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追放皇女の異世界戦記  作者: 浅井川亘


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第二幕 第十九話:ゲーセンの死神と、悪友との禁断タッグ

「——ふぅ。こんなものじゃろう」

ユグドラシルの巨大な地下プラントは、ものの数分で完全なるスクラップの山と化していた。

バズってしまったことへの羞恥と怒りに身を任せたローゼリアの八つ当たりにより、防衛部隊の『フェンリル』は全滅。エネルギーを吸い上げていた魔力変換炉も、スッパリと両断されて沈黙している。

「アルティナ、フィーネ。目標の制圧は完了したぞ。この地下に眠るレアメタルとエーテル結晶の座標データを送る。後はシャトルで自動回収するが良い」

『了解よ、ローゼリア。……それにしても、見事な更地ね。怒れる女って怖いわ……』

月の裏側の母艦から通信を繋いでいるアルティナが、若干引いた声で呟く。

現在、地球に降下しているのはローゼリアただ一人である。強行偵察と殲滅を最速で終わらせるため、アルティナとリアンヌは母艦に残り、後方支援とシステムハッキングに専念していたのだ。

『自動回収には少し時間がかかるわ。終わるまで、タナトスを光学迷彩で隠して、**絶対に機体から降りずに**待機していてね』

「む? なんでじゃ。少しばかり外の空気を吸いに出ても……」

『ダメです、ローゼリア!』

通信にリアンヌの必死な声が割り込んでくる。

『魔力を使わない生身のローゼリアは、その……大変申し上げにくいのですが、**壊滅的なまでの運動音痴で、よく何もない平坦な床でつまずくほどのドジ**ではありませんか! もし外に出て転んでお怪我でもされたら、私は地球を消し炭にしてしまいます!』

『リアンヌの言う通りよ。あんた、自分の身体能力の低さを自覚しなさい。地球の重力下でドジを踏んで一般人に怪しまれたら面倒でしょ。機体の中で大人しくゲームでもしてなさい』

「ぬぐぐ……っ」

図星を突かれ、ローゼリアはコックピットの中で呻いた。

確かに彼女の生身の身体能力は極めて低く、エインヘリアル母艦の廊下でもよく転んではリアンヌに泣きついている。

「わ、わかっておるわ! 妾はタナトスの中で一歩も動かん!」

ローゼリアは通信を切ると、タナトスを廃工場から離れた深い森の中へ移動させ、完璧な光学迷彩とジャミングを展開して機体を隠蔽した。

……しかし。

「あー、暴れたら喉が渇いたし、腹も減ったのじゃ。地球のジャンクフードが妾を呼んでおる……」

死神の決意など、コーラとポテトチップスの誘惑の前には紙切れ同然だった。

ローゼリアはコックピットの中でパジャマから、黒のオーバーサイズTシャツとキャップという「現代日本のストリート系私服」へと素早く着替える。

「すぐそこのコンビニに行って帰ってくるだけじゃ! 誰にも見つからんし、転びもしないわい!」

誰にも止められないのをいいことに、ローゼリアはタナトスのハッチを開け、深夜の街へと一人でこっそりと抜け出したのである。

「おおお……! 久しぶりに見る地球のコンビニじゃ! このポテトチップスのコンソメ味! そしてこの炭酸飲料!」

森を抜け、奇跡的に一度も転ぶことなくコンビニにたどり着いたローゼリアは、アルティナが偽造した電子マネーを使って買い物を済ませた。

コンビニの袋を提げて外に出た彼女は、コーラを一気に流し込みながら「ぷはーっ!」と満足げな声を上げた。

「やはり地球のコーラは最高じゃ! さて、大人しくタナトスに……む?」

ふと、ローゼリアの足が止まった。

彼女の真紅の瞳が捉えたのは、コンビニの斜め向かいにある、煌々とネオンを輝かせる大型の『ゲームセンター』だった。

「あ、あれは……!」

ローゼリアの体が震える。

「妾が前世で、青春のすべてを捧げた地元のゲーセン……! まだ潰れておらんかったのか!!」

足を踏み入れるな。おとなしく帰れ。

アルティナの警告が脳裏をよぎるが、生粋のゲーマー魂が理性をあっさりと凌駕した。

「少、少しだけじゃ……少しだけ様子を見るだけじゃから!」

深夜のゲームセンターは、格闘ゲームやロボット対戦ゲームに興じる地元のゲーマーたちで熱気を帯びていた。

その中で、ローゼリアの足はある一つのアーケード筐体の前でピタリと止まった。

「おおおっ……! これは、妾が死ぬ前に稼働していた『機動対戦メカニック・ストライク』の最新バージョンではないか!!」

それは地球で大人気の、2対2でチームを組んで戦う対戦型アクションゲームだった。前世のローゼリア(男)は、このゲームの全国ランカーとしてその名を轟かせていたのだ。

「……血が、ゲーマーとしての血が騒ぐわい!」

ローゼリアはキャップのつばを深く被り直し、空いている筐体の席にドカッと座ってクレジットを投入した。

一人でCPU戦でもやって帰ろう、そう思った矢先である。

「おっ、隣空いてる? 姉ちゃん、タッグ組んでくれない?」

ポン、と隣の席に誰かが座り、気さくに声をかけてきた。

ローゼリアが何気なく横を向いた瞬間——彼女の心臓が、文字通り口から飛び出そうになった。

「(タ、タナカァァァァァッ!?)」

隣に座ってニカッと笑いかけてきたのは、ヨレヨレのパーカーを着た見覚えのある青年。

間違いない。ローゼリアが前世で毎晩のようにオンラインゲームでボイスチャットを繋いでいた、地元の親友(悪友)のタナカだった。

「(な、なぜこんな時間にゲーセンに!? ああ、そうか、こいつ万年フリーターの深夜シフト明けじゃった!! よりによってなぜ妾の隣に座るんじゃこのバカ!!)」

「えっと、外国人? 日本語わかる? オレ、援護得意だからさ。よろしくな!」

「あ、ウ、ウム……ヨロシク」

ローゼリアはバレないように片言の日本語を装い、キャップを目深に被って画面に顔を向けた。

今すぐ逃げ出したいが、ここで不審な動きをして目立てば逆に怪しまれる(しかも急いで走れば確実に足がもつれて転ぶ)。ならば、このゲームをさっさと終わらせて自然に立ち去るしかない!

『——Target locked on!』

画面の中でロボットが動き出す。乱入してきた地元のプレイヤーとの対人戦だ。

ローゼリアは前世の知識と、本物のマギアナイトを操る「死神の動体視力」をフル稼働させた。

「(さっさとボコボコにして帰るんじゃ!!)」

ローゼリアのレバー捌きは、もはや神業だった。

敵の弾幕をミリ単位で躱し、カウンターの極大ビームを叩き込む。隣のタナカが援護射撃をする前に、敵機が次々と爆散していく。

「うおっ!? 姉ちゃん、すげえ動き! てか、その射撃のタイミングとステップの踏み方……!」

隣でタナカが目を見開いている。

まずい。ローゼリアは焦った。タナカは無駄に観察眼が鋭い。プレイスタイルから「かつての悪友」の面影を感じ取られている。

「サンキュー、助かったぜ! いやぁ、マジでビビった。お前の動き、俺の死んだダチにそっくりなんだよなぁ……」

タナカが懐かしそうに画面を見つめながら呟く。

その言葉に、ローゼリアの胸が少しだけチクリと痛んだ。悪友は、五年の月日が経っても、死んだ自分のことを覚えていてくれたのだ。

「(タナカ……お主……)」

「あいつ、いつも俺を囮にして自分だけオイシイところ持っていくクソ野郎だったけど、腕だけは確かでさ……おっと、次のチャレンジャーが来たぜ!」

「(感動を返せこのクソ野郎が!! 今回も存分に囮にしてやるわ!!)」

ローゼリアの謎のスイッチが入り、その後も二人のタッグは地元の猛者たちを次々と粉砕していった。

連勝記録はあっという間に「五十連勝」の大台に乗り、気づけば彼らの筐体の後ろには、ギャラリーの黒山の人だかりができていた。

「ふはははは! 次はどいつじゃ! 妾のこの機体の前には、すべての装甲が紙切れも同然……ハッ!?」

完全にゲーマーの顔に戻り、前世の口癖まで飛び出してしまったローゼリア。

その背後で、数十人のギャラリーが興奮気味にスマートフォンのカメラを向け、そのプレイ画面とローゼリアの横顔を動画で撮影し始めていた。

『——ちょっとローゼリア!! あんた機体から降りてるじゃない!!』

ローゼリアの脳内デバイスに、母艦のアルティナからの怒声が響き渡った。

「あ、アルティナ!? い、いや、これはその、偵察の一環で……」

『ふざけないで! これを見なさい!!』

アルティナがローゼリアの視界の隅に投影したのは、地球の巨大SNSのトレンド画面だった。

* **【悲報】地元のゲーセンに降臨した金髪赤眼の外国人美少女、伝説のタナカと組んでメカスト50連勝の無双中www**

* **「プレイスキルが人間やめてる」**

* **「てか、この美少女の『ふははは』って笑い方とプレイスタイル……昔タナカと組んでた伝説のランカー『ジムス』に似てね?」**

「……………………へ?」

ローゼリアの指が、レバーの上でピタリと止まった。

「さっきの空での巨大ロボット騒ぎに続いて、今度は『顔出し』でバズってるわよ! しかも地元民に特定されかけてるじゃない!!」

アルティナの絶叫が脳内に響く。

「な、なあ、姉ちゃん……」

隣の席から、タナカが真剣な顔でこちらを覗き込んできた。

「お前……まさかとは思うけど、その『ふははは』って笑い方……」

(マズい、マズいマズいマズいマズいッ!!)

このままでは、正体が「死んだはずの悪友(しかも金髪美少女に女体化)」だとバレてしまう!

「ソ、ソーリー! ミー、オナカ、イタイネ!! アディオス!!」

ローゼリアは適当すぎる偽外国語を叫ぶと、椅子から跳ね起き、ギャラリーの群れを強行突破してゲームセンターの出口へ向かって猛ダッシュした。

「あっ、おい待てよ! 姉ちゃん!!」

タナカの呼び止める声を背に、ローゼリアは全速力で夜の街を駆け抜ける。

しかし、普段全く運動をしない生身の身体能力が、ここで悲鳴を上げた。

「あわわわっ、足が、足がもつれる……ッ!!」

**ズデーーンッ!!**

見事に何もない平坦なアスファルトで足が絡まり、ローゼリアは顔面から派手にすっ転んだ。

「痛ぁぁぁぁぁいっ!! 鼻打った!! 妾の美しい鼻がぁぁぁっ!!」

『ああっ!! 言わんこっちゃない!! ローゼリア! 今すぐ空間跳躍でそちらに向かいます!! 地球の重力ごと粉砕して……』

『リアンヌは大人しくしてなさい! ローゼリア、早く起き上がって森の機体まで走りなさい!!』

深夜の日本の街に、鼻を押さえて涙目で走る銀河最強の死神の姿があった。

空では「漆黒の巨大ロボット」としてバズり、地上では「謎の超絶ゲーマー美少女(転倒付き)」としてバズる。

ユグドラシルとの死闘を完璧に制したエインヘリアルであったが、ローゼリア個人の「元・男としての尊厳」と「身体のダメージ」は、故郷の星でボロボロに打ち砕かれていたのであった。

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