第115話 外縁に残るもの
――カナ視点――
朝。
ギルドの外で、
依頼書を折り畳む。
今日は、
外縁の反対側。
内容は同じ。
確認と記録。
触らない。
追わない。
戻る。
(……最近、多い)
外縁に関する札が、
明らかに増えている。
どれも、
“まだ軽い”。
だが――
軽いまま終わるとは、
限らない。
町を出る。
外縁の道は、
一本じゃない。
畑沿い。
水路脇。
使われなくなった旧道。
今日は、
水路から回る。
人目はある。
だが――
常にではない。
(……ここも、だな)
水路の石積み。
一段、
欠けている。
新しい。
欠け方が、
乱暴だ。
(……引っかけた)
獣の爪。
だが――
魔獣にしては浅い。
通り過ぎただけ。
倒れている桶。
中身は、
乾いている。
(……夜か)
被害は、
小さい。
だが――
確実に“触れている”。
記す。
位置。
時間帯の推定。
痕の形。
そのまま、
奥へは行かない。
(……十分)
戻り道。
別の道と、
線が重なる。
遠くに――
人影。
小さい。
(……また、あの子か)
トア。
同じ札の列。
同じ距離。
偶然だ。
だが――
続く偶然でもある。
彼は、
走らない。
立ち止まり、
周囲を見る。
近づかない。
(……触らない判断)
昨日と、
同じだ。
違うのは――
周囲だ。
少し先。
畑の端。
踏み荒らされた跡。
浅い。
だが、
広がっている。
(……数が、増えてる)
一体じゃない。
小型。
複数。
“通り道”が、
でき始めている。
トアは、
そこまで行かない。
見える距離で、
止まる。
(……正しい)
今は、
それでいい。
カナは、
影の位置から動かない。
声も、
かけない。
(……同じ仕事だ)
ただ、
確認しているだけ。
違いがあるとすれば――
“見えている量”だ。
彼は、
一箇所を見る。
自分は、
線で見る。
どちらが上かじゃない。
役割の違い。
町へ戻る。
ギルド。
受付に、
報告を置く。
「水路脇、一件」
「畑沿い、二件」
「いずれも軽微」
受付が、
眉を動かす。
「……増えた?」
「通っただけ」
「だが――」
「通る“道”ができてる」
一拍。
「まだ、札は軽くていい」
そう言って、
帳面に書き込む。
カナは、
外へ出る。
夕方の風。
外縁の線が、
頭の中で繋がる。
(……次は)
今日じゃない。
明日でもない。
だが――
確実に、
“次の札”は変わる。
歩きながら、
一度だけ振り返る。
遠く、
町へ戻る少年の背中。
疲れている。
だが――
崩れていない。
(……まだ、声はいらない)
今は。
仕事の線が、
交差しているだけだ。
ローディス王国領の町、
オーレム。
外縁では、
小さな実害が積み重なっている。
誰かが、
それを見ている。
誰かが、
触れずに引いている。
そして――
“次の段階”は、
静かに準備されていた。
声をかける前に、
越えるべき線が、
まだ残っていることを、
二人とも理解しながら。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
小さな選択の積み重ねを意識して書いています。
何か感じた点があれば、感想で教えていただけると嬉しいです。




