、第十二星区のこの宙域一帯を、空間ごと完全に初期化する』
「初期化……!? 待ってください! 空間ごと消し去れば、隔離領域にいる作業員たちも、そして私も消滅してしまう! それは観察のルールに反するはずです!」
ウルスラが血相を変えて叫ぶ。
『特異点という致命的なバグを消去するためならば、多少のメモリの巻き添えは容認された。……誇りに思え。お前の命もまた、大いなる調和のための礎となるのだ』
通信が一方的に切断され、モニターは真っ黒に染まった。
直後、プラント全体が、これまでとは質の違う、空間そのものが軋むような不気味な鳴動を始めた。
『警告。プラント中央のマナリアクターから、未知の崩壊エネルギーを検知。……周囲の空間座標が、文字通り「無」へと変換されつつあります!』
バハムートの合成音声が、かつてなく緊迫したトーンで警告を発する。
「(……これが、アルティナが言っていた『事象の消失』か。マップそのものを削り取ってくる即死ギミック……!)」
ローゼリアは、コントロールルームの分厚い壁が、音もなく灰色の塵と化して虚無へと吸い込まれていくのを見て、舌打ちをした。
「だ、騙された……。彼らは最初から、私が失敗した時は、私ごとすべてを消し去るつもりだったんだ……!」
ウルスラは床にへたり込み、絶望に顔を覆った。
絶対的なシステムを信じ、それに従うことで自らの居場所と傭兵としての価値を見出していた彼女にとって、システムに「不要なバグ」として切り捨てられた事実は、死以上の絶望であった。
『ローゼリア! このままじゃマズいわ! 崩壊がここ(コントロールルーム)まで到達するのに、あと三分もない!』
アルティナの悲鳴が響く。
『私のブランの推進力で、少しでも壁を破りましょう! ローゼリア殿下だけでも脱出を!』
リアンヌが、限界を超えた機体の残存エネルギーを振り絞ろうとする。
だが、ローゼリアは微塵も動揺していなかった。
「案ずるな、リアンヌ。逃げる必要はない。……アルティナ、このふざけた空間消去の『起点』はどこじゃ? 中央のマナリアクターか?」
『え、ええ! リアクターの制御コアに、外部から干渉している未知の端末……あの「虚無の鍵」が接続されているわ! そこから崩壊エネルギーが波及している!』
「ならば、そのコアごと物理的に叩き割れば、空間消去は止まるのじゃな?」
ローゼリアの言葉に、ウルスラが弾かれたように顔を上げた。
「む、無理です! コントロールルームからリアクターまでは分厚い超硬度の防壁が何十枚も……今のボロボロの機体で、三分以内に到達して破壊するなんて、不可能です!」
「不可能かどうかは、やってみなければ分からんじゃろうて」
ルシフェルが、膝をつくウルスラの前に巨大な手を差し出した。
「ウルスラ。お主、このままここで大人しく消去されるつもりか?」
「え……?」
「妾は、使い捨ての駒として他人の命を弄ぶ連中が、何よりも嫌いでのう。……お主の裏切りは許さんが、こんなところで運営の都合でゲームオーバーにさせてやる気もないのじゃ」
ローゼリアの真紅の瞳が、絶対的な光を放ってウルスラを見下ろす。
「ミネルヴァに乗れ。お主のその機動力と『杭』があれば、道中の防壁を最速でぶち抜けるはずじゃ。……生き残って、妾に借りを返せ。それとも、ここで泣き寝入りするのか?」
ウルスラは、目の前の死神の言葉に、言葉を失った。
裏切った自分を助けるというのか。いや、違う。これは同情ではない。彼女はただ、理不尽なシステムに屈することを良しとせず、盤面をひっくり返すためにあらゆる手札を使い尽くそうとしているのだ。
その、あまりにも人間らしく、強烈な生のエネルギーに。
ウルスラの中で凍りついていた何かが、熱く溶け出していくのを感じた。
「……了解、しました。ミネルヴァ、出撃します!」
ウルスラは立ち上がり、待機させていた群青色のマギアナイトへと飛び乗った。
「行くぞ! アルティナ、ルートのナビゲートを頼むのじゃ! リアンヌは妾の後ろ盾となれ!」
『了解!』『はっ!』
空間が徐々に「無」へと還元されていく中、四機のマギアナイトがコントロールルームを飛び出した。
目指すは、プラント中央のマナリアクター。
『第一防壁、接近! 厚さ五メートル、超硬度合金!』
アルティナのナビゲートが響く。
「私にお任せを!」
ウルスラのミネルヴァが先頭に躍り出る。彼女はスラスターを極限まで吹かし、左腕の複合近接兵装『パイル・ハルバード』を前方に構えた。
「穿てェェェェェッ!!」
爆発的な推進力と共に撃ち出されたパイルバンカーの巨大な杭が、超硬度の防壁に突き刺さり、内部の魔力爆発によって分厚い金属の壁を木端微塵に粉砕する。
『第二、第三防壁も突破! だけど、崩壊の速度が上がってるわ! 背後の通路が消滅していく!』
「チィッ、急ぐのじゃ!」
ローゼリアは、左腕を失いバランスの悪いルシフェルを完全手動の絶妙なスロットルワークで制御し、崩れゆく空間をギリギリで駆け抜けていく。後方では、足場が文字通り灰色の塵となって消え去っていくのが見える。
ミネルヴァの杭が次々と防壁を貫き、リアンヌのブランが崩落する瓦礫を体当たりで弾き飛ばし、四機はついにプラントの心臓部——巨大なマナリアクターが鎮座する大空間へと飛び込んだ。
リアクターの中心には、おぞましい黒い光を放つ正四面体の装置——『虚無の鍵』が突き刺さっており、そこからプラント全体へと崩壊の波動が波及していた。
『あれが空間消去の起点よ! でも、リアクターの周囲に強力な電磁シールドが張られてる! 今のミネルヴァの杭じゃ貫通できないわ!』
アルティナが叫ぶ。
「ウルスラ! リアンヌ! 妾が撃つ瞬間に、シールドの一点に全火力を集中して穴を開けい!!」
ローゼリアがルシフェルを急停止させ、背部の三基のマギアエンジンを臨界点まで一気に引き上げる。左腕がない分、機体への負荷は凄まじく、各部の装甲から白煙が噴き上がった。
『了解!!』
ウルスラのミネルヴァがアサルトライフルの全弾を一点に浴びせ、リアンヌのブランが半壊した長槍を投槍のようにしてシールドへ叩きつける。
二つの物理的衝撃がシールドの表面に微かな亀裂を生じさせた、まさにその瞬間。
「バハムート! リミッター全解除! マナビーム砲、最大出力!!」
『了解。全魔力、射撃システムへバイパス——発射。』
ルシフェルの両肩から、暗黒の空間を真昼のように照らし出す、極太の真紅のマナビームが放たれた。
それは、リアンヌとウルスラがこじ開けたシールドの亀裂へ寸分の狂いもなく吸い込まれ、リアクターの中心に突き刺さっていた黒い装置『虚無の鍵』を真正面から打ち抜いた。
**ピキィィィィィィィンッ……!!**
ガラスが砕け散るような高い音が響き渡り、『虚無の鍵』が粉々に砕け散った。
その瞬間、プラント全体を侵食していた灰色の「無」の崩壊が、ピタリと停止した。
同時に、第十二星区全体を覆っていた乳白色のジャミングの霧が、嘘のように晴れていく。
『……崩壊エネルギーの消滅を確認。ジャミング、解除されました。通信、回復します!』
アルティナの、歓喜に震える声が通信回線に響き渡った。
「(……終わったな。完全クリアじゃ)」
ローゼリアは、ルシフェルのコックピットの中で大きく息を吐き、ドッと押し寄せてきた疲労に身を任せてシートに深く沈み込んだ。
ジャミングが解除された直後、エインヘリアルからの通信と、亜空間の隔離領域から解放された帝国軍の偵察艦隊、およびプラントの作業員たちからの安堵の通信が一斉に飛び込んできた。
黎明の腕が用意した最悪の罠は、特異点たる死神とその仲間たちの決して諦めない牙によって、完全に粉砕されたのである。
事態が収拾し、プラントの制圧と作業員たちの救出を帝国軍の先遣隊に引き継いだ後。
戦乙女の四機は、母艦エインヘリアルのハンガーへと帰還を果たしていた。
機体から降り立ったローゼリアたちを待っていたのは、胃薬の瓶を握りしめ、安堵と疲労の入り混じった顔をしたブリュンヒルデだった。
「……よく生きて帰ってきてくれた。お前たちからの通信が途絶した時は、私の胃壁が完全に消滅するかと思ったぞ」
「心配かけたのう、団長。じゃが、厄介なバグはすべて取り除いておいたのじゃ」
ローゼリアがいつものようにジャージのポケットに手を突っ込んで笑う中。
ウルスラ・レーヴェは、自らの手首に電磁手錠をかけ、深く俯いたままブリュンヒルデの前に進み出た。
「……団長。私は、暗躍組織『黎明の腕』の密偵としてこの部隊に潜入し、ローゼリア殿下たちを罠に嵌めました。弁解の余地はありません。いかなる極刑も受け入れる覚悟です」
ウルスラの声は震えていた。スパイとしての役割を明かし、一度は仲間を死地に追いやったのだ。その罪がどれほど重いか、そして傭兵ギルドにおける裏切りへの処罰がどれほど凄惨か、彼女自身が一番よく分かっている。
リアンヌが険しい表情でウルスラを睨み、アルティナも腕を組んでそっぽを向いた。
しかし、ブリュンヒルデはウルスラを責めるでもなく、静かにローゼリアを見た。
「ローゼリア。この者の処遇は、お前に一任する。お前がその首を刎ねろと言うなら、私が今ここで軍法会議を待たずに執行しよう」
ウルスラは目を閉じ、処刑の言葉を待った。
だが、ローゼリアの口から出たのは、思いもよらない言葉だった。
「……処刑などせん。そんな勿体ないことができるかのう」
「え……?」
ウルスラが驚いて顔を上げる。
「お主、自分がどれだけ優秀な前衛か分かっておらんのか? シミュレーション通りとはいえ、妾たちをあそこまで追い詰め、最後のリアクター破壊でも完璧な仕事をした。……そんな優秀な駒を、たった一度の裏切りでロストさせるなど、部隊運営の観点から言ってあり得んじゃろう」
ローゼリアは、ペタペタと歩み寄り、ウルスラの電磁手錠のロックを端末操作であっさりと解除した。
「妾は言ったはずじゃぞ。生き残って、妾に借りを返せと。……お主は今日から、名実共に『戦乙女』の正式メンバーじゃ。裏切った分は、妾の最前線の盾となり、矛となって、利子をつけてきっちり働いて返してもらうのじゃ」
「ローゼリア殿下……。私のような裏切り者を、信じるというのですか……?」
ウルスラのヘーゼル色の瞳から、大粒の涙が溢れ出した。感情を殺す訓練を受けてきたはずの彼女が、声を上げて泣き崩れる。
「信じるのじゃ。システムに使い捨てにされ、それでも抗って生き延びたお主の『人間としての意地』をな。……それに、リアンヌやアルティナも、お主の腕は認めておるじゃろう?」
ローゼリアが振り返ると、リアンヌは小さくため息をつきながらも「……近衛騎士として、一度の過ちは許しましょう。ですが、次裏切れば私が斬りますよ」と微笑み、アルティナも「まあ、私のサポートがあってこそのミネルヴァだけどね。これからもこき使ってあげるわ」と肩をすくめた。
ブリュンヒルデも、やれやれと首を振りながらも口元には笑みを浮かべていた。
「ありがとうございます……! この命に代えても、あなたたちと共に……戦乙女の流儀を貫きます!」
ウルスラは、床に崩れ落ちるようにして深く頭を下げた。
盤面を外側から操ろうとした冷徹なスパイは死に、ここに一人の誇り高き戦乙女が誕生した。戦乙女は真の意味で、強固な絆で結ばれた四人のパーティーとして完成したのである。
数日後。
第十二星区の事後処理を終え、エインヘリアルは帝都アエテルガルドの衛星軌道へと無事に帰還した。
ローゼリアたちが皇宮へと報告に向かうと、そこには、いつもの威厳ある姿ではなく、怒髪天を突く勢いで部屋の中を歩き回る皇帝フェイトの姿があった。周囲の文官や近衛兵たちは、皇帝の放つ凄まじい覇気と殺気に当てられ、壁際で震え上がっている。
「あ、姉上。ただいま戻——」
ローゼリアが声をかけた瞬間、フェイトは目にも留まらぬ速さでローゼリアの元へ飛び込み、その華奢な体をこれでもかというほど強く抱きしめた。
「——あああっ! ローゼリア! 私の可愛いローゼリア!!」
「むぎゅっ!? あ、姉上、苦し……っ! 骨が軋んでおる!」
「通信が! 貴女との通信が丸二日も途絶えたのですよ!? 私がどれほど心配したか分かりますか!? 居ても立っても居られず、近衛艦隊全軍に『第十二星区を宙域ごと消し飛ばしてでもローゼリアを探し出せ』と命令を下す寸前だったのですからね!!」
フェイトの黒曜石の瞳には、本気の恐怖と焦燥、そしてそれを上回る過剰な愛情が渦巻いていた。彼女の言葉は決して比喩などではない。皇帝の権限と帝国軍の火力を以てすれば、星区一つを消し飛ばすことなど容易いのだ。
「(……あのまま通信回復が遅れていたら、帝国軍の手によって第十二星区が物理的に消去されていたということか……)」
後ろで控えていたウルスラとブリュンヒルデは、冷や汗を流しながら皇帝の愛の重さに戦慄した。このシスコン女帝こそが、ある意味で『管理者』よりも恐ろしい存在なのではないかと錯覚するほどだった。
「じゃから、無事だと言っておるじゃろう! それより、約束のメロンパフェは用意してあるんじゃろうな?」
ローゼリアがジタバタと暴れながら要求すると、フェイトはパァァッと花が咲いたような極上の笑顔になった。
「ええ、もちろんです! 今度は私が自ら一口大に切り分けて、あーんしてあげますからね!」
「だから自分で食えると言うておるじゃろ!!」
姉妹の(一方的な)愛情表現の儀式が一段落した後。
フェイトはローゼリアを隣の椅子に座らせ、ブリュンヒルデとウルスラから今回の事件の全容——『黎明の腕』と『管理者』による空間消去の目論見、そしてウルスラの過去の立場について報告を受けた。
報告を聞き終えたフェイトの表情から、一切の甘さが消え失せた。
その顔は、銀河を統べる絶対無比の覇王のそれへと戻っていた。部屋の温度が数度下がったかのような錯覚を覚えるほどの威圧感。
「……なるほど。高次元の管理者、ですか。彼らはこの宇宙を自分たちの実験場だと宣い、あろうことか、私の愛する妹を『バグ』として空間ごと消去しようとしたのですね」
フェイトの声は静かだった。しかし、その静けさの裏には、宇宙の星々をすべて凍りつかせるほどの絶対零度の殺意が渦巻いていた。
「許しません。……彼らが神を名乗ろうと、高次元の存在であろうと関係ありません。ローゼリアの平穏を脅かす存在は、この私が宇宙の果てまで追い詰め、帝国軍の総力を挙げて、彼らの言う『システム』ごと跡形もなく焼き尽くしてやります」
皇帝の宣戦布告。
それは、エーベルヴァイン帝国という銀河最強の軍事国家が、名もなき暗躍組織と、その背後にいる高次元の管理者に対して、本格的な殲滅戦を開始するという合図であった。
玉座の間から放たれる皇帝の殺気に、ウルスラはただ平伏することしかできなかった。
皇宮の私室。
フェイトからの(過剰なまでの)慰労を終え、ようやく一人になったローゼリアは、ダボダボのジャージに着替えてふかふかのベッドにダイブした。
手には、愛用の携帯型ゲーム機。
画面の中では、キャラクターが新しいフィールドへと足を踏み入れようとしていた。
「(……『黎明の腕』、そして『管理者』。連中も、これで妾をただの駒だとは思わなくなったじゃろう。次は、もっと狡猾で理不尽な罠を仕掛けてくるはずじゃ)」
ローゼリアは、真紅の瞳でゲームの画面を見つめながら、静かに笑みを浮かべた。
「じゃが、望むところじゃ。どんなふざけた難易度だろうと、この銀河最強の死神と戦乙女が、すべて攻略してやるのじゃ」
宇宙の闇の奥深くで、深淵の観察者たちは次なる盤面を構築し始めている。
しかし、ローゼリアの心に微塵の恐怖はなかった。
彼女には、絶対に背中を任せられる仲間たちがいる。そして、彼女の平穏を守るためなら宇宙すら焼き尽くす最強の姉がいる。
「さて、次のクエストの準備でも始めるとするかのう!」
軽快なゲームの電子音が、静かな私室に響く。




