第二幕 第六十一話:盤面の反逆者たち
絶対的な隔離空間。あらゆる外部通信を遮断する強烈なジャミングの嵐が吹き荒れる中、漆黒の堕天使『ルシフェル』の装甲が激しい火花を散らした。
**ガギィィィィィィンッ!!!**
けたたましい金属の衝突音と共に、ルシフェルの巨体が大きく後方へと弾き飛ばされる。
姿勢制御スラスターを吹かしてどうにか体勢を立て直したローゼリアであったが、そのコックピット内には絶え間ない警告音が鳴り響いていた。
『警告。左腕部駆動系に深刻なダメージ。魔力伝導率が低下しています。……マスター・ローゼリア、これ以上の近接戦闘の継続は機体の致命的な損傷を招きます』
神AI・バハムートの無機質な声が響く中、ローゼリアは額に滲んだ汗を乱暴に拭い、目の前の敵を睨みつけた。
暗黒の空間に浮かぶ、ルシフェルと瓜二つのシルエットを持つ漆黒の機体。
高次元の存在である『管理者』が送り込んできたその刺客は、一切の無駄な動作なく、再びローゼリアの懐へと滑り込んでくる。その踏み込みの速度、剣を振りかぶる角度、そして次に狙ってくるであろう装甲の薄い部位。
すべてが、ローゼリア自身の戦術理論と完全に一致していた。
「(……くそっ。何度打ち合っても同じじゃ。こちらの攻撃はすべて完璧なタイミングで防がれ、回避した先には常に敵の刃が待っておる)」
ローゼリアが右へステップを踏めば、敵はあらかじめ右へ牽制の射撃を置いている。
フェイントを掛けて上段から切り下ろそうとすれば、敵はフェイントに一切引っかからず、ルシフェルの剣の軌道の「内側」へと正確にカウンターを合わせてくる。
『無駄な抵抗だ、特異点。お前の思考プロセス、反射速度、戦術的最適解の選択基準。そのすべては、内通者を通じて我々のデータベースに完全に同期されている』
敵機の思念波が、冷酷な事実を告げる。
『お前が「正しい」判断を下せば下すほど、我々はその行動を百パーセント予測できる。いかに優れた技量を持っていようと、己自身の完全なるデータと、それを上回る演算能力を持つシステムには絶対に勝てない』
「……正しい判断を下すほど、予測される、じゃと?」
ローゼリアは、操縦桿を握る手に力を込めた。
敵の言う通りだ。これまでの戦闘やシミュレーション訓練で、ウルスラはローゼリアの戦い方を間近で観察し、そのすべてをデータ化して『黎明の腕』へと送信していた。
ローゼリアが「この状況ならこう動くのが最善だ」と判断する思考のプロセスそのものが、敵の計算式に組み込まれてしまっているのである。
「(……確かに、相手の動きを完全に読み切ってカウンターを合わせる戦法は、対人戦において絶対的な強さを誇る。……相手が、常に『最適解』を選び続けるという前提においてのみ、な)」
ローゼリアの真紅の瞳の奥で、絶望の淵に立たされたからこその、氷のように冷たく、そして燃えたぎるような反逆の炎が灯った。
彼女は、幾多の死線を越えてきた戦士である。
そして同時に、用意された理不尽な盤面を自らの手で打ち砕くことに無上の喜びを感じる、生粋の攻略者であった。
「バハムート」
ローゼリアは、極めて静かな声で自らの機体のAIに命じた。
「姿勢制御アシスト、自律回避プログラム、および魔力出力のリミッター。……すべて『オフ』にしろ。機体の制御権を、百パーセント妾の完全手動に切り替えるのじゃ!」
『警告。アシスト機能を全解除した場合、機体の挙動が極めて不安定になります。現在の損傷状況での完全手動操作は、慣性制御の低下によりパイロットの肉体および機体に致命的な過負荷をもたらす危険性が——』
「構わん。やれ」
ローゼリアの絶対的な命令に、バハムートは一瞬の沈黙の後、従った。
『……了解。全アシスト機能、解除。操縦権限を完全移行します』
コックピット内の補助光が消え、無数の計器類が赤から緑の警告色へと切り替わる。
ルシフェルを支えていた高度なAIのサポートが完全に切断され、機体のすべての関節、すべてのスラスターの噴射、刀の角度のミリ単位の調整までもが、ローゼリアの指先の操作一つに委ねられた。
「……最適解しか選べない機械に、人間の恐ろしさを教えてやるのじゃ」
ローゼリアは、長くふわふわの金髪を揺らし、不敵に笑った。
敵機が再び、ルシフェルの隙を突いて神速の刺突を放ってくる。
ローゼリアは、それに対する「最適な回避行動」を取らなかった。
いや、あえて『間違えた』のだ。
「そこじゃ!!」
ローゼリアは、操縦桿を乱暴に倒し、ルシフェルのスラスターを「不均等」に吹かした。
アシストが切れているため、機体はまるでバランスを崩してよろめいたかのような、極めて無様な、非効率的な動きを見せた。同時に、強烈なG(重力加速度)がローゼリアの華奢な肉体をシートに押さえつけるが、彼女は歯を食いしばってそれに耐える。
『……エラー。目標の軌道が予測データと不一致。姿勢の崩れを感知。好機と判断し、追撃に移行』
敵機のシステムは、ルシフェルの「致命的な隙」を的確に認識し、それを突くための最短距離の斬撃へと軌道を修正した。
だが、それこそがローゼリアの狙いだった。
「(予測データに頼り切った機械の弱点。それは、相手が『わざと隙を見せる』という非合理的な行動を計算できないことじゃ!)」
ローゼリアは、崩れた姿勢のまま、通常ではあり得ない角度で右腕の魔力振動刀を振り上げた。
関節の可動域を無視し、機体の装甲そのものを軋ませながら放たれる、完全手動ならではの強引極まりない一撃。
**ガァァァァァンッ!!!**
敵機が追撃を放つよりもほんのコンマ一秒早く、ルシフェルの刀が敵機の右腕を下から跳ね上げた。
『なっ……!? 予測不能の軌道。機体へのダメージを確認。演算を再構築——』
「遅いのじゃ!!」
ローゼリアの指先が、コンソールの上で神がかった速度で躍動する。
右、左、上。
ルシフェルは、まるで酔っ払いのように不規則で無駄の多い軌道を描きながら、しかし決して攻撃の手を休めることなく、敵機に猛烈な連撃を叩き込み始めた。
最適解ではない。効率的でもない。
しかし、その『予測不可能』な動きの連続に、完全なるデータを誇っていたはずの敵機のAIは、処理が追いつかずに明らかな遅延を起こし始めた。
「データで妾の思考を縛れると思ったか! 盤面の理を書き換えるのが、本物の戦いというものじゃ!!」
ローゼリアの咆哮と共に、反撃の狼煙が上がった。
その頃、リアンヌの『ブラン』が隔離された円形の闘技場空間。
『無駄な足掻きだ。お前の風の魔力は、すべて我が装甲が吸収し、自らの動力へと変換する。……誇り高き騎士よ、お前の盾はここでは何の役にも立たない』
魔力吸収装甲を持つ異形の重騎士無人機が、鈍重な声でリアンヌを嘲笑う。
リアンヌの機体は、至る所の装甲がひしゃげ、右腕の盾は無残に砕け散っていた。彼女が放つ風の魔力攻撃はすべて無効化され、逆に敵の力を増す結果にしかなっていない。
コックピットの中で、リアンヌは荒い息を吐きながら、血の滲む唇を噛み締めていた。
主であるローゼリアとの通信は途絶えたままだ。自分がここで時間を稼いだところで、助けが来る保証はどこにもない。
ウルスラが裏切ったという事実にも、彼女の鋭い直感はすでに辿り着いていた。
「(……敵は、私の『守る』という役割を完全に無力化する相手を用意した。私の風の魔力が通じない以上、物理的な質量で押し潰すしかない。しかし、ブランの通常の出力ではこの重装甲は貫けない……)」
リアンヌは、砕けた盾を機体の腕から強制パージした。
「(私の存在意義は、ローゼリア殿下の盾となること。……だが、もし私がここで死ねば、誰が主の背中を守るというのか)」
リアンヌの碧眼に、冷たく、そして鋭い光が宿る。
盾が通じないのなら。守りが意味を成さないのなら。
主のために、この身そのものを『最強の矛』へと変えるまでだ。
「……勘違いしないでください。私は、守ることしかできないわけではない」
リアンヌは、コンソールの奥深くにある、安全装置のカバーを叩き割った。
それは、ブランの機体の魔力炉を暴走させ、全エネルギーを推進力のみに変換する禁断のオーバードライブ・システム。
『警告。魔力炉の出力を限界突破します。機体装甲の冷却が追いつかず、三十分後には機体が自壊します』
「十分で終わらせます!」
リアンヌがスロットルを全開に押し込んだ瞬間、純白のブランの全身から、眩いほどの青白い魔力の光が噴出した。
彼女は、風の魔力を『攻撃』のために使わなかった。
敵が魔力を吸収するならば、魔力そのものをぶつけるのではなく、魔力を極限のスピードへと変換し、純粋な物理的運動エネルギーによる質量兵器として叩きつけるという結論に達したのだ。
『なっ……!? 機体温度が異常上昇。何を考えている!?』
異形の重騎士が、初めて狼狽の思念波を発する。
「これが、私の主への忠義の形です!!」
リアンヌのブランが、音の壁を突破し、空間に幾重ものソニックブームを発生させながら一直線に突進した。
手にした長槍の穂先を、一点のみに集中させる。
魔力を一切まとわない、ただの純粋な金属の塊。しかし、その背後には、機体が自壊するほどの恐ろしい爆発的推進力が乗っていた。
『装甲硬化、最大——』
重騎士が両腕の万力を交差させて防御姿勢をとるが、遅かった。
**ドゴォォォォォォォォォンッ!!!**
隕石の衝突にも等しい凄まじい物理的衝撃が、円形空間を揺るがした。
魔力吸収装甲は、魔力による攻撃には無敵の防御力を誇るが、規格外の速度で叩きつけられた『純粋な物理質量』の前では、ただの分厚い鉄板に過ぎない。
「貫けェェェェェッ!!」
リアンヌの裂帛の気合いと共に、ブランの長槍が、重騎士の交差した両腕ごと、その分厚い胸部装甲を紙切れのように粉砕し、背中へと突き抜けた。
『バ、馬鹿な……。データにはない、自壊を前提とした……特攻……』
重騎士の無人機が、断末魔のノイズを発しながら、大爆発を起こして四散する。
「……はぁっ、はぁっ……」
爆炎の中から姿を現したブランは、全身の装甲が赤熱し、長槍はひしゃげて使い物にならなくなっていた。
しかし、純白の騎士は決して膝をつくことなく、瓦解し始めた壁の向こう側——主のいるであろう方向へと、力強い歩みを進め始めた。
一方、入り組んだパイプの迷宮に隔離されたアルティナの『ハルファス』。
『ガルルルルッ……!』
『シィィィッ!』
超高温の高周波ブレードの牙を持つ四足歩行の小型無人機——『猟犬』たちが、壁や天井のパイプを縦横無尽に跳ね回りながら、アルティナをじわじわと追い詰めていた。
「くそっ、ちょこまかと鬱陶しいわね!」
アルティナは、脚部のビームダガーを振り回して応戦するが、狭い空間ではハルファスの長い四肢は死に体であり、思うように機体を動かせない。
すでにハルファスの紫色の装甲には、幾つもの深い切り傷が刻まれていた。
「(……ジャミングのせいで敵の制御システムはハッキングできない。ライフルも構えられない。相手は私の弱点を完璧に突いてきてる。……あのウルスラって女、本当にいい性格してるわね!)」
アルティナは、コンソールを叩きながら悪態をついた。
情報処理と遠距離からの支援こそが彼女の真骨頂である。この物理的な乱戦状況下では、彼女はただの的だ。黎明の腕の計算は、確かに正しかった。
——彼女が、ただの「ソフトウェアの専門家」であれば、の話だが。
「(……馬鹿ね。電子の海に潜れなくても、私が周囲の情報を処理できないわけないじゃない)」
アルティナの紫色の瞳が、周囲の環境——無数に張り巡らされた巨大パイプの構造、バルブの位置、そして壁面の計器板の数値を瞬時に分析していく。
彼女がいるのは、巨大な『マナ採掘プラント』の内部だ。
このパイプの中には、ただの冷却水ではなく、未精製の超高圧・高熱の液化マナが循環している。
「(敵をハッキングできないなら、この『環境そのもの』をハッキングしてやるわ!)」
アルティナは、ハルファスの残存エネルギーのすべてを、右手のビームダガーの出力へと回した。
そして、猟犬たちが一斉に飛びかかってきたその瞬間。
彼女は敵を狙わず、自らの頭上を通る最も太いメインパイプの「圧力調整バルブ」の結合部に向けて、ビームダガーを思い切り突き刺した。
**プシュィィィィィィィンッ!!!!**
凄まじい破裂音と共に、ビームダガーによって強引に破壊されたバルブから、数千度にも達する超高熱のマナ蒸気が、凄まじい圧力で一気に噴出した。
『ギャウンッ!?』
『ピガァァァッ!!』
狭い通路は一瞬にして超高熱のサウナと化し、空中に飛びかかっていた猟犬たちは、逃げ場を失って超高熱のマナ蒸気を全身に浴びた。
いかに素早い機動力を持っていようとも、空間全体を満たす物理的な熱気からは逃れられない。猟犬たちの内部回路は瞬時に焼き切れ、次々と床に落下して機能を停止していった。
「……ふう。熱湯消毒完了、ってね。私をただの後方支援だと思ったら大間違いよ」
ハルファスの装甲も高熱で焼け焦げ、警告音が鳴り響いていたが、アルティナは勝ち誇ったように紫色の瞳を輝かせた。
猟犬たちが全滅した直後、ハルファスのコンソールに、微かなノイズに混じって外部のシステムとの接続反応が現れた。
ジャミング発生装置を積んでいた猟犬たちが破壊されたことで、局地的に通信網が回復したのだ。
「よし! この隙に、プラントのメインシステムに無理やりバックドアを仕掛けてやるわ!」
アルティナの指先が、キーボードの上で目にも留まらぬ速さで踊り始めた。
そして、プラント最下層の絶対隔離空間。
「はぁっ、はぁっ……!!」
ローゼリアのルシフェルは、満身創痍であった。
左腕の機能は完全に沈黙し、漆黒の装甲は無数の斬撃によってボロボロに引き裂かれている。手動操作による過酷なGと衝撃により、ローゼリア自身の息も絶え絶えだ。
しかし、その対面にいる『管理者の刺客』もまた、深刻なダメージを負っていた。
ローゼリアの予測不可能な、非効率極まりない完全手動の動きによって計算を狂わされ、数多くの直撃を許していたのだ。
『……理解不能。非合理的な機動。パイロットの肉体への負荷は限界を超えているはず。なぜ、そこまでして抗う? 特異点よ、お前の存在はこの宇宙の調和を乱すだけだ。おとなしく消去を受け入れろ』
影の機体が、機械的な思念波を放ちながら、最後の一撃を放つべく、両腕の魔力振動刀を構えた。
「調和を乱す、か……」
ローゼリアは、コックピットの中で荒い息を吐きながら、不敵な笑みを深くした。
「他人の世界に勝手に手を入れて、自分たちの都合のいいように実験場にしている連中が、調和などと笑わせるでない」
ローゼリアの脳裏に、愛する姉フェイトの笑顔が浮かぶ。
そして、過保護ながらも自分を信じて背中を預けてくれる、リアンヌ、アルティナ、ブリュンヒルデたちの顔が。
「妾の存在が想定外だと言うなら、教えてやるのじゃ。……完璧な計算を妄信し、イレギュラーを恐れてシステムを初期化しようとする臆病な管理者どもに、この世界を支配する資格などないということをな!!」
ローゼリアは、動かなくなったルシフェルの左腕の装甲を、自らの操作で強制的にパージした。
機体を軽くし、最後の一撃にすべての推進力を注ぎ込むための捨て身の判断。
『……最終演算完了。目標の残存推力、および攻撃パターンを予測。次の一撃で、完全に消去する』
影の機体が、ルシフェルの「右腕の刀による斬撃」を完全に読み切り、その軌道へ向けて絶対的なカウンターの剣を振り下ろしてきた。
「(……読まれるのは分かっておる。だからこそ、その予測を利用するのじゃ!)」
ローゼリアは、スロットルを押し込む直前、ルシフェルの推進システムの出力を、わざと『コンマ一秒だけ意図的に遅延』させた。
『なっ……!?』
影の機体が振り下ろした必殺のカウンターの刃は、ルシフェルがいるはずだった「コンマ一秒先の未来の空間」を、空しく空振りした。
完璧なデータに基づいた、完璧な予測。
それゆえに、ローゼリアが自らの機体に意図的な動作不良を発生させ、タイミングをずらしたという非合理的な選択に、AIの演算は致命的な隙を晒してしまったのだ。
「機械には分からんじゃろうな。人間は、勝つためなら自分の隙すらも武器に変える生き物だということがな!」
空振りによって完全に無防備となった影の機体の懐へ、ルシフェルがスラスターの再点火と共に滑り込む。
右腕に握られた魔力振動刀に、残るすべての魔力が注ぎ込まれ、紅蓮の刃となって輝く。
「消え去れい!! 贋作風情がァァァァッ!!」
渾身の力で振り抜かれた真紅の刃が、影の機体の胴体を斜めに深々と一刀両断した。
『エラー。致命的な損傷。……計算……不能。特異点、ローゼリア。お前は……』
機械的な断末魔のノイズを残し、ルシフェルの影は凄まじい爆発を起こして宇宙の塵へと還った。
その爆発の余波で、隔離空間の壁の一部が大きく崩落し、同時に、プラント全体を覆っていた強烈なジャミングの波長が、急速に弱まっていくのを感じ取った。
「……勝ったぞ。どんな理不尽な罠だろうと、妾の技量には敵わんというわけじゃな」
ローゼリアは、コックピットのシートに深く背中を預け、長い金髪を払いのけながら、勝利の安堵の息を長く吐き出した。
プラントの最奥、絶対の安全圏であるはずのコントロールルーム。
ウルスラ・レーヴェは、メインコンソールの前で、信じられないものを見るように目を見開いていた。
彼女のヘーゼル色の瞳は、驚愕と恐怖に大きく見開かれ、震える手がコンソールの上で空を掻いている。
「そんな……馬鹿な……っ。あり得ない! 私の収集したデータは完璧だった! 黎明の腕が用意した刺客は、戦乙女の弱点を百パーセント突けるはずだったのに……!」
モニターに映し出されていた隔離空間の映像が、次々と切り替わっていく。
魔力吸収の重騎士は、リアンヌの物理的な特攻によって粉砕された。
猟犬たちは、アルティナの地形を利用した熱蒸気攻撃によって全滅した。
そして何より……最も確実であるはずだったローゼリアの『影』が、非合理的な戦術の前に敗れ去り、爆散する光景。
完璧であったはずの盤面が、たった数十分の間に、戦乙女たちの意地と機転によって完全にひっくり返されてしまったのだ。
「……データが足りなかったというのか? いや、違う。彼女たちは、データという過去の枠組みを、実戦の中で自ら壊して進化したんだ……!」
ウルスラが戦慄と共にそう呟いた、その時である。
**ピガァァァァンッ!!**
突然、コントロールルームの強固な扉が、凄まじい爆発音と共に外側から吹き飛ばされた。
「ひっ!?」
ウルスラが後退りする。
もうもうと立ち込める煙と火花の中から、装甲の至る所を損傷し、左腕を失った漆黒の機体——ルシフェルが、ズシン、と重い足音を立てて姿を現した。
機体のマイクを通じて、底知れぬ怒りと、絶対的な強者としての威圧感を孕んだローゼリアの声が、コントロールルームに響き渡る。
『……見つけたぞ、ウルスラ。ずいぶんと手の込んだお膳立てをしてくれたようじゃな』
ルシフェルの真紅のカメラアイが、逃げ場を失ったウルスラを冷酷に見下ろす。
通信のジャミングはすでにアルティナの手によって解除されており、背後からは、ボロボロになりながらも合流を果たしたリアンヌのブランと、アルティナのハルファスが姿を現した。
『ローゼリアの背中を撃つ裏切り者。……近衛騎士として、決して許しません』
リアンヌの氷のような声。
『私のシステムに細工したこと、後悔させてあげるわよ。あなたの端末の通信ログ、全部引っこ抜かせてもらったわ』
アルティナの怒りに満ちた声。
「あ、あぁ……」
ウルスラは、ミネルヴァに乗り込む隙すら与えられず、三機のマギアナイトの圧倒的なプレッシャーの前に膝をついた。
『さあ、答え合わせの時間じゃ。……お主の雇い主である「黎明の腕」、そして「管理者」とやらの目的を、余すことなく吐いてもらうのじゃ』
死神の真紅の刃が、裏切り者の首元へと突きつけられた。
見えない敵が張り巡らせた最悪の罠は、銀河最強の死神たちによって完全に粉砕され、反撃の刃はついに、暗躍する影の核心へと届こうとしていたのである。




