第二十四話 あなたを守る枠組み
リンがやってきたあの日から数日が過ぎた。館内は相変わらずせわしなく動いている。そんな中、自分の仕事を終えたシオンは赤紫色の髪をした使用人アヤメに呼ばれていた。それも、アスターと一緒ではなく一人でと。
やってきたのは、見たこともない監視塔だった。外壁があるわけではないため見た目は普通の塔である。灰色のレンガに、屋根は赤めのレンガで作られているようだ。しばらく外観を眺めていると後ろからアヤメがやってきた。
「お待たせ、主。さっそく行こうか。」
シオンを先導するように、アヤメは塔の鍵を目の前で開ける。ひんやりとした空気が外にいる自分たちのもとへ流れ込んできた。
シオンは少し体をこわばらせて後ずさる。それを見ていたアヤメがぽんとシオンの肩に手を置いた。
「大丈夫主。ここでは誰も襲えないから。」
さらっと恐ろしいことを言った彼女はぐいぐいと先へ進んでいく。その背中をシオンは慌てて追った。
中に入ってすぐ見えたのは、殺風景な螺旋階段だった。会談にランタンがつるされているだけで、それ以外は特にない。一段一段と上がるにつれて空気が澄んでいく。
そして三十段上がりきるころには、開けた景色が見えてきた。
「すごいですね……記憶の図書館の屋根が見えます。」
どうやら塔は記憶の図書館よりも少しだけ高いようで、三百六十度見渡すことができる。もちろん、記憶の図書館の屋上も。
「あと三か所あるけど、メインはここ、”北口”。玄関も見れるからね。」
アヤメの視線の先には、玄関近くで落ち葉を掃除する赤髪の使用人アイカがいた。シオンもそれを見つめて目を丸くする。
「じゃあ、以前侵入者がいたときもリンさんが来た時も、ここで気づいていたんですね。」
「ああ。だが、見てるだけで追撃できない。そのために外周警備のあいつがいる。」
アヤメは再度視線を別の場所に移した。そこには、見たことがない蝶がいるではないか。シオンは首をかしげる。
「あれは追憶蝶……ではありませんね。何ですか?」
「私の魔法だ。」
「え。魔法?」
シオンが聞き返すほど、その蝶はとてもきれいで透き通っていた。アヤメは試しに指先に魔力を込める。淡い透明な光がやってきて、指先に一匹の蝶が止まった。
「これは、監視蝶だ。部外者を特定の範囲内で検知すると花火を打ちあげて知らせてくれるんだ。私が気づかなかったり近くの塔にいなかったときはこれを使う。安心して、この見た目は敵に警戒されないようにするためだ。本物じゃない。」
その蝶を飛ばすように手を上げると、そっとシオンに近づく。くるりと一周回ったかと思えばどこかに消えた。まるで始めからそこにいなかったように。
「さて、これは後でもいいね。貴方に来てもらったのは他でもない。魔眼が起動するかどうか見てみたくてさ。一応、みんなからもええとリンって言ったか。彼からも了承済みだ。」
アヤメは近くにあった椅子を差し出しながら、ぽつりと言う。
「実は私も”魔眼”使えるんだ。」
シオンは差し出された椅子に腰を掛けながら目を丸くする。初耳だった。
「そうなんですか……?」
「ああ。」
アヤメも椅子に座るとふうと息を吐き、深呼吸する。目を静かにつぶりしばらくたった。
そして、目を開ける。そこには銀色の瞳があった。アスターが言っていた色と一致する。シオンはしばらくその瞳から目をそらせなかった。
先ほどの監視蝶のようにきれいだった。
アヤメはしばらくして、それをやめて肩をすくめる。
「あまり長時間は無理だけどね。というわけで、私は使えるし使い方も知っている。主が以前、使いたいとおっしゃっていたからここで教えたり、試してみようかなと。どうだろうか?」
彼女は不安そうにシオンを見つめ返す。実際そうだ。アヤメは基本この監視塔で見張りをしており、主であるシオンと話す機会が多くはない。
だからこそ、自分の言葉で伝えることができるかという葛藤が頭をよぎるのだ。
シオンはそれを見て。優しく笑みをこぼす。
「はい。よろしくお願いします。」
アヤメはその言葉を聞いて安心したように帽子に触れる。
「わかったじゃあ、説明していくよ。」
アヤメは上着であるコートを脱ぎ、戦闘服になる。シンプルな黒のスエットにジーンズ。そして、髪をお団子に結って立ち上がる。
「まず。主は魔法というのをそのイヤリングを通してしか使ったことがない。預かってもいいだろうか?」
シオンはこくりとうなずき、蝶のイヤリングを外した。丁寧に扱いながら、アヤメに手渡す。彼女はぺこりと会釈をして箱にしまった。
アヤメは再度目線を上げると優しく微笑む。
「それじゃあ、始めますよ。主。まずは魔法の概念について説明しようか。」
アヤメは再び手のなかに監視蝶を出現させシオンに見せる。相変わらず精度が高い。
アヤメはその蝶に視線を移しながらゆっくりといった。塔の中はひんやりと冷たく、まるでこれから起きることを物語っているようだ。
「魔法はイメージの具現化。あれがしたい、これがしたいという思いが詰まったものだ。主は何かしたいことはあるか?」
「自分がしたいこと……」
アヤメの言葉を噛みしめるように繰り返し考える。
自分は何をしたいのだろうか。
自分はどうありたいのか。
迷いながらもポツリ、ポツリと言葉を紡ぐ。
「記憶を思い出したい。優柔不断ではなく、自分をしっかり持って皆を導きたいです。」
アヤメはそれを聞いて静かに目を細めた。「それはいいことだ。」と反応すると、アヤメは監視蝶をシオンに渡す。
「じゃあ、そんな主はまず魔法に慣れよう。普段はイヤリングという魔法障壁のなかで使用したり感じている。あなたの体がそれに耐えれるかどうかをやってみるよ。」
「はい。」
シオンは彼女から、恐る恐る監視蝶を受け取った。近くで見る。その蝶はところどころ輝いて、存在感を放っていた。
それから次第にシオンは、手の内がじわじわと熱を感じていく。体内に流れる血液とはまた違うエネルギーが循環をしている。
アヤメはそれを見てそっと蝶を受け取った。
「発熱反応があるね。また今度にしようか。」
「え、ですが……。」
アヤメはゆっくり立ち上がるという。
「無理は禁物だよ主。世の中には魔力暴走っていう病があるんだ。魔法は危険な技術なんだよ。」
高くそびえたつ塔の上。二人の管理者が魔法に触れた。外では涼しい秋の風が吹いている。息はもう白く、指先はかじかんで動きづらい。
まもなく、極寒の冬が訪れるだろう。
今日はエイプリルフール!ということで2話連続投稿です!
(本来は午前に嘘をつき、午後にネタばらししないとなんですけどね。)
そんなわけで、再開も記念して日常会話も載せます!気になった方ぜひ見てってください。
<第一話 幼馴染>
「おい、マリー。どんだけ食うんだ。」
「えっへへ、いいでしょ~。」
青髪の使用人ブルーと、金髪の使用人マリーが二人並んで菓子を食べている。そのメニューはカップケーキ、マリーの大好物だ。マリーはもぐもぐとおいしそうに頬張っており、隣にいるブルーは呆れていた。
「急に作り方教えろとか言うからびっくりしたが……ただ食べたかっただけか?」
「ぎくり」
「いや、ばれても自分の口で言うなよ。」
この二人は使用人になる前から知り合いで、何なら幼馴染だ。そして、とても仲がいい。
「だって、ルーくんの作るカップケーキは世界一だもん!」
「はあ、口だけは達者だな。」
そういいつつも、ブルーはうれしいのか長い耳をピクリと動かしている。それをマリーが見逃すわけもなかった。
「あー。うれしいんだー。」
「……うっさい。」
そんなやり取りをしながらも、二人はともにカップケーキを頬張っている。ふと、ブルーが尋ねた。
「そういや、最近の敵どう思う?」
ブルーが聞いたのは、主人に気づかれるよりも前に退治している敵のことだろう。マリーは「うーん」と言葉を漏らしながら満面の笑みを浮かべて言った。
「うん。めんどい!」
「そんな顔で言うなよ。わかるけど。」
わかってしまったらしい。ブルーはカップケーキを頬張りながら言う。
「あんたは戦力だ。負けるなよ。」
彼の言葉にマリーは目を丸くするも、目を細めて言う。
「ルーくんもね。防御担当さん?」
「ふ、そうだな。」
彼らの仕事の合間に穏やかな時間が過ぎていく。
今日も、記憶の図書館は平和だ。




