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追放皇女の異世界戦記  作者: 浅井川亘


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第二幕 第三十五話:ゲーマー直伝の最適化(ビルド)と、蹂躙される仮想敵

「……よし。敵の挙動パターンは完全に把握した。第二小隊、右翼から回り込んで射線を切れ。第三小隊は電子妨害ジャミングに専念。無駄な通信はするな、パケットの無駄じゃ」

「「「了解ラジャー!!」」」

エインヘリアル内のVR訓練室。

薄暗い空間に、カタカタという高速のタイピング音と、ゲーミングチェアの軋む音だけが響いている。

シミュレーターのポッドから這い出してきた士官学園の学生たちの顔には、三日前の彼らが持っていた「エリート候補生としての初々しさ」や「若者らしい活気」など微塵も残っていなかった。

目の下には濃い隈ができ、肌はモニターの光を浴びすぎたせいで青白い。しかし、その瞳だけは、血に飢えた獣……いや、ランキング上位を目指して徹夜でランクマッチを回し続ける『限界ゲーマー』の如き、異常なまでのギラつきと殺気を放っていた。

「……お主ら、なかなか見込みがあるぞ。初日に教えた『偏差射撃』と『リロードの隙を突く立ち回り』が、完全に身体に染み付いておる。これなら、野良のマルチプレイでも十分通用するじゃろう」

一番奥の特等席(最高級リクライニングチェア)で、ポテトチップスをかじりながらモニターを眺めていたローゼリアが、満足げに頷く。

「ありがとうございます、ローゼリア殿下……! すべては、殿下の神がかったご指導の賜物ですわ……!」

エリーゼ・マーベリックもまた、前時代的な縦ロールを少し乱しながら、しかしその顔には圧倒的な自信をみなぎらせていた。

この三日間。

エインヘリアルが演習場へ向かうまでの間、学生たちはローゼリア、アルティナ、リアンヌの三人による『地獄のスパルタ教育』を昼夜問わず受け続けていた。

それは、従来の帝国士官学園で教えられるような「騎士道精神」や「美しい陣形」といったお上品なカリキュラムとは対極に位置するものだった。

リアンヌからは、敵の急所を無慈悲に、そして最短距離で穿つ「感情を排した殺戮の技術(と、ローゼリアへの愛の精神論)」。

アルティナからは、敵のOSをハッキングし、通信を傍受して盤面を完全に支配する「ドSなまでの情報統制と電子戦」。

そしてローゼリアからは——被弾面積ヒットボックスの最小化、弾薬管理、無敵フレーム(回避行動)の活用、そして何より『敵をハメ殺すための最適化メタ構築』という、生粋の対人戦(PvP)ゲーマーの極意が叩き込まれたのである。

さらに、エリーゼの愛機『ロゼット・グレイス』に至っては、ローゼリアの直接の指示チューニングにより、装甲のバランスが劇的に改善されていた。

「このヒラヒラした装甲、見た目は良いが当たり判定がデカくなるだけじゃ。外せ。その分スラスターの出力を上げて機動性に全振りするんじゃ」という身も蓋もないアドバイスのもと、無駄な装飾デッドウェイトを削ぎ落とされた薔薇の機体は、ピーキーだが恐るべき反応速度を誇る『超高機動・近接特化ビルド』へと生まれ変わっていた。

「教官……俺たち、もう何も怖くありません。アルティナ教官にファイアウォールを焼かれた時のあの屈辱と快感……それに比べれば、学園の他の連中の攻撃なんて、止まって見えます」

アルティナの冷たい罵倒に目覚め、すっかり「ドSハッカーの信者」と化した男子生徒たちが、恍惚とした表情でタブレットを抱きしめている。

「……気持ち悪いから、さっさと自分の船に戻りなさい。演習場に着いたわよ」

アルティナがドン引きしながら冷たく言い放つと、男子生徒たちは「ありがとうございます!」と謎の感謝を叫びながら敬礼した。

エインヘリアルの巨大な母艦が、第十二星系『アステリア演習場』の宇宙ステーションへとドッキングを完了した。

ここは、帝国の士官学園が実地訓練を行うために建設された、広大な人工デブリ帯や模擬市街地を備えた巨大な軍事施設である。

「傭兵団『戦乙女』の皆様! この度のご恩は、決して忘れません! 学生たちを送り届けていただいたばかりか、最新のシミュレーターで特別訓練まで施していただき……!」

格納庫で、演習艦の教官がブリュンヒルデ団長の手を握りしめ、涙ながらに感謝の言葉を述べていた。

「なに、気にするな。未来の帝国を背負う若者たちの手助けができたのなら、我々としても誇らしい。……追加の護衛・輸送費用と、シミュレーターの使用料(特別レッスン代込み)の請求書は、後日学園の方へ回させてもらうから、よろしく頼むぞ」

「は、はいっ! 喜んでお支払いいたします!」

教官は、学生たちがどれほど「異常なスキル」を身につけてしまったかを知る由もなく、ただただ感謝していた。

一方、マギアナイトの搭乗ハッチ前。

「ローゼリア殿下……! 短い間でしたが、わたくしの人生において最も濃密で、尊い三日間でございました!」

エリーゼが、別れを惜しむようにローゼリアの手を両手で包み込んでいる。

「お、おう。お主もなかなか筋が良かったぞ。妾が教えた『カメラ視界からのフェードアウト』と『偏差射撃』、実戦でも忘れるでないぞ」

「はいっ! 殿下にチューニングしていただいたこの機体(ロゼット・グレイス改)で、必ずや演習をトップの成績でクリアしてみせますわ! そしていつか、必ず……殿下の隣に立てる立派な騎士になってみせます!」

感極まって瞳を潤ませるエリーゼに、ローゼリアは苦笑しながら、ポンポンと彼女の金髪の縦ロールを撫でてやった。

「うむ。期待しておるぞ」

その神ファンサービスに、エリーゼは再び顔を真っ赤にして「はうぅっ……!」と昇天しかけたが、リアンヌが背後から「気安くローゼリアに触らないでください! 時間です、早く行きなさい!」と追い払った。

こうして、三日間にわたる『ゲーマー死神の特別合宿』を終えたエリーゼと学生たちは、自信に満ち溢れた足取りで、それぞれの機体へと乗り込み、ステーションの演習宙域へと出撃していったのである。

アステリア演習場、第七セクター。

広大な模擬市街地と小惑星群が入り組むこの宙域では、すでに先行して到着していた「敵役アグレッサー」の学生部隊が、エリーゼたちの到着を待ち構えていた。

「遅いな、第十三演習艦の連中は。母艦が故障して立ち往生していたと聞いたが……ふん、田舎貴族や平民上がりの寄せ集め部隊にはお似合いのトラブルだ」

仮想敵部隊を指揮する、銀髪をオールバックにした美形の男子生徒——レオンハルト・アークライトが、自機のコックピットで鼻で笑った。

彼は、帝国でも有数の名門アークライト侯爵家の子息であり、常にエリーゼと首席の座を争っているエリート中のエリートである。彼の率いる部隊は、学園内でも最新鋭のカスタマイズ機を与えられた選りすぐりの精鋭たちだった。

「隊長。マーベリック令嬢の部隊が演習宙域に進入しました。……どうやら、傭兵団の船に乗せてもらって到着したようです」

「傭兵の船だと? 誇り高き帝国士官が、薄汚い金目当ての連中の世話になるとはな。……まあいい。長旅とトラブルで疲弊しきっている連中など、我が精鋭部隊の敵ではない」

レオンハルトは、通信機越しに自信たっぷりに命令を下した。

「演習開始と同時に、圧倒的な火力で制圧する。各機、包囲陣形を取れ! マーベリック令嬢には、我がアークライト家の力の差というものを、骨の髄まで教えてやろう!」

『了解!!』

——ビーーーッ!

演習開始を告げるシグナルが、宙域に鳴り響いた。

レオンハルトの部隊は、一斉にスラスターを吹かし、完璧に統率された陣形を取りながらエリーゼたちの部隊へと接近していく。

レーダーには、まとまって進軍してくる敵(エリーゼの部隊)の光点が映っていた。

「よし、射程距離に入った! 全機、一斉射撃——」

レオンハルトが号令を掛けようとした、その瞬間。

**——ジジッ……ザザザザザッ!!**

「なっ!? なんだ!?」

突然、レオンハルトの機体のメインモニターが激しいノイズに包まれ、レーダーの光点がすべて消失した。

通信回線からは、味方の声ではなく、不気味なほどの「砂嵐の音」しか聞こえなくなってしまったのだ。

『つ、通信が! 暗号化回線が完全にジャックされています!』

『メインカメラの映像がループしています! レーダーが使い物になりません!』

部下たちの悲鳴が、かろうじて近距離通信から漏れ聞こえてくる。

「ば、馬鹿な! 我が部隊のファイアウォールは、学園でも最高クラスの暗号キーで保護されているはずだぞ! たかが学生の電子戦で突破されるはずが——」

『……無駄なパケットを垂れ流しすぎなんだよ、エリート気取りの坊ちゃんたち』

突然、ジャックされた通信回線に、低く、冷酷な男子生徒の声が響いた。

それは、エリーゼの部隊にいる「アルティナの狂信的ファン」となった電子戦担当の生徒だった。

『アルティナ教官の神聖なるハッキングに比べれば、お前らの暗号キーなんて、紙切れより薄っぺらい。……情報の優位性は、俺たちが完全に支配した』

「なに……っ!?」

レオンハルトが戦慄した次の瞬間。

レーダーから完全に姿を消していたエリーゼたちの部隊が、小惑星の陰から「無音」で姿を現した。

「さあ、反撃の隙も与えず、一網打尽にしますわよ! 愛なき刃は紙切れ同然! 殿下への愛を胸に、全機、蹂躙なさい!!」

先頭を駆けるのは、無駄な装飾を削ぎ落とし、スラスターの出力設定を極限までチューニングされた真紅の機体『ロゼット・グレイス改』。

エリーゼの号令と共に、三日間のスパルタ合宿で完全に「ゲーマーの脳」に書き換えられた学生たちが、一斉に襲い掛かった。

「ひぃっ!? 速い! マーベリックの機体、あんなに高機動だったか!?」

「撃て! とにかく撃て!」

通信とレーダーを封じられ、パニックに陥ったレオンハルトの部下たちが、闇雲にビームライフルを乱射する。

しかし。

「無駄撃ちが多すぎますわ! 射線が完全に読めていますのよ!」

エリーゼの機体は、その光の雨を「歩くように」すり抜けた。

ローゼリア直伝の、最小限のブーストと姿勢制御による『弾幕回避』。弾道予測とヒットボックスの最小化を極めたその機動は、かつて彼女がVRシミュレーターで味わった「死神の動き」そのものであった。

「リロードの隙……今ですわね!」

敵の一機が弾切れを起こし、武器の冷却クールタイムに入った瞬間。

ロゼット・グレイス改が、恐るべき速度で懐に飛び込んだ。

「しまった! 近接戦闘——」

敵機が慌ててビームサーベルを抜こうとする。

だが、遅い。

「『背中がガラ空き』ですわよ」

エリーゼは、ローゼリアがシミュレーターで見せた『あの機動』を完全に再現した。

進行方向とは逆のベクトルへ一瞬だけスラスターを逆噴射し、急ブレーキと同時に180度反転。敵のカメラのフレーム(視界)から一瞬にして姿を消す『クイックターン』。

「消えた……っ!?」

敵が周囲を見渡した時には、すでにロゼット・グレイス改は敵機の真後ろに位置していた。

そして、無駄なモーションを一切省いたレイピアの刺突が、敵機の背部メインカメラと動力部を正確に貫いた。

判定ジャッジ:致命の損傷。機体停止】

演習用のシステム音声が響き、敵機が一瞬にして機能停止する。

「次! まだ右翼に三機いますわ! 偏差射撃で足止めを!」

「了解! 相手の移動先(予測位置)に弾幕を張ります!」

エリーゼの指揮のもと、学生たちは一切の無駄な通信を行わず、機械のように冷徹に、そして完璧に最適化された動きで敵を追い詰めていく。

リアンヌに仕込まれた「近接での一撃必殺」。

アルティナに仕込まれた「電子戦による無力化」。

そしてローゼリアに仕込まれた「PvP特化の立ち回りと効率化」。

彼らの戦い方は、もはや士官候補生の模擬戦のレベルを遥かに逸脱していた。

それは、圧倒的なプレイスキルで初心者狩りを行うプロゲーマーのような、一方的で、無慈悲な『スピードラン(タイムアタック)』であった。

「ば、馬鹿な……! 我がアークライト家の精鋭が、こんな、こんなにあっさりと……!」

わずか三分。

たったの三分で、レオンハルトの率いる部隊は、エリーゼの機体のレイピアを喉元に突きつけられ、全機が「撃墜判定」を受けることとなった。

彼らは何が起きたのかすら理解できず、ただ圧倒的な絶望と恐怖に震えながら、敗北を受け入れるしかなかった。

「……ふんっ。口ほどにもありませんわね」

エリーゼは、機能停止したレオンハルトの機体を見下ろしながら、コックピットの中で優雅に扇子を広げた。

「わたくしたちは、銀河最強の死神にして気高き皇女殿下直々の教えを受けた、言わば『戦乙女の弟子』ですのよ。あなたたちのような温室育ちのエリートが、勝てるはずがありませんわ!」

その高らかな笑い声は、アステリア演習場に虚しく響き渡るレオンハルトのプライドを完全に粉砕した。

同じ頃。

演習場から離脱し、次なる目的地へとワープの準備を進める母艦エインヘリアルのリビングルーム。

「……おお。終わったようじゃな。クリアタイム三分十二秒。相手の装備レベルを考えれば、まずまずのタイムアタックじゃのう」

ローゼリアは、アルティナがこっそりとハッキングして映し出している演習場のライブモニターを見ながら、コンソメ味のポテトチップスをボリボリと貪っていた。

「あの子たち、私生活はアレだけど、吸収力だけは凄まじいわね。私が教えたジャミングのスクリプト、完璧に使いこなしてたわよ。……少しだけ、男子生徒たちのあの熱狂的なファンレターが気持ち悪かったけど」

アルティナが、タブレットに大量に届いた『アルティナ教官ファンクラブ』からのメッセージを受信拒否に設定しながらため息をつく。

「ローゼリア! エリーゼのあの最後の刺突、私がお教えした『愛の踏み込み』が完璧に体現されていましたね! 私も誇らしいです!」

リアンヌが嬉しそうにローゼリアの肩を揉む。

「うむ。教え子が強くなるのは、RPGで育てたキャラクターがボスをワンパンで倒すのを見るようで、なかなか気分が良いものじゃな」

ローゼリアは、モニターの中で誇らしげに胸を張る真紅の機体——『ロゼット・グレイス改』を見つめ、ふっと口角を上げた。

「さあ、暇つぶしのチュートリアルは終わりじゃ。アルティナ、ワープに入る前に、新作の協力プレイ型ゾンビゲームのダウンロードを済ませておけ。今日は徹夜で高難易度をクリアするぞ」

「はいはい、分かってるわよ。お姫様の背中は私が守ってあげるわ」

「私も! 私もローゼリアの背中を物理的にお守りします!!」

「お主は後ろで肩を揉んでおれ。……よし、行くぞ!」

圧倒的な蹂躙劇スピードランの余韻を演習場に残し、銀河最強の死神と、その騒がしい仲間たちを乗せた傭兵艦エインヘリアルは、煌めく光の尾を引いて、次なる戦場バカンスへと次元跳躍ワープしていった。

彼女たちが育て上げた「ツンデレ令嬢とゲーマー士官たち」が、のちに帝国軍の中核を担う恐るべき精鋭部隊として名を轟かせることになるのは、また別のお話である。

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