外伝 Ⅺ ある妹亜屍族の即死魔法⑥
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『「ククク……。奴は四天王の中でも最弱」と解雇された俺、なぜか勇者と聖女の師匠になる』単行本12巻をよろしくお願いします。
王都で妙な噂が――いや、事件が発生したのは、交換留学始まって、2週間経ったある日のことだ。
フランジア貴族院での生活や勉強にも慣れ、私たちは人類の生活に自分たちなりに馴染み始めていた。
相変わらずオルティアの悪戯も続いているけど、2週間も過ごしているとなれてくる。どうやら悪戯のパターンがさほど豊富ではないらしく、毎日靴箱には例のラブレターを入れ、3日に1度植木鉢を落としてくる。私がフランジア貴族院を出ていくころには、一体いくつの植木鉢が校内からなくなることだろう。そもそも本人がそういうことを考えているのか、怪しいところだ。
噂の話に戻ろうと思う。
今日、アリーテと担任の先生から同じ諸注意を受けた。
「最近、貴族の令嬢が行方不明になる事件が続いています。皆様、登下校において、くれぐれもお気を付けください」
そう。12~24歳ぐらいの貴族令嬢を中心に、行方不明事件が相次いでいた。
最初は家出ではないかと考えられていたそうだが、その人数が10人となり、30人となり――と増えていくと、さすがに大人たちも黙っていられなかったようだ。
噂は女王の耳にまで入ったそうで、衛兵に必ず見つけるように指示を出したそうだが、その女王自身が忽然と消えてしまったらしい。国民はその事実にもっと驚いても良さそうだが、いつものことだと冷静だった。
(女王が行方不明になったのに、いつものことってどういうことよ……)
そんなこんなで、王都神隠し事件は幕を切られた。
戒厳令が1歩手前の殺伐とした王都にて、私たちが何をやっているかというと、王都の通りのど真ん中を歩いていた。
いつもなら、王宮を行き来する馬車でごった返し、渋滞になることもしばしばなのだが、今日はかなり少ない。沿道の出店や屋台なんかも、普段の3割といったところだった。
「ねぇねぇ、カプコっち。寮から出ていいの? 怒られるよ」
「〝気を付けろ〟と注意されただけで、寮から出ていくな、とは言われていないわ」
「なーほーねー」
「それに折角の安息日なんだから。羽ぐらい伸ばしたいわ。ただでさえ、窮屈な生活を強いられているのに」
私たちがフランジア貴族院を学び舎とするようになってから、安息日は今日を含めて2回あった。ただ1回目は、日用品や学校指定教科書を買うのに王都中を回った結果、逢魔が時を迎えてしまった。
実質、今日が初めて安息日なのだ。
「ふふ……」
「何がおかしいの、ルーディー」
「いや、カプコっちのそういう優等生に見えて、不良っぽいところ、あーしは好き」
「私は優等生じゃない。自分の欲望に忠実なだけよ」
「だから、バザールのほうへと向かってるんだ」
ルーディーは頬を緩めたままズバリ指摘する。
バザールは王都の中にある市場だ。
主に服や装飾、絨毯などの生活衣類が並んでいる。
古着や、異国の衣装などがかなり安く売られていて、1度立ち寄ろうと思っていた。
ちなみに、私たちは魔王軍から結構な額の生活費を支給してもらっている。
文化的事業とはいえ、かつての敵国の学校で勉学に励むのだ。
これぐらいの役得があって然るべきだろう。
そもそも例の採掘利権の整備によって、魔王軍は現在バブル状態になっている。
子どもがお洋服を買うぐらいの資金など、何も問題ないのだ。
「否定はしないわ。ただ私がまず来たかったのは、ここよ」
私はつと足を止めた。
そこは王都の大広場だ。
象徴ともいえる大きな噴水に、カンタベリ王国の祖王の像が立っている。
綺麗にはめ込まれたアーチ状の煉瓦畳が広がり、その上で大道芸が行われたり、絵を描いて日銭を稼いでいる絵描きもいる。
普段はよく待ち合わせで使われているらしく、カップルや学生で賑わっていた。
いつもは人でごった返しているが、こちらも人が少なかった。
「大広場に用事があったの? あ。さてはあーしたちに彼氏でも紹介しようとしてる? カプコっち、やるぅ!」
「私がそういうタイプじゃないってことは、ルーディーが1番理解していると思っていたわ」
「でも……でもでも、こっちに来て考えが変わったとかあるじゃない」
「ありえないわ」
ピシャリと言い切ると、急にルーディーが唇を尖らせて拗ねた。
残念だけど、ルーディーの頭のように、この世は男性器と女性器だけではない。
人間にも、亜屍族にもいろいろあるのだ。
「17……。これ何の数か知ってる?」
「うーん。あーし、昨日隣の教室の男子にイカ――――」
「ふが……」
それまで一言も喋られなかったガーコが口を開く。
ありがとう、ガーコ。
「その通り。被害にあった行方不明者は30人。そのうち、17人がこの大広場で消えてる」
「え? 嘘でしょ?」
ルーディーは周りを見渡す。
今でこそ大広場にいる人間の数は少ないが、本来であればここには沢山の人がいるはずである。
その衆人環視の中で、17人もの人が消えた。
たとえ、人の壁があっても、これだけの人がいなくなるのは異常だ。
「じゃあ、あーしたちもいなくなる。そして、あーしは複数の男に取り囲まれて、肉べん――――」
「ふが……」
「たんまたんま。ガーコ、暴力反対。もう――相変わらず下ネタに弱いんだから」
「ガーコが止めなかったら、私が息の根を止めていたわ」
「冗談に聞こえないからやめてよ、カプコっち」
ルーディーは苦笑いを浮かべる。
もちろん、私は本気だ。
「話を戻すと、問題はどうやって衆人環視の中で人を17人もさらえたかね。随分と大胆な犯行だけど、方法がないわけじゃない」
私は結論を出さず、次の目的地へと足を向ける。
次に向かったのは、バザールだ。
こっちも先ほどの大広場や大通りと同じく、人が少ない。
人がいても、店の主人や、商品を持ってきた仲買人ばかりだ。
みんなが暇そうにしていて、学生の私たちを見るなり、目の色を変えて商品を勧めてきた。
「バザールは大広場の次に行方不明者が多い場所よ」
「ねぇ。もしかして、犯人を捕まえようなんて思ってない、カプコっち?」
「考えてないわ。ただ身近に起きてる事件を、この目で把握しておきたかっただけ。事件のことをきちんと把握せずに遊ぶのと、そうでないのに遊ぶのとは違うでしょ」
「どっちも一緒だと思うけど」
「なら、私のポリシーだと思えばいい」
私はつと足を止めた。
それはラックの置くに、ひっそりと釣られていた。
他の服よりも少し黄ばんだ感じの、ベージュのロングコート。
生地は厚手のウールで、どこかウィスキーの匂いが漂う排他感を感じる。
襟元には、手縫いで補修したあとが残り、糸の色が違うせいで、まるで傷口のような妙な哀愁を漂わせている。
ボタンは3つ。
一番上だけ、なぜか別のボタンが付けられ、妙な光沢を帯びていた。
まるで誰が残したダイイングメッセージのようだ。
私はそっとコートの裾を掴む。
布の冷たさを確かめるように指の腹で撫でてみた。
「気になるなら試着したら」
「ひゃっ!」
突然、声をかけられ、私は変な声が出てしまった。
振り返ると、ルーディーとガーコがニヤニヤと私の方を向いている。
前者はともかく、ガーコまで……。
「で、でも、私じゃちょっと……」
自分の趣味には合っているのだが、まったくサイズが合っていない。
むしろ背が高く、スレンダーな体型のガーコにはよく似合うだろう。
「私には似合わないよ」
「あーしにはそれのどこに引かれたかわからないけど、ようはそれが似合う女になればいいの。それに試着は無料なんだから、遠慮することなんてないわ」
ルーディーはコートを取り、私の胸に突きつける。
その後ろで店主も「青春だねぇ」とか呟きながら、鼻の頭を擦り上げていた。
「わかったわ。着るだけね」
「そう来なくっちゃ」
ルーディーに背中を押され、私はスゴスゴと試着室に入る。
二人の前で、いつも通り「やれやれ」という顔で繕ったが、内心少しドキドキしていた。
幸い試着室には立派な姿見がある。
自分でダメだと思ったら、すぐに着替え直そう。
そして、私は制服のタイを緩めた。
◆◇◆◇◆
「え?」
気が付いたときには、私は暗闇の中にいた。
おかしい。さっきまでバザールの中の古着屋にいたはず。
目の前に横たわっていたのは、圧倒的な〝闇〟だった。
さらに、古着屋特有のディフューザーの香りではなく、錆びた鉄の匂いが鼻腔を突いた。
「どういうこと?」
やがて目が慣れてくる。
どうやらどこかの廃屋らしい。
近くには川が流れるような音が聞こえる。
私は立ち上がろうとしたが、すぐに自分が身動きが取れないことに気づいた。
手と足を椅子で縛られている。さらに目の前には格子状の鉄が見えた。
どうやら、私は牢屋の中で身動きが取れない状態にあるようだ。
脱出は簡単だが、一体ここがどこで、何者が私をここに連れてきたのか、把握しておく必要がある。
「誰かそこにいるの?」
突然、人の声が聞こえて驚いた。
初めガーコかルーディーかと思ったけど、違う。
ただ何故か聞き覚えがあった。
闇を凝視し、目を慣れさせる。
ゆっくりと視界が広がり、格子と廊下を挟んだ向こうの廊下に、人の姿があることに気づいた。
「あなた、まさか――――」
「その声、もしかして――――」
そして、闇の中で鮮やかな栗色の髪が浮かび上がる。
「オルティア・フォン・リュゼル」
「カプリコ……!」
暗い井戸の底のような闇の中で、私は自分に悪戯を続ける貴族令嬢のバッタリ出会ったのだった。
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