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第二十五話 季節の変わり目

 今日は記憶の図書館は休館日。カレンダーに刻まれていた日程なので当然といえば当然なのだが、少しだけ異常事態が発生していた。


「今年もすごい雪ですね。」

 玄関を開けてすぐ見えたのは、果てしない白い天然壁。ひんやりとした冬特有の空気が玄関ホールを包み込んでいる。息はもう真っ白だった。

 この地域では雪がよく降るらしい。そして毎年雪かきが大変だ。それを知っている赤髪の使用人アイカは眉を顰める。

 普段から営業時間の合間に箒を動かす彼女でさえ、その量は目を疑うようだ。近くにいた青髪の使用人ブルーがその景色を隣で見て鼻を鳴らす。

「これ、一晩でどうにかできる量か?」

 実際の高さは、身長が百六十センチほどしかないブルーの膝あたりまである。敷地内だけでなく、そこに行くまでの道も自分たちが整備しないといけない。これは至難の業である。というよりも、ただただ大変だ。


「どうにかしないとですね。明日も降りそうですし。」

「あ、久々にあれやるか?シオン様にも魔法がどんなものか見せたいし。」

 それを聞いたアイカは、顎に手を当てて考える。そして、こくりとうなずいた。

「あれですか?わかりました。みんなを呼んできます。」

 使用人たちしか知らない”あれ”をやるようだ。アイカはいつもよりも自然な笑みを浮かべて館内に戻る。残ったブルーが再度雪を見てふっと笑った。

「今年は、だれが勝つかな。」




 集まったのは、ほぼ全員。赤紫髪の使用人アヤメは警備のため欠席だ。それから、追憶蝶アスターも以前の件があり安静に休んでいる。

「それじゃあ、ルール説明からいくよ~!」

 金髪の使用人マリーが、マフラーに手袋。帽子をかぶってふんぞり返っていた。他の使用人たちも防寒具をいつもよりも増しており、これから何をするのかを物語っていた。


「ルールは簡単。魔法でどれだけ雪をどかせるか競うんだ!武器や魔道具の使用は可。ただしーー森林を破壊したり、道を壊したりなど、雪以外が削れた場合はペナルティ!その時は自分で修理とついでに残った雪かきを一人でしてもらうよ。もちろん”自腹”で。」


 自腹で。その言葉があたりに落ちたとき、静まり返る。ブルーがぼそりという。


「去年はしょっぱなキュラが木を切ったからな。」

「うん。威力ミスっちゃった。」


 二人の会話を小耳に挟みつつ、マリーはシオンに言う。満面の笑みで。


「来年は出場できるようにうちらも協力するから、今年はうちらの活躍見ててね!」


 シオンはそれを聞いて「はい。」と答える。みんなの実力をシオンはあまり理解していない。強いというのはわかってはいるが、具体的な力の差などは見たことがなかった。

 それが、今回の雪かきを通して見れるなら一石二鳥である。


「それじゃあ、やる順番を決めようか。いつも通りこれでいい?」


 マリーの手には、番号の書かれた棒が人数分用意されている。その棒が、箱に入っておりマリーが振るたびにカラカラと音を立てていた。一番公平で、わかりやすいものだ。みんなは特に反対する気がないのか「いいんじゃないか?」というブルーの声に賛同した。


「じゃあ、せっかくだしシオン様。シャッフルしてみる?」

「いいんですか?」


 マリーは「うん!」と明るく返事をすると、その箱を返事をする前にシオンに渡した。シャッフルするという意味がよくわからない。だが、マリーのしぐさを思い出し、箱を左右に動かす。カランカランと木の棒が箱に当たる音が聞こえてくる。

 そして、振り終えるとみんなの前に差し出した。


「できました。」

「ありがとう、シオン様!ささ、みんなで一気に決めるよ!」


 箱の中にある、四本の棒を使用人たちが各々手に取った。そして一気に引き抜く。


「よし、結果は。」


 結果はこうだった。トップバッターはキュラ。昨年やらかした男である。


「ええ、今年も僕?」


 キュラはどこか残念そうにしていた。 

 その次はアイカ。二番という結果を受けて何も言わずにこにこしている。三番目はマリー。ラストはブルーという結果になった。


「決まりましたね。さて、武器等はどうしましょう。」

 アイカがそう尋ねると、ブルーは言う。

「俺は魔法でいく。そのほうが手っ取り早いからな。」

「ブルーは武器を使用しないのですね。お二人は?」


 マリーとキュラはたがいに視線を合わせて言う。

「うちは使うかな。闇属性だと木を消しかねないし。」

「僕も使うよ。」

 二人は使うらしい。


「じゃあ私は、短剣ですし使わない方向で行きますね。」

 アイカはそう決めると、数歩後ずさった。まもなく、勝負が始まる。




 トップバッターはキュラ。キュラがミスをした時点でこの勝負は終わりだ。キュラは持ち武器の銃……小型のロケットランチャーを構えている。

 それを見たブルーが言う。

「それ、放つ気か?」

 彼の質問にキュラはにこっと微笑んで答える。

「もちろん!それじゃあ、いっきまーす!」


 ブルーの心配をよそに、キュラはその場でしゃがんで照準を合わせた。狙うは直線。道にある雪をすべて蹴散らす気だ。

「すごいですね……。」

 シオンはロケットランチャーを見たことがないのか、感嘆の声を漏らしながら、その武器から視線をずらせなかった。そして、その時が訪れる。


 キュラの持つロケットランチャーから、ロケランが発射された。それはあたりの雪を巻き込んで奥へ奥へと突き進んでいく。あたりは、熱気で暖かく今の季節が冬とは思えない。しかし、ロケランの直径はざっと一メートルほどしかなく道をすべて開けれるといわれればそうではなかった。


 遠くでの破裂音を聞いた後の道は、謎に真ん中だけがへこんでいる異様な光景だ。

 ブルーは水晶を片手に奥のほうを見ると、少しだけ感心した。

「損傷はーーゼロだ。逆にどうやったか聞きたい。」

「えへへ~。でも、真ん中だけか。」


 キュラはどこか残念そうにしつつも、息を整える。

「次、アイカ。」

 キュラは柔らかな笑みでそう言った。





 次のプレイヤーはアイカ。武器は持たず、防寒着を身にまとい、雪を見つめている。

「行きます。」

 彼女がそう合図すると、手のひらを胸の前に持ってきた。すると、アイカの頭上に大きな火の塊が出現する。そして道幅の大きさになると、転がすようにまっすぐ発射した。

 雪を巻き込み、雪に埋もれた落ち葉さえ見逃さない魔法。それは十秒程度転がっていった。


 あたりにそびえたっていた雪の壁は見事なくなり、きれいな道がそこに現れる。使用人たちもその魔法の精度に目を丸くしていた。


「すごい、アイカちゃん!」

 マリーが手をパチパチとさせながら近づく。アイカは少し頬を赤らめながらも冷静に分析していた。

「ありがとうございます。ですが、継続時間が課題ですね。今回も二十秒行きませんでした。」

「いやいや、すごいよ!ピッカピカだよ!」


 再びブルーが水晶を掲げて観察する。そして小さくうなずいた。

「今回も損傷なし。」

 アイカは静かに頭を下げた。


「確認ありがとうございます。」


 残るプレイヤーは二人。元気抜群のマリーと、調理担当のブルー。結果はどうなるのだろうか。

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