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妖怪のいない異世界で百鬼夜行をどうすんだ? ――描くたび俺が削れる妖怪ブック  作者: 雪ノ瞬キ


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22話

 聖都。

 その最奥。


 重鎮たちが集まる白い塔があった。


 大理石の円卓

 高天井

 白い光

 雰囲気は静謐。怒号なし。

 ここにはそれぞれの重鎮たちがいた。

 

 白印大司教

 枢機卿数名

 聖騎士団代表

 監察庁長官


 報告書には目を疑う言葉が並ぶ。


 神殿崩壊

 聖印反転

 黒い呪印

 単騎突入

 七の顕現

 資料の一文にこう記されていた。


 七=主


 空気が一瞬止まる。


 呼吸の音すら、誰も立てない。

 紙をめくる音もない。


 ただ、全員が同じ一点を見ている。

 

 七。


 その一文字だけで、ここまで空気が変わる。

 過去に例がないわけではない。

 だが、それはすべて“記録の中”の話だ。


 現実に現れた例は――

 極めて少ない。

 だからこそ、誰も軽口を叩かない。


 軽く扱えば、それだけで命取りになると知っている。


 誰も慌てない。

 だが誰も軽く見ない。

 白大理石の円卓に報告書が並ぶ。

「七、か」


 枢機卿が静かに古文書を開いた。


 一:獣

 三:群

 五:領

 七:主

 九:災

 十:欠損


 ここで重要なのは


「七は災ではない」


 主である。


 つまり――


 軍勢を持つ。

 理性を持つ。

 統治する。


 “怪物ではない”


 怪物なら、単純だ。

 殺せば終わる。


 封じれば済む。

 だが“主”は違う。


 意思がある。

 

 判断する。


 育てる。


 そして、増える。

 時間が経つほど、手が付けられなくなる。


 潰すなら、早い方がいい。


 だが――


 早すぎれば、見誤る。

 遅れれば、取り返しがつかない。


 だからこそ、ここで止まっている。

 大司教は低くためらいながらも言う。

「怪異ではない。王だ。」


 白印大司教が静かに言う。

「白座を動かすか?」


 空気が凍る。

 

 枢機卿は言う。

「軽々しくあるまいか?」


 白印大司教は怪訝な目で問う。

「白座は“対国級”お忘れではあるまい?」


 枢機卿は顎髭を撫でながら対話を楽しんでいる様子にすら見えた。

「十傑の正式名称。聖都直属、教皇命令以外では動かない。

勇者すら従属ではない。国家抑止力だったな」


 白印大司教はため息をつく。

「だったらなぜ」


 枢機卿は口を手で押さえた後言う。

「貴殿は国家の危機と捕らえており、

吾輩は異なる。その温度ではないか?」


 禿頭の別の枢機卿は言う。

「七に白座は過剰です」


 白印大司教は納得がいかずいう。

「七は脅威だが世界終焉ではないと? 

今の内に潰さないでおいて後で手が付けられなくなるのではないか?」


 禿頭の枢機卿は言う。

「代案があります。八相当の監察官を派遣するのも良い手ではないかと考えます。

何より我らの採決で確定ができ、スピード感もあります。

白座未満ではありますが、七の上」


 白印大司教は落ちついた様子。

「枢機卿殿の言うことも確かにそうだな。

アレは我らでは動かせぬ。

なら動かせる物で最高の物は何かといえば、八だな」


「はい。仰る通りです。階位八相当であり、対怪異戦闘専門。

しかも、単騎で小国制圧可能で神殿再建監督も兼任できます」

「良い案であると思う。採決をとろう。

今のこの案。八を派遣に反対の者は挙手を」

「では問う。賛成の者は挙手を」


 すると、全員手を上げた。


「では決まりであるな」


 軽い決定ではない。

 一度動かせば、止められない。


 八は、投入された時点で

 “事態を終わらせるための存在”だ。


 調査ではない。

 観測でもない。

 結果を出すための駒だ。


 つまり――


 戻らない。


 この決定は、

 すでに一つの“結末”を選んだのと同じだ。


「監察庁長官殿手続き頼みます」


「はっ承知」


「今回はこれで、終いであるな」

「他に議案は?」


「無いので解散とする」


 円卓を去る前に大司教が呟く。

「七は主。

ならば八は……裁きだ。」

それぞれが、出口へ向かっていく。


 聖都の高所。


 白衣の人物が一人立っている。

 片目に金の印章。


 静かな声。


「七か。」


 風が白衣を揺らす。

 足元の影が一瞬黒く歪む。


 その影は、零の影と同じ色だった。


 監察官、動く。


 その頃森では。


「だぁーお前ら、卵一人1個だぞ? 誰だ二個食べたヤツは」


「知らん」


「わからないですね」


「あたいじゃないよ」


 今日も零の手打ちうどんが振舞われる。

 恒例のうどん会だ。


「ハックション! ハックション!」


 零のくしゃみが連発する。


「誰か、お頭の噂しているかもね」


「そっか? 俺うどんしか最近作ってねぇぞ?」


「ふふ、お頭なんかかわいい」


「よせ! 変なこと言うな」


 和やかな空気が拠点を覆う。

 

 俺はふと空を見上げると

 なぜか月が笑って見えた。


 気のせいだと思う。

 そう思いたかった。


 だが、目を逸らしても、

 その感覚だけは消えない。


 何かが、近づいている。


 まだ見えないだけで、

 確実に、こちらへ向かっている。


 ……来るなよ。


 そう思うほど、

 それは、確かに近づいていた。


 月が、わずかに揺れる。

 光が歪む。


 ほんの一瞬。

 雲もないのに、影がぶれる。


 ……おかしい。


 俺は目を細める。

 夜域の霧が、微かにざわついた。


 風じゃない。

 内側からだ。


 応じている。

 何かに。


 遠く。

 本当に遠く。


 届くはずのない距離。

 そこから“触れられている”感覚。


 薄い。

 けど確実だ。


 ――線を引かれた。


 俺は無意識に手を握る。


 指先。

 わずかに黒が滲む。


 消えない。

 前より、濃い。


「……来るなよ」


 もう一度、呟く。

 願いじゃない。

 確認だ。


 それでも――

 答えはない。


 ただ、

 夜域が静かに広がる。


 広がりながら、

 “待つ形”になる。


 迎え撃つための形に。


 俺は小さく息を吐く。

「……いいぜ」


 逃げない。

 来るなら来い。


 ここは――

 

 俺の領域だ。

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