第113話 条件の違う同じ仕事
連続投稿です。
112話からお読みください。
朝。
ギルドの空気は、
昨日とほとんど変わらない。
人の数。
声の量。
札の並び。
だが――
一箇所だけ、違った。
下段。
町外縁・確認。
似た札が、
二枚並んでいる。
(……二つ?)
内容を読む。
一枚目。
距離:外縁
時間:半日
報酬:銅貨五
昨日と同じ。
二枚目。
距離:外縁
時間:日没前
報酬:銅貨七
違うのは、
時間と報酬。
そして――
備考欄。
【一部、見通しの悪い区画あり】
(……こっちか)
危険、とは書いていない。
だが――
“判断が遅れると戻れなくなる”条件だ。
トアは、
一度視線を外す。
周囲を見る。
他の登録者。
誰も、
その札に手を伸ばしていない。
(……急ぐと割に合わない)
銅貨七は魅力だ。
だが――
日没まで拘束される。
寝床。
食事。
戻れなかった場合。
全部、
自分に返ってくる。
(……今日は、違う)
トアは、
五枚の札を取った。
昨日と同じ。
だが――
理由は昨日と違う。
受付に出す。
女は、
二枚並んだ札を一度見て、
トアを見る。
「……そっち?」
「……はい」
一拍。
「判断は、悪くない」
それだけ。
外へ出る。
朝の町外縁は、
昨日より少し賑やかだった。
見回りの兵。
畑仕事の人影。
人がいる、
というだけで、
選択肢は増える。
確認地点。
印は、
変わらない。
だが――
奥の区画。
草が、
少しだけ倒れている。
(……通ったな)
新しくはない。
だが――
“何かがあった”痕跡。
トアは、
一歩進みかけて、
止まる。
(……ここまで)
条件外。
今日の札では、
“見る”以上は求められていない。
位置。
方向。
程度。
頭の中で整理する。
(……次の札向きだ)
記す。
戻る。
昼過ぎ。
ギルド。
報告書を出す。
受付は、
紙を読み、
一度だけ頷いた。
「……ここ、気づいた?」
「……はい」
「踏み込まなかった?」
「……条件外なので」
短い沈黙。
「……正解」
銅貨五枚。
いつもと同じ音で、
台に置かれる。
だが――
帳面の書き方が、
少しだけ違った。
トアは、
それに気づかない。
気づいているのは、
壁際の女だけだ。
カナは、
二枚並んでいた札の片方――
銅貨七の方を、
静かに見ていた。
(……今日は、取らなかったか)
悪くない。
むしろ、
いい。
“取れる”より、
“取らない理由がある”方が、
ずっと厄介だ。
外。
午後の光。
トアは、
いつもの道を歩く。
今日も、
戦っていない。
だが――
“次に進む条件”だけは、
確実に拾っている。
ローディス王国領の町、
オーレム。
少年は、
条件の違う同じ仕事を前にして、
一つだけ学んだ。
報酬が上がる札ほど、
判断が遅れると、帰れなくなる。
そして――
それを理解できる者だけが、
次の札に進める。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
小さな選択の積み重ねを意識して書いています。
何か感じた点があれば、感想で教えていただけると嬉しいです。




