第二幕 第十八話:テンション爆上げの防人たちと、バズる死神
ズドォォォォォォンッ!!!
ユグドラシルの地下基地から放たれた極大の魔力砲が、日米の戦闘機群を庇うように立ち塞がった『タナトス』の絶対防壁に弾け散った。
強烈な閃光と爆風が上空の雲を吹き飛ばし、戦闘機のキャノピーを激しく揺さぶる。
『……全機、無事か!?』
『こちらアルファ2、被害なし! だが、あ、あれを見ろ……!』
爆煙が晴れた日本の空。
そこに浮かんでいたのは、所属不明のステルス戦闘機などではなかった。
背中に漆黒の魔力翼を展開し、全長数十メートルに及ぶ巨大な大鎌を構えた、恐ろしくも神々しい『黒き死神(巨大ロボット)』の姿。
タナトスは、日米の戦闘機パイロットたちに向けて「これ以上は追ってくるな」と威嚇するように大鎌を一度だけ振り回すと、そのまま廃工場の地下へ開いた大穴めがけて、漆黒の流星となってダイブしていった。
静寂が戻った空。
日米合同のパイロットたちは、自分たちを救い、地底へと消えていった信じられない存在に対し、軍人としての規律も、死の恐怖すらも忘れ、ただ呆然とするしかなかった。
——と、思いきや。
『……お、おい。今の見たか!? 見たよな!?』
『ああ……見た。見たぞ! **巨大ロボットだ!! マジで巨大ロボットだったぞ!!**』
自衛隊の戦術データリンク回線に、突如としてパイロットたちの興奮しきった声が響き渡った。
『すげええええッ! アニメじゃなかった! この国には本当に秘密裏に巨大ロボが開発されてたんだ!! しかも鎌持ってたぞ、鎌!! 中二病全開で最高にカッコいいじゃねえか!!』
『Holy crap!!(なんてこった!!) アレは日本の極秘兵器か!? Ninja-Robotなのか!? Oh my god, 最高にクールだぜ!!』
米軍のパイロットたちも国際周波数でテンションを爆発させ、空中の軍事通信ネットワークは一瞬にして「巨大ロボットを目撃したオタクたちのボイスチャット」と化していた。
『おい、ガンカメラ(照準ポッド)の録画回ってるか!? 完全に捉えたぞ!』
『クソッ、俺の機体からは角度が悪かった! 悪いが後でそのデータ共有してくれ! 俺のスマホの待ち受けにする!!』
『よし、俺はコックピットから直接スマホで撮るぜ! あの地下の穴の奥にまだ光が見える! いけえええええっ、俺たちのロボット!!』
本来ならば厳格な情報統制が敷かれるべき緊急事態において、日米のパイロットたちはキャノピー越しに私物のスマートフォンまで取り出し、タナトスが飛び込んでいった地下の穴に向かってパシャパシャと無数のフラッシュを焚き始めたのである。
『……ローゼリア。なんか、空域がすごい騒ぎになってるわよ』
地下へと降下していくタナトスのコックピットに、アルティナの呆れ果てた通信が入った。
「な、なんじゃ!? まさか追撃のミサイルでも撃ってきたのか!?」
ローゼリアはビクッとして後方のサブモニターを確認する。
だが、そこに映っていたのは、タナトスの勇姿を激写しようと、空に円を描きながら旋回し、コックピットからスマホを向けている戦闘機パイロットたちの姿だった。
「……は? あいつら、何をしておるんじゃ?」
『テンション爆上げで写真撮影大会よ。自衛隊の通信回線を傍受してるけど、「巨大ロボ最高!」「助けてくれた黒い死神マジリスペクト!」って、お祭り騒ぎになってるわ。……あーあ、パイロットの一人が興奮のあまり、裏垢でSNSに動画アップしちゃったみたいね。現在、ものすごい勢いで拡散中よ』
「な、なんじゃとぉぉぉっ!?」
アルティナが空中に投影した地球のSNS画面には、タナトスが大鎌を構える姿がくっきりと映った動画が再生されており、秒単位で「いいね」と「リポスト」の数字が跳ね上がっていた。
* **【速報】謎の黒いロボットが自衛隊と米軍を謎のビームから守る!?**
* **「ヤバい、遂に地球防衛軍が動いたか」**
* **「デザインが完全に厨二病で草。でもカッコいい」**
* **「中の人、絶対オタクだろ」**
コメント欄の的確すぎる指摘に、ローゼリアの顔が羞恥で真っ赤に染め上がった。
「やめろぉぉぉっ!! 拡散するな! 妾の黒歴史(ロボット姿)をこれ以上世界に晒すな!! もしこの動画が実家の両親の目に触れて、『このロボット、死んだ息子が好きだったアニメの機体にそっくりだね……』なんて気づかれたらどうするんじゃぁぁぁっ!!」
『気づくわけないでしょ、ただのロボットの動画なんだから! 自意識過剰よ!』
アルティナの至極真っ当なツッコミも、前世のしがらみに囚われた死神の耳には届かない。
『ローゼリア! なんという名誉! 地球の羽虫たちも、あなたの神々しいお姿にひれ伏し、賛美の記録(写真)を残しているのですね! 私も負けてはいられません、今すぐ最高画質のホログラムカメラで……』
「リアンヌも撮るな!! データはすべて物理的に破壊するぞ!!」
「ええい、こうなったのもすべて……すべてユグドラシルの羽虫どものせいじゃ!!」
羞恥心と怒りが限界突破したローゼリアは、タナトスのスラスターをさらに全開にし、ユグドラシルの地下要塞の最深部へと、文字通りカチコミをかけた。
広大な地底空間には、地球のレアメタルとエーテルを吸い上げる巨大なプラントが建設されており、それを防衛するための無人兵器『フェンリル』部隊が数百機規模で待ち構えていた。
『——侵入者ヲ確認。黒キ死神。タダチニ排除プロセスヲ開始シマス』
機械的な音声と共に、フェンリル部隊が一斉に魔力砲のロックオンをタナトスへ向ける。
だが、今のローゼリアは、普段の「面倒くさがりな限界オタク」ではなかった。
**「実家の近所で世界中にバズらされた、激オコ状態の元・男」**である。
「排除されるのはお前らじゃ!! 妾の平穏なゲームライフと、前世の尊厳を返せぇぇぇッ!!」
タナトスの大鎌が、地底空間で漆黒の軌跡を描く。
一閃。ただそれだけで、前面に展開していた数十機のフェンリルが、空間ごと真っ二つに断ち切られて爆散した。
「遅い遅い遅い!! お前らのようなポンコツドローンに、妾のストレス発散のサンドバッグが務まると思うな!!」
ミサイルや魔力砲の雨が降り注ぐが、ローゼリアはタナトスを狂ったような速度で乱舞させ、全ての攻撃を紙一重で躱しながら(自衛隊機を避けた時の動きの応用である)、次々と敵機をスクラップに変えていく。
月の裏側の母艦から、その圧倒的すぎる殲滅劇をモニター越しに見ていた傭兵団の面々は、言葉を失っていた。
「……今日のお姫様、いつにも増して容赦がないッスね」
ランドグリーズが頬を引きつらせる。
「ええ。羞恥心というエネルギーは、時に魔力以上の爆発力を生み出すようですわね」
ロスヴァイセが眼鏡をクイッと押し上げた。
『あはははは! 散れ! 燃えろ! そして地球のSNSのサーバーごと吹き飛んでしまえぇぇぇっ!!』
地下要塞に、死神の狂気じみた笑い声と、大鎌が空気を切り裂く轟音が響き渡る。
ユグドラシルが地球の資源を使って密かに建造していた前哨基地は、バズってしまったことへの「八つ当たり」という極めて理不尽な理由により、たった一機のマギアナイトによって完全に蹂躙されていくのであった。




