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追放皇女の異世界戦記  作者: 浅井川亘


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第二幕 第五十九話:暗礁のゲリラ戦と、潜みし裏切りの影

空間が大きく歪み、エーベルヴァイン帝国辺境の『第七星区』に、戦乙女ヴァルキュリアの母艦エインヘリアルがその巨大な姿を現した。

メインモニターに映し出されたのは、無数の岩塊と氷の欠片が延々と連なる、濃密なアステロイドベルト(小惑星帯)であった。太陽光すら満足に届かない薄暗い宙域で、大小様々なデブリが不規則な軌道を描いて浮遊している。

「……なるほど。確かにここは、ゲリラ戦や待ち伏せにはうってつけの地形じゃな」

エインヘリアルのカタパルトで待機する漆黒の堕天使『ルシフェル』のコックピット。

ダボダボのジャージ姿のローゼリアは、真紅の瞳でモニターを眺めながら、幾多の死線を潜り抜けてきた戦士としての視点で地形を分析していた。

「ええ。デブリが発する微弱な放射線と磁気嵐のおかげで、レーダーや魔力探知の有効範囲が極端に狭まっているわ。敵がステルス迷彩を使っているなら、目視距離まで近づかれないと発見できないかもしれない」

金髪を揺らし、紫色の瞳を鋭く光らせたアルティナが、電子戦機『ハルファス』のインカム越しに警戒の声を上げる。

『……ローゼリア。私のミネルヴァのセンサーも、パッシブモードでは有効な熱源を捉えられません。いかがしますか?』

今回が初陣となるウルスラ・レーヴェが、緊張を含んだ声で尋ねてきた。

「焦ることはない。相手がどれだけ優秀な隠れ蓑を持っていようと、こちらを攻撃するためには必ず『撃つ瞬間』に姿を現す。……リアンヌ、防壁の準備はよいな?」

『はっ。いかなる死角からの凶刃であろうと、我が主の御身には指一本触れさせません』

純白の騎士機『ブラン』を駆るリアンヌが、力強く応じる。

「よし。ルシフェル、ブラン、ハルファス、ミネルヴァ。……戦乙女、出撃じゃ!」

四機のマギアナイトが、音もなくカタパルトから虚空へと滑り出した。

ブリュンヒルデの指示により、エインヘリアルは後方のデブリの陰に隠れて完全なステルスモードに移行。エインヘリアルの直掩には、ランドグリーズたちが残っている。

ローゼリアたち四機は、巨大な岩塊の隙間を縫うようにして、アステロイドベルトの深部へと侵入していった。

静寂の宙域を警戒陣形で進む四機。

アルティナのハルファスが後方で高度な電子戦による解析を行い、リアンヌのブランが前衛で盾を構える。ローゼリアのルシフェルとウルスラのミネルヴァが中衛で遊撃の態勢を取っていた。

「(……来るぞ。戦術の定石で言えば、この先の狭所は、狙撃手が待ち伏せする格好の配置じゃ)」

ローゼリアの、数え切れないほどの戦場を俯瞰して培われた『直感』が警鐘を鳴らした。

その直感は、高精度なレーダーよりも正しかった。

**ピピッ……!**

『ローゼリア、右斜め上、デブリの影から微弱な魔力収束反応!』

アルティナの警告と同時。

何もないはずの暗黒の空間から、突如として高出力のレーザーが三筋、ローゼリアたちを正確に狙って放たれた。

「——させません!」

リアンヌのブランが瞬時にスラスターを吹かし、ルシフェルの前に躍り出る。

機体の前面に展開された風の魔力障壁が、レーザーの熱線を真正面から受け止め、周囲の宇宙空間へと散らした。

『チッ、防がれたか! 一撃離脱だ、移動しろ!』

オープン回線に敵の焦ったような通信が微かに漏れ、攻撃を放った空間が再び陽炎のように歪み、敵の姿が完全に背景に溶け込んだ。

「撃った直後にステルスで逃走……。見えない敵からの狙撃とは、最高に腹立たしい戦法じゃな」

ローゼリアは舌打ちをした。

「アルティナ、今の発砲時のデータから、敵のステルスの周波数は割り出せるか?」

「分析中よ。……光学迷彩だけじゃなくて、機体の排熱や魔力波長まで完全に周囲のデブリに同化させる、かなり高度な隠蔽システムね。でも、発砲の瞬間に発生するノイズだけは誤魔化せない。コンマ数秒だけど、位置を特定できるわ!」

「上出来じゃ。なら、向こうが撃たざるを得ない状況を作ってやるまで」

ローゼリアは、ルシフェルを遮蔽物のない空間へとあえて進めせた。

「妾が囮になる。ウルスラ! アルティナが敵の座標を割り出した瞬間、そこへ弾幕を張れ! ステルスを剥がしたところを、お主の『杭』で仕留めるのじゃ!」

『了解しました!』

ウルスラのミネルヴァが、右腕の可変式リニア・アサルトライフルを構え、ローゼリアの死角をカバーするように動く。

(……これが、銀河最強の死神。自らを囮にして敵の攻撃を誘うなんて、常軌を逸している。だが、彼女のその絶対的な自信が、私に不思議な安心感を与えてくれる)

ウルスラは、ヘーゼル色の瞳を鋭く細め、アルティナからのデータリンクに全神経を集中させた。

数秒後。

ルシフェルを絶好の的と見た敵のステルス部隊が、再び攻撃を仕掛けてきた。

『——今よ! 右舷、距離一二〇〇! デブリ群の裏!』

アルティナの叫びと同時に、ミネルヴァのアサルトライフルが火を噴いた。

**ドドドドドドドドッ!!**

高初速で放たれた無数の徹甲弾が、暗黒の空間を切り裂く。

敵がレーザーを撃つよりも早く、アルティナの座標データを受け取ったウルスラの精密な制圧射撃が、見えない敵の装甲を捉えた。

『ぐあっ!? なぜ位置がバレた!?』

被弾の衝撃でステルス迷彩のシステムが一時的にダウンし、三機の黒い量産型マギアナイトが空間に姿を現した。

「そこだッ!!」

ウルスラは、ミネルヴァのスラスターを限界まで吹かし、一瞬にして敵機との距離を詰めた。

中距離からの射撃で姿勢を崩された敵は、ミネルヴァの高速接近に対応できない。

ウルスラは左腕の複合近接兵装『パイル・ハルバード』を展開。

すれ違いざまに、ハルバードの刃で一機のメインカメラを叩き斬り、そのまま反転してもう一機の胸部装甲にパイルバンカーの銃口を押し当てた。

「——穿て!!」

**ガギィィィィンッ!! ズガァァァンッ!!**

凶悪な金属の杭が、火薬と魔力の爆発力によって撃ち出され、敵機の分厚い装甲を紙切れのように貫通。内部の動力炉を直接粉砕した。

残る一機が慌ててビームサーベルを抜こうとしたが、その後方から現れたリアンヌのブランが、長槍で一撃のもとに両断し、宇宙の塵へと変えた。

「見事な連携じゃ、ウルスラ。流石は実力派。妾の求めていた通りの強襲の動きじゃったぞ」

ローゼリアが、惜しみない称賛の言葉を送る。

『ありがとうございます……! アルティナの完璧な座標指定と、ローゼリアの囮、そしてリアンヌのフォローがあってこその戦果です』

ウルスラは、コックピットの中で安堵の息を吐きながら、確かな手応えを感じていた。

(これが、戦乙女の連携。一人ひとりが規格外でありながら、決して個人の力に溺れず、お互いの役割を完璧に全うしている。……素晴らしい部隊だ)

「……さて。小手調べの部隊は片付けたが、肝心の『禁忌の遺物』を奪った連中の本隊はどこじゃ?」

ローゼリアが周囲を見回す。

『ローゼリア! 前方の巨大な小惑星の内部から、異常な魔力反応を検知したわ! ……間違いない、あれが奪われた遺物の波長よ!』

アルティナの報告に、四機は直ちに巨大な小惑星の影へと急行した。

小惑星の内部に隠された巨大なくぼみ。

そこに、帝国軍の輸送船から強奪した物資を積み込んでいる、武装勢力の中型輸送艦と、十機以上の護衛用マギアナイトが停泊していた。

「見つけたぞ。あそこに積まれているのが、目標じゃな」

ローゼリアたちが強襲の態勢に入った、その時。

武装勢力のリーダーらしき隻眼の男が乗る指揮官機が、オープン回線で狂ったような通信を発した。

『チィッ! なぜ帝国軍の犬どもがこんなに早く嗅ぎつけてきやがった! あの「支援者」がくれたステルスも役に立たねぇとはな!』

『ボス、どうします!? 相手は四機ですが、あの黒い機体……まさか、噂の『戦乙女』じゃ……!』

『狼狽えるな! 俺たちにはコレがある! 「支援者」の言葉通り、この遺物の力を解放すれば、俺たちの機体は無敵になるんだ!』

男が通信機越しに何らかのロックを解除する音が響いた。

次の瞬間。

輸送艦のコンテナの一つから、おぞましい赤黒い魔力の光が溢れ出した。

それは、かつて帝国が極秘裏に封印した『禁忌の遺物』——触れる者の恐怖や欲望を増幅し、理性を代償に機体の限界を超えた力を引き出す、古代の危険な魔導具の力であった。

かつて、先帝アンブロシウスが隠匿していたとされるその代物を巡り、帝国は深い闇を抱えている。

世間では、アンブロシウスは精神を病んで退位したとされているが、現実は違う。彼は決して狂ってなどいなかった。魔力を持たない(と思われていた)ローゼリアを無能と判断し、帝国の不利益になると断じて救命ポッドに無理やり乗せ、宇宙へと追放したのである。

その非情かつ冷酷な行いこそが、最愛の妹を奪われたフェイトの逆鱗に触れたのだ。

激怒したフェイトは、武力行使によって帝位を強奪。ローゼリアを追放したアンブロシウスと、己の失態で帝国主力艦隊を壊滅させた愚かな兄セドリックを、一切の権力を剥奪した上で辺境の惑星へと軟禁した。それが真実であった。

赤黒い魔力の波動が、武装勢力の機体を包み込む。

『グァアアアアアッ!? な、なんだコレは!? 力が……力が溢れてきやがる!!』

『殺せぇぇっ! 帝国の犬どもを皆殺しにしろォォォッ!!』

理性的な通信は途絶え、獣のような咆哮だけが響き渡る。

武装勢力のマギアナイトの装甲が魔力の過剰供給によって赤熱し、機体のリミッターが強制的に解除された。

「……なんじゃあれは。機体の出力が、数倍に跳ね上がっておるぞ」

ローゼリアが長い金髪を揺らし、眉をひそめる。

「遺物の力による強制的な暴走状態よ! パイロットの精神を破壊する代わりに、機体の安全装置を焼き切って限界以上の性能を引き出してるのよ!」

アルティナが警告を発する。

『ウオォォォォォッ!!』

狂乱状態に陥った十機以上の敵機が、一切の陣形を無視し、ただの破壊衝動のままにローゼリアたちに襲い掛かってきた。

その機動力は、先ほどのステルス部隊とは比べ物にならないほど速く、かつ予測不能だった。

スラスターを常軌を逸した出力で吹かし、機体が分解しかけるほどの無理な旋回を行いながら、ビームライフルやミサイルを乱れ撃ってくる。

『くっ……! 速い上に、動きが無茶苦茶です!』

リアンヌがブランの盾でミサイルを防ぎながら後退する。

「力に呑まれ、理性を失って暴れ回っておるな。攻撃力と速度が上がる代わりに、行動パターンが単調になるのは愚か者の証拠じゃ」

ローゼリアは、冷静に敵の動きを観察していた。

「リアンヌ、ウルスラ。あいつらはもう防御や回避という概念を捨てておる。突っ込んでくるだけの単細胞じゃ」

ローゼリアは、ルシフェルの操縦桿を握り直した。

「バハムート、自律可動砲台を展開。……敵の突進ルートを限定してやる」

『了解。自律可動砲台、全基展開します』

ルシフェルの背部から8つの漆黒の翼が放たれ、宇宙空間に展開。精密なレーザーによる面制圧射撃を開始した。

それは敵を撃ち落とすためではない。狂乱した敵機の進行ルートを、ローゼリアが意図した『死地』へと誘導するための弾幕であった。

「リアンヌ! 妾が誘導した敵を、防壁で受け止めろ!」

『はっ!』

「ウルスラ! 止まった的を、お主の杭で順番に撃ち抜け! 弾薬が尽きるまで撃ち尽くせ!」

『了解です!』

ローゼリアの冷徹で計算し尽くされた戦術が、戦乙女の連携によって完璧に実行される。

ルシフェルの弾幕によって追い立てられた暴走機体が、リアンヌの展開した分厚い風の魔力障壁に激突して体勢を崩す。

そこへ、ウルスラのミネルヴァがスラスターの全推力を乗せて肉薄し、パイルバンカーの冷酷な一撃を次々と叩き込んでいく。

ドガァァァンッ! ズシャァァァンッ!!

「……凄い。あんな出鱈目な動きをする敵を、完全に手玉に取っている……!」

ウルスラは、次々と敵機を粉砕しながら、ローゼリアの戦場支配力に戦慄すら覚えていた。

狂乱し、スペックで勝るはずの敵が、ローゼリアの指揮の下ではただの「撃ち落とされるための的」に過ぎないのだ。

「……さて。護衛の処理は終わったな。残るは、あの遺物を積んでいる指揮官機だけじゃ」

ローゼリアの真紅の瞳が、輸送艦の盾に隠れながら、巨大なビーム砲をチャージしている隻眼の男の機体を捉えた。

リーダー機であるその機体は、遺物の魔力を最も濃く受けており、巨大なバリアを展開しながら艦の甲板に陣取っていた。

『死ねぇぇっ! 帝国の化け物どもォォォッ!!』

男の機体から、巡洋艦の主砲クラスの極太の魔力ビームが放たれる。

だが、ローゼリアは微塵も焦らなかった。

「奪われた遺物を壊しては任務失敗じゃからな。……バハムート、機体本体への直撃は避けるぞ。武装と、四肢の関節部のみをロックオンしろ」

『ターゲット・ロック。マナビーム砲、出力調整』

ルシフェルの両肩に展開したマナビーム砲が、一瞬の閃光を放った。

放たれた二筋の紅いレーザーは、敵の極太のビームを紙一重で螺旋状に回避し、指揮官機の巨大なビーム砲の砲身と、両腕・両脚の駆動部だけをピンポイントで貫通した。

『がっ……!? バ、馬鹿な!? 俺の絶対のバリアを、こんな簡単に……!?』

四肢を失い、武装を破壊された指揮官機は、完全に無力化されて輸送艦の甲板に崩れ落ちた。

「任務完了じゃ」

ローゼリアのルシフェルが、ゆっくりと甲板に降り立ち、ダルマになった指揮官機を見下ろした。

『ひっ……! くるな、バケモノ……!』

「その言葉、そっくりそのまま返してやるわ。……身の程を知らずに禁忌の力に手を出した代償、とくと味わうがいい」

ローゼリアは、冷酷な声で告げた。

「アルティナ、輸送艦の制御を掌握。遺物を封印カプセルに戻して、エインヘリアルに回収するぞ」

『了解よ、ローゼリア。敵のデータベースから、裏取引のログも全部抜き取っておくわ』

ルシフェルが見下ろす中、指揮官機の隻眼の男は、絶望の表情を浮かべながら狂ったように笑い出した。

『ハ、ハハハッ! 勝ったつもりか、戦乙女! お前らが奪い返したのは、ほんの一部に過ぎねぇ! あの「支援者」……黎明の腕の連中は、すでにお前らの足元に最悪の網を張り巡らせている……! あの高次元の「管理者」が、お前という存在を許すはずが——』

男の言葉が終わる前に、彼の機体のコックピットで何らかの安全装置(口封じの自爆プログラム)が作動し、指揮官機は小さな爆発と共に沈黙した。

「……『黎明の腕』。そして『管理者』か」

ローゼリアは、男の最後の言葉を反芻し、真紅の瞳を細めた。

「どうやら、あの巨大な眼球の化け物どもは、妾を本気で消し去るために、本格的に組織を動かし始めたようじゃな」

「望むところです。いかなる神や悪魔が相手であろうと、我々戦乙女が、必ずやローゼリアの道を切り開いてみせます」

リアンヌが、ブランをルシフェルの傍らに寄せて誓いの言葉を口にする。

「私も、微力ながら全力でお支えします。……ローゼリア、本日はご指導ありがとうございました」

ウルスラのミネルヴァも、深く敬礼の姿勢をとった。

「うむ。お主の『杭』、なかなかに良い威力を出しておったぞ。これからも頼りにしておる」

ローゼリアが満足げに頷く。

強奪された禁忌の遺物は無事に回収され、第七星区の反乱分子は完全に鎮圧された。

ウルスラという強力な新戦力を加えた戦乙女は、見事な連携で初陣を飾ったのである。

数時間後。

母艦エインヘリアルのブリッジでは、任務を終えてジャージ姿に戻ったローゼリアが、大きなあくびをしながらソファに寝転がっていた。

「……ふぁあ。疲れた。やはりステルス戦は気疲れするのう」

「お疲れ様、ローゼリア。遺物の封印も完了したし、今回はこれで帰還ね」

アルティナがタブレットを弄りながら労う。

そこへ、メインモニターに強制割り込みの通信が入った。

『——ローゼリア! 私の可愛いローゼリア!! 無事ですか!? 怪我はありませんか!?』

モニターに大写しになったのは、帝都にいるはずの皇帝フェイトであった。金髪黒眼の美しき女帝は、普段の威厳をかなぐり捨てたかのように、画面にへばりつくようにして妹の無事を確認しようとする。その隠しきれないシスコンぶりを遺憾なく発揮していた。

「姉上……。だから、任務が終わるたびに直接通信を入れてくるのはやめてくれと言っておるじゃろ。妾は無事じゃ、擦り傷一つないのじゃ」

ローゼリアが呆れたように答える。

その後ろで、新入りのウルスラが、帝国最高の権力者のあまりのギャップに目を見開き、直立不動のまま固まっていた。

(こ、これが……あの冷徹で知られるフェイト皇帝陛下!? なんだこの甘ったるい空気は……!?)

『ああ、良かった……。禁忌の遺物を巡る戦いと聞いて、私が自ら艦隊を率いて助けに行こうかと思ったのですよ? ですが、我慢して帝都でおとなしく待っていました。えらいでしょう?』

「(皇帝が我慢して帝都にいるのが「えらい」って、どういう理屈じゃ……)」

ブリュンヒルデをはじめとするクルー全員が、心の中でツッコミを入れた。

『帰ったら、今度はメロンをふんだんに使った特大のパフェを用意して待っていますからね。一緒に食べましょうね!』

「おおっ! パフェか! それは楽しみじゃ!」

甘いものに目がないローゼリアは、先ほどまでの気怠さが嘘のように目を輝かせた。

通信が切れ、ブリッジに再び平和な空気が戻り、クルーたちは各々の休息へと散っていった。

……だが。

誰もいない静かな暗がりの中で、ただ一人、冷たい瞳を光らせる者がいた。

エインヘリアルのパイロット用個室。

つい先程まで、「驚きに固まる忠実な新入隊員」の顔を見せていたウルスラ・レーヴェは、ベッドの上に腰掛け、手元の小型情報端末を操作していた。

彼女のヘーゼル色の瞳から、新人らしい熱意や純朴さは完全に消え失せている。

そこにあるのは、冷徹な機械のような、純粋な『監視者』としての眼差しだった。

彼女は端末に、帝国軍の暗号化プロトコルを完全にすり抜ける、極秘の量子通信コードを入力した。

『——こちらウルスラ。潜入プロセス、初期段階クリア。目標ローゼリアおよび戦乙女のメンバーは、私に対して完全に警戒を解いています』

通信の向こう側から、ノイズ混じりの低い男の声が響く。

『ご苦労だった。……目標の戦闘データはどうだ?』

『異常なまでの空間把握能力と、機体の制御技術を確認しました。しかし、彼女の動きの癖や、各機体との戦術連携の基礎コードは、今回の戦闘で大部分を収集済みです。……データは暗号化して、そちらのサーバーへ送信します』

『素晴らしい。……引き続き、内側から彼女たちを監視しろ。我々「黎明の腕」が、あの特異点の首に確実な縄をかける、その時までな』

『了解しました』

通信を切り、ウルスラは端末を自身の網膜認証ロックで厳重に封印した。

「……さて。明日の訓練に向けて、少し休むとしましょうか」

ウルスラは、何事もなかったかのように穏やかな笑みを浮かべ、ベッドに横たわった。

最強の死神たちを内側から崩壊させるための毒牙は、誰一人気づくことなく、すでに彼女たちの最も近い場所に潜り込んでいたのである。

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