第二十三話 わずかな手がかり
行方不明だったアスターを記憶の書が保管される白の塔でようやく見つけた。そして元侵入者だったリンから詳しい話を聞くことにしたようだ。シオンはいったい何者なのだろうか。そして、同じような夢を見た理由は判明するのだろうか。
シオンは追憶蝶アスターとともに、みんなのもとへ帰った。まず無事だったことに安堵し、そして事情を把握する。なぜ行方不明になったのか。それからなんで怪我をしているのか
金髪の使用人マリーが首をかしげながら尋ねた。
「似た夢を見たの?」
それにシオンはこくりとうなずく。マリーを含め、使用人たちが顔を見合わせる。こんな現象見たことも聞いたこともなかったのだ。
「はい、どちらも同じ街の風景でした。見た内容が少しだけ異なっていますが。」
シオンが淡々と事実を述べると、金髪の男性リンが腕を組んでふと人差し指を上げた。何かわかったようだ。
「あ!それってニア町じゃないか?」
ニア町。以前スオウという客が知りたがっていた歴史ある町である。シオンは実際に行ったわけではなく名前しか知っていない。だが、リンは納得しながらうんうんとうなずく。
「その町は、レンガ造りが盛んで家から道まで全部がレンガだ。特に、そこでは屋台も出てて、いつもにぎわっている。確かに、昔のあんたはよくそこにいた。」
それを聞いたマリーが立ち上がる。目をキラキラさせて言う。
「そうだよね!あの町、すごくおしゃれだよね!」
「そうだよな!お茶がうまくてさ。」
先日は不仲とは言わないがピリピリとした雰囲気だったはずだ。今は、一つの街の話をめぐり互いに意見を通わせている。マリーは少し考えた後、首を傾げた。
「じゃあ、そこに行けば何かあるのかな?」
リンはそれを聞いて眉を顰める。そうではないらしい。
「あるにはあると思うが、一時的な仕事とかの可能性もある。断定はできないな。」
「でも、試してみる価値はあるよね!」
マリーがにこっと笑みを浮かべてそういう。その笑顔にさすがにリンは断れなかった。
「まあ、それは皆さんにお任せするよ。俺は、部外者だ。そのほかはどうなんだ?」
リンはシオンに視線を向ける。シオンが何かを考え伝える前に追憶蝶のアスターが横から言葉を放つ。
「その子の容姿、白髪に銀色の目をしてたんだ。それってシオンくんの過去の姿ってこと?それともまた別の人物?」
アスターの言葉が、集まっている食堂に落ちていく。それまで穏やかだったリンの周囲の温度がすうっと下がった気がした。
そしてリンはアスターをじっと見て言う。
「ああ。それこそ、こいつの本来の姿だ。……まて、銀の瞳?」
「うん。水晶みたいにキラキラしてたよ。」
リンが不思議そうにアスターを見つめる。アスターがふわりと宙を舞う様子を横目に、銀髪の使用人キュラがぽつりと言った。
「その色って、もしかして”魔眼”?」
リンがこめかみに手を当てながら言う。しかし、どこか複雑そうだ。
「ああ、その通り。あいつは魔眼もちだ。しかしなんで君がそれをみたんだ?」
魔眼。世界で千人に一人が使えるか使えないかというほどまれで、使えたとしても制御が難しいとされている。研究も進んでいるがすべては把握しきれていないらしいのだが、それが過去のシオンには使えていたらしい。
事実かどうかは、ここではわからないが。シオンは胸に手を当ててリンを見据えた。そして尋ねる。
「まってください。魔眼は今の私にも使えるものですか?」
シオンはどこか必死だった。
夢の中で見た自分は、かなり信頼されていた。
赤髪の青年にも。金髪の女性にも。
そして昨日リンが言っていた。
自分が強かったことを。
だから使いたい。
自分を守るためではなく、みんなに迷惑をかけないために。
シオンの目はいつの間にかキラキラとしていて、少しだけだが魔力を感じる。リンは見つめられたままバッサリといった。
「いや、負担が大きすぎる。ただでさえ記憶喪失なんだろ?もっと問題が増えれば、周りのやつらに記憶喪失だってこといつばれてもおかしくない。」
リンは深く息を吸うと、ゆっくりと立ち上がる。
「そうだろ、使用人さん?」
話に入ってきていたマリーとキュラは同じタイミングでうなずいた。仕方がない、シオンはたった一人の記憶の管理者なのだから。
たとえ、記憶喪失だとしても主人は主人。使用人としてもこれ以上危険な目には合わせたくない。しかし、それを聞いたシオンは言う。
「それを見せびらかすわけではありません、もしもの時に備えて使い方だけでも知るのはだめですか?」
シオンが反抗したのはこれが初めてだったかもしれない。いや、あるいは久々だったのだろうか。それも、使用人の意向に。
「でも主様、体力ないよね……あ。」
ついマリーが本音を漏らす。シオンはピクリと肩をこわばらせた。自覚があったようだ。マリーは申し訳なさそうに謝ると、シオンは言う。その表情はいつにもまして真剣だ。
「ええそうです。だからこそ今更ですが、戦えるようになりたいと思いました。過去に何があったのかがわからない以上、私もいつまでも逃げているわけにはまいりませんので。」
「危険な道だぞ。いいのか?」
リンが横から口を出す。シオンはそちらにも視線を向けてはっきりといった。
「ええ。覚悟なら何度もしています。それにあなたにも言われました。勝手に判断して壁を作ってしまうって。私は確かにそうでした。でも、今なら変えられると思います。」
何も知らないからこそ、聞くことができる。
何も持っていないからこそ、学ぶことができる。
ここで記憶喪失がようやく意味をなしていた。
「過去に何があったかはわかりません。それにあなたはまだしも、悪意持ってこられたらひとたまりもありません。それだけは避けたいと思っています。だからお願いします。私に戦い方を教えてください。」
アスターが来た時にすでに決心していた。もう、迷わない。後に引かないと。
彼の姿は普段からそばにいた使用人たちにもしっかり写っていた。
マリーはとても誇らしげに笑みをこぼした。
キュラは何かを思いついたように「うん、いいね。」と言葉を漏らす。他の使用人もこくりとうなずいた。
全会一致でそれならいいと判断が下されたようだ。
思わずシオンは笑みをこぼす。それは、初めて本心から出た笑顔だった。
その空気で流石にリンは否定できなかったのか頭をガシガシと書いていう。
「あーもう、わーかったよ。何か手伝えることがあったらいつでも呼んでくれ。俺はこれで失礼する!」
ふてくされながらそういう彼が出ていく。その背中にシオンは笑みを浮かべながらいう。
「ありがとうございました。リンさん。」
彼の感謝の言葉にリンはぴたりと足を止めた。そして小さくうなずき、再度歩き出す。言葉はなくとも態度でわかる。その耳はわずかに赤く染まっていた。
お久しぶりです、作者です。
休止中もたくさんの人が見てくれてとてもうれしいです!
休止中に300pv超えてしまいました!見てくれてありがとうございます。
それから、お待たせしました!
パワーアップできたかどうかはわかりませんが、これからもよろしくお願いします!




