第117話 静かな報告
連続投稿です。
115話からお読みください。
朝。
ギルドの空気は、
昨日と変わらない。
掲示板。
木札。
帳面。
誰も、
外縁で起きたことを
口にしていない。
(……当然だ)
倒していない。
被害も、
残っていない。
報告される理由が、
ない。
トアは、
下段を見る。
確認。
見回り。
補助。
札は――
減っていない。
むしろ、
一枚増えている。
「町外縁・複数地点確認」
「半日」
「銅貨五」
(……増えたな)
“危険”とは、
書かれていない。
だが――
点が、線になり始めている。
受付に出す。
署名。
木札。
女は、
紙を見てから、
一言だけ。
「……昨日と同じでいい」
それだけ。
だが――
“昨日”の意味は、
もう変わっている。
外。
町外縁。
今日は、
二か所。
畑裏。
水路沿い。
歩きながら、
考える。
(……昨日の子)
名前も、
素性も、
知らない。
だが――
“同じ札を取る側”だ。
もし、
自分がいなかったら。
(……逃げられたか?)
分からない。
だが――
分からない状況が、
一番怖い。
畑裏。
昨日と同じ場所。
足跡は、
消えかけている。
魔獣の痕は――
ない。
(……戻ってない)
少なくとも、
今は。
水路沿い。
桶が、
一つ倒れていた。
割れてはいない。
だが――
中身は空。
(……飲んだ、か)
小型。
喉が渇く。
単独行動。
全部、
繋がる。
印を、
二つ置く。
目立たず。
だが――
見失わない位置。
戻る。
昼過ぎ。
ギルド。
報告書を書く。
簡潔に。
事実だけ。
「新規被害なし」
「再侵入の痕跡なし」
「単独個体の可能性」
受付は、
最後まで読んでから、
紙を重ねた。
「……分かった」
それ以上、
言わない。
だが――
帳面の端に、
小さな線が増えた。
昨日より、
一本多い。
(……共有されたな)
それで、
十分だ。
外へ出る。
昼の町。
子どもが、
走っている。
笑い声。
昨日の子かは、
分からない。
だが――
同じ年頃だ。
(……守った、
わけじゃない)
ただ、
“今じゃなかった”。
それだけだ。
だが――
それだけの判断が、
できる人間は少ない。
夜。
寝床。
木札を、
枕元に置く。
外縁の札は、
まだ貼られている。
数も、
減っていない。
(……しばらく、
続くな)
それでも――
選ぶ理由は、
もう迷わない。
ローディス王国領の町、
オーレム。
外縁は、
まだ静かだ。
だが――
静かだからこそ、
見ている者がいる。
報告しない判断。
倒さない判断。
書き残す判断。
それらは、
もう一人分の判断じゃない。
“次の段階”へ進むための、
下準備になっていた。
そして――
次の札には、
必ず「一文」足される。
それを、
トアはまだ知らない。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
小さな選択の積み重ねを意識して書いています。
何か感じた点があれば、感想で教えていただけると嬉しいです。




