第二十八話「二人きりの晩餐会」
はじめまして、宵月の兎です。
この作品を読んでくださってありがとうございます。
楽しんでいただけますと幸いです。
ゆっくり更新ですが最後まで頑張ります。
「——できたわ!」
かぼちゃグラタンとチキンのガーリックソテーが完成した。
付け合わせには、ニンジンを千切りにしてレモン汁と塩・オイルで和えたマリネ。
そして、目にも鮮やかな緑色の茹でブロッコリーには、マリーが目を離した隙にこっそり作った自家製マヨネーズに粉チーズ・レモン汁を加えて作った、シーザードレッシングをかけてみた。
いつものように最上階の部屋まで料理を運ぶのは運ぶのも下げるのも大変なので、広い調理場の窓際に可動式の作業台を移動して食事をしようということになった。
木製の使い込まれた作業台にマリーがサッと白いクロスを掛けると、なんとなく牧歌的な雰囲気が漂い、ワクワクした私はすかさず小さなショットグラスに畑のそばで摘んだ可愛いピンクの花を挿して飾った。
席に着くと、ちょうど視線の高さにある窓からグレイト山脈の彼方へ沈みゆく夕陽が目に飛び込んでくる。
黄金の光でノクターンの森の輪郭を染め上げてゆく様が、まるで一枚の絵画のように切り取られている。
「マリー、外を見て! 空のグラデーションがとっても綺麗よ。 あぁ、なんて素敵なのかしら……わたくし、このピンクから濃紺に移り変わる繊細な色合いが一番大好きなの」
異世界の黄昏時も、前世と変わらず美しい。
「わたくしもこの色がとても好きです。 天空で輝きを増す黄金の月と数多の星々が、まるでお嬢様の瞳のようでとても美しいです」
優しく微笑みながら、マリーが私の瞳の色を褒めてくれた。
(――そんなに真っ直ぐに言われると、凄く嬉しいけど凄く照れちゃう!)
普段から褒められ慣れていない私は、うまくリアクションできずに固まってしまう。でもやっぱり嬉しくて……ゆるりと頬が緩んで、顔が熱くて――なぜだか泣きそうになった。
「も、もう! 何を言っているのかしらマリーは。 さぁ、ディナーにしましょうよ! せっかくのお料理が冷めてしまうわ!」
照れ臭さを誤魔化す為にスカートの裾を整えるフリをして俯き、前髪で赤くなった頬を隠して落ち着かない私をみて、マリーが「まあまあ! ふふふっ」と優しく笑って見ないふりをしてくれた。
◇◇◇◇◇
二人で作ったお料理は、びっくりするくらい美味しかった。
マリーが作ってくれたポトフは、じゃがいもや人参、カイルが森で獲ってくれた猪で作ったベーコンから旨味がたっぷり出て、身体がポカポカ温まる。
「どのお料理も、とっても美味しいわ! ついつい食べすぎてしまいそうよ」
「お嬢様……凄まじい料理の腕です……! 本邸のシェフも舌を巻く完成度ですし、特にブロッコリーと合わせたこの白いソースが絶品ですわ!」
マリーは薬草の調合が得意なので、食材の特徴に合わせてスパイスを組み合わせるセンスは抜群なのだが、実際に料理をしたりレシピの開発などをするのはあまり得意ではないそうだ。
「では、わたくしとマリーでお料理をすれば無敵ね! ねぇマリー、実はもう一品あるのだけれど、オーブンから取り出してくれるかしら?」
先ほど、マリーに隠れてコソコソ作っていたのはスイートポテトだ。
籠にさつまいもが沢山入っていたので、どうしても食べたくなってしまった。
イメージしたのは、前世で大好きだった有名なお菓子屋さんの量り売りの大きなスイートポテト。
マリーに頼んで蒸し器で丸ごと蒸かしてもらったさつまいもを縦半分に切り、中身だけをくり抜いて船のような器状にして、あらかじめ硬めに作ったカスタードクリームを敷いておく。
丁寧に潰したさつまいもに、バター・はちみつ・生クリームを加えて混ぜ、もったり滑らかに艶が出た生地を、先程のカスタードクリームの上にこんもりと乗せオーブンで二十分ほど焼く。
ちなみにこの厨房のオーブンは石窯の様な作りで、大きな天板が二枚横並びで入るくらいの大きさがある。
そして、魔導コンロと違う点は熱源が”炎の魔石”ということ!
分厚い鉄製の扉を閉めて、扉の横にある魔法陣が刻まれた四角いプレートに手を当てて魔力を流す。
すると、すぐに庫内の上下左右に埋め込まれた炎の魔石が赤く光り出し、温度が上がるとオレンジ色、最も高い温度に到達するとレモンイエロー色になるらしい。
早速私はプレートに手を置き、扉の覗き窓から魔石の色を目視で確認しつつ魔力を流してゆく。
色でおおよその温度を見極めつつ、流した魔力の量で加熱時間が決まるのだとマリーが教えてくれた。
ちなみに、このオーブンは古いので時間設定や温度設定は出来ないのだが、最新式は温度と加熱時間を設定できるのだそう。
(うわぁ~、それいつか絶対に欲しい!!)
先ほど、マリーがオーブンでグラタンを焼いた後、まだ魔石が明るいオレンジ色だったのでこっそりスイートポテトを入れておいたのだ。
焼きあがった大きなスイートポテトを、恍惚とした表情でマリーがテーブルまで持ってきてくれた。
私は、残りのカスタードをぽってりと塗って表面にブラウンシュガーを満遍なく振りかけ、頭の中でバーナーをイメージしながら右の掌をかざした。
(――めちゃくちゃ香ばしくて甘い香り~!)
表面が香ばしくキャラメリゼされた『スイートポテトブリュレ』の完成だ!
そして、めちゃくちゃ余談なのだが……
先ほどマリーとお料理をしながら気が付いたことがある。
例えば私が「じゃがいも」と発音した場合、頭では「じゃがいも」と言っているつもりなのだが、自動的にこちらの言語に変換されているようで「パティート」と発音していたのだ。
逆に、相手の話を聞いているときも勝手に日本語へと変換されてるようだった。
おそらく『星屑の叡智』のスキルが影響しているのだろうと思うのだが、とても便利で助かる。
ちなみに、さつまいもは「パティート・ドルツ」と呼ぶそう。
「ドルツ」の響きがなんとなくイタリア語の「ドルチェ」に似ていて、意味はそのまま『甘芋』になる。
「こ、これをお嬢様が…? 」
「えぇ、ちょっと思い付きで作ってみたのだけれど、なかなかうまくいったようだわ! 切り分けて食べてみましょ――ま、マリー? 」
ふと隣に立っているマリーを見上げると……
最後まで読んでくださって、ありがとうございます。少しずつ物語が動き始めます。
次話もお付き合いいただけたら嬉しいです。
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