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第119話 判断が遅れる場所

連続投稿です。

118話からお読みください。


昼前。


町外縁は、

昼の音から切り離されたように静かだった。


荷車は通らない。

畑仕事の声も、遠い。


(……嫌な静けさだ)


足を止める。


風向き。

草の揺れ。

匂い。


どれも――

“少しだけおかしい”。


その時。


短く、

喉を詰まらせたような音。


「……っ」


子どもの声。


近い。


(……単独か)


一瞬、

躊躇する。


一人で踏み込むのは、

推奨されない。


だが――

判断を先送りにできる距離じゃない。


歩幅を詰める。

走らない。

音を殺す。


見えた。


倒れた袋。

散らばった木片。

地面に座り込む、同年代の子。


足を押さえ、

必死に声を殺している。


逃げ遅れた――

それが一目で分かった。


そして。


草むらの向こう。


影が、

伏せている。


(……いる)


小型の魔獣。


大きくはない。

だが――

逃げてもいない。


距離を保ち、

低い姿勢で、

“待っている”。


(……粘ってる)


獲物が、

目の前にある。


焦る必要がないと、

分かっている動き。


(……倒せる)


距離。

足場。

風向き。


条件は、

揃っている。


だが――

倒した後が残る。


血。

匂い。

音。


ここが、

次の“餌場”になる。


魔獣が、

一歩、横に動いた。


回り込む。


(……来る)


判断が、

一拍、遅れる。


その一瞬で――

魔獣の視線が、

完全に“子ども”へ固定された。


(……ダメだ)


腰を落とす。


石を拾う。


投げない。


転がす。


音だけを、

魔獣の側面へ。


同時に、

“気”を落とす。


存在感を、

削る。


魔獣の耳が動き、

視線が一瞬だけ逸れた。


――その瞬間。


前に出る。


距離を、

詰める。


声は、

出さない。


目だけで、

威圧する。


(……ここだ)


魔獣は、

低く唸り、

後退した。


だが――

逃げない。


まだ、

こちらを測っている。


(……追わない)


こちらが動けば、

向かってくる。


だから――

動かない。


視線だけで、

拒む。


数秒。


草が揺れ、

魔獣は、

ようやく距離を取った。


完全には、

消えない。


だが――

“今は”来ない。


子どもへ向く。


「……歩ける?」


低く、

短く。


震えながら、

小さく頷く。


肩を貸す。


全体重は、

預けさせない。


一歩ずつ、

後退する。


魔獣の気配が、

完全に消えたのは――

町の音が、

戻り始めてからだった。


(……間に合った)


だが――

胸の奥が冷える。


判断が、

ほんの少し遅れていた。


もし、

石を拾うのが遅れていたら。

もし、

一歩踏み出すのを迷っていたら。


結果は、

変わっていた。


町の縁。


人の声。


子どもを、

引き渡す。


説明は、

最小限。


大げさにしない。


英雄にも、

ならない。


それが――

一番、安全だ。


振り返る。


外縁は、

何もなかった顔をしている。


だが――

確かに、

“事故になる一歩手前”があった。


ローディス王国領の町、

オーレム。


少年は、

倒せる状況で、

倒さなかった。


救えたからではない。


判断が一拍遅れた現実を、

自分で理解したからだ。


それは、

勝利ではない。


だが――

次に生き残るための、

確かな線だった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

小さな選択の積み重ねを意識して書いています。

何か感じた点があれば、感想で教えていただけると嬉しいです。

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