第二十九話「甘美なお話し」
はじめまして、宵月の兎です。
この作品を読んでくださってありがとうございます。
楽しんでいただけますと幸いです。
ゆっくり更新ですが最後まで頑張ります。
『はわわわ』と、恋する乙女のように頬を染めるこの可愛い人をどうしてくれよう……
(してやったり——!!)
その表情でもわかる通り、マリーはスイーツが大好きなようだ。
「ねぇほら、マリー! 遠慮しないで食べてみてちょうだいな。 こんなに大きいのですもの、大胆に切り分けてしまいましょうよ 」
なかなか動き出してくれないスイーツ恍惚系女子のマリーのために、私は苦笑しながらデザートナイフを取り出し、熱々で濃厚なスイートポテトを切り分けてあげた。
私によって目の前にお皿が置かれた途端、ハッと我に返ったマリーは、
「こちらには絶対に紅茶が合います……!」と言い、ぷるぷる震える手でなんとか紅茶を淹れてくれた。
淹れたたての紅茶を一口味わってから、私たちは目の前のスイートポテトにデザートフォークをスッと差し入れ、ゆっくりと口へ運んだ。
――カッ!!っと、効果音が聞こえるくらい、垂目の大きな瞳をさらに見開いたマリーは、一度頭を抱えたあとすごい勢いで顔を上げ、私の両手をガッと握った。
「お嬢様!!」
「ふ、ふぁいっ!?」
焼きたてのとろりとしたさつまいもの触感をじっくりと味わっていた私は、彼女のあまりに鬼気迫る様子に、ついつい変な声が出てしまった。
「お嬢様は……まさに天才ですわ!! お料理の精霊に愛されておいでです! しかも、デザート作りの腕前に関して言えば、王国随一と言っても過言ではありません! こんなに美味しいお菓子を……その小さな手でササっと作ってしまわれるなんて——素晴らしい才能です」
(——過言だよ? うん、過言が過ぎるからね?)
たまたまこのさつまいもがとっても甘い品種だったのと、前世でごく最近お料理アプリを見ながら作ったレシピを、星屑の叡智がこの国の材料で再現できるようにレシピを変換してくれたからこそ作れたのだ。
私が内心でそう言い訳しても、やっぱり口に出しては言えないので微妙な反応をしてしまったのだが、そもそも聞いていない様子の彼女。
「あぁ、どうしましょう……このようなお菓子を売っているお店があったら、わたくし毎日でも通い詰めてしまいそうです! あぁ、なんて恐ろしい…… 」
独り言のようなそうでないような事をブツブツと呟き続ける彼女の手は一切止まらないのに、どうしてこんなにも優雅で美しい淑女に見えるのか、本当に不思議だ。
「マリーがそんなに気に入ってくれたのなら、わたくしも嬉しいわ。 そうだ! 今日助けてもらったお礼にカイルにも渡すのもいいかもしれないわね。 甘いものは好きかしら? 」
カイルがスイーツ男子なのか分からなかった私がマリーに聞くと、「きっと喜ぶと思います!」と食い気味に言われた。
「だってこんなに美味しいのですもの」と、マリーがうっとりと夢見る少女のように太鼓判を押してくれた。
そのあと、少し落ち着いた様子のマリーが教えてくれたのによると、使用人や騎士たちはほとんどお茶会などに参加したりしないので、甘味を食べる機会が滅多にないそうだ。
(う~ん、明日の朝作って渡すとして、やっぱり日持ちするものの方がいいかな?しかも、いつも簡易鎧を着ているから片手で簡単に食べられる方がうれしい?)
せっかく渡すなら、絶対に相手に喜んで欲しい精神の私は、あれこれと悩んでしまう。
「手甲を外さず手軽に食べられるように、カイルにはさつまいものパウンドケーキにしようかと思うのだけれど、どうかしら?」
思い付くままにマリーに聞くと「パウンドケーキとは一体なんでございますか!?」ともの凄く喰いつかれたので、名称がこちらでは違う可能性を考えて作り方をざっくりと説明した。
……そうしたらなんと!
この国どころか、この大陸に『ケーキ』という概念自体が存在しないかもという、恐ろしい可能性が出てきてしまった。
マリー曰く、この王国や近隣諸国でお菓子と言えば、フルーツタルトやパイの他に、パンケーキにジャムやはちみつをかけたものか、クッキーくらいだった。
そもそも、砂糖を輸入に頼っているがために流通量が極端に少なく、この大陸のほとんどの国で高級品となっているのだ。
しかも最悪なのが、砂糖の製法と販路には規制こそかかってはいないものの、現在この王国内に流通する砂糖の99パーセントが一つの商会の独占状態で、情報も徹底的に秘匿されているとのこと。
よって、それを贅沢に使ったお菓子をお茶会で提供できるとなると、侯爵家以上の上流貴族か王族くらいなのだそう。
(完全に独占禁止法に違反してるよ!! ……ないけどっ! この世界線にはないだろうけど!!)
一つの商会が権利を独占している以上、価格も流通量も相手次第。
国にとって健全な状態とは言い難い。
「 ——そのような理由で、中級以下の貴族家では基本的に『甘味=はちみつ』なのです」
(――ほほーう? はちみつは比較的手に入りやすいってことね?)
砂糖に関しては、この一強独占状態を打開することが目下の課題ではあるのだが、裏を返せば、そのおかげでお菓子業界が全く発展していないのだ。
このことが分かったのは、私にとって僥倖だった。
(砂糖の作り方……知ってるもーん! むしろ、前世で実家の近所のおうちで”ビート”の栽培しててバイトに行ってたもんね! この世界にビートがあるか探してみなくっちゃ!)
『チャリンチャリン』と、コインが降ってくる音が脳内に響きまくる私の脳内メーカーは今、間違いなく『お金』でいっぱいに違いない。
そんな邪な本性を隠しながら、私はとりあえず可愛らしく微笑んで「まあ! そうなのね」と頷いて話を続けた。
最後まで読んでくださって、ありがとうございます。少しずつ物語が動き始めます。
次話もお付き合いいただけたら嬉しいです。
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