第二十六話「その男、ワンコにつき」
はじめまして、宵月の兎です。
この作品を読んでくださってありがとうございます。
楽しんでいただけますと幸いです。
ゆっくり更新ですが最後まで頑張ります。
「お嬢様? お加減はいかがですか?」
平坦な声ではあるが、ほんの少し気遣わしげな視線を私に向けたカイルが、再度首筋に触れて脈を確認してくれた。
「お腹が暖かくて気持ちがいいわ。 ありが…と――うわぁっ!?」
カイルにお礼を伝えようとしたところに、薬湯をトレイに乗せて戻ってきたマリーがものすごい勢いで突進してきた。
華奢なマリーからは想像も付かないような力で、ガタイのいいカイルをぐいっと押しのけ、目に涙を浮かべながら「お嬢様っ! あぁ、よかった…本当に良かった」と言いながら私を抱きしめてくれた。
「カイルのおかげで楽になったわ。 改めてカイル、本当にありがとう。 わたくしを介抱するのは勇気がいることだったでしょうに。 マリーにも心配をかけたわね、もう大丈夫よ。」
「お嬢様を助けていただき本当にありがとう存じます、カイル様!」
『ズキューン』と音を立てて、マリーのスモーキークオーツの瞳がカイルの心臓を射貫く音がした。
(人が恋に落ちる瞬間を目撃しちゃった……)
カイルは右手で左胸を押さえ、左手で口元を覆いながら、しばらく悶絶…もとい、俯いていた。
(――うんうん、マリーは美人だからね)
しばらくして、なんとか『整えた』カイルを私はお茶に誘った。
カイルは「まだ歩くのは危ないから」と言って、私を抱えて談話室に移動してくれた。
マリーによって居心地よく整えられた談話室のカウチに下ろしてもらって、彼にも一人掛けの大きいソファを勧めた。
初対面の時は無表情で冷たい印象だったが、簡易鎧を脱いだ姿を改めて見ると、カイルは二十歳前後の青年で、警戒心と好奇心が入り混じった橙色の瞳を輝かせながらソワソワする大型犬のようだと思った。
しばらくしてティーセットの乗ったトレイを持ってマリーが戻ってきた瞬間、びくっとしたカイルがキリリと表情を改めた。
(――か、かわいいかよっ!)
『純情わんこ系ガチむち青年カイル』を完全に好きになり始めている自分を自覚したところで、マリーが淹れてくれたハーブティのいい香りが漂い始めた。
ワクワクしてお茶を待っていると、こちらも違う意味でキリリとしたマリーが「滋養強壮に効果がある」と自信満々に激まずの薬湯を差し出してきた。
(――うぐっ! き、強烈な味が強烈すぎる…)
語彙を失うほどの味に全身が震え涙目になりながらも、なんとか一気に飲み干した私は、間髪入れずにはちみつ入りのミルクティーで口直しをする。
一息ついたのを見計らって、カイルが先ほどの私の状況を説明してくれた。
「十中八九、先ほどのお嬢様の症状は『魔力枯渇』でしょう。」
私は、初めて魔術を使った魔術師が、自分の限界を知らずに魔力を使いすぎた時になりやすい、中程度の『魔力枯渇』を起こしていたそうだ。
(――私のばかばか!! 調子乗りすぎだよ!)
自覚ありまくりの私とマリーがカイルからスーッと目を逸らすと、すかさずカイルから追及がきた。
「マリー嬢。 お嬢様に強い魔力があるのは薄々気配で気づいてはいたが、詳しく説明をしていただいても?」
(ど、どうしよう・・・・・・)
直観だけど、カイルは信用に足る人物だと思う。 今までも、この自分の感覚を私は存外大切にしていた。
よって、先程の私への応急処置を見る限り真面目で誠実な人物だと感じているのだが、さすがに私の秘密を明かすにはまだ関係値が低すぎると思うのだ。
「カイル様……お嬢様に関しては口外法度。 ご存じでしょう?」
マリーは、表情をこわばらせながらそう言ってカイルを牽制する。
そもそもカイルは、公爵家の騎士団所属であり、何かあったときに私の情報を伏せておく義理はない。
「もちろんそれは心得ています。 ……ですが、私はこの塔の護衛です。 何も知らないままでは何も護れない!」
護衛騎士のカイルが、国に出生の申告さえしていない私の『事情』をどこまで知っているのか不明だが、『監視役』としての報告義務があるのは当然だろう。 もし仮に、カイルが秘密を守ってくれたとして、そのせいでカイルの立場が危なくなるのは、なんとなく嫌だった。
常識として、この王国に『忌み子』に良い感情を持っている人間がいるわけがないのだから、あまり自分の好き嫌いで風呂敷を広げすぎるのは危ない気がする。
私もマリーも二の句が継げずに固まっていると、不意に鈴の音に乗って〝あの声〟が耳に届く。
『たすけてあげる』
『愛しい子が困ってる』
『眠れよ眠れ宝石の子』
声がが聞こえた途端、カイルの頭上から、きらきらと輝く光のベールがふわりと舞い降りた。
「っ!? お………い……」
途端にカイルが急に意識を失い、ふわっと背もたれに崩れ落ちた。
「「えっ!?」」
もちろん私とマリーはパニック状態だ。
突然のことで何が起こったのかわからず、急に気を失ったカイルをどうしたら良いのか、わたわたと困惑していた。
「い、生きている……わよね?」
「た、確かめてみます!」
マリーが、先ほどのカイルの応急処置を思い出しながら首筋で脈を測り、唇に耳を寄せて呼吸を確認していると、突然カイルの目がパチリと開いた。
「――ぅう……。 あ、あれ……ここは――?」
最後まで読んでくださって、ありがとうございます。少しずつ物語が動き始めます。
次話もお付き合いいただけたら嬉しいです。
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