第二十七話 出張所にて
記憶の図書館は、本館と出張所が存在する。そしてその出張所は定期的に点検が必要だ。
そして今日がその日である。
シオンと青髪の使用人ブルーは冬の寒さを感じながら馬車に揺られていた。道があまり整備されていないのか、ガタガタと揺れている。
「今回の出張所はセチア国です。金の採掘が盛んなようですね。やや貴族が多いので気をつけましょう。見た目で判断されかねません。基本は俺が前に出るのでご安心ください。」
ブルーは胸に手を当てて丁寧に答えると、馬車から見える外の景色を確認した。向かい合わせに座るシオンも同じく外を見つめる。
冬の景色が瞬く間に流れていく。パラパラと雪が降っており、冷たい空気が流れてくる。暖房が恋しくなるだろう。そんな時間がざっと一時間ほど続いた。
たどり着いた国は金の採掘が盛んだという情報をそのまま映したような、どこもかしこも豪華な建物が並んでいた。歩く人たちもアクセサリーや護衛を連れて、いろんな人との交流をしているのが見える。
春の時に言った祭りのことを思い出し、シオンは胸がきゅっとする。少しだけ緊張していた。
ブルーはシオンの肩に優しく手を置く。
「大丈夫です。さあ、まいりましょう。」
その手つきはとてもたくましかった。
歩いていると、ちらほら声を掛けられる。
「あら、見ない顔ね。旅行客かしら?」
赤色のドレスに身を包む女性が、ちらりとシオンとブルーに目配せした。ブルーはにこにこと笑みを浮かべながら答える。
「いえ、こちらには仕事で伺いました。とても素敵な街並みですね。」
そう社交辞令を述べると女性は鼻を高くして口元をセンスで隠す。
「あら~、わかっているじゃないの。素敵なボーイ?」
ツンと指先でブルーの鼻に触れる。そして彼女はどこかに去ってしまった。シオンの隣にいる彼は先ほどまでは余裕そうな笑みをこぼしていたが、ぼっと顔を赤らめる。
「は、鼻つんてされました……。」
うろたえているブルーを横目にシオンも困ったように眉をひそめた。
「そうですね。」
「うう……。」
しばらく二人は動けなかったようだ。
そんな時間が過ぎ、ようやく出張所にたどり着いた。そこは記憶の図書館と比べて小柄ではあるものの、高くそびえたつ塔だった。まるで、記憶の図書館に設置されているあの白い塔のようなものだ。あれは、異空間にあるから外観は見れないが。
入り口には一人の女性がたっていた。
茶髪で赤い瞳の女性。白いスーツを身にまとい、シオンとブルーに深々とお辞儀をする。
「初めまして、記憶の管理者様方。出張所の管理をしております。モネです。本日はお越しいただきありがとうございます。」
笑顔がやや硬く、緊張しているようだ。ブルーもシオンもお辞儀を返した。
「初めまして、本館の使用人を務めておりますブルーです。本日はよろしくお願いします。」
「同じく管理者のシオンです。よろしくお願いします。」
二人して挨拶をすると、モネは首が折れそうなほどぺこぺことお辞儀をした。
「よろしくお願いします……!」
彼女の声は震えている。そんなモネの右耳にはシオンと同じイヤリングがついていた。蝶の形をしたあのイヤリングだ。
「そ、それでは早速、点検をお願いします。こちらです。」
モネが空けた扉の先には、セチア国ならではの高価な飾りが施されたオシャレな内装が広がっていた。本棚は壁一面に、ところどころにランタンがつるされている。頂上まで行くと、巨大なシャンデリアがお出ましだ。淡い金色の光を放っている。
「手入れは行き届いていますが、なんせ人不足でして。接客のほうが少し問題なんです。やはり、募集を再度かけたほうがよろしいでしょうか?」
モネは不安そうにシオンとブルーに目配せする。その質問にはブルーが答えた。
「一日の利用客は何名ほどでしょうか?その人数に応じて話が代わってきます。本館は約十名。多くても二十名ほどです。それで二人で対応しきれているので問題ありません。」
モネはブルーの言葉をゆっくりかみしめると首を傾げた。
「当館は平均約三十名です。」
「多いですね。」
モネは「はい」と答えると指を折りながら数える。
「使用人は三人、なので彼らが接客してくれるのですが、多い日は五十人来ます。利用目的はご自身の記憶の書の”今日の占い”という項目がメインです。この国は特に自分の身は自分で守れという精神ですから。運も含めてそういう価値観がございます。それに、そちらの館よりもかなり小さいのでやや混雑するんです。」
モネが丁寧に詳細を伝えると、シオンが尋ねた。
「客室はありますか?」
「はい。三部屋用意してます。」
時間帯にもよるが、本館であるシオンとブルーの勤め先には約十部屋の客室があるのに対し、倍以上の人数だというのに三部屋しかないのは問題だった。
「改築等は考えましたか?」
シオンが鋭い質問を投げかけると、モネは少し考えてからうなずく。
「はい。来月に予定しております。空き地があったのでそちらに建設してもらいます。十二部屋ですね。私たちが泊まれる部屋も用意していただいてます。」
「なるほど、それなら安心ですね。」
「はい!」
雑談を交えながら、三人は目的地にたどり着いた。この塔の最上階においてある、大きな水晶。水色の光が辺りを淡く照らしている。
シオンはそれに近づくと、手袋を外してかざした。彼がここまで来た理由はこの水晶の点検だ。本館の記憶の管理者しか確認できない項目がある。
彼がかざした瞬間、淡い光がさらに輝きあたりを照らす。シオンの指先がまるで共鳴するように光を吸い込んでいた。そして数秒が経過するとシオンはそっと目を離す。
「問題ありませんでした。」
短く報告を終えるとモネは安堵したように「ありがとうございます」といった。出張所での仕事は終わり。帰るついでに店でも見にいこうかと考えていた次の瞬間。
嫌な予感がした。
ドカンと大きな破裂音が遠くから聞こえてくる。三人はその方向に目線を向けるも、ここからでは何が起きたか把握できない。
ただそこから見える景色には、黒い煙が見えているのが分かる。爆発か、それとも火事か。三人は迷うことなく階段を駆け下りていた。




