第二十八話 炭のにおい
出張所の点検のため、セチア国に来ていたシオンとブルー。そしてその出張所で管理者をやっているモネは点検を終えた後遠くで爆発音を聞いた。気が付けば三人とも駆け出してた。
記憶の図書館出張所から出てきて早数分後。現場に着くと、より激しさが増しているのがわかった。誰かの叫ぶ声、どたどたと地面を踏む激しい足音。三人の目線の先にはいるはずのないドラゴンの姿があった。
「ど、ドラゴン!?」
モネが驚きの声を漏らす。そして杖を取り出した。
「あれ、なんだか様子がおかしいです!」
ブルーは眉をひそめてドラゴンを見つめる。オレンジ色のドラゴンは理性を完全に失っており、目につく建物を壊して燃やして回っている。
「きゃあああ!!」
住民や冒険者の声があたりから沸き起こる。ブルーは盾を構えながら深呼吸した。
「あのドラゴン、右足を引きずっています。もしかしたら怪我をしている可能性があります。」
「なるほど。ただ、ドラゴンに普通の治癒魔法もポーションも効きませんね……。」
ブルーとモネが冷静に判断していると、ふとドラゴンがこちらを見た。じっと何かを探しているように。その金色の瞳と後方で眺めていたシオンの紫色の目が交差した。
ごくりとシオンはつばを飲み込む。ゆっくりとドラゴンはこちらにやってきた。
「こちらに来ます……!どうしますか?」
シオンの声は震えている。
「ひとまず距離を取りましょう。おふた方こちらに。」
「はい!」
ブルーは迷うことなく街中をかけていく。二人もついていくという自然な流れができた。それでもドラゴンはこちらに走ってきている。
流石に巨大なドラゴンと人間の鬼ごっこはこちらに不利だった。ブルーは狭い道を選んで逃げるも、すべて見越しているかのように先回りしてくる。まるで、目的があるように。
「ぐっ、どうしたらいいんだ。」
使用人一人で片や自分の主を、片や別の主を守らなければならなくなった。ドラゴンなんて相手にできない。それに、そろそろ限界が近そうだ。距離は確実に縮まっている。
「やはり、何かあると思います……!先ほどから追ってくるだけで攻撃してこないので。」
モネが杖を構えながらドラゴンを見つめる。ドラゴンはじーっとシオンを見ていた。それだけで、先ほどの暴れようは消えているのだ。ブルーは盾を構えつつじーっとドラゴンを見つめる。
「追われたら逃げろと言われてきましたが……こんなに落ち着いているドラゴンは見たことありませんね。さっきまでのはいったい。」
三人が来る前はあんなに暴れていたというのに、今はどちらかというと鬼ごっこで遊んでいるようだ。
「……とりあえず様子を見ましょう。危険ですので近づかないでください。」
予想外のドラゴンの行動に三人はその場にとどまるしかできなかった。
広場に出た三人。少し距離をとっているドラゴンと見つめあうというなんとも奇妙な出来事起きていた。
「なんでしょうね。」
地元民であるモネでさえ、その状況を説明できないようだ。ただ、害はないようで周りには現場の警備隊がどうすればいいかと話しているのが聞こえる。
「何かを伝えようとしているのでしょうか?」
シオンがのんびりそういうと、ドラゴンはやや姿勢を低くした。三人は互いに顔を見合わせる。
「なんだかかわいく見えてきました。」
「そうですね……。」
モネとブルーが話をしている最中でも、ドラゴンはこちらをじっと見ていた。
シオンはドラゴンを見つめ返す。
先ほどまで大暴れだったドラゴン。大きな羽は邪魔をしないといわんばかりに閉じており、痛がる足を少しだけ前に差し出していた。直してほしいのだろうかと、シオンは考えた。顔の向きをブルーに向ける。
「今のうちにあの子の足の手当てできませんか?かなり落ち着いてきているようですし。」
ブルーは顎に手を当てながら考えた。
「しかし、直せるとしたらとあの魔法属性しか……。」
"魔法属性"。シオンはその言い回しに少し引っかかった。
「特別な属性があるんですか?」
シオンが訪ねると、モネが丁寧に答える。少しだけ真剣な表情になった。
「まず魔法には基礎属性と応用属性、そして特殊属性があります。基礎属性は火・土・風・水の四属性です。応用属性は派生して作られた、雷属性やその他オリジナル属性が含まれます。今も増え続けているんです。そしてーー」
彼女が特殊属性について話そうとしたとき、ドラゴンが動いた。一歩、二歩とじわじわと三人に近づいてくる。ブルーは盾を構えた。モネはそのなかでもシオンに優しく教える。ドラゴンがこちらに害をもたらさないと信じて。
「……そして、ドラゴンの傷を治せるというのが特殊属性なんです。その特殊属性は光・闇属性です。唯一派生を持たないもこの属性です。」
じりじりとドラゴンは近づいてくる。その瞳は先ほどからシオンを見ていた。
「……シオンさん。もしかして特殊属性持ちですか?」
「……え?」
初耳だった。いや、自覚もない。それはそのはず記憶喪失であるからだ。記憶の管理者として勤めてから、自分のことを一ミリも理解していない。それどころか使い方すら分からない魔眼も武器もある。
それを、いま特殊属性があるかと聞かれてしまった。外部には伝えてはならない。自身が記憶喪失だということを。ただ、どう言えばいいのかが分からなかった。
シオンが混乱しているのを察してブルーが代わりに言う。
「シオン様は使える魔法属性がまだ判明していないんです。……でもその可能性はおおいにあります。」
モネはそれを聞きコクリとうなずく。
「聞いたことあります。ドラゴンは特殊属性持ちに惹かれるとか。……もしかしたら、使えるかも知れませんよ!」
そうこう言っている間にドラゴンはシオンの目と鼻の先までやってきていた。再度頭を低くしてこちらを見ている。シオンは、恐る恐る触れてみる。
ゴツゴツとしたドラゴンの鱗。慣れぬ感触にやや戸惑うも、ひんやりしていてここちよかった。近くにはブルーもモネもいる。もしものときは大丈夫。
そう思って、シオンは目を閉じた。魔法の使い方は記憶の管理者を務めているから知っている。さて、自分はどんな魔法を使えるのだろうか。
明日はいよいよ一ヶ月記念!後書きに何か書こうと思っているのでお楽しみに!




