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ルナティコ・アンブランシア ~メキシコを暴走する海賊救急車~  作者: にのい・しち
月狂2 メディアノーチェ・ファミリア 真夜中の家族

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43/43

43夜 ピラータ 海賊

 父のアティリオが出口に近づく度、エル・オンブレ・カイマンの救急車は追突を繰り返し、時には幅寄せで環状交差点(ラウンド・アバウト)からの脱出を妨害。


 食らい付く相手も相当狂ってる。

 こうしてる間にも傷病者は命の危機に瀕している。


 業を煮やした熊男のアティリオは暴挙に出た。


「もう、許さんぞワニ野郎!」


 機関員のアティリオは急ブレーキをかけ、ワニ男が運転する救急車の右側に接近。

 その反動で車内は激しく揺れた。


 アーシーは父親の乱暴な運転に慣れているのか、壁にあるアシストグリップに掴まりながらストレッチャーへ片手を突っ張って体勢を維持。


 回避行動が上手い彼女と違い、対面に座る俺は何度も身を乗り出しているせいか、まるで揺らす器に入れたビー玉のように身体を弄ばれ、頭や四肢をカーボン製の箱にぶつける。


「ちょ、ちょ待てよ――――痛っ!?」


 仕舞いには転げ落ちて座席とストレッチャーの間に挟まった。


 やっとのことで起き上がり助手席にしがみつくと、真横に張り付いたアティリオはハンドルを大きく切って、やり返す。


「トマ・エスト!(これでもくらえ!)」


 俺が「やめろ!」と静止する前に救急車の車体は相手の右側面へ激突。

 救急車は津波に流される船のように大きく揺れた。


 車体を擦り合いながら環状道路を走る、二台の救急車は、再び出口まで到達。


 出口の手前で、こちらの車体は相手に衝突したまま、押し出すように左へ逸れる。

 ワニ男の救急車は押された弾みで歩道へ乗り上げて停車。


 父のアティリオは何食わぬ顔で出口から出て行き、救急車は危険なメリーゴーランドを脱すると、再び並木道が続くアニョ・デ・ファレス通りを北上する。


 デスレースに負けたワニ男の救急車から、罵詈雑言がスピーカーに乗せられ、街中に轟いた。


 商売敵を排除した父のアティリオは歓喜する。


「ヒャッハー!! ざまぁみろ。神に愛されし無敵の俺に勝てるはずがない!」


 ぶつかった衝撃で俺は首がつって筋に痛みを感じた。

 俺は首筋を押さえながら、運転席にいる暴君を睨む。


「相手もそうだが、貴方は何を考えているんだ!?」


「ぁあ?」


「車が密集している環状交差点(ラウンド・アバウト)で、大型車両が猛スピードを出しながら、カーチェイスなんてしたら、どうなるかわかるだろ!?」


 この競い合いに関係ない車にぶつかれば、たちまち道路はビリヤードの玉を弾くように、車両同士が衝突して事故が波及する。


 危うく救急車が原因で大事故につながるところだった。

 しかし、セニョール・アティリオはあっけらかんと答えた。


「で? お行儀良くしてたら飯(めし)は食えるのか?」


「めし?」


「飯は食えるのかと聞いている?」


「それは、知りませんが……」


「あぁ、そうだろな。怪我人は助けられても、家族に食わす飯は誰も面倒を見てくれねぇ。これは慈善事業じゃねぇんだ。稼ぐ為の人助けだ。競争相手より先に病院へ送らねぇと食い上げになる」


「だからと言って、救急車で事故を起こしていい理由にはならない」


「日本の正論なんて、この国じゃ、なんの役にも立たんぞ? 国の仕組みが破綻してるも同然だからな。助ける方も自力で運営しなければ、本当の意味で救命現場は崩壊する」


 ダメだ。

 この熊のオッサンは、こっちとまともな話をするつもりが無い。

 これでは野生動物に話かけているのと変わらない。


 アティリオは続けざまに言った。


「俺達のような"野良"は『pirate(パイレート)』って呼ばれている」


「海賊(パイレート)だって?」


「そうさ。"海賊救急車"だ」


 このオッサンは何を言っているんだ?

 そんな救急車、聞いたことない。


 この話を、どう脳内で処理していいか解らず黙っていると、反面に鉤爪のタトゥーを刻む大男は、吐き捨てるように言った。


「俺達は街のヒーローじゃねぇ。勝手気ままに食い荒らす野良犬さ」

ここまで読んで頂き、誠にありがとうございます。

現在、執筆中です。

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― 新着の感想 ―
 負傷者も取り合うとはメキシコの治安はひどすぎますね。  でも向こうからすればそれが当たり前と言うのが、怖すぎます。  ハポネスにとってはあまりにも異常すぎて、頭がパンクしそうですね。
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