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追放皇女の異世界戦記  作者: 浅井川亘


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第二幕 第二十四話:帝国の宙域と、優しき女帝(姉)の出迎え

エインヘリアルの母艦が地球のある未開宙域から次元跳躍ワープを実行してから、数時間が経過した。

激しい時空の乱気流を抜け、ブリッジのメインモニターを覆っていた眩い光が収束すると、そこには見慣れた銀河の美しい星々が広がっていた。

『次元跳躍、正常に完了! 動力炉の出力安定、各部システム異常なし! アタシの完璧な修理のおかげだね!』

通信モニター越しに、整備班長のフィーネが油まみれの顔でサムズアップを決める。

「……ふぅ。どうやら、無事に銀河連邦の勢力圏内に帰ってこられたようだな」

指揮官席でブリュンヒルデ団長が深く息を吐き出し、いつもの胃薬の小瓶を胸のポケットにそっとしまった。

「お疲れ様、団長。……現在地の星図データを照合するわ」

オペレーター席のアルティナが、ホログラムキーボードを素早く叩く。

「ええと、ここは銀河の中央セクターね。連邦の中でも屈指の軍事力と経済力を持つ巨大星間国家……『エーベルヴァイン帝国』の直轄宙域よ」

その名前がブリッジに響いた瞬間。

没収されたゲームの代わりに、売店で買った知恵の輪をカチャカチャといじって暇を潰していたローゼリアが、「おおっ」と顔を上げた。

「ここは姉上の治める帝国領ではないか! ふむ……過去に色々あって皇籍を追放された身としては少しばかり気まずいが、久々の実家ホームじゃな」

「あんた、実家のこと『ゲーム環境が整ったネカフェ』くらいにしか思ってないでしょ」

アルティナがジト目でツッコミを入れる。

そう、ローゼリア・エーベルヴァインは、強大なエーベルヴァイン帝国に生を受けた元・皇女である。

とある事情により皇籍を剥奪され、追放された身分ではあるものの、本人は「王族としての面倒くさい公務から解放された!」と大喜びで傭兵団エインヘリアルに転がり込み、自由気ままなゲームライフを満喫していたのだ。

**——ピピピピピピピッ!!**

「団長! 前方の空間から、超巨大な艦隊のワープアウト反応! 数は数百隻、完全に当艦を包囲する陣形です!」

アルティナが緊迫した声で報告する。

「ユグドラシルの追手か!?」

戦斧を担いだランドグリーズがブリッジに駆け込んでくる。その後ろから、ロスヴァイセとオルトリンデも戦闘態勢で続いた。

「違うわ。この識別信号……」

アルティナがモニターに映し出された艦隊の紋章を拡大する。

白銀の装甲に、黄金の双頭の鷲。それはユグドラシルのようなテロリストの寄せ集めではない、銀河随一の練度と格式を誇る正規軍。

「エーベルヴァイン帝国・皇帝直属の『近衛第一艦隊』よ。……通信が入るわ!」

メインモニターの映像が切り替わり、一人の女性の姿が映し出された。

光り輝くような美しい金髪を結い上げ、底知れぬ魔力と知性を秘めた黒曜石のような黒い瞳を持つ、圧倒的なカリスマ性を放つ絶世の美女。軍服をアレンジした豪奢な純白のドレスを身に纏っている。

彼女こそが、強大なエーベルヴァイン帝国を統べる若き女帝。

ローゼリアの実の姉であり、銀河の最高権力者の一人——**フェイト・エーベルヴァイン**であった。

『——おかえりなさい、私の可愛い妹。そして、帝国が誇る英雄たち』

モニター越しのフェイトは、威厳に満ちた佇まいでありながらも、その黒い瞳を細めて優美に微笑んだ。

「はっ……! ご無沙汰しております、フェイト女帝陛下。無断での帝国宙域への進入、どうかご容赦いただきたい」

ブリュンヒルデが直立不動で敬礼し、冷や汗を流しながら頭を下げる。傭兵団のトップとはいえ、強大な帝国の女帝を前にしては緊張せざるを得ない。

『堅苦しい挨拶は不要よ、ブリュンヒルデ団長。顔を上げなさい』

フェイトは鷹揚に頷き、深く慈愛に満ちた声を紡いだ。

『先日の狂信者集団【ルーンベイト連合】との大規模な星間戦争……。あの激戦において、あなたたち『戦乙女ヴァルキュリア』がもたらした多大なる戦果と、帝国軍への支援。帝国は決して忘れてはいないわ』

以前、エインヘリアルは帝国に仇成す巨大な敵対勢力「ルーンベイト連合」との戦いにおいて、帝国軍と見事な共闘を果たし、絶望的な戦況を覆すという歴史的な大活躍を見せていた。

『あなたたちは、エーベルヴァイン帝国にとって最高の恩人であり、国賓よ。……総員、我らが英雄たちに敬礼!』

フェイトの号令と共に、モニターの奥にいる帝国の将官たちが一斉にエインヘリアルの母艦に向けて最敬礼を行った。近衛艦隊の戦艦群も、歓迎と敬意を示す祝砲の代わりに、美しい光の軌跡フレアを宇宙空間に放つ。

「おおお……! なんという寛大な御心! さすがは我が主・ローゼリアの血を引くお姉様!」

リアンヌが感動のあまり両手を合わせて祈るように目を潤ませる。

『エインヘリアルの母艦はひどく損傷しているようね。すぐに帝都の最高級軍事ドックへ案内させるわ。修理費用はすべて帝国が持ちましょう。ゆっくりと羽を伸ばしてちょうだい』

「感謝の極み……! ありがたく、お言葉に甘えさせていただきます!」

ブリュンヒルデが、ようやく胃の痛みが引いていくのを感じながら深く頭を下げた。

『——それから、ローゼリア』

フェイトの視線が、妹へと向けられる。

「は、はい! フェイト姉上!」

ローゼリアが少しだけ居住まいを正す。

『追放された身でありながら、傭兵として立派に銀河の平和を守り、あまつさえこんなに優秀な仲間たちに囲まれているのだから、姉として安心したわ。……ええ、それどころか、あなたのルーンベイト連合戦での凄まじい活躍ぶりは、帝国民の心をすっかり掴んでしまったようね』

フェイトは、少しだけ面白がるように口元を綻ばせた。

『最近では、帝国の議会でも**「英雄たる元・皇女ローゼリア様を、直ちに皇族に復帰させるべきだ」**という声が、毎日のように上がっているのよ』

「ひぃっ!?」

その言葉を聞いた瞬間、ローゼリアの顔からサッと血の気が引いた。

「こ、皇族復帰!? 嫌じゃ、絶対に嫌じゃ! 皇族に戻ったら、また山のような公務を押し付けられたり、堅苦しいマナー講座を受けさせられるではないか! 妾は一生、気楽な追放者ニートとして傭兵をしながらゲームをして生きていくんじゃあぁぁっ!」

全力で首を横に振る銀河最強の死神の情けない姿に、アルティナが「どれだけ働きたくないのよ……」と呆れたようにため息をつく。

『ふふっ、心配しなくても、今すぐあなたを公務の山に縛り付けたりはしないわ。まずは祖国での休息を楽しんでちょうだい』

姉の優しい言葉に、ローゼリアはホッと胸を撫で下ろす。

『あなたの無事な帰郷を祝して、帝城にあるあなたの自室の通信環境を、帝国軍の最新鋭【超高速・軍事用光回線】にアップグレードしておいたわ。もちろん、発表されたばかりの次世代VRハードの特装版もセッティング済みよ』

「姉上ぇぇぇっ!! 妾は一生、姉上についていくぞぉぉぉっ!!」

ローゼリアは感極まってモニターにすがりつき、ブリュンヒルデにゲームを没収された悲しみなど一瞬で消し飛んだように歓喜の雄叫びを上げた。

『積もる話は、帝城のティールームでゆっくりと聞かせてもらうわ。……帝都で待っているわよ、私の可愛い妹』

フェイトの優雅な微笑みと共に、通信が切れる。

ブリッジは、強大な帝国軍から向けられた予想以上の「大歓迎」の空気に包まれ、安堵と歓喜の空気に満ちていた。

「よし! 総員、帝都に向けて発進! 久しぶりの特級の休暇だ、存分に楽しませてもらうぞ!」

『了解ッス!!』

未知の地球での死闘と羞恥の連続を乗り越えたエインヘリアルの戦乙女たちは、復帰待望論に沸く祖国と、温かく出迎えてくれた絶対女帝の待つ煌びやかな帝都へと、堂々たる凱旋を果たしていくのであった。

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