第三十話「始まりの誓い」
はじめまして、宵月の兎です。
この作品を読んでくださってありがとうございます。
楽しんでいただけますと幸いです。
ゆっくり更新ですが最後まで頑張ります。
――そこでハッと気づいた。
(ってか、砂糖がめちゃくちゃ貴重だっていうのに、なんでここにあるの!?)
「で、ではこれは……!? 何気なく使ってしまったわ! ……今の話だと、相当貴重なものだったのではなくって――? 知らなかったとはいえ、相談もなく沢山使ってしまってごめんなさい……」
だって、家族から徹底的に嫌われている私の為に、本邸側が貴重な砂糖を支給してくれるなんて、まずもってありえない。
事実、本邸からの支給品はカチカチの黒パンのみなのだから。
そう考えると『マリー秘蔵の特別なお砂糖だったり……?』と、嫌な想像がつらつらと浮かんできて、尚更あのブラウンシュガーの出所が気になった。
しかし、私の心情とは裏腹に「まあまあ……ふふふっ! そんなに謝らないで下さいませ」と、優しくほがらかに笑うマリーから語られたのは、予想外の事実だった。
なんとこのブラウンシュガーは、いつも野菜を分けてくれる老夫婦の息子が最近栽培に成功した『砂糖カブ』から作ったお砂糖で、試作品だからとお裾分けしてくれたのだそう。
(――なんとっ!! 早速課題が解決しちゃいそうだよ! 『砂糖カブ』なんて呼ぶくらいだから、ビートかしら? 間違いなく一攫千金のチャーーーンス!)
「素晴らしいわ! これから色々なお菓子を試作したいと思っていたから、ぜひその息子さんを紹介してほしいわ! もちろん、いつもマリーに親切にしてくださっているご夫婦にもきちんとご挨拶もさせていただきたいし!」
息を吹き返した私が、両手を握り締め鼻息荒くマリーに詰め寄ると、今度はみるみる彼女の形のいい眉毛が八の字に下がっていく。
「……申し訳ございません。 現状で、お嬢様が、この塔の外に出るのは……絶対不可能なのです」
マリーがそう応えてくれたことで、大事な話をするつもりだったことをようやく思い出した。
思い切って、今後の私たちのことについて相談しようと思っていたのだった。
「……マリー、そんな悲しそうな顔をしないで?」
それから、話題を変えるように私は言った。
「わたくし、今後のプランについて、マリーに折り入って相談があるの!」
それから――
マリーには、私がジアと入れ替わった転生者ということは伏せて、公爵家に頼ることなく自由になるお金を得るために、二人で商売を始めたいこと。
そして、諸々の準備が整ったらこの国を出て、隣国で身分を隠して商人兼冒険者になること、各国を旅しながら仲間を集め、いずれこの国に何らかの報復するつもりだということを大まかに話した。
「――ほ、報復ですか!? お、お嬢様、しかしそれはあまりにも……」
一通り話し終えると、マリーはしばらく言葉を失っていた。
「だって……この国の考え方は大いに間違っているわ! わたくしは、人を人とも思わない人間の言いなりになるほど、良い子ではないもの! 」
私がプンッと不貞腐れたように言うと、マリーが詰めていた息を吐き、ふっと表情を緩めて肩の力を抜いた。
「では――本気、なのですね。 ……しかし、商売をするにしても仲間を集めるにしても、生半可な覚悟では無駄に命を落とすこともあるのですよ? 相応の覚悟はおありですか? 」
予想外の言葉で動揺した彼女だったが、私の決然とした態度を目の当たりにし、本気なのだと理解してくれたようだった。
私は、そんなマリーに強く頷いて応える。
「もちろん覚悟はできているわ! 簡単にできると思ってはいないし、正直に言うと命を落とすかもしれないと思うと怖い気持ちもあるの。 でも、何があっても必ずやり遂げるわ! 」
真剣な表情のマリーに私はつづける。
「だって、このまま理不尽な運命を受け入れてしまったら、わたくしの大切な人を誰一人として守ることができないのだもの。 マリーのことも、当然わたくし自身のことも 」
マリーは握り締めた両手を額に当て、痛みをこらえるように顔を歪めた。
「”なぜ『悪魔の子』であるわたくしが、今まで処刑もされずに生き残っているのか?” ……きっと、公爵家にとって、現状では生かしておくことに何らかのメリットがあるのでしょうね」
(双子の妹のスペアとか? はたまた、もっとヤバい事があったときに人身御供にする為とか……ねぇ?)
「けれど、その考えもいつまで続くか分からないわ。もし本当に、わたくしの存在が世界を破滅に導くのだとしても、一生誰にも愛されず、穢れた悪魔の化身として世界中から罵倒され、孤独に死にゆく運命なのだとしても、わたくしは命を失うその瞬間まで運命に抗うし、何より”自由”でありたいわ 」
私がそういうと、マリーはゆっくり顔を上げた。
彼女の瞳からは、今にも大粒の涙が溢れそうだ。
(――大好きなマリーをまた泣かせちゃった。 私はだめなご主人様ね)
でも、私は止まれない。
”約束”したあの子のために、私は一瞬だって時間を、人生を無駄にすることはできなんだ。
「わたくしはね、もしこの先誰にも愛されなくても、自分だけは自分を愛してあげたいの。 それに、もしも叶うのなら、こんなわたくしでも誰かを心から愛したいとも思っているのよ? だって、心の在り方を決めるのは他の誰でもない自分自身なの。『幸せになる権利』は、皆に等しく与えられているのよ!」
「だから、わたくしがマリーを愛してしまうことを許してね?」と、私がマリーの手をそっと握ると、彼女は唇をかんで、顔をクシャっと歪めながら私の頭を胸元に引き寄せ、思い切り抱きしめてくれた。
「お嬢様……っ! 昨日わたくしがお伝えした言葉を覚えておいでですか? マリーは、いつまでもお嬢様のお側におります! この命ある限り、お嬢様を心から愛しております。 それだけは決して、忘れないで下さいませ」
マリーの「主人』として『娘』として――
私は、目の前のこの優しい人の為になら、どこまでも強くなれると思った。
「えぇ、ありがとうマリー! これから大変になるけれど、わたくしたちなら必ずやり遂げられると信じているわ」
これが、専属侍女であり生涯の友となるマリーとの始まりの誓いだった。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
次回より、マリーのサイドストーリー編が始まります。
ジアを誰よりも愛し、いつも優しく見守るマリー。
彼女は何を想い、何を願いながら生きてきたのか――。
本編では語りきれない彼女の物語をお届けできればと思います。
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今後ともよろしくお願いいたします。




