表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
115/203

第114話 小さな実害

連続投稿です。

112話からお読みください。


朝。


掲示板の前に立った瞬間、

違いはすぐに分かった。


下段。

同じ列。


だが――

文言が、少しだけ変わっている。


「町外縁・確認」

「期限:日没前」

「補足:作物被害の報告あり」


(……出たな)


“異常”ではない。

“危険”とも書いていない。


だが――

被害が、もう出ている。


内容は一行だけ。


「畑一枚分、荒らし跡あり。原因不明」


報酬は、

銅貨六枚。


(……上がった理由は、これか)


迷いは、

ほんの一瞬。


トアは、

札を剥がした。


受付に出す。


女は、

一度だけ目を落とし、

短く言った。


「今日は、戻る判断を間違えないで」


説明は、

それだけ。


(……分かってる)


ギルドを出る。


門を越え、

町外縁へ。


空気が、

少し違う。


農具を持った人が、

道端で立ち話をしている。


声は低い。


「……夜中だったらしい」

「音はしたが、姿は見えなかった」


(……夜、か)


慎重に進む。


畑。


一枚分だけ、

確かに荒れている。


踏み荒らし。

倒れた作物。

だが――

食われた様子は、ない。


(……獣じゃない)


足跡を見る。


深さが、

揃っていない。


(……重さが、一定じゃない)


ここで、

一歩だけ迷う。


(……追うか?)


奥へ行けば、

何かは分かるかもしれない。


だが――

依頼は“確認”だ。


追跡じゃない。


周囲を見る。


風。

草。

流れ。


(……残ってる)


微かな歪み。


昨日までの“何もない”とは違う。


(……小さいが、実害は本物だ)


トアは、

木片を二つ置いた。


一つは、

荒れた場所。


もう一つは、

“これ以上行くな”の線。


それ以上は、

進まない。


振り返る。


少し離れた場所。


畑道の影に、

人影がある。


(……)


外套。

杖。


見覚えがある。


(……近いな)


だが――

こちらを見ているだけ。


来ない。

声をかけない。


(……来ないでくれてる)


それでいい。


今、助けられたら――

判断の意味が消える。


トアは、

踵を返した。


町へ戻る。


日が、

傾き始めている。


ギルド。


報告。


「作物被害あり」

「原因は特定不可」

「追跡せず」

「境界線を設定」


受付は、

一度だけ顔を上げた。


「……正解」


それだけ。


銅貨六枚。


受け取る手が、

少しだけ重い。


外へ出る。


夕方。


門の外。


カナが、

そこにいた。


距離は、

昨日と同じ。


三歩分。


「……追わなかったな」


初めて、

評価でも確認でもない言葉。


トアは、

正直に答える。


「……条件外だったので」


カナは、

小さく息を吐いた。


「畑一枚分で、奥に行く奴は多い」


「でも――

それで戻らない奴も多い」


一拍。


「今日は、十分だ」


それだけ言って、

歩き出す。


追わない。

振り返らない。


トアも、

何も言わない。


夕焼け。


畑の向こうに、

町がある。


小さな実害。


だが――

大きな分かれ道。


ローディス王国領の町、

オーレム。


少年は、

踏み込まなかった。


女冒険者は、

踏み込ませなかった。


それぞれが、

それぞれの立場で、

“一線”を守った一日だった。


次に踏み出すかどうかは――

札が、決める。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

小さな選択の積み重ねを意識して書いています。

何か感じた点があれば、感想で教えていただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ