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第二十五話「あたたかな手」

はじめまして、宵月の兎です。

この作品を読んでくださってありがとうございます。 

楽しんでいただけますと幸いです。

ゆっくり更新ですが最後まで頑張ります。


生まれた瞬間からその存在を隠匿されて育ったジアは、世俗を知らず塔の中だけが彼女の世界の全てであった。


幸い、塔の古びた図書室には古語で書かれた魔術に関連する本が大量にあったので、マリーに読み書きを教わって以降はそこから様々な情報を読み取ることで最低限の知識を得ていた。


そんな中、様々な因果が重なり栞が転生し肉体を共有したことで一気に思考回路が成長し、知識の融合が星屑の叡智によって成されたのだ。


本人は全く気づいていなかったのだが、しかしその効果は絶大だった。


結界内の空間が丸ごと浄化されたことにより、この一帯に生息している魔獣や魔昆虫は浄化され、瘴気を含んだ魔獣の排せつ物などによる微量な土壌汚染も、きれいさっぱり浄化されたのだった。


~~♪


二人並んで深呼吸なんぞしながらお散歩していると、ふいに聞き覚えのある鈴の音と、小さな声が微かに耳に届いた。



『うわぁここ気持ちいい~』 

『あの子の魔力で満ちているわぁ』 

『こんなに清らかな空間は他にないね!』

『ありがとう、私たちの「愛しい子」』



あれ?と思ったその瞬間ふわりと優しく漂う花の香りが鼻をくすぐり、どこからともなく色とりどりの花びらが風に乗って舞い上がった。



「わぁ、すごい! マリー見てみてちょうだい! とっても綺麗だわ」


花びらが風に乗って私の髪をさらい、頬を優しく撫でた。

 


ふと視界の端に、微かにキラキラと尾を引く光の残滓が見えたような気がした。


『あれ?』と思わず振り返り、目を凝らすがそこにはもう光はなく、私とマリーの周りをゆっくり踊る花びらたちは、じゃれて遊ぶように塔に向かって飛んでいったのだった。



◇◇◇



「さあみんな! 早くやってしまわないと、日が暮れてしまうわ! 」


パンパンっ! と手を叩き、農作業モードに切り替えた私とは対照的に、マリーもゴーレムたちも一瞬『え、なんだっけ!?』っと首をかしげている様子が、あまりにも可愛い。


「もう! 早く苗を植えてしまわなくては、萎れてしまうわよ!」


腰に手を当て、ビシッと言い放った私の言葉に『そうだった!』とばかりにわたわたとし始めた一人と二体に吹き出しつつ、協力して作業を進める。


「あ、マリー! そのトマトの苗はもっと間隔を開けなければダメよ? ――えぇ、支柱も立てて紐で括っていいわ! そうそう、それで完璧!」


「一号はコンパニオンプランツをさっき言った通りの配置でお願いね!」


「二号は植えた苗に順番にお水をたっぷりとあげてちょうだいな」



小一時間ほどの作業で拡張した畑には整然と作物が植えられ、幼い葉が水滴をたたえて瑞々しく輝いていた。 


ゴーレム達は本当に優秀で、このまま農作業を担当させても大丈夫そうだとマリーも納得してくれたほど。


頑張ってくれた二体を野ざらしにするのはかわいそうなので、土魔法で簡単な道具小屋を作り、小さなテーブルセットとシングルベットの様な寝台を二つ作ってあげた。


(――ゴーレムは不眠不休だけど、これは様式美として絶対必要!)


完全に自己満足だが、テーブルセットにちょこんと座る二体が可愛いので気にしないことにした。



『さあ野菜を持って塔に帰ろう!』 とマリーと手をつないで歩き出そうとした瞬間、カクンと力が抜けて私は芝生に膝をついてしまった。



「お嬢様!? 急にどうされました? 」


混乱するマリーの声に返事がしたいのに、視界はグラグラと揺れるし体に力が入らなくてそれどころではなかった。 


しかも、体の芯から急激に熱が失われ冷えていく感覚に襲われる。


この初めての感覚がとても恐ろしく、思わず『私、死ぬのかしら?』とマリーに弱々しく聞いてしまい、マリーが真っ青になりながら野菜の篭を放り出し、私を抱えて塔に走って戻ってくれた。


(あーやばい、目を瞑っても目が回ってて吐きそう……)


昔から私は『病は気から』のタイプで、分かりやすく身体に症状が出ると途端にふにゃふにゃと体調が崩れてしまう。


完全に『病に気で負ける』タイプなのである。




「マリー嬢!? そんなに慌ててどうされました? 」


「お嬢様が外で急に倒れてしまって……! ぐったりして声を掛けても反応が薄く、意識もはっきりしないのです! 」


血相を変えて駆けてくるマリーに驚いたカイルが、「マリー嬢、落ち着いてください」と声を掛けながら、ごく自然に両手を差し出した。 


 カイルが腕の中の私を寄こすよう催促していると気づき、公爵邸の人間を誰一人として信用していないマリーは『お嬢様を救いたい』という感情と、『だれも信用できない』という感情の狭間でパニックになり、泣きながら私をぎゅっと強く抱え込んだのが分かった。


カイルはそんなマリーを痛々しく思いながらも「一刻を争います! 失礼! 」と大きな声で言って半ば強引に私を奪い取り、エントランスの端にある長椅子に横たえてくれた。  


(うっぷ……! ふぅ、、アブナカッタ……人前で醜態を晒すところだった)



横になれたことでほっとしたものの、さらに眩暈が酷くなってきて意識が途切れ途切れになる。


それでも、自分の状況を俯瞰することでなんとか自分の体調から気を逸らさなければと思い、私は真剣な表情で私を介抱してくれるカイルを観察する。



彼は、忌子である私に触れても大丈夫なのか……?と僅かに逡巡するかのような様子を見せつつも、すぐさま私の首筋と下瞼の内側を慣れた手つきで観察している。


そうして、最後にお臍のあたりに掌をかざしてブツブツと呪文を詠唱し始めた。 



そんなカイルは、詠唱の合間に「マリー嬢、可能であれば湯あみの用意と回復効果のある薬湯をお願い致します」と、青い顔で私の手を握り締め不安そうに額に当てているマリーに声を掛けた。

祈る事しかできないマリーに、明確な指示を出すことで気を紛らわせる配慮まで彼は見せてくれたのだ。



(……カイル、めちゃくちゃかっこいいじゃん)


私はこのことで、カイルは『怖い人じゃない』ではなく『信用できる人』と認定した。


朦朧としながら考えていると、……ふっとお腹に心地良い暖かさを感じた。


優しく包み込むような熱が気になって重たい瞼をなんとかこじ開けると、カイルが真剣な表情で詠唱を続けていた。 

ぬくもりの正体は彼の淡く輝く手のひらで、それがあたっているお臍のあたりを中心にしてじんわりと全身に広がっていくようで少しずつ身体が楽になってきた―—



最後まで読んでくださって、ありがとうございます。少しずつ物語が動き始めます。

次話もお付き合いいただけたら嬉しいです。

感想・フォローはいつでも大歓迎です。

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