第三十二話 君と僕
無事、アスターを見つけることができたシオン。だが、おかしい。アスターの記憶の書は空っぽつまり白紙だったようだ。その原因を探るべく、二人今までの夢をさかのぼり過去を思い出す。
魔眼の図鑑を持ってきたシオンは机に広げてめくった。彼らは見慣れぬ文字の羅列にやや困惑している。
「思考回路をコントロールする……?」
「なんだか、難しいことが書いてるね。」
追憶蝶のアスターとともに、図鑑を見つめた。以外にも様々な種類があるようだ。赤色、金色、銀色、その他の色も。それに同じ色でも効果や性能が全く違う。
「銀色は主に基礎能力上昇、視野の拡張、回析、治癒能力上昇……でも、結局どれを自分が持っていたかどうかはわからないね。」
アスターはそういうと羽をパタパタと動かした。
「話が脱線したね。でも、過去の僕が魔眼持ちってことはそれなりに強い人だってわかる。それに……シオン君は光属性魔法を使えるんだよね?」
「はい。夢の中でも何不自由なく使っていました。」
「リンさんだっけ、彼も強いって言ってたんだよね。」
アスターは今までのことを思い出しながら言う。
「それで僕、思ったんだ。僕ら”同一人物”なんじゃないかって。」
「同一人物……?でも、あなたは追憶蝶。生死は定かではないけれど、魂が二つに分かれることはあり得ないんじゃ……?」
シオンはアスターの言いたいことを理解しようと努めたが、無理だった。
魂は一人につき一つまで。それが当たり前で、それ以上は不可能だ。人間以外ならたまに二つ以上持つものがいる。悪魔や天使、魔族といった種類だ。だが、自分は人間。それはない。
しかし。シオンもどこか引っかかる。アスターの声が自分とよく似ている。高くも低くもないそんな声。それから出会って数日、数か月しかたっていないというのに自然と意気投合した。何なら名前も与えた。
それに、アスターは無意識にシオンのそばにいることが多かった。
「もし、同じだとしたら……私、もしくはあなたはいったい?」
シオンはその疑問を口にする。アスターは「うーん」と唸った。そりゃそうだ。魂が分別するはずなどないのだから。
「でも、似た夢を見た。それが何かと関係してるのは間違いないと思う。僕らは過去に出会っているか、もともと一人だったか。ただ、確証もないしなにも根拠はないけどね。」
アスターはお手上げだと言わんばかりに羽を下ろした。ふと、シオンは目を丸くして訪ねる。
「あの、アスターさん。ノロという方をご存知ですか?」
「……ノロだって?」
彼の声が少しだけ驚いていた。知っているのか知らないのかは定かではない。アスターはしばらく考えた後に静かに飛んだ。
「有名な悪魔兄妹じゃなかったかな?」
「あ、ああ、悪魔!?」
シオンもまたアスターよりも大きなリアクションで驚く。アスターはそんなシオンを見てクスッと笑う。
「そうそう、悪魔。でも、なんでその話が?」
「今日探しに来た理由が夢なんです。それも、かなり最近の夢でして……。光属性魔法をつかって、戦ってました。その悪魔さんと。」
シオンは目を少し伏せて言う。「そして……その妹さんが敵でした。」兄妹喧嘩、あるいは悪魔ということは勢力争いだろうか。その戦闘に自分は巻き込まれた、もしくは巻き込んだ。
どの可能性にしても、悪魔絡みはあまりいい予想ができなかった。
数分の話し合いの結果、もしも同じ人物だったらという過程は"悪魔"という不可解な存在によって可能なになったのでは?と結論づけた。
「とりあえず、シオン君はこれからお仕事だよね。僕はもうちょっと自分のこと思い出してみるよ。」
アスターがそう宣言した。シオンは目を細めてこくりとうなずく。シオンは静かに立ち上がった。
「はい。わかりました。ですが、無理は禁物です。何かありましたら記憶の書を取りに来た際にでもお知らせください。」
「うん。それじゃあ、頑張って。」
シオンはペコリと会釈をすると、あの長い螺旋階段を下って仕事に向かった。その背中をアスターは目で追う。小さくなっていくシオンの背中は以前と比べてとても立派に見えた。アスターはそれを見て小さくつぶやく。
「今のうちに手がかりを探さなければ。」
全ては迷惑をかけないために。
これは以前シオンも口にした言葉だ。
その日は通常通りの営業だった。お客さんは十人を満たない少人数。トラブルもなければ、外部依頼に追われることもない。使用人たちは朝走ってどこかに言っていたことを不振がっていたが、シオンが事情を説明すればなんとなく察してくれた。ただ、それだけだった。
「これで最後です。お疲れ様です、シオン様。夕食になったら呼びに行きますのでそこまでごゆっくりお過ごしください。」
アイカは目を細めてシオンに伝える。彼はこくりとうなずくと自室に引き返した。
雪はいつの間に止んでおり、キラキラと星空が見える。シオンの自室から見える景色は二年たっても変わらない。そしてシオン自身も。
「アスターさんと私が同一人物……。」
まだ信じられないのか、眉をひそめながらそうつぶやいた。確かに、昔の自分はすごかった。光属性魔法を使い、闇属性の敵にも対抗できる威力があるらしい。
「……そんな自覚全くないです。あの記憶もまるで別人のような気が。」
シオンは「うーん」とうなりながら、当てもない自問自答に悩まされながらその空を眺めるのだった。
間違って19時投稿設定にしてしまいました。
すみません。




