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追放皇女の異世界戦記  作者: 浅井川亘


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第二幕 第十四話:死神の故郷(黒歴史)と、青き星への降下

「前世の……故郷?」

ブリッジの非常用照明が明滅する中、アルティナはぽかんと口を開けた。

メインモニターに映し出された、青と白の美しい惑星『地球』。その姿を見て頭を抱え、情けない声を上げている銀河最強の死神。

「ちょっと待って、ローゼリア。あなた、この未開の星の出身だったっていうの!?」

「だ、だからそう言っておるじゃろうが……ッ! 妾が前世で命を落とし、エーベルヴァイン帝国の姫として転生する前に生きていた場所……それが、この『地球』なんじゃぁぁぁっ!」

ローゼリアは、タナトスのコックピットの中で両手で顔を覆い、もだえ苦しんでいた。

「おお……! なんという奇跡でしょう!」

通信回線越しに、リアンヌが歓喜に満ちた声を上げる。

「あの青き球体こそが、我が主・ローゼリアの魂を育んだ大いなる聖地……! いえ、もはや『神の揺り籠』と呼ぶべき場所! ブリュンヒルデ団長、直ちにこの星をエインヘリアルの直轄領とし、全大陸にローゼリアの巨大神殿を建立しましょう!!」

「するな!! アホかお主は!!」

ローゼリアが即座にツッコミを入れる。

「妾がいた頃のこの星は、魔法の『ま』の字もない、ただの物理法則に支配された未開の星じゃぞ! そんな所で巨大神殿なんか建てたら、ただのヤバいカルト集団として全世界の軍隊からミサイルを撃ち込まれるわ!」

「なんと野蛮な……! しかし、ローゼリアの故郷の民であれば、私が手荒な真似をするわけにもいきませんね。教えを説き、平和的に支配しましょう」

「だから支配するなと言っておる!!」

「……頭痛がしてきた」

アルティナはこめかみを押さえた。

自分が遺伝子ベースとして嫉妬し、羨望していた存在が「元・男」だったというだけでもアイデンティティが揺らいだのに、その発祥の地がこんな文明レベルの低い辺境の星だったとは。

「おい、お姫様。感傷に浸っている(?)ところ悪いが、現状を報告させてもらうぞ」

ブリュンヒルデが、いつものように胃薬を取り出しながら重々しく口を開いた。

「フィーネ、機関室の状況はどうなっている」

『最悪だよ、団長』

通信モニターに、オイルまみれになった整備班長フィーネの顔が映る。

『時空の穴を強引に抜けたせいで、母艦の次元跳躍ワープドライブのコアが完全に焼き切れてる。通常の航行は可能だけど、これじゃあ銀河連邦の宙域には絶対に帰れないね』

「修理は可能か?」

『エインヘリアルの予備パーツだけじゃ無理だ。コアを再構築するための特殊なレアメタルと、高密度の天然エーテル結晶が大量に必要になる。……でも、不幸中の幸いってやつかね』

フィーネは、手元のタブレットを操作し、地球のデータスキャン結果をモニターに共有した。

『この青い星、文明レベルの割に、地下資源として我々が求めるレアメタルが豊富に眠ってる。それに、大気中に微弱だがエーテルの波長も確認できた。この星に降りて素材をかき集めれば、ワープドライブの修理は可能だよ』

「……なるほど。つまり、この星に降下して資源を調達しない限り、我々は一生ここに釘付けというわけか」

ブリュンヒルデの言葉に、ローゼリアが「ヒッ」と息を呑んだ。

「い、嫌じゃ! 妾は帰る! 銀河の超高速インターネット環境と、最新鋭のVRゲームがない世界なんぞで生きていけるか! この星の回線速度では、FPSゲームでラグが起きて撃ち負けてしまうんじゃぞ!!」

「……あんた、数百年前の記憶で止まってるんでしょ? 今はもう少しマシになってるかもしれないじゃない」

アルティナが呆れ顔で突っ込む。

「それに、あんたの故郷なんでしょ? 懐かしい家族や友達に会いたくないの?」

アルティナの純粋な疑問に、ローゼリアは気まずそうに目を逸らした。

「妾が死んで転生してから、銀河の時間軸では数百年が経過しておる。この星の時間の流れがどうなっているかは分からんが……仮に当時と同じ時代だったとしても、会えるわけがなかろう。今の妾は『金髪赤眼の美少女(銀河最強)』なんじゃぞ? 『やあ、死んだ息子(親友)だよ! 今は宇宙で死神やってるんだ!』なんて言って、誰が信じるんじゃ」

「……確かに。ただの痛いコスプレイヤーにしか見えないわね」

「うむ。それに、妾の当時の部屋には、誰にも見られてはいけない『秘密のフォルダ(物理)』が隠されておってな……もしあれが親に見られていたらと思うと、恥ずかしくてこの星の土を踏めないのじゃ……っ!」

「あんたの黒歴史なんてどうでもいいわよ!!」

アルティナはついに持っていたバインダーをコンソールに叩きつけた。

「静かにしろ。方針を決定する」

ブリュンヒルデが一喝すると、ブリッジに静寂が戻った。

「母艦をこのまま堂々と衛星軌道上に置いておけば、未開とはいえこの星の観測網に引っかかる。まずは、すぐ傍にある銀色の衛星——『月』の裏側に母艦を隠蔽・停泊させる」

「了解ッス。光学迷彩とジャミングを展開するぜ」

ランドグリーズがコンソールを叩き、母艦は静かに月の裏側へと移動を開始した。

「次に、資源調達のための地球降下部隊を編成する。目立つマギアナイトでの大気圏突入は避け、小型のステルスシャトルを使用する。……お姫様、お前は当然行くよな?」

ブリュンヒルデの鋭い視線がローゼリアを射抜く。

「……うぅ。仕方あるまい。この星の地理や文化を理解しているのは、世界(宇宙)広しといえども妾だけじゃからの。案内役は引き受けよう」

ローゼリアは渋々ながら了承した。自分の平穏なゲームライフを取り戻すためには、ここで腹を括るしかない。

「ローゼリアが赴くのであれば、このリアンヌ、当然護衛として同行いたします!」

純白の騎士が勢いよく名乗りを上げる。

「私も行くわ。未開の星とはいえ、現地のネットワークに侵入して情報収集するには、私の演算能力が必要でしょ」

アルティナも名乗り出た。自分の遺伝子のオリジナルであるローゼリアが、かつてどんな世界で生きていたのか。それを自分の目で確かめてみたいという、少女らしい好奇心もあった。

「よし。潜入班はローゼリア、リアンヌ、アルティナの三名。三姉妹は母艦の防衛と、フィーネの修理補佐に回れ」

「了解ですわ。お気をつけて、皆様」

「……お土産。現地の美味しいお菓子、希望」

ロスヴァイセとオルトリンデが見送りの言葉を口にする。

「さあ、そうと決まればさっそく現地に合わせた『変装』の準備ですね!」

リアンヌが目を輝かせながら、虚空に無数のホログラムカタログを展開した。

「ローゼリアの故郷の民は、どのような装束を好むのでしょうか? やはり、原始的な狩猟民族のように毛皮を纏うのですか? それとも、全身を極彩色のボディペイントで……」

「だから! 今の地球がどんな時代か分からんが、毛皮やボディペイントで街を歩いたら即座に通報されるわ!!」

ローゼリアが頭を抱えて叫ぶ。

「いいか、リアンヌ、アルティナ。地球人というのは、魔力も持たない脆弱な生き物じゃが、異常なものに対する警戒心だけは人一倍強い。お主らのその目立つ容姿と非常識な行動は、地球では極力抑えるのじゃぞ!」

「あんたに非常識って言われたくないんだけど……」

アルティナのボヤキを無視し、ローゼリアはステルスシャトルへの搭乗準備を進める。

数時間後。

光学迷彩によって完全に透明化した小型ステルスシャトルが、月の裏側から発進し、地球の大気圏へと突入していった。

大気圏の摩擦熱をシールドで弾きながら、眼下に広がる青い海と、巨大な大陸の輪郭がシャトルのモニターに映し出される。

「……通信電波の傍受、完了。言語の翻訳プロトコルを私たちの脳内デバイスとリンクさせるわ」

オペレーター席に座るアルティナが、目にも留まらぬ速さでコンソールを叩く。

「すごいわね、この星。魔力通信の代わりに、電磁波を使ったネットワークが地球全体を覆い尽くしている。文明レベルは『未開』どころか、独自の進化を遂げているわよ」

「うむ。どうやら、妾が死んだ時代からそこまで極端に時間は経っておらんようじゃな……。街の灯りや建造物の形からして、せいぜい数十年から百年といったところか」

ローゼリアは、窓の外に広がる極東の島国——『日本』の夜景を見下ろしながら、少しだけ懐かしそうに目を細めた。

「ローゼリア、私とアルティナの服装はこれでよろしいのですね?」

後部座席から声をかけられ、ローゼリアが振り返る。

そこには、アルティナのデータ検索に基づいて構築された『地球(現代日本)の一般人に偽装した衣服』を身に纏った二人の姿があった。

リアンヌは、持ち前のプロポーションを隠すようなシンプルな白のブラウスに、ベージュのロングスカート。アルティナは、少し大きめのパーカーにデニムパンツという、どこにでもいる現代の少女の格好だ。

しかし、素材(顔とプロポーション)が銀河トップクラスであるため、どんな地味な服を着ても『お忍び中のトップアイドルと超美人マネージャー』にしか見えなかった。

「……まあ、合格じゃ。リアンヌ、間違っても街中で虚空から長槍を取り出したりするなよ」

「承知しております! 地球の作法に則り、敵が現れたら素手で物理的に制圧します!」

「素手で暴れるのもダメじゃ!!」

ローゼリア自身も、いつものよれよれスウェットから、黒のワンピースにキャップを目深に被るという、極めて不審者スレスレの装いにチェンジしていた。

『——目標地点、極東の島国・日本。山間部の森林地帯に降下します』

アルティナのアナウンスと共に、ステルスシャトルは誰にも気づかれることなく、深夜の山奥へと静かに着陸した。

ハッチが開き、地球の湿り気を帯びた草と土の匂いが、三人の鼻腔をくすぐる。

「……さあ、資源調達の開始じゃ。とっととレアメタルを見つけて、妾のゲーム環境を取り戻すぞ!」

銀河最強の死神と過保護な騎士、そして優秀すぎる娘の三人が、初めて地球の地を踏みしめた。彼女たちの常識外れな力が、この魔力を持たない平和な星でどのような騒動を引き起こすのか。ユグドラシルの罠によって始まった「死神の里帰り」は、予測不能の事態へと突入していくのであった。

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